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第二十二話:教えて、レイルズくん!

 気絶したスペンサーを見下ろしながら、僕はサクルに話しかける。

 にっこりと笑って。


「さて、サクルくん!」


「は、はい!?」


 僕の魔法を見て呆然(ぼうぜん)としていたサクルが、はっと我に返った。


「君もこの錬金術師さんをなぐりたまえ」


「ええっ!? なぜですか?」


「いいから、いいから。君だって、危ないところだったんだから、それぐらいの権利はあるのだよ」


「は、はぁ……」


 サクルは戸惑った表情で、ポカリ——とスペンサーを殴った。

 気絶したままのスペンサーが、うぐっ——とまたうめき声を上げる。


「こ、これでいいんでしょうか……?」


「ああ……サクルくん、良くやってくれたね! これで、この悪い錬金術師さんにトドメをさしたのは君だね!」


「……うん、あなたね! 最後に思いっきり殴ってるのを見たわ!」


 リリィ姉さんも僕に乗ってきた。


「はぁ!?」


「もともとあった魔石と、さっきのスライムから手に入った魔石の半分以上をあげよう。すごいぞ、五百個以上は余裕だ。僕とリリィ姉さんは残りを分けあうから、君が優勝ってわけだ。もちろんリリィ姉さんとのデートはなしだけどね!」


 このまま優勝した上に、錬金術師まで捕まえたとあれば目立ちすぎてしまうだろう。

 なので、僕はサクルと取引をしようとしているのだ。


「むむむ……」


「どうだろう、君にとっても悪い話ではないと思うけど」


「……前にも言ったとおり、僕はこんなところでの優勝には興味はないのですが……。そもそも、レイルズくんはそんな事をするのですか? あなたほどの実力があれば……」


 しつこく疑惑の目を僕に向けてくるサクル。

 とりあえず、ごまかしておこう。


「ま、まぁ、単純に目立つのが嫌いなんだよ。ほら、僕ってば平民だから、あんまり目立つと貴族の人からもねたまれるしさ!」


「うーん……。まぁ、いいでしょう……。完全に敗北した僕が断るのもおかしな話ですし……。

 ただ、その代わり……」


 僕たちはサクルと取引をすることにした。



 ◇ ◆ ◇



 大会が終了して表彰式の時間になった。

 表彰台の一番目にサクル、二番目にリリィ姉さん、三番目に僕が並んでいる。


「うおぉぉぉ! やっぱ一位は天才児サクル様だ!」


 参加者と周りの野次馬の歓声が重なる。


 僕らの存在以上に目立つ人間を一位にしてしまう作戦は上手くいった。

 元から期待されていたところに、結果として優勝ということで、かなりの盛り上がりだ。

 なお、参加者のほとんどはスペンサーが裏で手を引いていた事は把握していないようだ。


「まだ、あんな小さいのに優勝かよ」


「なんでも、あの年で三色魔法の難易度Bまで使いこなせるらしいぜ!」


 そんな賞賛の声とは裏腹に、


「……はぁ……屈辱です……」


 サクルは浮かない表情をしていた。


 それを見て、リリィ姉さんと僕は肩をすくめる。


 同時に、周囲から僕たちにも声がかけられた。


「きゃぁー! リリィもレイルズも良くやったわ!」


「むぅ……一位ではなかったか……おかしいな……」


 母さんの黄色い声援と、父さんの疑問の顔だった。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん……お、おめでとう!」


 ライラは、尻尾と手をパタパタと振りながら喜んでいた。


 そんな僕の家族の横で、参加者たちも僕たちの事をひそひそと話し出す。


「おい、聞いたかよ。二位も三位も五百個以上の魔石を集めてきたらしいぜ」


「はぁ!? あんなガキが!? 片方は黒髪黒目じゃねーか。一体、どうなってんだ?」


「俺、十個も集めてないぜ……」


 ある者は色めきだち、ある者はがっくりと肩を落としている。

 野次馬よりも、実際に参加した人間の方が、その数の特異さを実感できるのだろう。

 一部からは、好奇と驚きのまなざしを向けられたが、サクルが一番目立っているので大きな問題はないだろう。


 そんなわけで、表彰式が終わった。


 ちなみに、スペンサーは表彰式の前にギルドに引き渡してある。


 たまたまモンスターの巣に辿り着いたら、そこに奴がいたというような話をでっち上げて、三人で頑張って倒したということにした。

 まぁそんなに嘘はついていないし、サクルが貴族であり名が知られていることもあって、なんとなく信じてもらえたようだ。


 最後に、引き渡しも終わろうかというタイミングで、意識を取り戻したスペンサーが


「あ、あいつだ! あいつがわけの分からん高等魔法を使いおって——」


 などと言い出したので、


「いやだなぁ、おじさん。僕が魔法を使えるわけないじゃない! 黒髪黒目なんだよ。父さんから教えてもらった剣術で戦ったのさ!」


「きっと気がおかしくなってるのね。じゃなければ、モンスターの大量召喚と放置なんて重罪を犯すはずないもの」


「……僕が最後に頭を殴りましたので、多少記憶に混乱があるかもしれません……」


 と僕、リリィ姉さん、サクルの三人でごまかした。


 ギルドマスターのおじさんは、「うむ……」と少し考えるそぶりを見せた後、


「とりあえず、とっとと表彰式を片付けろ! あんまり、長引くと参加者に怪しまれるからな。こんな奴にだまされたなんて知られちゃ恥だ! それとこのエセ錬金術師ヤローは、行政府に死刑で良いかって上申しとけ! こんなことに、うちを利用しやがって……」


 と他の職員に指示を出していた。


 最後には、ギロリと睨み付けるギルドマスターの視線を受けて、


「ひぃぃぃぃ!!」


 スペンサーの引きつった悲鳴がギルドの一室に響いていた。



 ◇ ◆ ◇



 スペンサーの引き渡しと、表彰式が終わり解散となった後。


「……少しギルドに顔を出してくるか」


「じゃあ私も! ……あなた達だけで家に帰れる?」


「「「うん!」」」


 父さんと母さんは二人でギルドに向かっていった。

 僕とリリィ姉さん、ライラがその場に残される。


「お兄ちゃん、次があったら……わたしも出たい……」


 ライラがそんな事を言うので、僕は頭をなでながら、


「そうだね! そしたら、魔法の練習を頑張らないとな!」


 といって励ましてあげる。


「レイくんがいれば、どんどん上達するわ!」


 姉さんも一緒になってライラの手を握りしめる。


「うん!」


 ぴんと尻尾を立てながらにっこりと笑うライラは、とても可愛らしかった。


 そして、そんな家族団らんをしている僕たちに、表彰式の前からずっと不満げな表情を続けていた少年が近寄って、話しかけてくる。


「と、いうわけで……」


 言うまでもないが、サクルだ。


「協力はしましたので、約束したとおりこれからあなたの弟子にさせてもらいますね!」


「まてまて! 弟子にするとまでは言ってないぞ!」


 そこまでの約束はしていない。


「魔法を教えてくれるって言ったじゃないですか!」


「そ、それは言ったけど……たまに遊びに来てもいいぞってだけだ! 気が向いたら魔法を教えるってだけだぞ」


 そう、暇なときに一緒に行動してやってもいい、つまり子どもがこれからも遊んでやろうってぐらいの約束なのだ。

 たまたまその時に魔法を使うことがあれば教えてやるとは言ったけどね。


 さすがに、弟子ってのは完全に誇大妄想じゃないか。


「同じようなものです! このサクル……必ずあなたの知恵と魔法を自分のものにしてみせます!」


 拳を握りしめて決意に燃えた表情を見せている。

 それに魔法以外も教えるような事になってないか?


 その意気込みは素晴らしいけれども……。


「すごいね、レイくん、また先生になるんだね!」


 エマ先生から、先生と呼ばれているのに重ねてリリィ姉さんが笑う。


「……お兄ちゃん……天才の先生? じゃあ……大天才……だね?」


 事情を知らないで、サクルの登場にきょとんとしていたライラも、姉さんの言葉を聞いてそんな事を言い出した。


「はぁ……そんなんじゃないよ」


 僕は大きな溜息(ためいき)をつく。

 なんだか、面倒くさいことになったなぁ……。


「でも、サクルくん。レイくんには、私たち姉妹のものだから、あんまり邪魔したら怒るからね!」


「……ね!」


 人差し指をぴっと立てる姉さんと、それを真似するライラ。


「はい! リリィお姉様! ライラさん!」


 それに、ビシィと敬礼のポーズをとるサクル。

 そんなところだけ礼儀正しく決まっている。


「よろしい! では、心して私たちに着いてくるように!」


 ノリノリでそう言うと、リリィ姉さんが、なんだか楽しげに僕とライラの手を引っ張って歩いて行くのであった。


 サクルがその後を着いてくる。


「……いや、自分の家に帰れよ!」


 そんな状況に僕はツッコミを入れたのだった。



【あとがき】

というわけで、弟子(?)が一人増えました!


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