第四話 神討遠征軍
よろしくお願いします。
第四話 神討遠征軍
母国、ヤマトノ国の西側へ『禍ツ物』討伐のため従軍した時に商人街で聴いた『浪曲』にハマり、滞在期間中や神都に戻ってからも軍部の有志による『浪曲会』に参加して修練したものの訓練や遠征軍の準備やらで演ずる機会がなく、『神討遠征軍』の説明をしろとかいつ演るの?今でしょう‼︎
と、言うことでようやく人様の前でお披露目できる機会を得られたからには張り切って…
何ですか?ヒナタ様。はい。すいません。話を進めます。
濡れ羽色の艶やかな髪を戦闘に従事するため、勿体無くも肩口で切り揃え。
齢16歳の割には華奢で小柄な体躯の美しい少女、ヒナタ様。
こう見えて巫女隊三番隊の隊長を務められるほどの武力の持ち主であります。
…ここまで褒めておけば大丈夫でしょうか…
絶賛氷の眼差しで見下されておられます。僕にその嗜好はございません。
あ、顎をしゃくって話を進めろと言外に命じられました。
手が出る前に話を進めさせていただきしょう。
「空間魔法ですか?僕たちが修めているのは『神道術』と言いまして、お祀りしております神様のお力を貸していただく術でございます。」
「神様の力を借りる…やはり神官や僧侶の様な力なのでしょうか、しかし『聖法』には空間に干渉する魔法は無かったような。『空間魔法』は『魔女』達の『魔法』で作った魔道具などがありますが…」
森人で長年旅をしてこられた薬師のミゲルさんが僕たちの使う『神道術』について考察されております。
土地柄でしょうか、我がヤマトノ国では黒髪・黒眼が大半でしたがミゲルさんは綺麗な金髪と深い緑の瞳をしておられます。
「ふむ、その『魔法』や『聖法』とは系統がちがう様じゃの。タケオが虚空より物を取り出したのは『神々の寵愛』の加護を受けた者のみに与えられる恩恵で無限では無いが『神層領域』に物を仕舞うことができるのじゃ。神様のお気に入りと言う事だの。」
「なるほど、系統は違うもの解釈としてはやはり『マジックバック』や『アイテムボックス』などの空間干渉系の魔法に近いものと言う事ですね。」
「『マジックバック』なんぞワシら庶民には手が出せないほど高価なものじゃが、特別な加護を受ければ使えるとは世の中には色々な魔法があるもんじゃのぅ。」
「ともあれ、その『禍ツ神』ってのを退治しに行ったお前達がどうしてここら辺に流れ着いたんだ?」
話について行けていない村長が強引に納得して軌道を修正してくださいました。
村長もアントニオ老も漁師というだけあって逞しく日焼けしておられます。
鍛治師という職業柄、自分もそこそこ筋肉が付いていると思うのですが…育ての親で洞人の親方や村長さんたちと比べるとまだまだの様です。
「はい、先ほどヒナタ様が仰られた通り僕たちは『神討遠征軍』の『巫女隊』所属の『三番隊』におりました…
ヒナタ様が三番隊隊長、僕が従軍鍛治師ですね。
隊員は5名で従軍鍛治師は僕1人でした、隊員の説明は割愛させていただきますね。
『禍ツ神』の拠点と断定された東海の島『禍ツ島』へ上陸した『神討軍』は押し寄せる『禍ツ物』を退治しつつ被害を出しながらも島を攻略して行き最奥におりました『禍ツ神』への元へとたどり着きました。
強者の『禍ツ物』は『穢れ』を纏い、通常の攻撃があまり効きません。
もちろん『禍ツ神』は近寄り難いほどの『穢れ』を纏っておりました。
そこで、『巫女隊』による穢れの『祓い』や『加護』を持った『魔装機兵』による特殊な攻撃により『禍ツ神』への攻撃がなんとか可能となりました。
長い攻防を経て少しずずではありますが、状況が我々の攻勢となり…
遂に!
ヒナタ様の駆る『鬼首丸』が持つ神刀『ハバキリ』が一閃‼︎
ガッ ズバババババーーーン‼︎
見事『禍ツ神』の片腕を両断し重傷を負わしたところでっ⁉︎」
「これ!タケオよ、浪曲寄りになっておるぞ?」
「…失礼しました。」
「お、おぉ。」「かまわんよ。」「続きを聞かせてください。」
みなさん優しいですね…巫女隊の方々だとこうは行きません。
「コホン。巫女隊の皆様とヒナタ様の活躍により『禍ツ神』に重傷を負わせ、全巫女隊による一斉攻撃でとどめを刺そうかと言うところでしたが『禍ツ神』は異界への『門』を開き集結しつつあった各巫女隊の面々を呑み込みました。」
「異界への門?」
「はい。僕たちが使っている『神道術』の『神層領域』の様なものだと思うのですが…そもそも『禍ツ神』に『神』と付くのは『荒神』に悪意が宿った『悪神』もしくは『邪神』の類かと考えられておりますので。」
「生きている君たちが飛ばされたと言う事は『転移魔法』かな?『空間魔法』では生き物を入れる事ができないと言うのが通説だし。」
「じゃが『転移魔法』とて規模の大きな遺跡の罠であるとか王族など一部の者だけが使用できる、滅多にお目にかかれないものじゃ。」
そうなんですよね、『転移術』はヤマトノ国でも存在は知ってはいますが大掛かりな祭場と儀式が必要となり『禍ツ神』の様に即時展開などできないものだと思ってました。
悪神でも神は神と言うことでしょう。
「『門』に呑み込まれ、激しい奔流に晒された後に気がつけば嵐の中、遠くに陸地が見える海の真ん中へと落とされておりました。」
「なんと!岸の近くではなく沖合いに落とされたじゃと?よく溺れずに騎兵で上がって来れたもんじゃ。」
「機兵など海に落ちたら浸水してきてどうにもならんだろう?」
「うむ!それについては一般の機兵には施されておらぬが、我々巫女隊や上位機兵は水中で活動できる様設計されておる。さらに遠征に際し海を渡る事が前提だったため従軍機兵の一部にも同様の処置が施されておるため短い時間ではあるが水中での活動も可能なのじゃ。おかげで私の命も助かったのじゃ。」
「水中で活動できる機兵なんて初めて聞いたぞ!そんな機兵があるなら漁でも使えるかもな!」
「馬鹿を言うな村長、飢えはしておらんが機兵の維持ができるほど裕福でもなかろう。」
「冗談だよアントニオ。本気な訳ないだろう?ハハハ…」
視線を逸らして取り繕ってはおりますが、お気持ちは解りますよ村長。
機兵は男児の憧れですものね!国は違えど男の子の考える事は一緒です。
「海中へと没しましたが陸地が遠方に見えておりましたので、動かぬヒナタ様の機兵『鬼首丸』を担ぎ歩いて岸を目指しました。」
「そして昨日の嵐の中、上陸を果たしたと言うことか。」
「アントニオ様のおかげで本当に助かりました。」
「人では無く機兵だとわかった時はびっくりしたわい。その『鬼首丸』とやらは魔物かとも思ったわ。」
アントニオ老のお気持ちも解ります。
怖いですもんね、あの機兵は…曰くもありますし…。
「僕とヒナタ様は消耗した刀の交換で近くにいたため一緒に飛ばされたのだと思います。呑み込まれる際にヒナタ様に庇っていただけたので僕は怪我がありませんでしたが…」
「うむ、不覚にも流される際に強く頭を打ちつけてしまい、意識を失ってしまったようじゃ。」
「その節はご迷惑をおかけいたしました。ヒナタ様。」
「よい。お主も『鬼首丸』を担いでよく辿り着いてくれた。礼を言う。」
2人して頭を下げあっていると、マリアさんが部屋に入ってきました。
扉の向こうからは鼻孔をくすぐる良い香りがしてきてます。
「どうだい?2人の事情は聞けたかいアンタ。」
「ああ、2人とも大変な経緯で流れ着いたようだ。」
「驚きの連続でしたね。」
「アタシにも後で聞かせておくれ。もう夕食の時間だから、2人とも起きれる様なら食堂においで。アントニオさんもミゲルさんもウチで食べていきなさいな。」
「うむ、ごちそうになろう。」「ありがたく、いただいていきます。」
気がつくと外は綺麗な夕焼けが広がっておりました。
…夕食、楽しみです。
書ける時に書くスタイル。