第十七話:もう一人の天才!?
「なんなの? そのモンスター退治大会って?」
今までそんな大会を聞いたことがない。
「最近、街の近くの森でモンスターが大量発生したんだ」
父さんは僕に向けた剣を鞘にしまいながら話を続けた。
「ああ、それなら知ってるけど……」
と言っても僕らの暮らしは比較的平和だ。
僕らの村が街から多少離れているのもあるけど——
「そんなに強いモンスターは出てないって聞いたよ」
「その通り。さすがレイルズ。よく知ってるな」
そう言って、僕の頭をなでる父さん。
「正直言って、雑魚モンスターばかりなんだ。スライム系とか、小獣系とかな」
スライム系とはジェルベースの体のモンスターたちだ。
主に外見の色で、その特性——どの属性に強くて、どの属性に弱いのか——が分かる。
属性さえ見極めれば、そこまで強い奴は基本的にはいない。
小獣系とは動物に似ているモンスターたちのことだ。
強さも動物に毛が生えた程度だ。
「冒険者が普通に戦えば楽勝なんだが、いかんせん数が多くてギルドも手を焼いているんだ。バラバラに倒しててもキリがなくてな。雑魚モンスター相手に報酬もそんなにだせないから、今は一部の冒険者が手弁当で、街に近づくモンスターだけは交代で倒してる。森には、まだたくさんのモンスターが残ってるんだ」
「へぇ……でも、それと僕になんの関係が……」
「うむ……。問題の解決のために、まだ冒険者になっていないような人間を集めて、まとめて退治する大会を開いてはどうだということになった。子どもでも参加が可能なんだよ」
「う〜ん……いくら困っているからって、いきなり大会だなんて唐突な気もするけど……」
「まぁな。ギルドが困っているところに、街の錬金術師がスポンサーを名乗り出てくれたんだよ。賞金も彼からの上乗せがある。自分の名で、こういう目新しい大会を開けば宣伝にもなるからな」
「……なるほど……」
ギルドが困っているところに助けを差し伸べて、金を出す代わりに恩と自分の名を売ろうって考えたのか。
「それでだな、リリィとレイルズの二人で参加してみたはどうかと父さんは考えていたんだ。リリィはもう魔法も使えるしな。お前はまだ小さいが、さっきの動きを見て大丈夫だと確信した。魔法は使えないかもしれないが、剣があれば大丈夫だろ。俺も教えてやれるしな! はっはっは」
父さんは自分が剣士だから、僕にも剣士になって欲しいのかもしれないな。
明確には言わないけど、そんな期待があるのかなとなんとなく感じた。
「わぁ! 面白そう! レイくん、一緒に出よう!」
二人で大会に出られると聞いたリリィ姉さんが、乗り気になっている。
僕の手を両手で握って、キラキラとした目で見つめてくる。
「えぇ……うん……まぁいいけど……」
積極的に参加する理由もないけど、断る事情も思いつかなかった。
まぁ、適当にモンスターを退治していれば良いかな、という感じである。
「……う……わたしは?」
ライラが尻尾をゆらゆらとゆっくり揺らしている。
自分も参加したいということだろう。
「う〜ん。ライラには、まだちょっと早いかなぁ……」
父さんが片目をつむりながら、ごめんなという表情をしていた。
「うう……はい……」
ライラが残念そうに尻尾をしょんぼりとさせる。
仲間はずれになったような気持ちを感じているのかもしれない。
その落ち込んだ様子を見た母さんが、ライラの頭を優しくなでる。
「ライラは、私たちと応援に行きましょうね!」
「そうだぞ! きっと二人が優勝するぞ!」
父さんも加わってライラを慰めると、いくらか機嫌をなおしたようだ。
「……うん。分かった……応援するね!」
「任せておいて! ねぇ、レイくん!」
姉さんが、ライラに応えるように拳を握りしめて僕の方を見た。
「そ、そうだね! あはは……」
僕はあいまいに笑うしかできなかった。
なんだか期待が膨れ上がってしまったようなんだけど……。
◇ ◆ ◇
——数日後、大会の日——
僕らは街の広場に集められていた。
お立ち台になっているところで、大会の開始の挨拶を待っている。
周りを見渡すと、参加者はだいたい三十人ぐらいだろうか。
冒険者見習いのような十四、五歳ほどの若い人間が多いようだ。
なかには十歳ぐらいの子どももいた。
七歳のリリィ姉さんは最年少だと思う。
四歳の僕を除けばだ。
明らかに幼い僕らは、参加者の中でも結構浮いていた。
「なんだ、あんなガキたちまで参加するのかよ!」
「ちっこい方は無能の黒じゃないか?」
「遊びじゃねえんだよ!」
と、周りから僕らを噂する声が聞こえてくる。
といっても、言ってる本人たちも子どもだけど。
「この大会で優勝したら、冒険者にランクアップさせてもらえるだろうか?」
「少なくとも、有名にはなれそうだな!」
それなりの野心をもって参加している若者もいるみたいだ。
うん、元気があるのは良いことだよね。
観客である周囲の大人は、僕らに驚いているようだった。
「弱いモンスターとは言え……あんな小さな子ども……大丈夫なのかな?」
「まぁ、監視役の冒険者も配置されてるらしいから……」
などと良識ある大人からは心配の声が聞こえてきた一方で——
「おい、坊主! おむつの換えは持ったのか? ちびったら、お姉ちゃんに換えてもらうんだろ?」
そんな野次を言う人間もいた。
昼間なのに、酔っ払っているような雰囲気を出している中年の男だった。
「失礼ね!」
僕よりも姉さんが野次に反応して、怒りをあらわにしていた。
というか、おむつなんて生まれてすぐに卒業したぞ。
むしろおむつを履かせたがる姉さんから、いかに逃げるかが大変だったのだ……。
僕が額に汗をかきながら、昔を思い出していたとき、
「うぐぁ!」
野次の主がうめき声をあげた。
見ると、腹を押さえながら地面に突っ伏している。
そのすぐ横には父さんが立っていた。
どうやら、男にパンチを入れたようだ。
僕らと目が合うと、父さんはニッと笑いながら親指を上げた。
その横には母さんがいて、大きく手を振っている。
「リリィ! レイルズ! 頑張るのよ〜!」
「が……んばってぇ!」
ライラもすぐそばで小さな体をぴょんぴょんさせて、手を振り回していた。
大きな声を出すのに慣れていないのに、精一杯声を振り絞っているのが分かる。
「がんばるわ〜!」
それに応えるように、以前に買った小さな杖をぶんぶんと振り回すリリィ姉さん。
「ほら、レイくんも!」
「う……うん」
ちょっと恥ずかしかったけれど、僕も手を振りかえした。
と、その時——周りがざわつき始めたのを感じた。
「おい、あれ見ろよ!」
「ジェクソン家の……?」
「噂の天才児か」
「あいつも大会に参加するのかよ?」
そういった驚きの声とともに、僕らの周りの参加者が自然と道を空けた。
その間を、一人の子どもが歩いてくる。
つやつやとした赤色が強い茶色の髪に、水色の瞳。
貴族風のベストとコートを着ていて杖も片手に持っていた。
どうやら、遅れてこの会場に到着したようだけど——
「わぁ……あの子、レイくんと同じぐらいの年じゃない?」
「うん……そうだね……」
確かに、背丈からすると僕と同じくらいのようだ。
その男の子が、僕ら二人の目の前で歩みを止める。
「ふう……やっと、お目にかかることができましたね……」
僕の目を見ながら、小さな子どもにしてはやけに気取った雰囲気で口を開いた。
【あとがき】
次回「満を持して現れたこの子の実力は?」
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