5-08 クレオル嬢は・・・
5-08 クレオル嬢は・・・
「「「「「どうぞお気を付けてー」」」」」
「旅の御無事をお祈りいたします」
「ありがとう」
俺は、俺たちは盛大な見送を受けてセッタの町を後にした。
貴族とは言え冒険者稼業などもやっているのでこうして旅立つのはよくあることなのだが、ここまで気を使った見送りをされたのは初めてだった。
「えっと、すごかったですね」
「ああ、少しでも心証を良くしたいんだろうけどな…」
だが冷静に考えてみればここはたまたま事件が起こった街というだけで別にギルドの連中に何か非があるわけではない。
しかも起こったことに対する仕事はちゃんとやっているのだから文句のあろうはずもない。
だから恐れることもないはずなのだが…
《やはり当事者であるマスターの心証を悪くするとどんな風に事態が転ぶのか不安なんでありましょうな》
だろうね。そう言う人間もいるということだ。
「だがおかげで思ったより良い状態での旅立ちとなったからいいでしょ」
「はい」
クレオル嬢はそう言って自分の胸にかかったギルドの認識票を握りしめた。
これは正式な会員のもので、成人していないともらえない認識票だ。すこし丸みのある細長いアカガネ色の金属の板に細かい文字が刻まれていて、これが彼女の身分と所属を現している。
冒険者ギルドが気を使って全力で作ってくれたもので、レベルⅠを現すものだが、やはりうれしいのだろう、クレオは時々触ってはにやけていたりする。
ちなみに冒険者のランクは。
レベルⅠ・見習い
レベルⅡ・半人前
レベルⅢ・一人前
レベルⅣ・中堅
レベルⅤ・ベテラン
レベルⅥ・一流
レベルⅦ・大きな功績を上げた。
レベルⅧ・伝説の冒険者。
という感じになっている。
誰でも最初はレベルⅠ。そして俺はレベルⅡだったりする。まああまり冒険者として活躍はしてないからね。忙しいし、いいわけじゃないよ。
ちなみにクレオ というのは彼女の愛称だ。クレオルではちょっと硬い感じがするので提案したらそれでいいということだったのでそう呼ぶことにした。
少しは打ち解けてくれたのか、喋り方も少し砕けた感じになっているように思える。
俺もかしこまった喋り方というのはもちろん練習してきているので〝できる〟のだが好きではない。気楽が一番とは思うのだ。
「これからどうしますか? 今日は野営ですよね」
「そうだね、出発が遅くなったから次の宿場までは無理だろうね」
まあ一人なら楽勝だが今はフローディア商会の使っていた馬車を使って旅をしている。
獣牽車を牽くのは背高牛で、こいつはパワーはあるがスピードは出ないタイプの家畜だ。
次の宿場に着く前に日が暮れるだろう。
この世界では旅に野宿はつきもので、野宿の危険性はどこも大して変わらない。実力があれば安全だし、無ければ危険なのだ。
「そうだ、せっかくだから今日はクレオの実力のほどを見せてもらおうかな?」
「はい任せてください」
現在彼女は俺のサポーターとして旅に同行している。という形になっている。
俺がギルドに指名依頼を出して彼女が受けたという形の正式な依頼である。
雑用一般ということで雇っているのだ。雇用期間は迷宮都市アウシールに着くまで。その間の衣食住は雇い主持ち。つまり俺が出すわけだな。
これなら彼女が困ることはない。
方便ではあるのだが仕事をしてもらう以上その実力のほどは知っておきたい。
そう思ったのが失敗だった。
◆・◆・◆
「うふふっ」
と彼女が笑う。
うーん、なんでこうなった?
魔導器というのは魔法を実行するためのユニットで、魔法を生業とする者ならだれでも持っている。大概は『杖』の形のもので、人間と魔力との間を取り持つ触媒の役目を担っている。
これを持って呪文を唱えることで魔法は実行されるわけだが、この魔導器を『コンパイラ』という。
実は魔導器にはもう一つ種類があって、あらかじめ魔法を記録しておいて起動キーを入力するだけでその魔法を実行する『キャスター』がある。
現代ではこの二つは別のもので、キャスターなどはあまり種類はないのだが、大昔の遺跡からはものすごいものが見つかったりする。
俺の左腕にくっついている魔導器もその大昔の『宝具』で、ものすごい高性能のユニットだと現在では理解している。
俺を人体実験に使い捨てたあの魔法使いが何を考えていたのか本当のところは分からないが、知っていてこれほど高度な魔導器を捨てるとは考えづらいので、多分くっ付いていたぼろぼろの義手部分に騙されてガラクタだと思ったのだろう。
ここで記憶を取り戻して早五年。普通に使っているだけでもいろいろなことは分かる。そして便利に使うためには多少の調査は必要なわけで、今の俺はこの自分の魔導器の性能をある程度は把握している。
結果この魔導器の元の所有者が『錬金術師』であったことが分かっている。
記録というか手記が残されていたのだ。
名前は『ユーディット・ファル・エルラース』といったらしい。
稀代の錬金術師にして魔法貴族。と自称していた。かなり危ない人だと俺は思う。
なぜなら彼は『その方が便利だから』という理由で自分の左腕を切り落とし、魔導器とそれによって機能する義手を取り付けた人だからだ。
ふつうやるか? 仕事のために自分の腕を切り落とすとか?
たまにいるんだよこの手のキ○ガイが。
まあ、おかげで左腕が無くても不自由なく暮らしていけるので彼を非難するようなことはしないけどね。
俺の左腕は今、鎧をつけた普通の腕にみえるほど精巧なものになっている。
素材は変形自在な流体金属で、形状の形成にはモース君の協力を得たが、動かすこと自体は『アニメーション』というアプリで精密に制御されている。
だから普通の人は俺は左腕に金属鎧を装備した人にみえるはずだ。
だがクレオは俺がガトリング砲を使うのを見ているから当然これが普通でないことも知っていた。それでも高価な魔法道具である。という説明で納得してしまうのが普通の人だ。
それでも興が乗ったので、ものづくりに向いた魔導器だよという話をして、どんなことができるんですか? みたいな話になって、そしてこんなものといって一本の剣を取り出した。
うーむ…
ではこの魔導器の性能についてちょっと解説しよう。
この魔導器にはいくつもの機能が内包されている。スマホのようにいくつかの機能といくつかのアプリケーションが入っているのだ。
【アルケミック・マギ・イク】基本の魔法が保存されているアプリケーション。魔法は錬成のための一揃えで錬金錬成に使う魔法がそろっている。
【コンパイラ】外部から入力された魔法情報を変換実行するアプリケ―ション。魔力に情報を打ち込む補助システム。ストレージの情報を読み込んで起動させることもできる。つまりキャスターでもあるわけだ。
【読み込み】魔導書に記録された魔法圧縮情報を読み込む機能。ダウンロードでありインストールでもある。
【ストレージ】魔法情報を記録しておく記憶領域。他に手記などもここに記録できるようだ。手記は研究メモみたいなものだった。
【ゲート】異空間収納機能。もともとは錬金の素材をしまっておくためにつけたものと思われる。かなり便利。
【アニメーション】機械類を自在に操るアプリ。義手を動かすために使用された制御魔法そのもの。動かせるのは関節のある『動く形』をしたもののみ。
残念。岩でゴーレムなどは作れない。
【生命維持】緊急時所有者を守るために動く非常用ユニット。
この内【アルケミック・マギ・イク】というのが曲者だった。こんなのがあれば試しに何か作ってみたくなるだろう?
そして『錬金術に関する賢者の技』という名前は伊達ではなかった。
さて大昔の魔法文明期、この世界にはいろいろなものがあった。
その中に魔法で生成された物質というものが沢山あった。
ユーディト氏も当時の錬金術師なのでそう言うものを作っていたらしく、研究資料が残っていたわけだ。それによると回復薬『エリクサー』であるとか、美容薬『アムリタ』であるとか、素材『ヒヒイロカネ』とか資料があった。
そうヒヒイロカネ、赤い色をした物質で金属なのか結晶なのかわからない。
この物質は極めて高い絶対性を持った物質で、高い硬度と適度な靭性を併せ持ち、結晶の形で生成される故に自己再生性能を持つ究極の素材であったりした。
今となっては知る者もない物質だ。
ユーディト氏はこの物質の研究に余念がなかったらしくこれに関しては詳しいデーターが残っていた。彼がやった研究実験の詳しい手順やその結果。彼はこれを使って台所用品などを作っていたらしい。うん、変態だな。まあ平和だけど。
素材も珍しい物が多いのだが件の迷宮の地下で手に入れたものや、現代にもあるもので生成できるもので間に合ってしまったので当然作ってみました。
まず最初はベジタブルナイフ。
トマトなんかが簡単に切れるあの細かい波刃の付いたあれだ。もの凄い性能だった。しかも切れ味が落ちないんだよね、自己修復で。
なのでルトナが独り立ちするときに探検を作ってみました。戦闘用です。スっごく喜んでくれたよ。見た目は赤錆みたいな色なのに性能半端ないんだ。
その後も『面白がって』いろいろなもの作ったのだが、俺は元日本人なのだ。だったら創るよね日本刀。
作るのが大変なので本数はないのだが三本目に作ったのがこれ。
反りの大きい太刀で、形は日本刀風。違うのは刃の部分に細かいぎざぎざがあるということ。
それがいまクレオの手にある。
ぎゃぴーっ。
しゅぱっ。
ぼとっ。
野兎の悲鳴、血が飛び散り、切り飛ばされた首が落ちる。
その光景を見てクレオさんが艶然とほほ笑む。
ああ、どうしてこうなった…
aki様より感想、誤字報告を頂きました。ありがとうございます。順次修正してまいります。
報告の内容がとても丁寧で頭が下がる思いです。重ねてお礼申し上げます。
 




