表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/24

第十四話:杖ってツエー!

 ある日の休日。

 久しぶりに街に買い物に出ることになった。

 といっても、母さんのお使いではない。

 そろそろリリィ姉さんが八歳になるので、そのプレゼントとして魔法用の杖を買いに行くのだ。


 杖は魔力の集中を助けてくれる役割がある。

 必ず要るというわけではないのだが、武器にもなるし、あればあったで役に立つ。


「皆でお買い物だなんて、先生、嬉しいわ!」


 エマ先生もついてきている。

 引率というか、どの杖が良いかアドバイスしてもらうためだ。


「ラーちゃん、手を離しちゃ駄目よ」


「うん……」


 勿論、リリィ姉さん本人とライラもついてきている。


「レイくんもね」


「うん……」


 姉さんは相変わらずだ。

 姉さんを真ん中にして皆で手をつないで歩いている。

 恥ずかしいけど……まぁ仕方ない。


 休日だからか、街には人が多かった。

 家族連れが多いように思う。


「あ〜、獣人だ!」


 獣人が普通に街を歩いているのが、珍しいのだろう。

 ライラと同い年ぐらいの小さな男の子が、彼女を指さした。


「うぅ……」


 ライラが耳を隠すようにフードを被った。


「大丈夫だよ! 僕たちが一緒だよ!」


「そうよ、怖がる必要はないわ」


 僕とエマ先生がライラを励ます。


「むぅ〜!」


 姉さんは指さした男の子に向かって、眉をひそめて怒りの表情を見せた。


「ひっ!」


 男の子はびびって背中を丸くした。

 姉さんは怒ると意外と怖いからな。


「さっ、行きましょ!」


「うん……ありがと……」


 しばらく街を歩くと、武器屋についた。


「こんにちわ〜!」


 エマ先生が元気よく挨拶をする。


「おっ、エマさん、久しぶりじゃの!」


 ひげを蓄えた好々爺といった感じの店主さんが挨拶を返す。

 先生とは顔なじみのようだ。


「はっ……!」


 店主さんが僕たちを見て、ぎょっとした顔をする。


「エマさん……って……子どもいたのか……?」


「えっ? ……うん……じつは……」


 さっと顔を隠して、照れているふりをする先生。


「そ……そうじゃったのか……」


 がっかりと肩を落とす店主さん。


「な〜んて、違いますよ! 私の教え子たちです」


「なーんじゃ!。安心した!」


 この店主さん、エマ先生に気があるのだろうか。

 まぁ、年齢差は問題にならない……のかな?


「今日は、この子の杖を見に来まして」


 といって先生はリリィ姉さんを紹介する。


「こ、こんにちわ!」


 ちょっと恥ずかしがりながらも、元気に挨拶している。


「う〜む、べっぴんさんじゃの!」


 店主さんの顔がにやけている。


 ……なかなかストライクゾーン広いな、おい。

 ただの女好きなんじゃないかという疑惑が僕の中で膨らんだ。


「あ、ありがとうございます。それで、杖を……」


「ふむ! 杖ね。いくつか良いのが入っとるわい」


 そう言って、店主さんは杖をいくつかテーブルに並べてくれた。


「これなんかどうかの? 嬢ちゃんには、大きいかの?」


「私が使っているのに似ているわね。フルサイズでしっかりしてるわ」


「……ん〜、あんまり可愛くない! ちょっとおばさんみたいだわ!」


「が〜ん!!」


 自分のセンスを否定されたエマ先生が分かりやすく落ち込んだ。


「す、すいません。……でも、もう少し、小さいのがいいかな……」


 確かに、フルサイズの杖だと姉さんの体には大きいし、取り回しに困るだろう。


「姉さん、これなんかどうかな?」


 僕は、姉さんの背丈の半分ぐらいのサイズの杖を指した。


「ん〜、これかぁ……。見た目は悪くないけど……」


「これ、仕込み杖みたいだよ」


 といって僕は鞘になっている部分を取り外す。

 中は細身の短剣のようになっていた。


「ほ〜う、坊主、良く分かったの!」


「あはは……な、なんとなくね! ……というか、この辺、全部仕込み杖でしょ?」


 杖に微妙な隙間があるのが並んでいる。


「レイお兄ちゃん、すごいね……」


「えっへん、私の弟です!」


「さすがね〜」


「だはは……」


 あからさまに他の人の前だと、いつもより照れるな……。


「やるな。ワシの仕込み杖コレクションを見破るとは……」


「コレクション?」


「マ、マニアなの?」


 姉さんがちょっと引いている。


「仕込み杖はいいぞ〜。最近は隠された機能の種類も色々あっての!」


 といって、店主さんが大きな杖を手に取って、


「こいつには、傘が仕込まれているんじゃ!」


 シュバッっと傘が開いた。


「……い、いるのかな?」


「あったら便利ではあるかも……」


 姉さんと僕の反応は微妙だった。


「むむ……じゃあ次はこいつだ!」


 シュバッと風船が開いた。杖から。


「な、何に使うんだろね?」


「相手を驚かせるにはいいかも……」


 姉さんと僕は顔を見合わせる。


「パーティで使えるかも!」


「び……びっくりした!」


 エマ先生とライラには意外とウケていた。


「ちなみに……こんなのもある!」


 店主は、同じような形の杖を四本取り出した。


 シュバ——シュバ——シュバ——シュバ!


「テーブルになるんじゃ!」


「べ、便利ですね……?」


 杖の中に布のような素材が入っていて、それがつながるとテーブルになるらしい。

 微妙に実用性がありそうなのが、なんとも言えない。


「最後にこれじゃ!」


 お次は何だ?


「これは子どもにおすすめじゃぞ……」


 キュポッと鞘の部分を外すと——


「中がお菓子になっているんじゃ!」


 確かに、クッキーみたいなお菓子になっていた。


「わぁい!」


 ライラが食いついた。


 うん……確かに子どもに良いかもしれない。


「中の詰め替え用も売っているぞい!」


「わぁい!」


「商売上手だなぁ……」


 ここまでライラの反応が良いと、買ってあげたくなってしまう……。


 リリィ姉さんの方を見る。

 姉さんも頷いていた——とことん妹に甘い姉弟だった。


「じゃ、じゃあ、これ買います」


「いいの!?」


「うん……母さんからお小遣いも貰ってるしね」


「わぁい! ありがと、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


「いえ、いえ」


「うひひ、まいどあり!」


 エマ先生がごめんね〜みたいな顔をしていたけど、先生が悪いわけじゃない。

 それに、ライラが喜んでいるから良いと思う。

 そんなに高い値段ではないしね。


「それで……リリィちゃんの分ねぇ」


「さっきの、仕込み杖にしようかなぁ……」


「え、どれ!? 風船の奴?」


 姉さんも意外とああいうの好きだからな。


「ち、違うわよ! 短剣が入っている奴よ」


「あぁ、最初のね」


「護身用にいいかなって!」


「うむ……それは本当に良いものじゃぞ。ちゃんと魔法補助用の機能もしっかりしているんじゃ」


 他のものは、しっかりしてない事を暗に認めているような……。


「どれどれ……」


 エマ先生が杖を手に取った。


「うん、確かに。魔力誘導繊維が入っているわね。リリィちゃん、持ってみて」


「はい!」


 姉さんが杖を手に取って——もちろん鞘を戻した状態で——握った。

 魔力の流れを確かめているようだ。


 そんな姉さんから離れた位置でライラが僕に尋ねる。


「レイお兄ちゃん、まりょく……なんとか……って?」


「魔法の方向を決めるのを助けてくれるものだよ」


 体内に流れる魔力の流れを延長するイメージだ。


「へぇ……」


「まぁ簡単に言うと、手が長いと、ゴミ箱にゴミを投げ入れやすいってことかな」


「わぁ! そうだね!」


「相変わらず説明が上手ね、レイルズ先生!」


 僕たちの話を聞いていた、エマ先生に褒められた。

 姉さんは、僕らの会話には気づかずに杖に集中していたようだ。


「うん、これにしてみる!」


「いいの?」


「うん、レイくんが選んでくれた杖だし!」


「そんなに気をつかわなくても——」


「いいの! これにする! シュバッって剣になるのもカッコいいしね!」


 カッコよさはともかくとして、姉さんが身を守るためには普通の杖よりこれが良いと思う。


「お、仕込み杖の良さが分かるかい!?」


 その後、店主さんが延々と語るのを聞かされて僕らは帰宅したのだった。



【あとがき】

仕込み武器っていいですよね!

ブックマークや、下の評価欄からポイント評価してくれるとすごく励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ