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魔装機譚  作者: たまき親方
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第八話 機兵回収

やっと雨晒しの機兵が回収できました。

タケオに機兵の整備の段取りを任せ、エレナ殿の案内でアントニオ御老や村長殿の働く船着場へ案内してもらった。

ラーダ村の船着場は入江になっており、波の穏やかな浜には漁を終えた船が引き上げられていた。


「ここが、ウチの村の船着場よ!あそこの小屋で水揚げされた魚とかを加工してるの。」

「うむ、干物も干してあるの。美味そうじゃ。」

「船が引き上げられていますし、皆さん戻ってきている様ですね。」


小屋では水揚げされた魚が分別され、女衆が手際よく捌いていた。

そんな女衆の足元には猫たちがまとめられた魚のアラを狙っている。


「それじゃ、アタシはお母さん達の手伝いに行くから!」

「よう!ヒナタにタケオ。昨日はよく眠れたかい?」


エレナ殿と入れ違いに村長の長男のエジーニョ殿が分けられた加工用の魚を持ってきて声をかけてきた。


「うむ、お陰さまで良く眠ることができた。そなた達には感謝の念が絶えないの。」

「気にすんな!親父なら船のほうだぜ。」


エジーニョ殿が向けた視線の先に、船の整備をしている村人達の姿がありロベルト殿もその中にいた。

ロベルト殿は他の村人に比べても一回りガタイが良かった。

うむうむ、中々のモノだの。

挨拶と機兵回収の報告をしにロベルト殿の元へ向かう。


「ロベルト殿!精が出ますな‼︎」

「おお、ヒナタにタケオか。途中で機兵は見てきたか?」

「はい。それで機兵を回収する旨のご報告と作業のお手伝いに参りました。」

「私でも出来る事があれば、言っていただけると有難い。」

「そうか、回収には人手がいるだろう。加工作業が昼には終わるから昼飯食ったら村人に声をかけよう。」


有難いことに機兵の回収作業に人手を割いてくださると言う。

本当に私達は恵まれた所に飛ばされた様である。

…他の皆も、息災であれば良いが…


「ありがとうございます、ロベルトさん。でも『神層領域』に回収しますので人手はかかりませんよ。」


タケオが余計なことを言いよる…漁師達に手伝ってもらえば、重い物を持ち上げるために躍動する筋肉の姿が観られるというのに…。

ムッ…としているとタケオが半眼を向けてきた。

考えてる事が手に取るように解ると言った顔をしておるの…後で訓練でしごいてやろう。


「おぅ?その『神層領域』って魔法は機兵もしまえるのか?凄い魔法だな⁉︎」

「うむ。加護の度合いによって容量は決まっているが、我ら巫女隊の面々は機兵ぐらいであれば軽く収納できる容量を頂いておる。」

「そう言う事ですので、お昼までお手伝いさせてください。」

「そうか、お前たち2人ぐらい面倒見るのは問題ないし、気にしなくても良いんだがな。」


寛大な事をおっしゃっておられるが、甘えてなどおられん!


「いや。保護していただいた上に、生活の面倒を観ていただくなど私の沽券に関わる事!」

「そうですよ。一宿一飯の恩義を返さなかったとあらば、祖国で戦っているであろう他の方々にも顔向けできません。」

「わかったわかった。こっちは粗方片付いたからマリアの方を手伝ってやってくれ。」

「はい!」「うむ。任せておくがよい!」


私達はマリア殿がいる作業小屋に向かった。

小屋では、女衆が水揚げされた魚を捌いて干物や塩漬(先日いただいた『リャウ』と言うもの)を作っておった。

漁師の面々は網の補修など道具の整備をしている。

子供達はそんな人達の手伝いなどでちょこまかと働いている。

マリア殿はと言うと皆に提供するのであろう昼食の支度をしていた。


「マリア殿。私たちもお手伝いさせていただこう。」

「よろしくお願いします。」

「おや、旦那との話は終わったのかい?じゃあ、ヒナタは女の子だし包丁を使った事もあるだろうから、魚を捌くのを手伝っておくれ。タケオは料理の腕が良いからこっちを手伝ってくれると嬉しいね。」

「こう見えても軍人。刃物の扱いにはなれておる!任せるがよいの‼︎」

「え!マリアさん…それは…まぁ、捌くだけなら大丈夫かな…ゴクリ。」


タケオのヤツめ…私には魚も捌けないと思うておるな?

今まで魔獣を何度も捌いて来た腕前を披露してやろう!


「奥方、お邪魔する。私にも魚を捌くのを手伝わせていただけるだろうか?」

「あら、可愛らしい娘が来たよ!この娘が保護されたこだね?もう手伝いを申し出るなんて偉いねぇ。」

「それじゃあ、コッチきてこの魚を三枚におろしてもらいたいんだけど、出来るかい?」

「任せるのだ!」


お借りした包丁を一閃。

スダンッ⁉︎

宙を舞う魚の頭と2つに割れたまな板…


…うむ…


「良い切れ味の包丁だの!」


ポカンと顎を下げて周囲の奥方達がこちらを見ている…。

うぅ…視線が痛い…。


「あ〜ぁ。ヒナタ…あの…切るたびにまな板も割られると困るからさ、悪いけどこっちでエンリケ達と荷運びとかやってくれる?」


エレナ殿にやんわりと厄介払いされてしまった…。

くっ…おかしいな?魔獣はあんなにも綺麗に捌けるのに…


「ヒナタお姉ちゃん、こっち手伝ってくれるの?やったー!」


エンリケ殿は優しいの…いかんな、鼻がツーンとしてきたわ…。

エンリケ殿や子供達と荷運びや小屋周辺の草むしりに勤しんでおると、お昼が出来上がったとタケオが呼びにきた。


お昼は、漁師の方々と女衆と子供達と皆でいただいた。

料理の内容は大鍋で煮込まれたアラ汁に蒸したジャガイモ、酢漬けの野菜であった。

快晴の下、野外で大人数で食べる食事は美味しく、特にアラ汁は様々な魚の旨味が出ていて美味かった。


しかし…米と味噌が欲しくなるの。


内臓や尾っぽなどは猫と海鳥の餌となった。

荷運びや草むしりで子供達とは仲が良くなったと思う。

途中で、アントニオ御老の孫のトニーニョ殿が声をかけて来てくれたが「サボるな!」と拳骨をもらっておった。

うむ、さすが元傭兵のアントニオ御老、良い拳筋であった。


タケオが洗い物をしながら女衆に「洗い物の魔法は無いか?」などと聞いておったが、「そんな便利なものは無い。」と一蹴されてガッカリしておった。

ふむ、各職業で特化した神道術式はあるが「洗い物」のものなど記憶に無いの。

大方、機兵の洗浄が面倒だったのだろうが…まぁ、アレを一人で洗おうと思うと大変だろうか。


…ヨイチと合流できたら聞いてみてやろう。アイツは術式の組み込みが得意だったからの。


昼食を終え、洗い物や片ずけが粗方済んだのちロベルト殿とアントニオ御老を伴って機兵の回収に向かった。




浜辺で機兵を見張ってもらっていたミゲル殿と村の人たちにタケオが作ったお昼ご飯を渡し、ようやく機兵回収の運びとなった。

人足は必要ないと言ったが、漁師の皆、女衆に子供達まで機兵の周りに集まってきた。


「ごめんね、ヒナタ。村には娯楽も無いから、皆んな珍しいものが見たいのさ。」

「おい、タケオ。本当に人手はいらねぇのか?どう見たって1人でどうこうできそうにないんだが…。」


ロベルト夫妻が心配して声をかけてくれるが、問題ない。


「まぁ、見てていただこう。タケオ!回収を始めよ‼︎」

「はっ!」


『三種の神器』を携帯する為の腰帯を巻いたタケオが洞人(ドワーフ)型機兵『一筒(マヒトツ)』の前に立ち、姿勢を楽にする。


「ゴクリ…」


村人が緊張と期待の篭った視線をタケオに送っておる。


パン パン


『小刀』に触れてから柏手を打ち、集中。

神通力を『小刀』に流し術式を選択。


タン タン


地面を二回踏み鳴らし、地面に『陣』を展開。


「「「おおぉ…⁉︎」」」


機兵を飲み込む大きさに展開された術式の『陣』をみて村人達が驚きの声を上げる。


『小刀』の補助により術式の『陣』が展開済みなので、簡略化した『祝詞』を奏上する。


「開門!」


『陣』の紋様に門が開く様な変化が現れる。

これは『神層領域』への大型の物を収納する術式である。


「収納!」


『陣』の紋様の中へ沈み込む様に機兵が収納されていく。


「これは…周囲の砂ごと収納されるのですか?」


隣に立っていたミゲル殿が質問してきたの。


「いや。術者の才覚にもよるが、基本的に機兵に触れている部分のみ収納されるはずである。また生き物は収納出来ないため搭乗したままの収納・運搬はできぬな。」

「なるほど。生き物が収納できないのは『マジックバック』も一緒だね。」


生きたまま収納出来る術式が開発されたら戦争の形も変わるであろうし、限定的な不老長寿も可能となるであろうの…収納されている間は何も出来んだろうが…。

水底から時を経て帰ってきた漁師の話は『黄泉(あの世)』から帰還したとの説があるが、もしかしたら生き物も収納できる神の術式だったのかもしれぬの。


「すげぇ…機兵が無くなったぞ⁉︎」

「うわぁ…」

パチパチパチ


術式について考察していたら、収納が終わった様だ。

村人達は喜んでくれている様で拍手もおこっているの。


「む?丁度良い。ミゲル殿、機兵のあった場所を見てみよ。」

「ん?何かな…あぁ!蟹がいるね。そうか、機兵の中に紛れたか下に潜んでいた蟹が魔法陣の中に収納されていないんだね⁉︎」

「さよう。『式部』によれば収納の際に砂つぶより小さい粒となって収納され顕現する時に再構築されると言っておったの。故に搭乗している人や生き物は取り残されてしまうのだそうな。」


『陣』がかき消え、機兵『一筒』の回収を完了させたタケオは波打ち際に向かい強制解放で吹き飛んだ装甲の前に立つ。

先程と同じ手順で『陣』を形成し始めるが今度は足を踏み鳴らさず、手を装甲の虚空に向かってかざす。


「開門!」


すると、装甲の上に先程より小さな術式の『陣』が展開し手の動きに合わせて下がっていき装甲を回収し始める。


「収納!」


下がってくる『陣』に触れた所から収納されていき、最後は『陣』に引きずり上げられる様に残りが収納された。


「ふぅ!終わりました‼︎」


「すごいわね!」

「こんな魔法は初めて見た‼︎」

「タケオお兄ちゃんすごーい‼︎」


パチパチパチパチ


「や!どもども、拍手喝采ありがとうございます‼︎」


タケオめ…調子に乗っておるの。

手順を踏まねば回収できぬなど修行不足であると言うに。


私はおもむろに『鬼首丸』の元へ向かい一言。


「回収。」


すると、『陣』が展開し先程タケオが回収した時よりも早い速度で回収が始まる。

『鬼首丸』の回収が行われている間に、飛ばされた装甲の前に立ち…。


「回収。」


同じ様に『陣』を展開して回収する。


「さて。回収も終えたし、一度村にもどうろうかの。ん?どうした?皆の衆。」


やけに静かになったかと思えば皆、驚きの表情で固まっておった。

そして…


「「「うおぉぉぉ⁉︎」」」

「何だ!今のは⁉︎」

「あの娘すごくない?」

「何なに?どうやったの今の⁉︎」

「…カッコイイ…」


タケオよりも手際が良かったのが受けたのか、村人達に囲まれてしまった。

タケオは「うわぁ…」と言う表情をしておったの。


のんびりやっていきます。

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