第二話:男児、一歳となれば刮目して見よ!
【まえがき】天才です。
生まれてから一年が経った。
前世で相次ぐ戦いやギスギスとした人間関係に疲れていた僕は、子どもらしく過ごすことを決め、平和な日々を過ごしていた。
都会ではないものの大きな村の中にある大きな家に僕たちは住んでいる。
平民ではあるが、家もそれなりに裕福だ。
父さんは冒険者をやっていて、この付近では一番腕が立つ剣士だから、そのお陰で貴族などから依頼を受けることも多くて、収入は結構あるようだ。
母さんは普通の主婦という感じだけど、何故か妙に元気で健康的だし、いつも明るい。
そしてリリィ姉さんはいつも僕のことを可愛がってくれる——
「レイくん! レイくん! これで遊ぼ~!」
レイくん、というのは姉による僕の呼び名だ。
これが呼びやすいらしい。
今日は積み木を持ってきたようだ。
流石に子どもの遊びなんて僕にとっては退屈なのだけれど、差し出されると遊ばないのも悪いかなと思って、なんとなく遊んでしまうんだよね……。
「は~い!」
子どもらしく返事をした僕は、円形の木の上に三角形の木を乗せて、その上に四角形の木を乗せてみせた。
▢
△
〇
積み木がぐらぐらと揺れならがら絶妙なバランスを保つ。
前世で賢者のたしなみとして、ロックバランシングという石を積み上げる趣味をしていたから、物のバランスを見極めるのは得意なのだ。
「うわ~! 信じられな~い!!」
リリィ姉さんが驚いてくれるので、僕は調子に乗ってどんどんと積み上げる。
「レイくん、積み木がもうないよ!」
「う〜ん、じゃ、これで!」
フォーク、スプーン、鍋、庭にあった石、ほうき、靴……とにかくありとあらゆる物のバランスを見極め、ひたすらに積んでいった。
その結果――
「すご~い! 天井まで届いたわ!」
部屋の限界まで積み上げてしまった。
てっぺんにはこの国の国旗を掲げてある。
ユリの花を意匠にしたものらしい。
ちなみに、椅子を三脚ほど積み上げて、さらにリリィ姉さんに肩車をしてもらっている。
そんな自分たちも積み木に劣らず、なかなかのバランス感覚なのだった。
それを見た母さんが、
「あらまあ! まるで芸術品ね!」
と褒めてくれた。
同時に、
「ニャー!」
と、積み木の途中の鍋に入っているネコが鳴いた。
庭にいた野良ネコだ。
バランスを取るのに一役買ってもらった。
「へへへ……テーマは『平和』です!」
自分でも中々の一品が出来たものだと思った。
子どもの遊びも悪くないな!
とまあ、僕の暮らしはこんな感じの平凡な毎日なのだけど……
「こら~! 待ちなさ~い!」
「ひえ~! 許してくださ~い!」
リリィ姉さんはいつも僕をお風呂に入れたがる。
僕は一人で入れるっていうのに、何故か一緒がいいらしい。
一歳だけど前世の記憶もある僕にとっては、なんだか恥ずかしくて、いつも逃げ回っている。
まぁ最終的にはいつも姉さんに捕まってしまうのだけれど……。
「は~い、ゴシゴシ……」
「ううう……」
今日も隅から隅まで洗われてしまったのだった。
◇ ◆ ◇
ちなみに、僕は魔法が使えると思われていない。
なぜだろうか?
一般的に、人間が使う魔法は六種類とされている。
それぞれが色に対応していた。
赤=火の属性
青=水の属性
緑=風の属性
茶=地の属性
白=光の属性
透明=気の属性
気の属性は主に身体を強化する魔法だ。
訓練すればある程度までは誰でも使えると言われている。
魔法職ではない剣士なども自分の身体能力を高めるのに使うし、場合によっては魔法とみなされてない事もある。
そして、この時代では髪と目の色でどの属性の魔法の適正があるかどうか判断されるようだ。
例えばリリィ姉さんの場合は髪の色が銀髪つまり白が混じっていて、瞳の色には緑が混じっている。
これは風の属性と光の属性に適正があると見なされる。
気属性も合わせれば、三色魔法使いと呼ばれる未来が待っているのだ。
四色以上の魔法使いは稀で、三色であればかなりの才能だと見なされるようだ。
僕は黒髪黒目。
つまりどの色にも当てはまっていないから、無能の黒ってわけだ。
実際の所、僕は上記の六種類に加えて闇属性の魔法も使えるし、さらに言えば上記の属性を極めた先にある術も使えるんだけどね。
それは黙っていた。
誰かに魔法の力を利用されて、無理に駆り出されるのも嫌だったし、平和に生きたかったからだ。
そんな訳で、ずっと人前で魔法を使うのは控えていたのだが……。
【あとがき】ブックマーク、ポイント評価ありがとうございます!