第十二話:天才男児のお絵かき!
Side: 謎の少年
「ふふふ、見た! 見ましたよ!」
僕は見ていました。
リーンホース伯爵の息子キース様たちと、僕と同い年ぐらいの少年とその姉妹が、ボール遊び——いや、戦っているところを。
僕もこう見えて、周りからは天才と言われている子どもです。
いくら獣人の運動神経が良くても、あんな女の子があんな強いボールを蹴れるわけがありません。
それにハリケーンーンが近づいていたとしても、あんな風が自然に吹くわけないじゃないですか。
しかも、あんなに都合の良いタイミングで。
見ていたところ、年上のあのお姉さんではなく、少年が魔法を使ったようです。
ふふふ、どうやら、あの少年も僕と同じく天才のようですね……。
◇ ◆ ◇
Side: レイルズ
キースとの事件の後から、ライラはだいぶこの家にも馴染んできた。
「レイお兄ちゃん……遊ぼ……」
僕に対する呼び方もちょっと変わった。
多分、リリィ姉さんの影響をうけたのだろう。
「おう……それで……何をする? またボール遊びか?」
リリィ姉さんは、最近、学校に通い始めて昼間はいないことも多かった。
といっても毎日ではなくて、週に三回ぐらいだ。
エマ先生との授業がない日に行っている。
「今日は……お絵かき!」
といって、スケッチブックとたくさんの色鉛筆を持ってきた。
「へ、へぇ……」
何を隠そう、僕は絵が苦手だった。
なんというか普通の人には理解できない絵を描いてしまうのだ。
ポジティブに言うと、前衛的と言う奴だ……。
兄である手前、かっこよいところを見せたいところであるが……
「何を描けばいいのかな?」
「……なんでも……好きな物……」
「うん……」
と、言われてもなぁ。
「……じゃあ、私、描くね」
僕の戸惑いに気づかず、ライラはさっさと絵を描き始めてしまう。
サッサッサッ!
意外と手際がいいな。
いくつかの色を使い分けながら、どんどんと絵ができあがっていく。
……どうしよう。
まともな物を書ける気がしなくて、僕の手は完全に止まっていた。
そもそも何を書こう?
と、悩んでいると——
「できた!」
「えっ、もう!?」
ライラはスケッチブックを持ち上げて、描いた絵を見ていた。
「ふふ……」
何やら絵を見ながら笑っている。
「えっ、えっ、そんなに自信があるの? 見せて!」
妹が何を書いたのかとても気になった。
「……うん、いいよ……」
顔を赤くしながら僕にスケッチブックを手渡してくれる。
そこに描いてあったのは——
「……おお」
僕だ。
あくまで子どもの絵だけど、その中では圧倒的に上手だ……と思う。
髪や顔できちんと僕だと分かる。
その画力にビビりながら、ちょっと恥ずかしくなる。
「……あ、ありがとう。な、なんで僕を?」
「私……レイお兄ちゃんのこと好きだもん……」
「そ、そうか!」
ま、兄として好かれるのは良いことだな……うん。
「次は、リリィお姉ちゃんを書くね」
「お、おう」
「お兄ちゃんは? 描かないの?」
「う、う〜ん……」
こうなってくると、僕も描く物が決まってくるな。
リリィ姉さんとライラだ。
しかし、僕の絵の腕で下手に描いてしまうのは気が引けるし、兄としての威厳が……。
こうなったら……
(更なる力——魔たる闇——描けよ、描けよ——百花斉放の心にて!)
自分の中のもう一人の自分を呼び出す。
今回は芸術に秀でた人格を呼び出した。
……何気に気属性のSレベルと闇属性のAレベルという高難易度の組み合わせの術なのだ。
(た、頼むぞ! もう一人の僕!)
『よっしゃ!』
バシュバシュバシュ!!
その人格が、スケッチブックに対してものすごい勢いで絵を描き出した。
(いいぞ!)
『筆が乗ってるぜぇ!』
鉛筆が折れてしまいそうな速さだが、間違いなく完璧な絵に近づいていっている!
(ふう……)
これで兄のプライドが守れそうだと、僕は一安心した。
あとは任せても大丈夫だろう……と、ちょっと気を抜くが——
(お、おい!)
『どおりゃ〜〜〜!』
完全に絵を描くことに入り込んでいるもう一人の僕。
(や、やめ、やめ! 解除!)
なんとか魔法を止めたが、これは……。
「レイお兄ちゃん、す、すごいね……何を描いたの……?」
「い、いや〜……あはは!」
僕はライラからスケッチブックを隠した。
「……え〜、なんで隠すの?」
「ちょ、ちょっとね〜」
「みせてよぉ……」
ライラがちょっと悲しい顔になっているが、ここは負けるワケにはいかない。
「だ、だめだよ……」
「なんでぇ……みせてぇ……」
ライラと、くんずほぐれつになりながらスケッチブックを見られないようにしていたので、
後ろに近づいている人に気がつかなかった。
「レイくん、何してるの?」
といってリリィ姉さんが僕の後ろに立っていた。
「これは……えいっ!」
スケッチブックを取り上げられる。
「うわ〜、上手……でも……これ……」
「わ、わたしも見る……」
「あははは……」
見られしまった。
「私の裸だ!」
「だははは……」
こともあろうにリリィ姉さんの裸婦像を描いていた。
多分、一緒にお風呂に入ったりしていたときのイメージが頭に残っていたのかもしれない。
最近は入ってなかったのだけど、無意識の願望とか!?
(もう一人の僕、バカヤロー!!)
「え、えっち……」
「ご、ごめん……」
「み、みたいの?」
リリィ姉さんは、ぽっと赤くなっている。
「だあ〜! 違う、違う!」
「わ、私は服着てるね」
リリィ姉さんの裸の横にはライラの姿がある。
ライラの裸は見たことないから、描けなかったんだろうな。
ほら、芸術家って自分で見たことある物しか描きたくないって言うし。
(……て、そんなことはどうでもいい!)
「……私も……脱いだ方が……?」
ライラが服のボタンに手を掛けている。
「ち〜が〜う〜!」
僕はスケッチブックをひったくって逃げたのだった。
【あとがき】
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