第十三話:兄、頑張る!
今日はエマ先生との授業の日だ。
「あら〜、あなたがライラちゃんね!」
「は……はい」
まだまだ家族以外には慣れていないライラが、小さく返事をする。
もじもじとしながら、耳をぺたんとさせていた。
「やん! か、可愛いわね!?」
エマ先生が「よしよし」と頭をなでる。
「……ん〜まだ三歳なのよね? 魔法を習得するって年でもないけど、やってみる?」
「せんせ〜い! やさしくね! 私の時みたいなのはやめてね!」
リリィ姉さんの時は、割とスパルタだったからな……。
「分かってるわ! まぁ、ちょっとずつね……。属性は火かなぁ」
ライラの髪は赤が入っている。
その色から判断するに火属性への適性がありそうだ。
「ん〜、火はねぇ、最初が難しいのよね〜……火だるまにするわけにもいかないし」
「ひ、火だるま……」
その言葉に怯えたライラは、僕の後ろに隠れた。
「だ、大丈夫よ! 急ぐ必要もないし、ちょっとずつ、魔法で作った火を眺めるところからね〜」
ライラを怖がらせてしまった先生は、しゃがんでライラと同じ目線になって喋っている。
「といっても……私、火属性は使えないんだよねぇ」
エマ先生の属性は、風と地と気だ。
リリィ姉さんは風と光、あと、最近は気属性も練習している。
この中で火属性が使えるのは……
「それじゃ、僕が手伝いますよ」
「ん〜、ごめんね。レイルズくんに手伝わせちゃって」
「いえ、僕の妹ですから!」
妹の面倒を見るのは兄の責任だ。
「まぁ! いきなりお兄さんっぽくなったわね! よ〜し、よ〜し」
エマ先生の胸に吸い込まれた。
「むぐぐ……」
「わ、わたしも!」
姉さんも抱きついてきた。
こ、このパターンは前にもあったな……。
「わ……わたしも……」
ライラもその中に加わって、抱きついてきた。
「むぐぐ……」
こ、このパターンはなかったな……。
◇ ◆ ◇
「それじゃ、僕が魔法で火をおこすから、見ててね」
「うん……」
緊張した面持ちで僕を見るライラ。
姉さんと先生は少し離れたところで、別の練習をしている。
「いくよ……滅ぼす力——裁きの火」
僕は小さな火を自分の手のひらの上で作った。
「ほえぇ……」
その火を見ているライラは目を輝かせている。
耳がぴょんと立って、尻尾も揺れていた。
「レイお兄ちゃん、す、すごいね……」
「へへへ……まぁね」
全然大した魔法ではないが、妹が嬉しそうに見ているので、僕も嬉しくなる。
「じゃ、もう一度」
僕は火を消して、同じ事を何度か繰り返した。
「ほえぇ……」
火がつくたびに、ライラが感心した声を出してくれるので楽しい。
「火がつけられるだけでも、こんなのも出来るよ」
立ち上がって、両手に火がついた状態で、バッバッと手を振り回す。
「わわ……ファイアーダンスみたい!」
「これで敵を殴れば、火のダメージも与えられるってわけさ!」
シュバっと、空中にパンチを繰り出す。
「おぉ〜!!」
ライラは興味を持ってくれてくれているようだ。
「まずは、小さな火がだせるまで頑張ろう!」
「うん!」
◇ ◆ ◇
「ほ……ほろぼすちから——さばきのひぃ!」
気合いを入れて魔法詩を唱えるライラ。
「……」
火はでなかった。
「むぅぅ……」
「も、もう一回やってみよ!」
「ほ……ほろぼすちから——さばきのひぃ!」
「……」
やはり火はでない。
「ふぇぇん……」
火が出ないことにがっかりして、ライラの目は涙ぐんでいた。
「ま、まぁ……最初だし、ライラの年を考えれば普通だって!」
「わ、私、お兄ちゃんと一つしか違わないよ……」
「う……まぁ、それはそうだけど……」
僕は転生してるからなぁ……。
でも、ライラとしてはできるだけ早く僕に追いつきたいのかもしれない。
「そ、そうしたら、こうしようか! ちょっとじっとしてて」
ライラの右手を握って、その手を上に広げさせる。
「ふぇ?」
「滅ぼす力——裁きの火」
ボッと音を立ててライラの手のひらの上に火が出てきた。
「わっ! な、なんか体が……」
「ライラの体に魔力を流し込んだんだ」
「な、なんかちょっと熱い……?」
ライラの耳と尻尾の毛が逆立っていた。
緊張しているのと、新しい感覚にびっくりしているんだろう。
「それが魔力が流れている証拠さ」
「へぇぇ……」
「この火を消さないように、体に流れる魔力を止めないようにしてみて」
「う、うん……」
僕はライラから手を離した。
「あわ……」
僕の手が離れた後も、ライラの手には火が残ったままだ。
「いいぞ」
「おぉ……」
「次は、魔力を止めないようにしながら、手を動かしてみるんだ」
「うん……」
ライラはちょっとずつ上下左右に手を動かした。
「魔力の流れを止めなければ、火は消えないんだ」
「うん」
「よし……そしたら、そのまま手を握って、火を拳の上に移動させて……」
「むむむ……」
ライラは魔力を止めないよう慎重に火を移動させた。
「……パンチ!」
「えいっ!」
ブォッと音を立ててライラの拳に火がついてきた。
「ほら、できた!」
「や……やった」
「よし、そしたら、火を消してみて。体に流れる魔力を止めるんだ」
「うん」
シュウと音を立てて火が消えた。
「よし、上手だ、ライラ!」
「ううん……お兄ちゃん、ありがとう」
「いきなり火を起こすのはまだ難しいかもしれないけど、僕が手伝ってあげれば大丈夫さ」
「うん……でもなんで? なんで自分では火が出ないの?」
「う〜ん……なんでかって言うと……」
ライラにも分かりやすいように、庭にあった小さな台車を持ってきて、庭の地面が石畳になっている所に動かす。
いつも、大きな荷物を運ぶのに父さんや母さんが使っている奴だ。
ちょうどいい具合にその台車の上に土の袋が一つ乗っていた。
「この台車を押してみて」
「うん……む〜ん!」
ライラが台車の下の方を握って、力を入れて押すが動かない。
「む……無理だよ」
「うん……でも」
僕はライラの後ろからそれを押す。
ガラガラと音を立てながら台車が動き出した。
「動いた」
「そのまま押し続けて」
と言って、僕は手を離した。
「むぐぐ……」
台車はスピードを落としているが、まだ動いていた。
しばらく進んでからライラは台車を押すのをやめた。
「ほら、同じ重さの台車でも、こんな感じでスタートしてしまえば、ライラにだって動かすことは不可能じゃないんだ」
「ほぇぇ……」
「魔法も同じで、最初に魔力を流すのは結構力がいるんだ。でも、その流れを続けるのはそんなには力が要らないんだよ」
「そ、そうなんだぁ!」
「しばらく僕が手伝うからさ! それで感覚を覚えていけば、すぐに最初から火も出せるようになるって!」
「うん!」
良かった。
ライラはやる気を取り戻したようだ。
「じゃ、もう一回やってエマ先生に見せに行こう!」
「うん!」
◇ ◆ ◇
ライラが火を操っているところを先生と姉さんに見せた。
「まぁ! 凄いわね!」
「ラーちゃん、かっこいい!」
「えへ……」
少し恥ずかしそうにしているライラ。
でも、尻尾がひょこひょこしていて嬉しそうだ。
「どうやったのかしら?」
「レイお兄ちゃんに……」
「レイくんに?」
「手を握ってもらったら、魔法がうまくなったの……」
「「ええ〜〜!!」」
いやいや、違うぞライラ!
手を握ったのは、魔力を流すためで……。
「ずるい! レイくん、私の手も握って!」
リリィ姉さんが僕の手を握ろうとする。
「いや、関係ないけどね……」
まぁとりあえず姉さんの手を握ってみる。
「……私も!」
「いや、先生はもういいでしょ!? 魔法だってもう——」
先生はもう魔法使いとしては高レベルなんだけど……。
「そういう事じゃないのよ!」
どういう事なの……?
「わ、私も……!」
今度はライラ。
……まぁ、賑やかで良いよね。
【あとがき】
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