第四話:その男児、危険につき!
【まえがき】強いです。
街から出てすぐの林の入り口に奴らはいた。
大きな男と小さな男の二人組。
服装は普通の一般人のようだが、小さな男の頬と大きな男の腕に、それぞれナイフで負ったものと思われる傷があった。
目つきも鋭い。
「おい、待て! お前ら!」
姉さんを馬車の荷台に押し込もうとしている彼らに対して、僕は思いっきり叫んだ。
「ん~!!」
姉さんは猿ぐつわを噛まされて喋ることが出来ないようだ。
手と足も縛られていた。
僕は既にかなり頭に来ていたけれど、出来るだけ冷静になるように務めた。
「……なんだ、ガキ?」
リリィ姉さんを抱えていた大きな男がギロリと僕を睨む。
「その女の子を返してもらう!」
「……あぁ!?」
「まぁ、待て……」
大きな男を制して、今度は小さな男が前に出て口を開いた。
「坊主、この娘の知り合いかぁ?」
「ああ、そうだよ」
「そうかぁ……」
小さな男は自分の顎を指で擦りながら話を続けた。
「実はなぁ……この娘が街で俺たちにぶつかってきたんだよ。それで謝りもしなかったらから、おじさんたちもちょっと頭にきちゃってねぇ……」
そうしてニィっと笑う。
ねっとりとした喋り方といい、薄気味の悪い奴だ。
「ご両親に代わって、ちょ~っと教育してあげようかなってねぇ……。ほら、俺たち親切だからさぁ……」
「そうですか……」
間違いなく奴らの話は嘘だ。
馬車の準備だってそうだし、手慣れていることから生業として人攫いをしている可能性が高い。
僕が三歳の子どもだからと思って侮っているのだろう。
……僕としては何とか穏便に済ませたい。
ただ、姉さんの前で魔法をぶっ放すのは少し気が引ける……。
「……でしたら、僕が代わりに謝ります」
「あぁん!?」
大きな男が声を上げる。
しかし、小さな男がまた彼を制した。
「ははは、面白いじゃないか……。やってみろ」
「……すいませんでした……」
僕は頭を下げた。
「ん~! ん~!」
リリィ姉さんが猿ぐつわの下から何かを叫んでる。
「はははは! 良いねぇ。ガキにしては礼儀を弁えてやがる」
「じゃあ――」
「だが、足りねぇなぁ……土下座だ! 土下座しろ!」
「ん~! ん~!」
「うっせえなぁ!」
大きな男は怒鳴って、リリィ姉さんを馬車の荷台へ乱暴に放り込んだ。
「――!」
それを見て堪忍袋の尾が切れた。
だが、僕は敢えて地面に両手を着く。
相手からすれば、土下座しているように見えるだろう。
「はははは! バーカ、そんなんで許すかよ!」
そりゃそうだろうな。
最初から許す気も無いだろうしな。
「育む力――母なる大地……」
僕が手をついた地面から大量の土が舞い上がる。
その土は一気に奴らに降りかかり――
「なんだって!?」
「魔法!?」
「……捕らえろ、捕らえろ――自業自縛の小悪党!」
二人の体を包みこみ、地面に突っ伏させた。
「ぐぅ!」
土に包まれた体の中で、僅かに顔だけ出させてやったが……。
「馬鹿な……こんなガキが魔法だと……しかも黒髪黒目で……」
小さな男が忌まわしげに呟く。
「……ガキじゃないよ。大賢者さ」
「はっ! 何をいって――」
大きな男は相変わらず煩い。
この際、まとめて黙ってもらおう。
土を操作して二人の口に詰め込む。
「むぐ……」
「お鼻もふさいじゃおっかな~」
僕は脅かすように土をぐるぐると二人の顔の前で動かしてみた。
「ん~!」
二人は涙目で頭を上下に振った。
「それ、謝ってるの?」
「ん~! ん~!」
頷いているようだ。
「そんなんで許さないよ! おじさんたちもそう言ったもんね!」
姉さんに乱暴したんだから、謝ったからと言って許すわけがない。
僕は空中の土を操作して二人の目と耳と口にも貼り付けた。
聞こえないと思うけど、とりあえず言っておく。
「呼吸は出来るから大丈夫だよ」
鼻だけ出してある。
そうして、馬車の荷台に入ってリリィ姉さんの拘束を解いた。
◇ ◆ ◇
「レイくん……レイくん……うわぁぁん!」
開放された姉さんは僕を抱きしめて泣きじゃくった。
見た所、怪我などはしていないようだ。
僕はほっと一安心する。
「……もう大丈夫だよ、姉さん」
僕は姉さんの背中をさすって落ち着かせる。
姉さんの方が体は大きいからちょっと変な感じだ。
「……うん、ぐすっ。ありがとう……」
しばらくして姉さんも落ち着いてきた。
「……中からちょっと見えてたけど……レイくん、魔法使えたんだ?」
「え……うん」
見えてなかったとしても、どうやって助けたか聞かれたら答えざるを得なかったと思う。
「なんで隠してたの?」
「え、う~ん。隠してたわけじゃないんだけど……」
「うそ、隠してた!」
「うう……」
ちょっと答えに困ってしまう。
流石に「転生してきました!」とは言えないよなぁ……。
今の関係が崩れてしまうのは嫌だし……。
「まぁ、なんとなく分かってたけどね!」
「え! そうなの?」
「当たり前よ! お姉ちゃんだもん!」
いや、謎の理屈だ。
「でも、あんなに凄いとは思ってなかったけどね! さっすが〜!」
そういうと姉さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。
「へへへ……。でも、これでレイくんが魔法を使えるのを知ってるのは私だけだね!」
「う、うん」
「えへへ……知ってる? 二人だけの秘密は親密度を高めるの!」
「え? う、うん?」
「うふふ♪」
誘拐されたというのに、今やすっかり楽しそうな姉さんであった。
誘拐犯通りすがりの冒険者の人が助けてくれたと治安官に申し出た。
犯人たちには、僕のことを喋ったらもっと酷いことになると脅しておいた。
三歳の子どもにやられたなんて恥ずかしいし、大人たちも信じないだろうから、まぁ大事にはならないと思う。
帰り道の途中で姉さんが、
「私もそろそろ魔法を覚えないとな~」
と言い出した。
もともと姉さんは魔法の素養があるし、確かに自分の身を守るためにも覚えてもらったほうが良いかも知れない。
姉さんは美人だから、変な男が寄って来ないとも限らないしな!
「そうだ、レイくんが教えてよ!」
「え、うん。いいけど……」
というわけで、姉さんとの魔法特訓が始まる――と思ったのだが……。
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