第十話:僕の妹がこんなに可愛い!
ライラはとっても内気な女の子で、いつも家の中で縮こまっていた。
やっぱり、いきなり他人の家に転がり混むなんて、三歳の女の子には大変なことなんだと思う。
彼女が来て、数日たった休日、
「ラーちゃ〜ん、遊びに行こ!」
姉さんが気遣って、外に遊びに連れ出す。
ライラの呼び方は、ラーちゃんになったらしい。
「は……はい。リリィさん……」
嫌がりはしないんだけど、なんだか他人行儀だ。
「だめだめ、『リリィお姉ちゃん』よ!」
「う……うん」
少しずつ、慣れていってもらうしかないかもしれない。
「それで、どこに遊びにいく?」
僕は姉さんに尋ねる。
「う〜ん、じゃあ、村の公園にしましょう」
僕たちが住んでいる村には公園がある。
といっても、何か大したものがあるわけじゃない。
単なる広場みたいなところで、特に使われていなければ僕たちみたいな子どもが遊んでも良いことになっていた。
「それじゃ、ボールでももっていくかなぁ」
僕は蹴ったり、投げたりして遊ぶ用のボールを家の庭から持っていくことにした。
僕やライラだと両手で持つのがちょうどいいぐらいの大きさだ。
「よ〜し、いくわよ!」
「は……はい」
姉さんがライラの手を引っ張って、ずんずんと進んで行く。
さすが、姉さん歴が長いだけあって、リーダーシップがあるというかなんというか。
「母さん、ちょっと公園に行ってくるね!」
「はいはい、気をつけてね! おやつの時間までには帰ってきてね!」
「はい!」
家の中にいた母さんに声を掛けてから、僕も二人の後を追いかけた。
「ま、まってよ〜」
意外と二人とも足が速いなぁ。
気づいたら、かなり先に進んでいた。
◇ ◆ ◇
十分ほどで公園についた。
「ラーちゃん! いくわよ!」
「うん……」
姉さんの目の前にボールが置いてある。
ライラは少し距離を置いて、立っていた。
「え〜い!」
姉さんがどか〜んと勢いよくボールを蹴り上げた。
ぴゅ〜ん!
と、とてつもない方向へ飛んでいってしまう。
広場の端っこに草むらに入ってしまう。
「ひゃ〜ん! ごめん!」
最近からだが大きくなって力がついてきたんだけど、あんまりコントロールは上手くないみたいだ。
「だ……大丈夫!」
とてとてとて……
ライラはすぐにボールの飛んでいった方向に走っていった。
ひょこひょこひょこ……
すぐにボールを両手に持って駆けてくる。
なぜだかその顔はにっこりと嬉しそうで、尻尾もひゅんひゅんと揺れていた。
「ラーちゃん、ごめんね?」
「う……ううん」
ちょっと顔を赤くして首を振るライラ。
か、かわいいな!
「じゃー、もう一回!」
ひゅ〜ん!
とまたボールが飛んでいく。
「あ〜、また、やっちゃった!」
「姉さん……しっかりしてよぉ……」
「ひ〜ん、レイくんに怒られた!」
でも、ライラはまた、とてとてと走っていき、ボールを抱えてすぐに持って帰ってきた。
また顔がにこにこしている。
「た、楽しい?」
「う……うん!」
恥ずかしそうにしながらも、うなづいている。
どうやら、ボールを追っかけるのが好きみたいだ。
分からないけど、獣人だからかな?
その後、僕と姉さんでかわりばんこにボールを蹴った。
ライラが喜ぶちょうどいい感じのところに蹴るように頑張った。
顔と尻尾から判断するに、あんまり近いと少しつまらないらしい。
でも、新しくできたかわいい妹のために、微妙なさじ加減をして上げるのは、全然苦じゃなかった。
◇ ◆ ◇
その後もしばらくボール遊びを続けた。
「えい!」
そろそろ帰らなきゃなきゃな、と思いつつ僕はボールを蹴る。
これまでと同じように、飛んでいったボールをライラが追いかけていくが、
ドンッ!
公園に入ってきた別の人間がそれを別の方向へ蹴り飛ばした。
大人ではないが、十二、三歳ぐらいの青がかった短髪の少年だった。
その周りに同い年の二人ぐらいの男がいる。
小綺麗な身なりからすると、貴族だろうか。
「なにをするんだ!」
僕とリリィ姉さんは、そいつらの方向へ駆け出した。
男とライラの間に立ち塞がる。
「あ……う……」
ライラはその男の前で泣き出しそうな声を出していた。
男がライラを見下ろしながら、口を開く。
「……よぉ、ライラじゃねぇか。こんなところで何してんだぁ?」
「……そ……の……」
「誰? あなた?」
怯えて言葉が発せなくなっているライラに代わって、姉さんが男の前に出た。
その後ろで、僕はライラの手を握ってあげる。
彼女が震えているのが手の感触からも分かった。
「あぁん? てめぇこそ誰だよ?」
「彼女は私の妹よ」
「はぁ……?」
「あんたこそ誰よ?」
「俺か? 俺はキースってんだが……」
キースはニヤリと笑いながら、ライラを馬鹿にするような声を続ける。
「……ああ、そうか。ライラのお袋、死んだんだったな! そいつんちの奴隷にでもなったか!?」
「違う! 妹だって言ってるでしょ! アホ!」
「このアマ、キース様に向かって何言ってんだ!」
キースの取り巻きの男の一人が、リリィ姉さんに手を伸ばして突っかかる。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げながら、姉さんは地面に向かって倒れた。
「こいつ……!」
僕は頭にきて、ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、僕の手を握るライラの力が強くなって、それをとめようとしていた。
「……だめ……」
「ああ、それが賢いぜ。キース様は伯爵家の息子で、この辺はその領地なんだ。逆らうと痛い目見るぜ」
「……」
偉そうな奴だと思ったらそういうことだったのか。
キースはさらにふんぞり返りながら、僕たちを見下ろす。
「俺の父さんがこいつのお袋を奴隷として雇ってやるって、親切に言ってやったんだよ。なのに、あの獣人のバカ女、断りやがって! 死んだとはせいせいするぜ」
なんて言い草だ。
貴族の息子だからって調子に乗りすぎている。
「う……」
自分の母親をけなされて、ライラは奥歯を噛みしめながら我慢していた。
「あなた! 何て事を言うの!」
立ち上がった姉さんの顔も怒りに満ちていた。
「あぁ? なんか文句あるのかよ!? このブスが!」
「きゃっ!」
そう言ってキースは姉さんの襟首をつかんだ。
ブチッ!
切れたのは僕の堪忍袋だった。
僕の妹と姉さんに向かって、こんな暴言や乱暴が許されるはずがない。
だいたい姉さんに向かってブスとはこの男、目が腐ってんのか!?
いや、頭が腐っているんだろう。
痛い目をみないと分からないようだ。
「……ねぇねぇ、キース様ぁ?」
僕はわざと子どもらしい声で、キースに話しかける。
「僕たち、ボール遊びしてたんだ。喧嘩じゃなくて、あれで遊ぼうよ」
そう言って僕は、キースが蹴り飛ばした球の方向を指さした。
「あぁ!?」
姉さんを離し、僕をにらみ付けるキースだが、
「キース様……」
取り巻きの一人に耳打ちをされる。
「へへ……いいぜ、坊主。遊んでやってもよ」
僕の提案に乗ってきてくれた。
こいつらがアホで助かるな。
「ありがと!」
僕は本心からそうお礼を言って、リリィ姉さんとライラの手を引いてボールを取りに行く。
「レ、レイくん、どうする気?」
「へへへ……ちょっと痛い目を見させて上げようかなって思って」
「……だ、大丈夫?」
ライラは心配そうな目で僕を見ている。
「大丈夫だよ! それに、ライラもあいつらに仕返しするんだ!」
「……え、ええ!?」
戸惑っているライラ。
「へへへ……僕に任せて!」
【あとがき】
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