4-02 新車ってテンション上がるよね。
4-02 新車ってテンション上がるよね。
精霊って見えないんじゃなかったっけ?
エルフの里でそんなこと離した記憶があるのだが…
《普通の精霊は見えないであります。波長の合うもの、そういう能力のあるものだけが見れるであります。ですが吾輩たちのような上級精霊は別。なんといっても実体がありますから》
あーあーあーっ、そう言えば実体化とか言ってたわ。
そうか、実体がありゃそりゃ見えるわな。
そうか、でも見えるんなら紹介しないとだめだよね。
「えっとこの子は『モース』と言って精霊です。けっこうえらいです。友達になりました」
「まあ素敵」
「いいなあ~」
「精霊なの? うーん、この子は土のにおいがするなの」
なにがいいのかわからないが感想はそれぞれだ。
「あっ、いま落っこちそうになったのを支えてくれたのって?」
「うん、モース君だね」
「あらあらありがとうね」
エルメアさんはそう言うとモースをギュッと抱き占めた。大きさ背三〇cmのデフォルメ象さんなので完璧にぬいぐるみだ。
「あら~気持ちいい~ぷにぷに~」
しかもぷにぷにらしい。
モースがじたばた暴れているのもいい感じだ。
周囲で精霊虫が飛び跳ねているのはたぶんモースのテンションに引きずられたから。だがこちらはみんなには見えていないようだった。
「にしても困ったな、車がなくなってしまった」
そう、俺達の家でもある獣牽車がなくなってしまったのだ。崖の下で残骸になってしまっている。
そうね、まだ王都までは数日かかるし、寝るところがないのは困るわね?
逆に言うと困るのはそこだけだ。
運ぶべき荷物は俺とフフルの空間収納にすべて入っていてまったくの無傷。
こういう山道は荷物が軽い方が鎧牛のロム君も楽になるので出しておく意味がないのだ。
だから旅の目的としては何の支障もないのだがあと数日全員が完全野宿というのもいかがなものか?
《あれがあるではありませんか?》
ん? あれ? ああ、あれか!
「父さんちょっと待って、代わりがあるよ」
俺はそう言うと迷宮の八階で手に入れたキャンピングカーのコンテナ部分を取り出した。
「これは、どうしたんだい?」
「えっとね、モース君にもらった、地面の下にあったやつ」
うん、嘘ではない。
これだと土の精霊のモースと仲良くなったことで地面に埋まっていたこれを譲ってもらったように聞こえる。というか誤解を誘発するが、誤解は別に悪いものじゃない。平和は誤解の上に成り立つとも言うしな。
「なんか昔の魔導車の居住部分なんだって」
「ほう」
みんな興味津々でコンテナを見ている。
「これ中がものすごく広いよ」
「中に家がある」
もう一度説明するとこのコンテナはワンボックスぐらいの大きさのシンプルな四角い箱で、車輪は四輪。後ろの二輪は馬車の車輪のようで車体に対して大き目で素材は金属に見え、精巧な装飾のほどこされた見事な車輪だ。前の二輪がタイヤのような車輪でターンテーブルのように回る構造体についていてグリグリ回る。
右前方に扉がついていて、後ろは観音開きのハッチ。
中の空間が二つに分かれ拡張されていて前から入るドアを玄関とするとまず広々とした洒落たたたきのような部分があり、九〇度曲がって後ろに向かうと今度は二階建ての建物のような構造になっている。
一階は大きなフロアと後ろにキッチンやバス、トイレなどがあるマンション風で、階段を上ると小さな(と言っても八畳ぐらい)の部屋が並ぶ家屋風になっている。部屋数は左右に四つづつ八個。一番奥にトイレとミニキッチンありだ。
ルトナやフフルは大喜びで室内を走り回っていた。
後ろから入るとそこは一〇〇メートル四方もある大きな体育館のような構造で、完全に倉庫としての用途を意識していると思う。
ここにこまごまとした一緒に展示されていたあれやこれやが放り込んであった。
あとでよく調べて見よう。
この倉庫には商人根性が出たのかしきりにシャイガさんが頷いていた。
みんな大はしゃぎでこれが気に入ったようだが問題は…
「これをロムとつなぐ器具がないな」
うんそこだ。
「ぱおっ」
いつの間にか戻ってきていたモース君が《任せたまえ》と言った。
《ここで吾輩が軽合金で器具を作りましょう、ただデザインはお任せしますぞ》
「おおその手があったか」
なにが? と聞いてくるシャイガさんに『とりあえずまーかせて』と言って再び内覧に送り出す。
さて、かかろうか。
このコンテナは前側に一か所、丸い連結部が存在する。輪っかになっていて牽引車側の芯のような連結器を差し込んで固定するようになっている。前後の動きに関しては衝撃を吸収する構造もあってかなりいい。
なのでこの穴の差し込む芯をロム君をつないでいた馬具ならぬ牛具につければいい。ロム君側の牛具は形が決まっていて変更の余地はない、長い間かけて発展した鎧牛と車体をつなぐ器具で、改良するにもどこをいじればいいのか全く分からないからそのまま使おう。
でも現物は途中でぶった切られているからここから新しく、同じ形のものを新調することになる。
革ベルトなどはそのまま流用。後ろを一本に集約して連結器具に差し込む芯棒をつければいい。
材質はモースたち精霊が生成する軽合金というやつだそうだ。アルミよりもさらに軽いんじゃないだろうかという物で、もともとの器具である木のものよりもずっと軽くなるだろう。それをモースたちが俺のデザインの魔法のイメージ通りに形作る。
精霊虫がわさわさ集って、あっという間に大まかな形を作っていく。
あっという間だ。
細かいところは俺がデザインカッターや、ザンダーの魔法で仕上げて出来上がり。
「じゃあ、ロム君試しに引いてみようか?」
も゛~っ
なんて声を出してロム君が引いたらガクンとした。
「どうした?」
《あまりに抵抗がなくってびっくりしたようであります》
「そうなのか…っていうかわかるの?」
《吾輩は地を進む動物にとってあがめる対象でありますからな》
いろいろすごいな精霊。
まあ、原因はコンテナが高性能すぎる点にあった。
このコンテナ変な話だか引っ張ると自走するのだ。
つまり接続部分に高性能なセンサーが付いていて、前に引こうと力をかけるとそのかかった力に呼応するように自分で前に進むのだ。
車輪の中に仕込まれたモーターで、勿論理屈は魔法的なものだ。
斜めに引けばその方向に、引っ張っただけ動く、つまり止まれば自然と静止する。
「このショックアブゾーバーって何のためについているんだ?」
《牽引の力に合わせて自走するとはいっても衝撃が全く生じないというわけではないですからな、多少の緩衝は必要なのでは?》
なるほど…
しかしあれだな、昔の魔法文明って地球の科学文明を魔法に置き換えた存在程度に考えていたけど、これ、ひょっとして地球ぶっちぎられてるんじゃないのか?
《まあ、そうですな、生活であれ、医療であれ、確かに進んではいましたな、地球がかっているのは文化ぐらいですか?》
「あー納得」
地球、文化だけば無駄に発達してたからな。
俺達はそのまま新しい獣牽車のテストをしながら進んでいく。
最初はあまりの軽さに戸惑っていたロムくんだったがモースが頭の上に立ち、何事が話しているうちにコツをつかんだようでするすると動き出した。
俺はその間に精霊虫達と一緒に連結部の上に御者台を設置する。
引いているのが生き物なのでどうしても御者台は必要になる。
細かい金属の網目で風よけ日よけを作る。細い針金が縦横に走り、透かし彫りの板のようになっているもので屋根を風よけを作る。
タラップを伸ばして扉から伝わり歩きで御者台まで来ることができるようにする。掴まるための手すりも必要だ。
馬車と違って直接出入りはできないのだが結果的にいいものができたとおもう。
雨除け日よけは網目が細かく積層構造なので、水がかかっても外を流れるようになっているし、風もほどほどに弱める。なのに隙間から向こうを見ることはできるのだ。
これは魔導器のライブラリーに入っていた構造データーの一つだ。
今まで知らなかったけど、流龍珠を魔導器に直結したためにモース君が拾ってきてくれたのだ。
かなりたくさんの構造データーが眠っていた。これもほんとにいろいろありそうだ。なんか調べないといけないものが多過ぎて…
うん、いろいろ考えよう。
◆・◆・◆
「わっ、動いてたのか!」
「ああ、父さん、もういけるよ~と言うか行ってるよ」
すでに一時間近く進んでいる。
三人はなかの家でずいぶんとくつろいでいたようだ。たぶん夢中になって時間を忘れたんだろう。
「わーすごーい」
「あら、すてきになったわね」
ちょっと待って全員で来たら狭い。
それに落ちないか?
《問題ないであります。軽合金と車両本体は分子的に分かちがたく融合していますから結合部が壊れる心配はないであります。それにこの軽合金は大昔はビルの芯骨に使われたほどの加圧強度、引張り強度を持った合金であります。
この程度の重量でとうにかなったりはしないでありますよ》
ふむ、さようでありますか、良かった。
ルトナたちは内部がどんなにすごいのか一生懸命話している。というかわめいている。
設備自体は使い方が分からないものが多かったらしいが水道ぐらいは動かせて感激していた。
そこまで言われてはたと気づく。この車のトリセツを調べて使い方を教えるのは俺の仕事なんだろうな。
やることおおすぎだろ。
シャイガさんが手綱を握り隣にルトナが座る。俺はその隣に座ったエルメアさんの膝の上。
フフルは屋根の上で格好をつけ、隣にフェルトがひかえている。
モースはロム君の頭の上だ。
なんか無駄にカッコイイ絵面だな。
俺達の旅はこれからも続く! みたいな。
いや本当に続くんだよ。
その証拠に車内を探検した俺はその作りの見事さにテンション上がって二時間ぐらい探検してしまった。すごいわ。マジで。




