第八話:男児、甘やかされる!
エマ先生には、父と母には魔法が使えることを黙っておいて欲しいと伝えた。
「え〜、なんで?」
と当然の質問が出たので、
「い、いつか大きくなったときにびっくりさせようと思って!」
と答えた。
「あらぁ、意外と子どもらしいところがあるのね! 可愛い!」
といって抱きしめられた。
先生の胸はとても大きいので、僕の顔はすっぽりと包まれてしまう。
「あ〜、エマ先生、ずるい!」
といってリリィ姉さんも後ろから抱きついてくる。
とても恥ずかしいし、息も苦しい……。
けど、同時になんだかとても気持ちが良かった。
……こんなのほのぼのとした事、前世では経験なかったからね。
きっとそれだけだよ!
◇ ◆ ◇
それ以降、週に二、三回、リリィ姉さんが魔法を練習する日々が続いた。
エマ先生はやっぱり色んな経験があるので、基本的な教え方は上手だった。
僕はたまに気がついたことがあれば口を挟むだけで良かった。
おかげで姉さんの魔法もぐんぐんと上達していった。
「さぁ、リリィちゃん! これに回復の魔法を使ってみて!」
風魔法で枝に大きな傷がついた木の前で、エマ先生が指示を出した。
「はい!」
リリィ姉さんがその木の前に立ち、両手を前にして開く。
「照らす力——聖なる光……癒やして、癒やして——このもの癒やして!」
ぱぁっと明るい輝きが枝を包み込み、切られた傷を治していった。
「リリィちゃん! 上手! 完璧よ!」
「えへへ!」
一緒にいて分かってきたことなんだけど、エマ先生は生徒を褒めるのが得意だ。
たぶん、もとからそういう性格なんだと思う。
ちょっと大げさなところが、この仕事に向いている気がする。
「これで、光属性の軽い薄光治癒はマスターね! 魔法難易度Cってところ。でも、光属性は持っている人が少ないから、これだけでもかなり凄いのよ! そして、光属性の高い女性は聖女とも呼ばれるようになるの」
「わぁい! レイくんもありがとうね!」
「ううん! たいしたことはしてないよ!」
少し習得に苦労していた姉さんにアドバイスをして、魔法詩の一部を、姉さん向けにアレンジしてみたのだ。
後半の句は、自分が一番イメージしやすいようにした方が良い。
平易な言葉に代えてみたら効果があった。
「さすが、レイルズ先生ね!」
「そ、それはやめて下さいって……」
何度も止めているのだが、たまにこうやって呼ばれてしまう。
「ふふふ……可愛いわね……」
エマ先生の顔が妖艶なものに変わった。
これは嫌な予感だ。
「……ご褒美……いる?」
つい、ゴクリとつばを飲み込んでしまう。
「い、いりません!」
といって、先生は胸に手を入れてブラジャーを取り外した。
「え〜、まだ暖かいわよ?」
「そういうことじゃないです!」
「わ、私も!」
といって胸に手をやる姉さん。
「姉さんはつけてないじゃん……」
「むむむ……よく知ってるわね」
そりゃ、毎日一緒だしね。
というかいつも抱きつかれてるし、お風呂だって……。
「ふふふ……じゃぁこっちにしようかしら……」
といって今度は、自分のスカートの内側に手を入れる先生。
「いや、もうそういうのは——」
「じゃ、じゃぁ〜ん!」
「「んんっ!?」」
スカートの中から出てきたのは二つのペンダントだった。
な、なんだ……パンツとかじゃないのか。
「あ、がっかりしたわね!?」
「してません!」
というか、どこに入れてたんだ……。
「そう? 残念ね……。まぁそれは良いとして、これは魔法を貯めておけるペンダントなの!」
「効果をためる?」
「そう。このペンダントの魔石が魔力を蓄える役割を果たすから、事前にここに使いたい魔法を込めておけば、自分の体内の魔力が尽きてたり、自分では使えない魔法でも使えるのよ!」
「へぇ〜」
千年の間にそんなものが開発されていたんだな。
便利そうじゃないか。
「ふふふ……レイルズくんもこれは知らなかったようね!」
「先生の年の功ですね!」
「ふふふ……人に言われると傷つくわね……およよ」
言いながらエマ先生が落ち込んだ顔をみせた。
「す、すいません、つい……」
「まぁいいわ。それで、このペンダントを二人にあげる」
「いいんですか? そんな凄そうなもの」
「確かに貴重な物だけど、いいのよ、二人とも頑張ってくれてるし、プレゼントよ!」
「「ありがとうございます!」」
僕とリリィ姉さんは深く頭を下げてペンダントを受け取った。
「そんな、いいのよ……月謝も貰ってるしね!」
「み、身も蓋もないですね……」
と、ちょうどその時——
「ただいま〜。あら、エマ先生、こんにちわ〜。こちらで、お茶でもいかがですか?」
母さんが、ちょうど買い物から帰ってきたようだ。
「あ、はい、こんにちわ! ありがとうございます! 頂きま〜す。 二人もいきましょ」
「あ、はい、すぐに行きます!」
先生は先に家の中へ入っていった。
僕は、どんな魔法を込めようかなと考えていた。
「どうしたの、レイくん?」
「う〜ん……」
姉さんのために、強力な魔法を込めて一つ渡しておいた方がいい気がする。
「よし!」
せっかくだし、魔王を溶かして倒したあの太陽術にしておこう!
あれなら、どんな相手でも困らないだろう。
「人の操り火の力――遥かに超えしは陽の力……」
魔法詩を唱えながら魔力を練って、握った魔石に込めようとするが——
ピキピキ……
「レ、レイくん!」
「うわわ!」
な、なんてことだ、魔石にヒビが入ってしまった。
「ストップ! ストップ!」
すぐに魔力を込めるのを中断した。
「どうしたの〜!?」
家の中からエマ先生が顔を出す。
「「あは……ははは。なんでもないです!」」
ヒビが入ってしまった魔石を、あわてて体の後ろに隠した。
リリィ姉さんがこっそりと僕に話しかけてくる。
「レ、レイくん……す、すごすぎ……」
「あ、あとでなおしておくね……」
多分なんとななるだろう……。
◇ ◆ ◇
——その日の夜——
二人でお風呂に入ったあと、リリィ姉さんが突然、
「レイくん、耳かきしてあげる〜!」
と言い出した。
「い、いきなり、なんで?」
今までこんなことはなかった。
いつも母さんにやってもらっていたのだ。
いや、それもどうかなと思っているのだけど、なんとなく甘えてしまっている。
「難易度Cの光魔法をマスターできた記念とお礼!」
「あ、ああ……そ、それはいいけど……」
ちょっと心配だ。
リリィ姉さんはまだ六歳……。
いや、僕が言えることじゃないんだけど。
「だ、大丈夫かな? その、鼓膜を破ったりとか……」
「だ〜いじょうぶよ! 破れても、薄光治癒で治せるわ!」
「ええ〜〜!」
確かに、それはそうかもしれないけど……。
「さぁ、やるわよ!」
「う、うん……」
何故だか姉さんが頑固なので、観念した。
「うにゅ〜」
姉さんは良く分からない声を出しながら、僕の頭をふとももに押しつけた。
お風呂上がりでちょっと熱をもった体温が僕に伝わってくる。
「むむむ〜!」
「だ、大丈夫?」
気合いが入った声で逆に心配になる。
「心配しないで! 行くわよ!」
ゴソゴソ……
と僕の耳の中に綿棒が入ってきた。
おお!
ちょうど良い感じに、耳の中を棒がタッチしてカキカキしてくれる。
まさに、かゆいところに手が届くというやつだ。
「じょ、じょうずだね」
「へへ〜ん、母さんと練習したのよ」
わざわざそんなことまで……。
「念のため、ちゃんと回復魔法が使えるようになるまで待ってたんだから」
「そ、そうなんだ」
姉さんは優しいなぁ……。
「レイくん、気持ちいい?」
「う、うん」
「えへへ……」
耳かきの気持ちよさと、姉さんのふとももの柔らかさに癒やされて眠くなってきた。
このまま寝ちゃおうかと、うとうとしていると、
「はい、反対よ」
と言って逆側の耳の番になった。
「は〜い」
と言って反対になると、僕はすぐに眠ってしまったのだった……。
◇ ◆ ◇
四歳になった。
母さん、父さん、エマ先生、リリィ姉さんの甘やかしの毎日が続いて、幸せな毎日なのだけど、少し自分のことが少し心配になってきた。
(……このままでは、完全にダメ人間になってしまうのでは!?)
そう思った僕は、両親にあるお願いをすることにした。
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