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第十六話:打ち上げ花火は真正面から見る!

 Side: 謎の少年


 先日行われたパーティの最中、キントル家のキケル様とその息子のキース様が二人で話をしている内容が耳に入ってきた。


「キースよ、あの野生のゴーレムは恐ろしかったな……」


「ええ、父上。あんなものがいるとは、私、存じませんでした」


 いやいや、そんなものいるわけないだろう!


 と、子どもであり身分的にも彼らより低い僕が突っ込むわけにはいかないので、僕は礼儀をわきまえつつ彼らの話に割り込んだ。


「失礼いたします。その話を詳しく聞かせていただけないでしょうか?」


「いやはや……ヒュースくん、今の話を聞いていたのか……」


 話を聞かれていると思っていなかったであろうキケル様が、軽く汗ばんだ顔で僕を見た。


「申し訳ありません……気になる単語が耳に入ってきて、頭に引っかかったようです」


「なに、謝ることはない。天才児と名高いヒュースくんだけあって、目ざとい、いや耳ざといな」


「恐縮です。それでさっきのゴーレムの話ですが……」


 二人からその時の事を聞いた。

 恐らく他人に話したくなるような内容ではないだろうが、ペラペラと喋ってくれた。

 僕が大人だったらこうはいかないだろう。

 プライドが邪魔をしてなかなか教えないはずだ。

 僕に対する「天才児とは言われていても、しょせんは子ども」というあなどりもあって話が聞けたのだと思う。


「へえ……興味深いですね。でも、その子どもたちがゴーレムを召喚したという可能性はないのですか?」


「いやいや、そんなはずはあるまい。魔法が使えるとしたら一番上の女だが、銀髪に緑の瞳だった。土属性なぞ持ち合わせておらん」


「一番下の獣人は赤系の髪だ。男のガキにいたっては黒髪黒目なんだぞ」


「……なるほど……。そうですね!」


「第一、子どもが難易度ダブルAのゴーレム召喚などできるはずがあるまい。大人にだって難しいのだよ」


「……そうですね……となると、やはり大地の精霊が自分たちで生み出したのかもしれませんね」


「ああ、そうとしか考えられんだろ」


 キース様は完全にそう思い込んでいるようだ。

 あんまり賢くないからな、この人。


「そういうこともあるものなのですね。勉強になりました!」


「あ、ああ」


 あいさつをして二人から離れる。

 二人にはそう言ったが、僕には確信がある。


(確かに普通に考えれば、そんな常識外れの子どもがいるはずないものな……)


 しかし、あの男の子ならば……。

 彼が凄い力を秘めているのは間違いない。


 ただ、どこまで凄いのかはなんとも言えない。

 いくらなんでも、喋るゴーレム召喚なんて真似までできるのか?


 あの子と僕は同い年ぐらいのはずだ。

 その力を知りたいという純粋な気持ちが僕の中に残った。



 ◇ ◆ ◇



 Side:レイルズ


 前回の川でのキースたちとの遭遇から一ヶ月ぐらいが経っていた。

 夏の暑さも和らぎ、秋に入り始めている。


「みんな、花火を買ってきたわ!」


 母さんが突然、箱詰めされた棒の束を物体を持ってきた。

 太い棒と細い棒が混じっている。

 姉さんが興味深くそれを見ている。


「花火ってお祭りとかで打ち上げる奴? こんな小さいの!?」


「これは家庭用に新しく発売された新製品なのよ。火薬をあまり使わずに、中に入っているとても小さな魔石が色のついた火を生むんだって!」


「へぇ~!」


「ねぇねぇ、父さんが帰ってきたら皆で遊んでみましょうよ!」


「そうね、面白そう!」


 というわけで、夜に庭で花火をする事になった。


「じゃあ、ライラちゃん、火をつけて!」


「うん……」


 母さんにお願いされてライラが魔法で火をおこしてローソクにつけた。


「まぁ、凄い!」


「えへへ……」


 魔法の練習のかいあって、ライラも火をおこすぐらいは出来るようになったのだ。

 この年でこれは十分、立派だ。

 母さんもライラが自信を持てるように、わざと彼女に魔法を使わせているのだと思う。


「それじゃ、いくわよ~!!」


 母さんが、地面に置いた筒のひもの部分にローソクを近づけた。

 導火線に火がついた後、ダッシュでこちらに戻ってくる。


 しゅ~ん――ドォン!


 色とりどりの火が打ち上がった。

 薄暗い空にその光が映える。


「ひゃあ!」


「わぁ~、綺麗!」


 びっくりしているライラと、目を輝かせているリリィ姉さん。

 お祭りで見る者よりは小さいけれど、こんなに近くで花火が見れるなら、なかなかのものだ。


「いや~、奮発して買ったかいがあったわね!」


 母さんも楽しんでいるようだ。


「ほほう……技術の進歩とはすごいものだな」


 父さんは、感動というよりも、感心をしていた。


「じゃ、次いくわよ~!」


 母さんが、数発同じように花火を打ち上げた。

 毎回、ちょっとづつ火の形や色が違っていて見ていて飽きない。


「こわい……けど、おもしろいね!」


 ライラもだんだんと慣れてきて笑顔で花火を見上げていた。


 そうして皆でしばらく花火を楽しんでいたところ――


「ふむ……母さん」


 父さんが急に剣を持ち出してきた。


「な、なに? あなた」


「その花火と勝負がしたくなった」


「「「は?」」」


 突然の父さんの発言に僕ら姉弟は目を見合わた。


「それを俺に向けて発射してくれ」


 父さんは腕のある冒険者だが、なかなか考えることが突飛なのだ。


「なるほど……あなたらしいわね……分かったわ!」


 ……だがしかし、さすが夫婦だ。

 母さんは全く動揺していなかった。


「あなた、いくわよ!」


 庭の外れの小さな林を背に父さんが構え、母さんも花火の筒を横に向けて準備していた。


「おう! さぁこい!」


「三、二、一、点火!」


 母さんが火をつけた。


 しゅ~ん!


 筒から放たれた球が父さんに向かって飛び――


 ズパッ!


 ドン!


 父さんが素早い剣技で真っ二つに切断。

 切られた球が小さく爆発した。


「ふっ!」


「あなた、カッコいいわ!」


 ドヤ顔の父さんを母さんが拍手しながらキャピキャピと褒め称えていた。

 なかなかのバカップルである。


「どうだ! 子どもたちよ!」


「え……確かに凄いけど……」


「うん……凄いね……」


 リリィ姉さんと僕は若干引いていた。


「……な、なんで切ったの?」


 ライラの素直な疑問。

 うん、そうだよな……。


「剣士の本能だ……」


「「「ふ~ん」」」


 子どもたち三人で、大きな子ども(親)を見ていた。


「う~ん……あんまりウケなかったな……」


 父さんはガックリと肩を落としていた。


「い、いや、華麗な剣だったのは間違いないよ!」


「そ、そうよ! ねぇ、ラーちゃん!」


「う、うん!」


 そんな父さんをみんなで精一杯励ます。


「そ、そうか! はっはっはっ!」


 なんとなく機嫌を直した父さん。

 豪快に笑いながら、僕に剣の切っ先をビシッと向けた。


「さて、レイルズ!」


「え? なに?」


「お前もやってみなさい!」


「ええ~!?」


 またまた、いきなり何を言い出すんだ。


「と、父さん。む、無理だよ!」


「いや、無理じゃない! 例え魔法が使えなくても、お前はずば抜けた天才だ! 俺の子だからな!」


「か、母さん!」


 母さんに助け船を求めるが――


「そうね……レイルズならきっと出来るわ! 私の子だもの!」


 ノリノリである。


「レイくん! やるしかないわね!」


「お兄ちゃん! 頑張って!」


 姉と妹も包囲網に加わり、逃げ道を防がれた。


「むう……」


 確かに自動的に掛かっている身体強化があるので、あの剣で花火を切ることはできるだろうけど……。

 期待してくれているのは嬉しいが、なかなか無茶苦茶な家族だ。

 もう少し常識というものをだな……。


「わ、分かったよ」


 ただ、さすがに断り切れないというか、断っても逆効果な気がした。

 余計に期待が膨らんでいきそうだ。


 僕はエマ先生と初対面の時と同じような感覚になりながら覚悟を決めた。


 父さんから剣を受け取って構える。


「い、いいよ、母さん。火をつけて」


「三、二、一、点火!」


 シュバッと火がついて、母さんがダッシュ。

 そして、花火が発射——されなかった。


「あれ〜?」


「ん、どうしたんだ? 不発弾か?」


 家族皆で不思議な顔をした。


 しかし、数秒して——


 バン! と音がして球が発射された。


 ただし、筒がセットした位置から回転しながら。


「「きゃ!」」


 僕の方ではなく、姉さんとライラがいる方向だ。


「くっ!」


 父さんが花火の正面に入り込んで二人をかばった。


「任せて!」


 僕は筒が回転した時点で、そちらへ走っていた。

 だが、この位置で球を切ると、後ろへ花火が飛んで行ってしまう。


 あえて剣を捨てて——


「とぉりゃぁ!」


 花火が足先で爆発しないように、微妙につま先をコントロールする!


 そのまま、ボールを空中へ蹴り上げるように花火の球を蹴り上げた。


 しゅ~ん――ドォン!


 軌道を変えた球は、美しく夜空で火の花を広げた。


「だ、大丈夫?」


 皆の方を確認する。


「「「す、すごい……」」」


「し、信じられん! こんな技まで……」


 全員、口をあんぐりと開けていた。


「あははは……大丈夫そうだね」


「やはり……天才か……」


 父さんが神妙な顔をして僕を見ていた。


「ボ、ボール遊びは得意だから……」


 実際、地面にボールを落とさないで何回も蹴り続ける遊びとかよくやってるし……。


「いやはや、そんなレベルじゃないぞ、これは! よし、レイルズ!」


「は、はい?」


「お前、モンスター退治大会に出場しなさい!」


「は?」


 なんだか話が変な方向へ進み始めたぞ……。



【あとがき】

子ども……サッカーの天才……うっ、頭が……。


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