第十一話:妹、覚醒!
【前回までのあらすじ】
ライラが昔の知り合いの貴族に虐められた。
「レ、レイくん、どうする気?」
「へへへ……ちょっと痛い目を見させて上げようかなって思って」
「……だ、大丈夫?」
ライラは心配そうな目で僕を見ている。
「大丈夫だよ! それに、ライラもあいつらに仕返しするんだ!」
「……え、ええ!?」
戸惑っているライラ。
「へへへ……僕に任せて!」
僕はライラの両手を自分の両手で握る。
「更なる力——内より出づる……強まれ、強まれ——怪力乱神の勇力へ」
「ふあぁ!?」
ライラが、自分に流れ込んでくる魔力に驚いた。
僕は、気属性の魔法で彼女の身体能力を大幅に引き上げたのだ。
「さ、これで大丈夫! リリィ姉さんも」
「う、うん!」
姉さんと僕にも同じように身体強化の魔法をかける。
「おい! まだかよ!?」
少し離れた位置にいるキースが大きな声で呼びかけてくる。
「は〜い、今行くよ〜!」
僕はまた子どもっぽい声でキースに返事をした。
「いひひ……」
ちょっと意地が悪いかな、と思いつつも笑ってしまう。
「さ! 行こう!」
ライラの手を引っ張って、キースから十メートルぐらいの位置に移動した。
もちろん、ボールも一緒だ。
姉さんも僕らのあとをついてくる。
「じゃ、行きますよ〜!」
僕はボールをライラの足の前に置いた。
「おう」
キースは腕組みをして自信満々に構えている。
「さ、ライラ、思いっきり蹴ってみて!」
「……うん」
小さく返事をしてライラが構えた。
「……っえ〜〜い!!」
思いっきりかけ声を出して、足を振る。
ドォォォオオオオン!
ボールから出たのはうなり声のような音だった。
それはキースから外れたが——
「ぐげぇ!!」
取り巻きの一人の顔にクリーンヒットした。
そいつは、派手に後ろに吹っ飛んだ。
そのまま気絶したようだ。
「「な……」」
キースともう一人の男が絶句した。
「うわ〜! ライラすごいなぁ! あんなおっきなお兄さんをやっつけちゃうなんて!」
「すごいよ、ラーちゃん!」
「わわ……」
彼女は戸惑いつつ、顔を赤くして恥ずかしがった。
「な、なんだこりゃ……」
茫然自失状態のキースがやっと声を出せたようだ。
「さぁ、次は、お兄さんの番だよ!」
僕はキースたちを促す。
まだゲームは終わっていない。
「ち、ちくしょぉ……なんなんだこれ……」
「キース様……あれを」
隣の男がキースに向かって頷く。
「あ、ああ……」
キースも頷き——
「「……腕力強化……」」
隣の男が、身体強化魔法をキースにかけたようだ。
「あ〜、魔法だ! ずるい〜!」
難易度C程度の大した魔法じゃないけどね。
「へへへ、悪いな、坊主」
自信を取り戻したのか、にやにやと笑っているキース。
だが、僕はライラにあることを耳打ちした。
「……ライラ、ボールが来たら……」
「……うん、そんなの出来るか……な?」
「出来るさ! ライラは凄く運動神経がいいんだ。遊んでいるときの動きを見て分かるよ」
「自信をもって、ラーちゃん!」
「……うん」
僕らがこそこそと話していると、キースが苛立ちながら怒鳴る。
「あ〜! 何してんだ、行くぞ、お前ら!」
手でボールを持って、助走をつけながら思いっきり僕らに向かって投げた。
狙い先はやはりライラだ。
彼女は飛び上がり、それを受け止め
——いや、ボレーシュート!
ダイレクトにボールを蹴り返した。
「おぐぇっ!」
残っていた取り巻きの腹に命中。
そのまま膝を地面につき、前のめりに倒れた。
「ひ……! な、なんだこれ……」
キースが怯えた目でそれを見ている。
「ライラはとっても運動神経がいいんだよ!」
「こんな女の子に負けちゃうなんてかっこわるーい!」
あははと僕と姉さんで笑い合った。
「く……てめえら、一体何しやがった!?」
「なにもしてないよ〜。僕たちみたいな子どもに何かできるわけないじゃない」
「お兄さんたちが弱いだけじゃな〜い?」
「……く、男の方は黒髪黒目……ってことは女の方か……?」
キースはぶつぶつと独り言を言っている。
「ちぃ……ガキ相手にここまでしたくなかったが……仕方ねぇ、目に物見せてやる……」
手を前に広げ、魔力を練っているようだ。
「うわ〜、やめて〜!」
そう言いながら僕も魔法の準備をしていた。
「はぁ! 水勢弾!」
ダダダダッッ——
勢いよく水で出来た弾が僕らの方へ飛んでくる。
しかし、ビュゥゥゥと風が逆方向へ吹いてその勢いを完全に殺した。
(導く力——偉大なる風……)
さすがにここでは魔法詩を口に出すことはしなかった。
「うわ〜、水鉄砲だ! ありがと〜」
「わ〜い、気持ち良い!」
「……うふふ……」
ライラも笑っている。
三人で心地の良い水のシャワーを浴びた。
「な、なんだこりゃあ!」
「きっと、ちょうど強い風が吹いたんだね!」
「そういえば、ハリケーンが近づいてるんだっけ?」
「……あはは」
僕と姉さんで笑いあった。
「じゃ、お兄さんの番はそれってことだから、次は僕ね!」
そういって、地面に転がっていたボールの前に立つ。
「ま、待て!」
びゅぅうううん!
と強い風が吹いた——いや、僕が吹かせた。
「え? 風が強くて聞こえない! じゃ、いくね〜」
ドゴォォォン!
「ぐへぇぇ!」
キースの顔にボールが思いっきり当たった。
「ラッキー! 追い風だったみたいだ!」
「ハリケーンの力って凄い!」
「あはは……」
「……一体……どうなって……」
バタッとキースは倒れた。
そのまま気を失ったようだ。
「す、すごいね……レ、レイ兄さん。こんなに色々な魔法を……」
「ふふ〜ん! レイくんは天才なのです!」
「あはは……でも、ライラの動きが良かったのは本当だから」
「さっすが獣人の子ね!」
そう言って三人であははと笑い合った。
「あ! もう、おやつの時間だから急いで帰らないと!」
公園にある時計を見ると三時を過ぎていた。
「母さんに怒られるわ! 早く帰りましょう!」
「う、うん……でも……キースたちは……」
「平気、平気!」
まぁ、こいつらもプライド高そうだから、こんな子どもにやられたとか言いそうにない。
ま、言われたら言われたでそのときだ。
かわいい妹を虐められて黙ってるなんて、自分が許せないしね。
「さ〜、行くわよ!」
姉さんが元気よく走り出して、僕らもその後を追いかけた。
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