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第十五話:貴族、再び!

「うへ〜、暑い……」


 今は真夏だ。

 この地域は比較的過ごしやすい気候なのだが、それでも真夏は暑い。

 その中でも今日は特別に暑い。


 僕は正直言って暑いのは苦手だ。


「そうね〜……。魔法で氷を出せないの?」


「う〜ん……」


 今は家の中にいるので、ここで出すわけにもいけない。

 単純に、部屋で溶けるのが困るというのもあるが、母さんが家にいるしね。


「ふぐぅ……」


 ライラもうつ伏せになってへばっていた。


「そしたら、川へ行きましょうか」


「川か〜」


 村の近くには山があって、その中に小さな川があるのだ。

 子どもの足でも歩いていけないことはない。

 姉さんと僕は勿論大丈夫だし、ライラもこう見えて体力はあるから大丈夫だろう。

 暑ささえなんとかすれば。


「かわぁ……いきたい……」


 ライラがパタパタと足を動かした。


「ラーちゃんは行ったことないもんね」


「それじゃあ、いってみようか。家にいても暑いだけだしね」


「タオルと着替えだけもってこ!」


「母さん! 川に行ってくるね!」


 一応、母さんに声を掛けておく。


「はいはい、気をつけてね!」


「は〜い」



 ◇ ◆ ◇



 というわけで川に来た。

 道中は僕の魔法で小さな氷を風を出して、暑さをしのいだのでそこまで大変ではなかった。


 さて、そんなに深くもない所で遊ぶことにする。


「それじゃ脱ぐね!」


「うわ!」


 姉さんがシャツのボタンをさっさと取ろうとしていた。


「何よ、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ちょっと前まで一緒にお風呂に入ってたんだし」


「ぼ、僕も大人になってるんだよ!」


「も〜、生意気ね……本当は見たいくせにぃ。この前も……」


「わ〜! わ〜!」


 姉さんが、ちょっと前に描いた絵のことを言い出そうとするので、大きな声を出してごまかした。


「もう! そんなに恥ずかしがるなら、シャツだけ着ておくわ。着替えも持ってきてるしね」


「それじゃ……わたしも」


ライラもシャツ一枚で入るようだ。


「……うん、そうして……」


 僕はほっと一息つく。

 前世の記憶があるから、なんだか悪いことしてる気分になっちゃうんだよね。


 そうして、浅い所に入っていく。


「うひゃ〜、冷たいわね!」


 姉さんが一番乗りではしゃいでいる。


「気持ちい〜」


 僕も続いて入った。


「……えい!」


 それを見たライラが思い切って足を突っ込んだ。


「……ひゃあ!」


 ぴくんと耳と尻尾の毛を逆立せて驚いている。


「大丈夫か?」


「……うん、気持ちいい……」


 すぐに水の冷たさになれたようだ。

 パシャパシャと足で水を飛ばしていた。


「レイくん! えいっ!」


 姉さんが水を僕に向かって飛ばしてきた。

 顔に水がかかる。

 こっちも反撃だ。


「なにをぉ!……おりゃ!」


 バシャッ!

 っと思いっきり水をかけ替えした。


 空中には虹がかかり、姉さんのシャツは濡れて透けた。

 美しい光景だ……じゃなくて!


「やん!」


「わわ!」


 わざとらしく恥ずかしがる姉さん。

 僕は反射的に顔を背ける。


「あはは!」


 ……くっ、やられた。


「わ……わたしも!」


 とライラもパシャッと水をかけてくる。


 僕も手加減しながら水をかけた。


 そんなこんなで、しばらく遊んでいたのだが……



 ◇ ◆ ◇



「お前たち、何をしている!?」


 近くで男の声が響いた。

 四十歳ぐらいのいかめしい面構えの貴族だ。


 そしてその隣には——


「あ、てめぇら!」


 青がかった短髪の少年。

 キースだ。


 さらに護衛と思われる皮の鎧を装備している若い男たちが四人いた。


「あはは……お兄ちゃん、久しぶりだね!」


 僕は前と同じく子どもらしく挨拶をする。

 リリィ姉さんとライラは川から上がって、お互いに手をつないでいた。

 ライラは前みたいに怯えてはいないが、緊張はしているようだ。


「おう! 久しぶりだな! ……じゃねえよ!」


「なんだ、キース。こいつらはお前の知り合いか?」


「え、ええ、父上。こいつら、あいつを引き取った奴らですよ! ほら、父さんが奴隷にするはずだった獣人の子ども」


 そういってキースはライラを指さす。


「……ああ。あの女の子どもか……忌々しい……」


 キースの父親がライラを睨みつける。

 前に聞いたところ、キースの父親は伯爵でこの辺の領地を治めている。

 そして、死んでしまったライラの母親を奴隷にしてやろうと言っていたらしい。


「……ぐっ」


 また一層、緊張して小さくなるライラ。


「それで……こんなところで何してるの? また遊ぶ? キース兄ちゃん」


 僕は少し気をそらそうとキースに話しかけた。


「黙れ、黙れ! それに、お前に兄ちゃんなんて呼ばれる筋合いはないぞ!」


「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ! 一度ボール遊びした仲じゃない。まぁ兄ちゃんはスグ気絶しちゃったけどさ!」


 あのときの事を思い出して、ちょっと笑ってしまう。


「ああ? 気絶?」


 その言葉に、キースの父親が反応した。


「い、いえ。父上、お気になさらないでください!」


 やはりキースは前回のことを父親には言っていないようだ。

 プライド高そうだもんな。


「それで、何の用ですか? もしかして覗きじゃ……」


 今度はリリィ姉さんが、自分の体を抑えた。

 それを真似したのかライラも、丸くなって体を隠している。


「ば、ばかいえ! 誰がお前みたいな、ちんちくりんの裸か見たがるんだ!」


「まぁ! 失礼ね!」


 姉さんは舌を「べぇー」と出す。


「ふむ、なかなかのおてんば娘のようだな。貴族が自分の領地を見に来て何が悪い」


「あら、そうですか。それじゃ、済んだらすぐに帰って下さいね」


「貴様、失敬だぞ! キケル様に向かって!」


「誰のおかげで、ここに住めると思ってるんだ!」


 周りの男たちとキースが騒ぎ出す。

 キースの父親はキケルと言うらしいな。

 確かに、名前はどこかで聞いたことがある気がする。


「やめろ、お前ら!」


 キケルは周りの者を制した。


「で、ですが……父上」


「なに、こんな子どもなど……」


 一見、冷静に落ち着いたような口ぶりを見せるキケル。


 だが、そのこめかみはヒクヒクと血管が浮き上がっている。


「大人がきっちり教育してやれば良いだけの事よ! お前たち!」


「は、はい!」


 周りの護衛二人が同時に魔法を詠唱する。


「「召喚(サモン)! ゴーレム!」」


 地面からゴーレムが現れ、僕たちの前に立ち塞がり見下ろす。

 その大きさは僕たちの二倍と言ったところだろう。


「くひひ! うちの精鋭二人で作ったゴーレムだ! お前たちみたいなガキには分からないだろうが、ゴーレム召喚の難易度はダブルA!」


 キースは得意げだ。

 お前がやったワケじゃないけどな。


 それを見て僕らは小さな輪になる。


「え……知ってる……けど。二人がかり?」


 無邪気に話すリリィ姉さん。

 エマ先生の召喚する奴をよく見てるもんな……。


「ゴ……ゴーレムってもっとキレイな形なんじゃ……」


 ライラも先生のゴーレムを見たことがある。

 うん、そうだよな……。

 奴らのゴーレムは、所々体がボロっとしていた。


「同じ難易度でも完成度には差が出るからねぇ……」


 どう見ても完成度が低いゴーレムだった。


「なにひそひそ喋ってるんだ、てめぇら!」


「さあ、平民のガキども。このこわ〜いゴーレムが暴れ出さないうちにここを立ち去れい!」


 僕たち少しだけ相談した後——


「「「……わぁぁぁ!!」」」


 と大きな声を出して、木々の中へ逃げ出した。


「ははっ……いまいましい獣人のガキと仲間どもが、私の領地で勝手に遊んでるじゃないぞ!」


「ひひっ……ざまぁないな!」


「「はっはっは」」


 キケルとキースが同じように笑っていた。

 こいつら似たもの同士だな……。



 ◇ ◆ ◇



 そうして、十秒ちょっと経った後——


「「「……わぁぁぁ!!」」」


 僕たちはまた大きな声を出しながら、さっきの位置に走ってきた。


「な、なんだ!? なぜ戻ってきた!?」


 目を丸くしているキケルと、キースたち。


「ゴ、ゴーレムが!!」


 僕は生い茂っている木々の方を指さす。


「はぁ!? ゴーレムはここにいる。お前ら、何を言って——」


 キケルたちが木々の方に目をやる。


「グゴゴゴォォォ!」


 そこにいたのは、キケルたちが召喚したのよりも遙かに大きく、がっしりとしたゴーレムだった。

 顔も鬼のような表情で、彼らの者よりだいぶ怖い。


 ……勿論、僕が召喚したものだ。


「うわぁぁぁ!」


「な、なんだあれは!?」


「でかすぎるぞ!」


 パニックに陥ってるキルケたち。


「や、野生のゴレームだよ!!」


 僕が叫んだ。


「そ、そんなの聞いたことがないぞ!」


 キルケがへっぴり腰になっている。


 ……まぁ、僕も聞いたことがないけどね!


「最近、この辺りに出没するの!」


 姉さんが説明した。


「ま、まじか!?」


 キースは完全に腰を抜かしていた。


「グゴゴゴォォォ!」


 僕はゴーレムを操作して、キルケたちの前にいる奴らの小さなゴーレムを腕で吹き飛ばした。

 小さなゴーレムは、ボロボロとほとんど崩れたような状態になった。


「ひいいいぃぃぃ!」


 奴らは地面に這いつくばりながら、身を寄せ合う。


「グゴェェ! オマエたち、ココで何をシテイル!?」


「ゴ、ゴーレムが喋った!?」


「グゴェェ! シツモンにコタえろ!」


「ひぃ! こ……ここは、私の土地で……」


「グゴゴゴォォォ!」


「ひいいいぃぃぃ!」


「オマエたちの土地チガウ! ココ、ミンナのバショ! コドモいじめるな!」


「だ、だが、私はこの国の——」


「グァァァン!」


 啖呵を切るように咆吼するゴーレム。


「ひぃっ!」


「知ったコトカ!! このバショで争うナラバ、大地のセイレイがダマってないゾ!!」


 そういって周りの地面が大きく揺れ、砂が舞い踊る。


「ひぃ……、わ、分かった!」


「アノような、チンケなデクノボウなど使いオッテ! オナジことをクリかえしたら、オマエたちごと、コナゴナにしてヤルワ!!」


「わ、分かった!」


「ワカッタなら、サッサと立ちサレ!!」


 ゴーレムが地面を叩く。

 もう一度、大きく揺れた!


「ひぃぃ! い、行くぞ! お前たち!」


「「「うわわぁぁ!」」」」


 キルケとキースたちは、叫びながらすたこらと逃げていった。



 ◇ ◆ ◇



「うひひ……あっはっは」


 奴らの後ろ姿が見えなくなると、僕はたまらず笑い出してしまった。


「ふふ……ふふ……」


 ライラも静かに笑っている。


「さすがね! レイくん!」


「エマ先生……のより凄いね?」


「う……ま、まぁ、先生も本気出したらこんなもんだよ、きっと」


 とはいえ、ゴーレムに喋らす程の人格を与えるには気属性のSランク以上の難易度だ。

 たぶん、先生でも無理だろうな。。


「ま〜た、そんな謙遜しちゃって!」


 むぎゅうと僕を抱きしめるリリィ姉さん。

 その体はまだ、少し湿っていたので、体の感触が良く分かってしまう。


「うぐぅ……」


「レイお兄ちゃん……私も!」


 ぴょんと背中に飛びついてくるライラ。


「だはは……」


「「あはは!」」


 団子状態で、皆で笑い合ったのだった。



【あとがき】

野生のゴーレムを飼いたい……。


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