5-02 盗賊退治 火器の暴威
5-02 盗賊退治 火器の暴威
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁっ」
その男は宙を舞うように回転し、地面に落ちた。
俺の左腕から打ち出された砲弾の所為だ。
俺は左腕を改良型のガトリング砲に変形させその一発を男のむき出しの股間めがけて打ち込んだのだ。
エルフの里で手に入れたガトリングガンは三砲身三mの大物だったが俺の手にあるのは二mに小型化したものだ。さすがに三mだと振り回せない。
もともとが専用の流体金属を、打ち込まれていた魔法式を以って形作り砲身を作るものなので四年で魔法式を解析し、改良して使いやすくしたものだ。結構面白い術式が手に入ったのも良かった。
デザインとしては肘関節の所で一度外側に曲がる関節があり、そこにまっすぐなガトリング砲が固定されている形だ。バランスとしては砲身側が長く、機関部は太めになっていて支点の所に関節があるのでバランスが取れている。
機関部は砲弾を受け取る術式、装填する術式を持っていて、さらにそれを打ち出す術式、砲弾を術式でコーティングする術式などをつめこんだ魔法機械であり、複雑で繊細で強靭だ。
砲身はやはり三砲身だがこれには理由があり、砲身が複数あるのは砲弾の装填を素早く行うためだ。一発を撃った後、回転して戻ってくるまでの間に次の砲弾が装填されるので、毎分の発射弾数を上げることができる。
ならなぜ砲身が六本ではなく三本か。それは砲弾の口径を上げるためだ。
この銃を使う対象は強靭な魔獣を想定しているので口径が低いと実用性がないのだ。それに元がやはり二〇mm砲弾だったので、古代の術式をある程度流用しているので、そのまま使うのが一番簡単というのもあった。
二〇mmというのがどういう威力かと言うと戦闘機を撃墜するには十分な威力。ただし戦車には威力不足という砲弾だな。
砲弾はモース君の協力で水をがっちり固定した、言ってみれば常温の氷による砲弾で、実に六〇〇〇万発用意してある。
これも長年の地道な努力のたまものだ。働いたのはモース君だけど。
異空間収納のスロットを一つ砲弾専用にしてあるのだ。
純水を魔力で固定したものなので完全に同じ規格。なので一つのスロットでいくらでも入るのだ。
ここから現出したバルカン砲の機関部に砲弾が転送され、回転する砲身に装填されるようになっている。すごい魔法技術力だ。昔の人はすごかったらしい。
それを改良。我ながら良い仕事をしているとおもう。趣味に走っていると言われてもあえて否定しないけどね。
ではその砲弾で人間が撃たれるとどうなるかというと…破裂である。
ぱーんである。ぱちゅんである。
局部は消し飛んで残っていない。左手も同様。それどころか両足も付け根部分が爆ぜてもげてしまっている。
当然下腹部だってない。
心臓や脳とは違うので即死ではないが、致命傷であり、即死できなかったことがふさわしい死に方と言える。
男たちは凍り付いたように固まっていた。
リーダーの死に方があまりにも衝撃的だったからだろう。
しわぶき一つない静寂の中で事情が分かっていない少女だけが動いていた。とはいっても角を踏まれた状態なので思うようではないのだが。
俺は彼女の周りに立つ男たちを蹴倒して彼女の脇に着地するとすぐに彼女の胴体を抱え再度飛び立った。一段高いところに移動する。
ここは山の中。少し移動すれば容易に登れないような崖はある。
そのままそこに…
「なっ、なに? なんなの!?」
「あっ、こらちょっと暴れないで」
片手で胴を抱いていたためにちょっとホールドが甘い。そこで少女が暴れたからずるりと滑ってしまった。
彼女の頭は俺の背中側でつまりお尻が前にきているのだ。
人間というのはどうしても上半身の方が重いのだ。
つまりずれると前のめりになる。
つまりお尻が上に来る。
俺はあわてて目をそら…した。
一拍間が空いてしまったのはやはり俺も若い男ということなのだろう。なんというかとてもきれいでした……。
それでもあまり間をおかずに視線を逸らした俺をほめてやりたい。
坊やではないのだよ。
俺は一段高い崖の上に降りると同時に着ていたロングコートを脱いで彼女に渡した。目の毒なので隠した方がよろしい。
彼女の名誉的にも…
「え? あの…」
ああっ、思考が追い付いてないな。
「かくしてかくして」
「ひゃーっ」
少女は俺が視線をそらしていることで自分の状況を思いだしてぺたりと座り込み、渡したコートでかき集めるようにして自分の下半身を隠す。
うん、よしよし。
その間も魔力視は男たちの方に向けられている。
彼らはあまりのことにどうしていいのかわからないようだ。
だったらここで畳みかけるのがいい。
しかしこれだけいるとどれを狙うか…
よし、この娘のお尻を叩いたやつにしよう。
〝カラカラカラカラ・・・〟と砲身が回転を始める。
それはすぐに〝ヒュイィィィィィィィィィィ〟という甲高い音に変わり、
ついで〝プァアァァァァァン〟というホルンのような音が加わった。砲弾の発射音だ。
砲身底部で発生した反発で勢いよく打ち出された砲弾は砲身に刻まれた加速術式であっという間に音速を突破して盗賊に降り注ぐ。
その砲弾の雨は一人の人間をあっという間に削り粉砕していく。消してしまう。
わずかな時間の斉射の後、そこには粉砕されたかつて人間であったシミが広がっているだけだ。
再び静寂が場を支配する。
からりと何かが音をたてた。身じろぎした誰かの足元の石だったのかもしれない。
本当にかすかな音、だがそれで十分だった。
静寂が破られた。
「ぎゃあぁぁぁぁ」
「助けてくれー!」
「ひいぃぃぃぃぃ」
「邪魔だどけ」
「おいていかねでくれー」
盗賊たちは一斉に逃げ出した。もうこちらに向かってこようという気概のあるものは一人もいなかった。だが…
「あいつらを逃がすわけにはいかないよね~」
『そうでありますな、大切なお仕事であります』
ああいう外道を地獄に回収してすり潰し、世界を修復する糧にすること。それが俺のお役目だ。
でも女の子を放置するわけにもいかない。
「お嬢さん、大丈夫?」
「はひ、大丈夫です」
「そう、良かった、私はあいつらを殲滅してくるからここで待っていてくれる?」
「はい…は?」
なぜに疑問形?
まあ大丈夫だろう。
「まってー!」
一歩踏み出したところをしがみ付かれてよろめいた。まあ姿勢制御は出来ているから問題ないけど。
「あ…あっ…あ…の」
ふむ、分かり易い感情だね。
かなりおびえているようだ。まあこれだけ怖い目に合えばしょうがないだろう。
出来れば一人で置いて行かれたくはないのだろう。
だが同時に俺にも恐怖を感じているようだ。
まあ、これを見ればね…
少々配慮が足りなかったかもしれない。
俺は手を伸ばして彼女の頭をワシワシ撫でた。子供に対するように。
びくっとして身を縮めた彼女だが単に頭を撫でられただけと理解して少し落ち着いたように見える。
「モース君召喚」
召喚も何も今までもそこにいたのだが実体化はしていなかったので見えてなかったろう。
俺のサインに合わせてモース君が実体化する。
「え? え?」
表情がくるくる変わってなかなか愛らしい子だ。
しかも美少女だな。頭の角もなかなか似合っている。
俺も天魔族というのを見るのは初めてだけど…これで魔法のすごさで一目置かれているようには見えないな。
「あの」
「うん、この子はモース君という精霊です。わたしは仕事であいつらを倒さなくてはなりません、かといって君を連れていくわけにはいかない。
あまり見たくない光景もあるでしょう。
だから一人で行きます。
でも心配はいりません。私がいない間この精霊君が君を守ってくれます」
「モース君ここ、結界張ってやってくれる?」
『任せるであります』
「変な動物が喋った…」
うん、この世界に象さんはいないようだからな。しかもSD象さんだ。ぬいぐるみだ。どう見ても変な動物だな。
『失礼でありますぞ。吾輩はこう見えて歴とした精霊であります。精霊というものはちゃんと喋るものであります。
人間に聞こえるかどうかは別にして』
そうそう、下位精霊ぐらいになると精霊はちゃんと喋れるのだ。
喋れないのはその下の精霊虫だな、そして精霊とちゃんとコンタクトする者は少ないのだが精霊虫がみえるものはたまにいるのだ。
だから精霊というのはざわざわーっとした存在だとえ思っている人間は多い。
まあモース君レベルになると神さま扱いなんだけどね。
「さて、少し待っていておくれ、まあモース君とお話ししているうちに終わらせるから」
俺はもう一度彼女の頭を撫でてから今度こそその場を離れた。
それと同時に彼女を水でできたドームが覆う。モース君の結界だ。これなら防御力も高いし恐ろしいものも見なくて済むだろう。
それを確認して杖を取り出す。
そして俺はその杖、領域神杖・無間獄を一振りした。




