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第二十一話:僕は小さな大賢者!

「モンスターをあふれさせた……ってことは、人工的にモンスターを呼び出したってことですか!?」


 サクルの言葉には動揺の色が混じっていて、声もどんどん大きくなっていく。

 僕の方は冷静に答えを返す。


「ああ、そうだよ」


「たとえ弱いモンスターであっても、許可なくモンスターを呼び出して、それを野放しにするなんて重罪ですよ!!」


 サクルが大きな声で怒鳴るもんだから、リリィ姉さんは耳をふさぐようにしている。

 本当に興奮しやすい奴だなぁ……。


「……そうだね。それは呼び出した本人も良く分かってたはずさ。だからこうして入り口を隠した。おおかた、モンスターの大量召喚を行ったはいいけれど、あまりに大量に発生しすぎて自分では処理ができなくなったんだろう。漏れ出たモンスターを他人に退治させて、後から巣を破壊しようと思ってたんだろうけど……」


 そう言ってから、僕は二人とは別の方向を向く。

 ぱっと見は誰もいない、その空間に。


「そうでしょ? 錬金術師……スペンサーさん!」


 その声に反応して、近くの木の陰に潜んでいた老年の男がぬるりと現れた。


「……坊主……どうして分かった……?」


 驚いた表情を隠しきれないと言った様子で登場した人物は、この大会のスポンサーである老年の錬金術師。


「そ、そんな! ま、まさか……」


 サクルが言葉を失う。


 モンスターを呼び出した人物が、まさに大会を開くきっかけになった自分であったことと、その人物が今ここに現れたのだから驚くのも無理はないかもしれない。


「むむぅっ……!」


 リリィ姉さんは、僕の横で杖を体の前に構えている。


 二人を横目に見ながら、僕は声を抑えて話を続けた。


「……まぁ、こんなことなんじゃないかと思ってたんだよ……。第一、いきなりモンスター退治大会なんてのもおかしな話だし、冒険者にもなってないようなルーキー未満の人間を集めたのが不自然なんだ」


「ほう……?」


 スペンサーはあごひげをなでながら僕を見据えている。


「いくら物珍しさを狙ったと言っても、そこまで非力な人間を集める必要はないんじゃないかな。むしろ大会の盛り上がりを考えるなら、冒険者に出てもらった方が良いし、非効率的なんだよね。考えられる理由は一つ……」


 人差し指をぴっと上げる。


「優秀な冒険者にこの場所を見つけられたくなかったということでしょ? 未熟な冒険者見習いや子どもなら、この場所にたどり着く可能性は低いと考えたんだ」


「……」


 スペンサーは黙りこくったままだった。


「さらに言えば、あなたの行動は矛盾していたしね。わざわざスポンサーを名乗り出たのに、開会式では、そんなに頑張る必要はない……みたいなことを言っていたよ」


「た、確かに……」


 あのときの事を思い出したように、横でサクルがうんうんとうなずいている。

 僕の話はまだ続く。


「それも同じ理由さ。あんまり参加者が張り切ったら、未熟者といえども偶然モンスターの巣を見つけてしまうかもしれないからね」


 しばらく黙っていたスペンサーが、口を開く。


「……なるほど……。ワシの態度も見ておったということか……。やりおるな坊主……」


「ま、そもそも弱いモンスターだけが大量発生するなんて、そんなにあることじゃないしね」


 どこかのエリアで魔力の高まりがあったなら、強力なモンスターも一緒に出るのが自然だ。

 最初から、いかにも人工的なものだという雰囲気は感じてたんだ。


「ふふん! うちのレイくんは凄いんだから!!」


 姉さんが得意げに杖をぶんぶんと振り回した。


「なんて子だ……僕は……全然そんなことに気がついていなかったなんて……」


 サクルは肩を落としていた。


「さて……どうする? おじさん。 正直言って、僕らみたいな子どもや冒険者未満の人間を利用して自分が召喚したモンスターの掃除をさせるってずる賢さは気に入らない。けど、おとなしくギルドに自ら申し出るなら、僕らは何もしない……」


 わざわざ捕まえて、大人に色々と聞かれるのも面倒だしね。


「ふっ……先ほどお前らが言っていたとおり、こんなことが露見(ろけん)しては、わしの錬金術師生命にかかわるわい。子どもだからとて、放っておくわけがなかろう……」


「はぁ……そうなるか……」


 スペンサーが持っていた杖を高く振り上げる。


「黒髪黒目のくせに多少は魔法が使えるようだが、これはどうかな!」


 同時に、バラバラといくつかの大きな魔石が彼の周りに転がり、その魔石の間がつながるように地面に魔法陣をつくりだした。


大量召喚(バルクサモン)! スライム 一千匹(サウザンド)!」


 どばどばとあふれ出るように地面からスライムが現れる。


 その色は、赤、青、緑、茶、白、透明、そして黒。

 つまり全属性だ。


「……おっとっと!」


 あまりにうじゃうじゃと大量に地面から出てくるので、召喚したスペンサーもそれに押し出されていた。


「きゃぁ!!」


「せ、千匹!?」


 驚いているリリィ姉さんとサクルを抱えて跳び、距離を取った。

 たかがスライムと言っても、これだけ集まればやっかいだ。

 それにしてもこれだけの量を召喚できるとは……。


「ははは! 見ろ! モンスターの一括大量召喚! これが俺の研究の成果だ!」


 スペンサーがスライムに押し出されながら叫んでいる。


「でも……おじさん、全然コントロールできてないみたいだけど……」


 召喚されたスライムは、それぞれ自分勝手に動き回っているように見える。

 当然と言えば当然だ。

 もともとコントロールが出来ていれば、こんな事件を起こしていないだろう。


「……まぁな……。これだけの数の制御は一筋縄ではいかんのだ。だが——」


 スペンサーは、また別の魔石を取り出してスライムたちの中に放り込んだ。


「貴重な混合魔石だ……モンスターどもを吸い寄せ単一の存在として合成する。使いたくなかったが仕方あるまい!」


 まがまがしい黒い影が中心に発生し、そこにスライムが吸い込まれていく、

 それが一つの巨大なスライムを形どる。

 色は部分部分で入り交じっており、カラフルであるが、同時に気持ち悪さがあった。


「なにあれ……」


「モンスターを合成する……これも、許可なく一介の錬金術師がやっていいことじゃありませんよ!」


「しかも……合体しても完全にコントロールできていないね」


 巨大スライムは、ぐちゃぐちゃと音を立てながら、周りにある草やら石やらを取り込んでいる。

 ときどき、召喚したスライムの方向にすら、その体を伸ばしていた。


「黙れ! お前らにこの研究の素晴らしさは分かるまい! 各属性のスライムが入り混じることで、その弱点を見事にカバーしておるわ!」


「むむむ……確かに……。弱点の属性を狙ったところに当てるのは難しそうね……」


「ぼ、僕がやってみます!」


 サクルが手を前に上げて魔力を高める。


水連弾(ウォーターバレット)!」


 ドドドドッ!!


 鋭い水属性魔法が連発される——が、


 ズズズズッ!!


 巨大スライムは同じ水属性の青い部分を盾にしてそれを吸収した。


「くっ! 火連弾(ファイアーバレット)!」


 今度は火属性魔法。


 だが、さっきと同じく火属性の部分を盾にされて吸収されてしまう。


「だ、だめです!」


「くははは! 見ろ、全く効いておらん! 無敵だよこいつは!」


 大声で笑うスペンサー。

 完全に調子に乗っている。


「ふははは! 今の攻撃で、こいつはお前らを敵と認識したようだぞ!」


「くっ……」


 悔しそうな表情のサクル。

 巨大スライムが、ズズズズっと僕たちの方に迫ってきた。

 このまま僕たちを取り込む気だろう。

 これの消化能力は甘く見ない方が良さそうだ。


「ど、どうしよう!? レイくん!」


「うーん……」


 いくつか方法は思いつく。

 無理矢理封じ込めるような術もあるけど、ここは正攻法でいくか……。


「裁きの火——恵みの水——父なる風——母なる大地——聖なる光——」


 各属性からなる物質を、自分の体の周りに巡らせる。


「な、なにぃ!?」


「——開けよ、開けよ——虹色蓮華(にじいろれんげ)の花弁にごとく!」


 それぞれの花びらの色が異なる伝説上の植物のように、魔法を形取って放った。

 それは巨大スライムの上で花開いて散り乱れる。

 敵が守ろうとした部分を、ひらひらとかわして、各属性がそれぞれの弱点の部分に舞い落ちる。


 ジュル……ル……


 巨大スライムの体が、急速に分解されていく。


「ば、馬鹿な……。な、なんだこの魔法は!? こ、こんな多属性を組み合わせるなんて——!?」


 だが、まだ終わっていない。


 最後に残ったスライムの体は、スペンサーが投げた魔石を中心に透明な部分だ。

 クリスタルスライムの集まりだ。


 硬化能力があるこいつには、それ以上の強さでの物理攻撃がよく効く。


「更なる力——内より出づる!」


 身体強化魔法で腕力を強化し、父さんからもらった剣を振り落とす。


 ——パキィィン——


 スライムごと魔石が粉々にはじけ飛んだ。

 小さくなった破片は魔力を保てず、蒸発するように消失していく。


「ふう。終わったね!」


「レイくん、やっぱり天才ね! なにあれ、かっこよすぎよ!」


 リリィ姉さんは僕に力一杯抱きつき、


「……な、なんだ。これ……」


 サクルは顎が外れるぐらいに口をあんぐりと開いていた。


 一方のスペンサーは、


「な、な……。混合魔石まで完全に……」


 膝と地面を手に着いている。

 その体からは力が完全に抜けており、これ以上の抵抗する気はないようだ。


「し、信じられん……。こんな魔法使いがいるなんて……。しかも黒髪黒目のガキだってのに……一体、何者だ!」


「……小さな大賢者……そんなところかな……」


 それを聞いて、スペンサーは少し沈黙した後にふっと笑う。

 そして、ぽつりとつぶやき始めた。


「……ガキが舐めた口を……。いや……確かにこれはそれを名乗るだけの……」


「えいっ!」


 なんか捨て台詞を吐こうとしたスペンサーを、リリィ姉さんが後ろから杖で殴って気絶させた。



【あとがき】

更新期間あいてしまい、すいません。


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