第十四話:杖ってツエー!
ある日の休日。
久しぶりに街に買い物に出ることになった。
といっても、母さんのお使いではない。
そろそろリリィ姉さんが八歳になるので、そのプレゼントとして魔法用の杖を買いに行くのだ。
杖は魔力の集中を助けてくれる役割がある。
必ず要るというわけではないのだが、武器にもなるし、あればあったで役に立つ。
「皆でお買い物だなんて、先生、嬉しいわ!」
エマ先生もついてきている。
引率というか、どの杖が良いかアドバイスしてもらうためだ。
「ラーちゃん、手を離しちゃ駄目よ」
「うん……」
勿論、リリィ姉さん本人とライラもついてきている。
「レイくんもね」
「うん……」
姉さんは相変わらずだ。
姉さんを真ん中にして皆で手をつないで歩いている。
恥ずかしいけど……まぁ仕方ない。
休日だからか、街には人が多かった。
家族連れが多いように思う。
「あ〜、獣人だ!」
獣人が普通に街を歩いているのが、珍しいのだろう。
ライラと同い年ぐらいの小さな男の子が、彼女を指さした。
「うぅ……」
ライラが耳を隠すようにフードを被った。
「大丈夫だよ! 僕たちが一緒だよ!」
「そうよ、怖がる必要はないわ」
僕とエマ先生がライラを励ます。
「むぅ〜!」
姉さんは指さした男の子に向かって、眉をひそめて怒りの表情を見せた。
「ひっ!」
男の子はびびって背中を丸くした。
姉さんは怒ると意外と怖いからな。
「さっ、行きましょ!」
「うん……ありがと……」
しばらく街を歩くと、武器屋についた。
「こんにちわ〜!」
エマ先生が元気よく挨拶をする。
「おっ、エマさん、久しぶりじゃの!」
ひげを蓄えた好々爺といった感じの店主さんが挨拶を返す。
先生とは顔なじみのようだ。
「はっ……!」
店主さんが僕たちを見て、ぎょっとした顔をする。
「エマさん……って……子どもいたのか……?」
「えっ? ……うん……じつは……」
さっと顔を隠して、照れているふりをする先生。
「そ……そうじゃったのか……」
がっかりと肩を落とす店主さん。
「な〜んて、違いますよ! 私の教え子たちです」
「なーんじゃ!。安心した!」
この店主さん、エマ先生に気があるのだろうか。
まぁ、年齢差は問題にならない……のかな?
「今日は、この子の杖を見に来まして」
といって先生はリリィ姉さんを紹介する。
「こ、こんにちわ!」
ちょっと恥ずかしがりながらも、元気に挨拶している。
「う〜む、べっぴんさんじゃの!」
店主さんの顔がにやけている。
……なかなかストライクゾーン広いな、おい。
ただの女好きなんじゃないかという疑惑が僕の中で膨らんだ。
「あ、ありがとうございます。それで、杖を……」
「ふむ! 杖ね。いくつか良いのが入っとるわい」
そう言って、店主さんは杖をいくつかテーブルに並べてくれた。
「これなんかどうかの? 嬢ちゃんには、大きいかの?」
「私が使っているのに似ているわね。フルサイズでしっかりしてるわ」
「……ん〜、あんまり可愛くない! ちょっとおばさんみたいだわ!」
「が〜ん!!」
自分のセンスを否定されたエマ先生が分かりやすく落ち込んだ。
「す、すいません。……でも、もう少し、小さいのがいいかな……」
確かに、フルサイズの杖だと姉さんの体には大きいし、取り回しに困るだろう。
「姉さん、これなんかどうかな?」
僕は、姉さんの背丈の半分ぐらいのサイズの杖を指した。
「ん〜、これかぁ……。見た目は悪くないけど……」
「これ、仕込み杖みたいだよ」
といって僕は鞘になっている部分を取り外す。
中は細身の短剣のようになっていた。
「ほ〜う、坊主、良く分かったの!」
「あはは……な、なんとなくね! ……というか、この辺、全部仕込み杖でしょ?」
杖に微妙な隙間があるのが並んでいる。
「レイお兄ちゃん、すごいね……」
「えっへん、私の弟です!」
「さすがね〜」
「だはは……」
あからさまに他の人の前だと、いつもより照れるな……。
「やるな。ワシの仕込み杖コレクションを見破るとは……」
「コレクション?」
「マ、マニアなの?」
姉さんがちょっと引いている。
「仕込み杖はいいぞ〜。最近は隠された機能の種類も色々あっての!」
といって、店主さんが大きな杖を手に取って、
「こいつには、傘が仕込まれているんじゃ!」
シュバッっと傘が開いた。
「……い、いるのかな?」
「あったら便利ではあるかも……」
姉さんと僕の反応は微妙だった。
「むむ……じゃあ次はこいつだ!」
シュバッと風船が開いた。杖から。
「な、何に使うんだろね?」
「相手を驚かせるにはいいかも……」
姉さんと僕は顔を見合わせる。
「パーティで使えるかも!」
「び……びっくりした!」
エマ先生とライラには意外とウケていた。
「ちなみに……こんなのもある!」
店主は、同じような形の杖を四本取り出した。
シュバ——シュバ——シュバ——シュバ!
「テーブルになるんじゃ!」
「べ、便利ですね……?」
杖の中に布のような素材が入っていて、それがつながるとテーブルになるらしい。
微妙に実用性がありそうなのが、なんとも言えない。
「最後にこれじゃ!」
お次は何だ?
「これは子どもにおすすめじゃぞ……」
キュポッと鞘の部分を外すと——
「中がお菓子になっているんじゃ!」
確かに、クッキーみたいなお菓子になっていた。
「わぁい!」
ライラが食いついた。
うん……確かに子どもに良いかもしれない。
「中の詰め替え用も売っているぞい!」
「わぁい!」
「商売上手だなぁ……」
ここまでライラの反応が良いと、買ってあげたくなってしまう……。
リリィ姉さんの方を見る。
姉さんも頷いていた——とことん妹に甘い姉弟だった。
「じゃ、じゃあ、これ買います」
「いいの!?」
「うん……母さんからお小遣いも貰ってるしね」
「わぁい! ありがと、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「いえ、いえ」
「うひひ、まいどあり!」
エマ先生がごめんね〜みたいな顔をしていたけど、先生が悪いわけじゃない。
それに、ライラが喜んでいるから良いと思う。
そんなに高い値段ではないしね。
「それで……リリィちゃんの分ねぇ」
「さっきの、仕込み杖にしようかなぁ……」
「え、どれ!? 風船の奴?」
姉さんも意外とああいうの好きだからな。
「ち、違うわよ! 短剣が入っている奴よ」
「あぁ、最初のね」
「護身用にいいかなって!」
「うむ……それは本当に良いものじゃぞ。ちゃんと魔法補助用の機能もしっかりしているんじゃ」
他のものは、しっかりしてない事を暗に認めているような……。
「どれどれ……」
エマ先生が杖を手に取った。
「うん、確かに。魔力誘導繊維が入っているわね。リリィちゃん、持ってみて」
「はい!」
姉さんが杖を手に取って——もちろん鞘を戻した状態で——握った。
魔力の流れを確かめているようだ。
そんな姉さんから離れた位置でライラが僕に尋ねる。
「レイお兄ちゃん、まりょく……なんとか……って?」
「魔法の方向を決めるのを助けてくれるものだよ」
体内に流れる魔力の流れを延長するイメージだ。
「へぇ……」
「まぁ簡単に言うと、手が長いと、ゴミ箱にゴミを投げ入れやすいってことかな」
「わぁ! そうだね!」
「相変わらず説明が上手ね、レイルズ先生!」
僕たちの話を聞いていた、エマ先生に褒められた。
姉さんは、僕らの会話には気づかずに杖に集中していたようだ。
「うん、これにしてみる!」
「いいの?」
「うん、レイくんが選んでくれた杖だし!」
「そんなに気をつかわなくても——」
「いいの! これにする! シュバッって剣になるのもカッコいいしね!」
カッコよさはともかくとして、姉さんが身を守るためには普通の杖よりこれが良いと思う。
「お、仕込み杖の良さが分かるかい!?」
その後、店主さんが延々と語るのを聞かされて僕らは帰宅したのだった。
【あとがき】
仕込み武器っていいですよね!
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