第二十話:完敗で乾杯!
【まえがき】
突然のモンスター退治大会に出場した主人公レイルズと姉リリィ。
そこに現れたのは、天才少年と呼ばれる貴族のサクル。
終盤までサクルが勝っていたが、レイルズが最後に壊した岩山の中から、たくさんの魔石が出てきて——
「こ……これは一体!? 岩山をこのように切り裂くなんて、なんて魔法の力……。それに、魔石が……百個以上も……!?」
サクルが目を丸くしてぎょっと驚いている。
僕の地属性の魔法で、ぱっくりと開かれた岩山の中に、色とりどりの魔石がごろごろと落ちていた。
彼の言うように百個以上——一目では数え切れないほどの数がある。
「へへっ……これで僕たちの勝ちかな?」
サクルの様子を見ながら、僕は鼻の下を指でこすった。
「さっすがレイくん! 言ってたとおりだね!」
リリィ姉さんも、ガッツポーズをして喜ぶ。
それと対照的に、
「ど、どうなっているんですか!?」
声を荒げるサクル。
まぁ、突然のことだから仕方がないかな。
「ま、要するに……この岩山の中が、モンスターの巣みたいな場所だったってことだね。それを壊したから、中にいたモンスターを全部倒しちゃったってこと」
「なな、なんでここが巣だって、分かったんですか!?」
「ちょっ! 近い、近い!」
サクルが興奮して僕に詰め寄ってくる。
こいつ冷静ぶってて、意外に感情豊かというか、なんというか……。
僕は、両手でサクルの肩を押して、距離をとってから説明する。
「そんなの簡単さ。モンスターが襲ってくる方向を考えればね。戦っているときも、モンスター達は、基本的にこの方向を背にして戦っていたし……」
「ふふふ! まるで、こっちの方向を守っているみたいだったわ! ……ってレイくんに教えてもらったんだけどね!」
リリィ姉さんも得意げに胸をはった。
「そんなことが……むむむ……」
サクルがうなりながら、胸元からバサッと勢いよくノートを取り出した。
「いつもの癖で、モンスターを倒した場所をメモしていましたが……」
この辺は、やっぱり几帳面でしっかりしている少年だ。
この森の簡単な地図の上に、いくつかの○印をつけていた。
その印が、モンスターを倒した位置ということだろう。
サクルのペンがトントンとその印の上を叩く。
「う〜ん……モンスター達は、バラバラな場所にいたように見えるけれど……」
「ちょっといいか?」
僕はサクルが持っていたペンをとって、そのノートに線を書き込んでいく。
わざわざ解説する義理もないのだけれど、彼の几帳面さに免じて、少し教えてあげようという気になっていた。
「森の地図から察するに、サクル君の歩いてきたルートはこんな感じでしょ?」
「はい……よく分かりますね……」
人間が歩ける道は限られるし、大会が始まった後も一緒にいたから大体の見当がつく。
「それで、○印の位置と合わせると、モンスターはこっちからやってきたと考えられるだろうね……」
「ふむ……確かに……思い出せる限りは……そうだと思いますが……」
○印——つまり、モンスター——が、向かってきた方向が分かるように矢印をつけていく。
「この矢印を組み合わせると……」
「あっ!」
サクルが驚いて大きな声をあげた。
「た、確かにこの岩山で交わります……!」
「でしょ、でしょ!?」
リリィ姉さんがまた胸を張っている。
「まぁ、君も、もしかしたら無意識にこちらに歩いていたのかもしれないね……」
サクルは、ここにモンスターの集まりがあると知らずに、こっちに歩いてきていた。
意識的ではないにしろ、しっかり記録を取っていたことが幸いしたのかもしれない。
「な、なるほど……。こ、これは……気がつきませんでした」
サクルは、がっくりと地面に膝をついて派手にうなだれた。
「か、完敗だ……」
「そ、そんなに落ち込まなくても……」
「いえ! モンスターの巣を見つけていた上に、それを一発で壊してしまうとは……どう考えても僕の完敗です!」
結構、素直な奴だな。
もう少しだけ、種明かしをしてやるか。
「……ま、本当は、ここって普通のモンスターの巣とはちょっと違うんだけどね……」
「えっ!?」
またもや驚くサクル。
「考えてみなよ。単なるモンスターの巣だとしたら、おかしくないか? 岩山にちゃんとした入り口がなかったよ。どうやってモンスターは出入りしてたんだ?」
「た、確かに!」
「それに……そんな入り口があったら、他の人だって簡単に見つけられるはずさ。この大会の参加者はもちろん、冒険者だって以前に見つけてても、おかしくない」
「え、ええ……その通りです……。なぜ、入り口がなかったのでしょう……」
サクルが顎に手を当てて考え込んだ。
そのまましばらく、うんうんとうなったあとに——
「……ま、まさか!?」
どうやら気がついたようだ。
その様子を見て、僕は話を続けた。
「そうさ。誰かが意図的に隠したんだよ。あんな低級モンスター達に自分の巣を隠すなんて発想はできないからね。見つからないように入り口を、誰かがふさいだのさ。ま、どこか小さな隙間から多少は漏れ出ていたようだけど……」
「入り口を隠した……一体全体、誰がそんなことを……」
またもや考え込むサクル。
それを横目に、僕は崩れた岩山に足を踏み入れた。
「ま、そんなことをする奴は決まってるよね……」
つぶやきながら、岩山の中心部に近づく。
それから、崩れ落ちていた岩を少しだけ横にどけた。
その下には魔法陣が描かれていて、近くに大きな魔石がいくつか落ちている。
死んだモンスターが落としたものとは明らかに異なる人工的に加工された魔石だ。
「ここにモンスターを呼び出して、あふれさせた人間さ」
【あとがき】
今回は、推理編でした。
次回、犯人登場。
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