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魔装機譚  作者: たまき親方
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第二話 保護

週一で投稿継続できればいいな…

第二話 保護


激しさを増す嵐の中、胸部からの蒸気も収まり沈黙する髑髏の兵士から少女も担ぎ出した所に、トニーニョが呼んできた村人たちが合流した。

村人たちの手を借り、急いで二人を村長宅に運び込んだ。


「村長!ロベルト‼︎すまんがミゲル薬師を呼んでくれ、怪我をした子供がおる!」

「子供だと⁉︎どこの家の子だ?薬師のミゲルさんはもう呼んであるから、とりあえず客間へ運んでくれ!」

「ちょっと!身体が冷えきっちまってるよ‼︎ エレナ!濡れた服を脱がして水気を拭いたら毛布をかけて寝かしておきな‼︎ エジーニョ!倉庫からありったけの毛布を持ってきな‼︎」


慌ただしく担ぎ込まれた少年少女は雨に濡れた為か体温が低く、顔色も青かったため村長の妻のマリアが急ぎお湯を沸かしに行った。


「わかった!…あれ…でもこんな服見たこと無いよ…どうやって脱がすの?」

「緊急事態だ!部屋に運ぶからお前は女の子方の服を無理にでも脱がせろ、多少破れても構わん‼︎」

「エンリケ!タオル持ってきて‼︎」

「う…うん!」


村長の家族が手分けして介抱の準備をする中、アントニオが村長のロベルトに状況の説明をしていた。


「黒髪の子供か…珍しいな…」

「うむ。…顔立ちも見かけない所をみると、この近辺の子じゃ無いのぅ…どう説明したものか、あの子らは海から機兵に乗って上がって来たのじゃ…」

「海から?…とりあえず、ミゲルさんの治療を待とう。マリー、それが終わったら女衆で炊出しとミゲルさんを手伝ってくれ。それと手拭いを皆に。」

「あいよ!みんな聞いたね?手ぬぐいは奥の部屋に出してあるから配っておくれ。」


テキパキと号令を出すのは漁のかたわらに村長としての仕事もこなし、日に焼けた逞しい身体に短めの白髪が入り始めた茶髪の中年のロベルト。


快活な返事と共に女衆に指示をだすのは、恰幅の良い体型と漁師達に負けない腕っぷしで有名な村長夫人のマリア。


二人の号令で集まった村人が一斉に動き出した。

この団結力はこの村の良いところの1つじゃ。


「皆、ご苦労だった。シチューを作らせているから食堂で食って温まってくれ。アントニオはすまないが後で詳しい話を聞かせてくれ。」

「ひゃ〜助かるわぁ…」「ありがとうございます村長。」


救助に駆けつけた男衆はお礼を口にしてそれぞれ食堂へ向かった。


「うむ、トニーはシチューを食べたら先に帰ってろ。」

「えー!俺も気になるから残って…」ゴッ「痛い!」


我儘を言う孫にはゲンコツをくれてやろう。

ゲンコツをもらったトニーは渋々といった様子で食堂へ向かった。


「子供は邪魔だから早く帰れ!」

「ちぇー…」


嵐で濡れた水気を拭い、一息ついたワシは村長とともに客間の様子を見にいく。

客間には村長夫人のマリアと薬師のミゲルが少年と少女を診ていた。

二人は複数のベッドと簡単な棚、机に丸椅子のある部屋で傷の処置をされて

寝かされていた。


「ミゲルさん、どうだい二人の案配は?」

「女の子の方は頭を強く打ち付けているようでハッキリと診断はできないが、命に別状は無いと思うね。男の子の方は大した怪我も無くて安心だ。二人とも少し衰弱しているようだが安静にしていれば問題無いだろう。」


簡潔に診察結果を報告した薬師のミゲルは金髪の長髪で細面、漁村には珍しく日焼けもしておらず容姿は淡麗。

その耳は細く長く「エルフ」と呼ばれる深い森の中を拠点とする長命の種族であった。


「それにしても、二人ともここいらでは見かけない風貌だな。」

「そうだね、私も長いこと生きて旅もしているが黒髪に黒い瞳、肌の色が白とも褐色とも言えない半端な人族は見たことが無いよ。」

「ミゲルさんも見たことが無いとは、よほど遠方から来たのかのぅ…」

「着ていた服も見たことも無いものだったわ。今はとりあえず子供達のおさがり着せてるけど…」


少年の方は黒髪のザンバラに切られた短髪、意思の強そうな太めの眉に顔は日に焼けている。

少女の方は艶やかな黒髪を肩口で切り揃えてあり、整った顔立ちで今は頭に包帯が巻かれている。

二人が着ていた服は上等な生地だが、この国では見たことも無い作りのものであった。

ワシは村長達に二人を救助した経緯を説明した。


「海から機兵に乗って歩いて来た?」

「うむ。少女の方は担がれておったから船が難破したのかもしれん。」

「こんな子供を機兵に乗せるなんて…戦争で大変な国なのかしら…」

「沖合に大型船も通る航路があるが、この子達の様な格好は見たことも聞いたことも無いな。」

「機兵も王国の騎士団や傭兵のものと違う意匠が施されておったわい。」

「私もこの子達の持ち物を見てみたけど、よくわからなかったね。」


テーブルの上に置かれた子供達の身につけていた物、少女の方は「金属製の鏡」「小刀」「石を加工した首飾り」、少年の方は「文字の刺繍が施された布地の小袋」だった。

小袋と鏡には文字が書かれていたが村長達やエルフのミゲルにもわからないものであった。


「とりあえず目を覚まして話を聞くまでは何もわからないか…」

「容態も安定しているようだが、念のため私も一晩村長宅で過ごさせてもらえるかな。」

「ミゲルさんには面倒をかけるな。」

「それでは、ワシは船の様子を見てから休むとするよ。」

「アントニオもご苦労さん。」


翌日、昨日の嵐が嘘の様な快晴となりワシとトニーニョは船の点検も兼ねて漁をこなしに行った。

一仕事を終えて昼過ぎに村長宅へ向かうと丁度二人の意識が戻ったところであった。


「じゃまするぞ、村長。子供達の様子はどうじゃ?」

「ようアントニオ。先ほど目が覚めたところだ。今から話を聞こう。」


客間へ行くとベッドから上半身を起こした二人がいた。

黒髪の少年は意思が強そうな太い眉に赤が混じった黒い瞳、日焼けして割としっかりとした身体つきをしている。

少女の方は艶やかな黒髪を肩口で切り揃えてあり、大きな黒い瞳は角度によって紫に輝いて見える。

身体は華奢で儚げな印象を受けた。

どうやら少女も怪我の影響も無く意識もハッキリとしている様で安心した。


「やあ、村長にアントニオ。二人とも特に問題は無い様だよ。」

「そりゃ、一安心だのぅ。」

「この度は、私と従者を保護していただき感謝する。」

「有難うございます。」


少年少女はベッドの上で正座をし、深々と頭を下げてお礼をのべた。

少女とは思えない硬い言い回しに村長達は驚いた。

さっそく事情を聞こうとミゲルが声をかける。


「どうかな?身体の調子は問題なさそうだけど、ここに辿り着いた時の事は覚えているかい?」


記憶を辿っているのか少し思案した少女と少年は視線を交わし、少女が語り始めた。


「私達はここ…」キュウゥゥ〜〜〜…

「「「………」」」


少女のお腹が盛大に鳴った。


「あっははは!腹が鳴くのは元気になった証拠だね!昼の残りのスープがあるから食べてからにすりゃいいさ。」

「忝ない。」


頬を赤らめながら少女は再び頭を下げた。

少年は興味深かそうにあたりを見回している。


豪快に笑いながらマリアは厨房へ食事を取りに向かった。


「お前達、名前は?俺はロベルト、この村の村長をしている。」

「わしは漁師のアントニオじゃ。」

「彼がお前達を見つけてくれだんだ。」

「アントニオ殿は命の恩人であるな、感謝いたします。」

「たまたまじゃ。当然の事でもあるし気にすることはない。」

「わたしはミゲル、薬師を生業としている。君たちの容態を見させてもらった。」

「⁉︎」「!…森人ですか?」


少女は目を見開き、少年が驚きの声を上げた。


「森人と言うのは知らないが、見ての通りエルフだよ。」


どうやらエルフの存在は知っているみたいだが、種族名の呼称が違っておる様で文化の違いが見てとれた。


「ところで、お前達の名前は?呼び名が無いと不便だろう。」

「これは失礼した。私、姓は「アベ」名は「ヒナタ」と申す。」

「僕は「タケオ」と申します。」


名を聞いたワシ達は困惑した表情を浮かべた。


「やはり、聞いたことが無い名前だな…」

「うむ、遠い異国の出の者達だろうのぅ。」


それぞれの紹介を終えた頃、部屋に魚介の香りが香るスープと硬パンを持って

マリアが入ってきた。


「さ、込み入った話しは後あと!とりあえずお腹を満たしちゃいな!」

「こいつは妻のマリアだ。君たちの服を着替えさせて持ち物はそこのテーブルの上に置いてある。」

「お気遣い。痛み入ります。マリア殿」


ベッドに座らせたまま、トレイにスープの器と硬パンを乗せスプーンを手渡した。


「わぁ!美味しそうですね!」


少年は目を輝かせ。


「この杓ですくって食べるのかの。」


少女はスプーンを繁々と眺めた。


「スプーンを知らないのかい?やっぱり遠い異国の子達なんだねぇ…」


マリアは眉尻を下げ二人が食べる姿を心配そうに眺めた。

残り物と言うだけあって、具は申し訳程度だったが魚から出た脂がきらめく薄い黄金色のスープは海の香りとハーブの香りが混じり合い二人の食欲を刺激した。

長期保存を目的として作られたであろう硬いパンをどうやって食べようか思案している様子を見かねてミゲルが声をかける。


「空っぽの胃が受け付けないかもしれないから、硬パンはスープに浸してから食べると良いよ。」

「硬パン…本当に硬いのう…じゃが、この汁に浸すとよく吸って柔らかくなり美味じゃ。麦の香りが良いのう。使われている香草の風味も良い塩梅じゃ…」

「本当、美味しいですねぇ…おそらく魚のアラで出汁をとったのでしょう。硬パンとやらは長期の保存を目的として作られている様ですね、そのままだと顎が疲れます。」


魚介の出汁とハーブの効いたスープは二人の味覚に合ったようだ。

臆面もなくスープにパンを浸して食べるヒナタと一口ごとに食事の作り方を思案しながら食べるタケオ。

この子達の見た目とのギャップに驚いているが、美味しそうに食べる姿を見ていると頬が緩んだ。


「お!わかるかい?嬉しいね、新鮮な魚が食える漁村でないとこのスープは出来ないのさ!」

「僕の育った所は山間部だったので、海の幸の料理はご馳走です。」

「お前達の国は山間にあるのか?」

「いえ、我が国は四方を海に囲まれた島国ですが、僕の故郷は山の中にありまして…」

「む、無くなってしもうた…すまんが、おかわりは無いかの?」

「早!ヒナタ様…少しは遠慮してください。」

「あははは!いいよいいよ。美味しそうに食べてくれたらあたしも嬉しいし、新しく見繕ってくるさ。あんたも食べるだろう?」

「ご迷惑をおかけします。頂きます。」


ガチャ

ドタタタタ…


「いってぇ…押すなって言ったろう?」

「あんたの頭が邪魔で良く見えなかったんじゃない!」

「ヤベェ…マリアおばちゃんにバレた⁉︎」

「………(汗)」


マリアがおかわりを持ってこようと扉を開けると、複数の子供が倒れこんできた。

どうやら盗み聞きしていたらしい。


「こら!あんた達‼︎覗きとは良い度胸をしてるじゃないか!言いつけてた手伝いは済ませんたんだろうね?」

「逃げろ‼︎」

「お待ち‼︎」


マリアが拳をあげると蜘蛛の子を散らす様に子供達は逃げ出した。

子供達を追ってマリアも部屋から出て行くと、少年は眩しそうに眺め少女が肩を震わせて笑っていた。


「まったく…あの子達は逃げ足だけは一丁前だな。」

「ふふ、どこの国の子供も同じじゃの。子供は元気が一番じゃ。」

「可愛いものですよねぇ。中には僕たちと同じぐらいの子もいましたが。」

「何を言っておる。お前達も子供じゃろう…今年でいくつになる?」


二人の大人ぶった発言に疑問をもったワシは年齢を聞いてみた。


「ん?私は16歳、タケオは15歳じゃ。二人ともすでに元服しておる立派な大人じゃ。」

「成人式も執り行っていただきましたね。こう見えても軍人なんですよ。」

「え?」

「え?」

「ん?」


その発言を聞いたワシらは唖然とした。

どう見ても孫のトニーニョより小さいと思っておったが…なんと成人じゃった。

しかも「軍人」だと?








やっと主人公のターン。

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