第0-1話:勇者もぶっ倒す!
【まえがき】この部分までプロローグとなります。
「勇者カイルよ……貴様、この娘を知っておるな?」
「そ、そいつは……!」
勇者だけではない、聖女と弓使いも驚いた、いや気まずい顔をして目を逸らした。
リディスだけはキョトンとした表情をしていた。
「……魔王軍に捕まっていた娘だ。我々が助けたんだったな」
「あ、ああ……そりゃ知ってるさ」
森のなかで魔王軍になぶられていた彼女を俺たちが救出したのだ。
「だが……その後で、貴様この娘に何をした?」
「な、何のことだよっ!?」
「とぼけるのか?」
俺は勇者を睨みつけ言葉を引き出す。
「……ち、違う! あ、あいつは、勇者に抱かれたがってたんだ! つまり……合意の上だったんだ!」
「黙れ! 娘から話は聞いている。裏も取ってある」
こいつは、あろう事か傷ついていた彼女を更に貶める真似をしたのだ。
苦虫を噛み潰したような顔をしている勇者。
本当にしょうもない奴だ……。
「そして……」
だが、同じようなやつが他にもいる。
「聖女ミリア!」
俺は目線を動かし、今度は聖女を睨みつける。
「お前が……勇者の手引きをしたんだな?」
「わ、私は……」
許しを請うような目線を俺に対して向けてくる。
美しい女だが、許すことは出来ない。
「傷ついた少女の心につけ込んだ、相談に乗る振りをして眠らせ、勇者に引き渡した。そうだな!?」
「くっ……」
彼女は唇を噛み締めている。
そんな彼女を俺は更に強く睨む。
「……だ、だって! そうしないと私がカイルに!」
カイルがミリアを脅したのだろう。
奴が何を言ったかは想像がつく。
つまりミリアに取って少女は身代わりだったってわけだ。
「……だとしても、それが聖女のやることか!」
脅されたからと言って許されることではない。
「ううぅ……」
ミリアは俯いて涙を流し始めた。
俺は最後に弓使いのユリウスを睨みつける。
「そしてお前は勇者が事に及ぶ間、見張りをしていた!」
「……はい」
ユリウスは大人しく頷いた。
いつも気が小さく、勇者の小間使いのような男だ。
今回の件の事は、こいつから裏をとっていた。
「そんな……」
パーティの中で唯一、リディスだけはこの件に関知していなかった。
「なんてこと……。私も気が付かなかったなんて……」
人一倍正義感の強い女だ。
勇者も彼女は引き込めないと思ったのだろう。
「お前が気に病むことはない。俺も最近まで気が付かなかったんだ」
戦ってる時以外で勇者たちが何をしているかなんて、知りたいとも思っていなかった。
道端で泣き崩れていた彼女を保護した教会の人間がたまたま俺の知り合いだったのだ。
そして、つい最近になって相談を受けたのだ。
「さて……調べればまだ余罪もありそうだが……」
俺は手を彼らの方向へ向ける。
「お、おい……何をする気だ……」
「取り敢えず、全員逝っとけ!」
魔法詩を唱え、魔力を練る。
「人の住まわぬ果ての世界――遥かに遠きは虚無の世界……」
勇者たちを黒い、いや色の無い空間が飲み込み始める。
「……誘え、誘え――無限円環の闇の中!」
人の世界には存在しない強大な力に抗うことは能わず。
下半身が闇に飲み込まれ、勇者たちは身動き取れない状態になった。
「お、おい! こ、これ! 虚無術じゃあ!? お前、悪魔と契約したのかよ!」
「……まぁな……だが、お前の行いこそ悪魔の所業だと思うがな」
「くっ……まさか、勇者の俺を殺す気か!?」
「いや……殺さない」
「……!」
勇者たちは少し安心したように、ふっと顔を見合わせた。
そんな様子を見て、俺は脅しがてら少し気障ったらしいセリフを吐いてしまう。
「俺はお前たちを殺さない……だが、永遠の闇の中で時がお前たちを殺すだろう」
「……ぐっ」
再び絶望に染まった彼らの顔は闇の中へ消えていった。
最後に残ったごく小さな闇を、俺は懐に入れていた魔石の中へ取り込む。
紫色の魔石の中で、黒々とした靄が揺らめいている。
それを見ながら考える。
俺はこんな奴らのために、そしてこんな事のために、魔法を学んだのだろうか?
ただ魔法を極めたかっただけだったのに、随分と汚らしい世界に足を突っ込んでしまったものだ。
そんな俺の姿を見たリディスが声を掛けてくれる。
「レイルズ様……」
「……奴らの贖罪を促すためにああ言ったが、最終的な審判は神官共に任せる」
そう言って、勇者たちが封印された魔石をリディスに手渡した。
高レベルの魔法使いである彼女なら解放の仕方は分かるだろう。
「面倒事を押し付けてすまんが、後は頼んだぞ」
「ど、どこへ行かれるのです?」
「そうだな……遠い、どこか遠いところに行こうかと思っている。この世はとかくギスギスし過ぎた」
なまじ魔法の力が強いせいで、他人と利用されることも多かった。
魔法は好きだが、出来ればもっとほのぼのとした人生を送りたかった……。
「……その言い方だとまるで死ぬみたいな……」
「はは……そんな事はないさ」
うっかり口を滑らせすぎたか。
「……あの、また会えるでしょうか?」
「……同じ魔導を追求する者同士だ……いつか精霊たちが導いてくれるさ」
彼女がなぜそんな俺に拘るのか分からないが、悲しげな顔を見ているとつい前向きな言葉を投げかけてしまう。
「……はい! いつかきっと!」
「あ、ああ……きっとな……」
うむ……こんな約束をして良いのだろうか?
なんだか嫌な予感がしないでもないが、変な空気、いや波動が流れているので、さっさとこの場を立ち去ろう。
「じゃあな!」
そうして俺は魔王城から姿を消して、この世からも一度消えた。
次はほのぼの人生を目指したいなぁ……。
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