第0-0話:魔王をぶっ倒す!
【まえがき】
プロローグは暗めです。
俺の名はレイルズ。
子どもの頃から魔法が大好きだっただけの男だ。
暇さえあれば魔法の本を読み、恋愛や金などにも興味を持たず、修行と研究に熱中していた。
そのおかげで、いつのまにか世界一の魔法の使い手――大賢者と呼ばれる存在になっていた。
そして今、魔王城の最上階で勇者パーティの一員として魔王たちと向き合っている……。
神官に認められた勇者、回復魔法でそれを支える聖女、女魔法剣士、弓使い、それに俺を加えた五人だ。
ちなみに、俺はこの中では圧倒的に最年長。
他の若いメンバーからすると、おじさんと呼ばれるような年齢だ。
相対しているのは魔王ルシファーとその直轄である四魔将軍たち。
ヴァンパイア、ミノタウロス、サキュバス、そしてワーウルフ。
全員が魔族の証である角を頭から生やしており、肌の色も人とは掛け離れた禍々しさを持っていた。
ピリピリとした緊張感の中で勇者が口を開く。
「今からお前ら全員ぶち殺す! 覚悟はいいか?」
剣を構えながら、威勢よく言い放った。
「いやはや、遅かったな。待ちくたびれたぞぉ。どこで寄り道してたんだ? う~ん?」
魔王は大きな玉座に座ったままで、挑発的な笑みを作った。
「なんだとぉ……!」
勇者は苛立って剣を床にぶつける。
――実際の所、魔王城の攻略にはかなりの時間がかかった。
各階にいた幹部たちとの戦いやトラップの解除に時間を要したのだ。
まさに痛い所を指摘され、勇者は顔を赤くして怒りをあらわにしていた。
「くそが……俺さまの力を見せてやる……聖剣よ!」
勇者の呼びかけに呼応した聖剣が光る。
「おい、待て! 陣形を――」
勇者が単騎特攻の形で魔王に向かって駆けていく。
俺は止めようとしたが無駄だった。
「それが聖剣だと? ぬるいわ! ぬるい!」
魔王は座ったまま片手を上げる。
その手から魔力を帯びた巨大な球体が放たれる。
闇物質――強力な排斥効果がある。
「ちぃ!」
勇者はその球体を闇雲に斬ろうとしたが――
「ぐぁっ!」
あっさりその力に押されて吹き飛んだ。
「ははは、ざまぁないな!」
魔王の笑いに、取り巻き達が続く。
「あれが勇者? 冗談きついですなぁ!!」
「これが、人間様お得意の一発芸って奴か?」
「積極的に笑いを取りに行くスタイル……嫌いじゃないぜ……」
「勇者さま、はやすぎぃ~! そんなんじゃ私、満足できないわ~♥」
確かにやられるのが早すぎる……。
それに対して、勇者は――
「ちっくしょお! おい! 手伝えよ、てめぇら!」
自分で勝手に突っ込んでいったのに、仲間に対して酷い言い草だ。
「……」
しかしパーティーメンバーは黙ってそれに従い、戦いの構えをとった。
神託によって選ばれた勇者、その権力は絶大だ。
勇者によって役立たずの烙印が押されれば、その人間はパーティから追放され、名誉は地に落ちる。
俺もこれまでは勇者の指示に、彼の道具として可能な限り従順に行動していた。
それは名誉のためではない。
神託に従い、勇者が魔王を倒す、人々や神官共もそう望んでいたし、何より魔王を自分の手で倒したかった。
魔族は人間を家畜以下に扱う忌むべき敵なのだ。
だが――
「いや、手伝わない」
今回はそうしない。
「……何だと、おっさん?」
俺の言葉に勇者は驚きながらも睨みつけてきた。
そんな彼を無視して俺は前に進む。
「というか、わざわざお前を手伝って倒すのも面倒くさいから一人でやるわ」
「は?」
俺の言葉に勇者だけでなく他のメンバーも呆けている。
唯一、魔法剣士の女――リディスだけが状況を理解していた。
「レイルズ様……」
彼女はパーティメンバーの中で俺の次に魔法に秀でており、俺の力をある程度は理解していた。
とは言っても多少の不安が顔に滲み出ている。
「リディス、大丈夫だ。俺に任せておけ」
彼女に対して軽く微笑みを返した後、俺は魔王たちに向けて歩みを進める。
「……我に対し一人で戦おうというのか? 蛮勇も良いところだな……」
「どうかな?」
魔王の力は先程見た。その上で俺一人で十分だと確信したのだ。
両手を魔王たちに向け、魔法詩を唱える。
「人の操り火の力――遥かに超えしは陽の力……」
「なっ!」
俺の練っている魔力に魔王たちが驚くが――遅い。
既に魔王たち五人を煌煌と輝く大きな光が包み込んでいる。
「……融かせ、融かせ――澌尽灰滅の光にて!」
魔力充填量100%。万物の頂点に立つ熱量が再現された。
その熱さは地上に存在する炎の比ではない。
「ぐがぁぁぁ!」
燃えるのではない、そのまま奴らの体は赤くなってドロドロと溶け始める。
「そ……んな……」
「……失われた……はずの……太陽術」
「……人間ごときが……」
魔王たちの体はほぼ全壊していた。
「一撃ですまんな。俺はせっかちでな」
「……覚えて……いろ……いつか……必ず……」
魔王はそんな捨て台詞を吐いて息絶えた。
五人の中で最後まで生きていたのは、さすが魔族の王と言ったところか。
「さ、流石です! レイルズ様 魔王たちを一撃で……」
リディスが感心して声を上げた。
「……す、すげぇ……」
勇者は目を丸くして驚いている。
俺は彼の前で本気の力を見せたことはなかった。
今まで彼に出来るだけ成長してもらいたいと思い、力を抑えていたからだ。
希望の象徴たる勇者が偉大であることは、神官共の願いであるだけでなく、人々にとっても望ましいことだと考えていた。
「へ……へへっ! まぁ、良くやってくれたぜ、おっさん! 何はともあれ、これで魔王は死んだわけだ! 人間界に戻れば俺は英雄だぜぇ!」
だが、最後まで彼に成長は見られなかった。
単なるお調子者ならば許せるのだが……。
俺は自分の掌に、とある若い娘の姿を光魔法で映し出した。
「勇者カイルよ……貴様、この娘を知っておるな?」
「そ、そいつは……!」
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