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3-18 どないしよ。

3-18 どないしよ。



「ええっと、大丈夫なのかな?」


《ちょとまずいかもしれないであります。想像以上に力をつけているでありますな…せっかく水の補給をしてもらったでありますが、どうやらソウルイーターのパワーアップの方が早かったようであります》


 ソウルイーターは言ってみれば幻のようなされこうべだった。

 背景の暗闇に半分溶け込むような頭蓋骨だ。

 その輪郭で不気味に暗黒が揺らめき、眼窩の奥で赤い光が揺れている。


 中でも一番不気味なのはそのくちだろう。空虚な空洞のはずのそこには闇の中でなお暗い黒が渦を巻き、時折仄明るく光る光の玉、まあ平たく言うと人魂みたいなものが吸い込まれてそのたびにこの空間が苦痛にきしんでいるような感じがある。


 俺から見ると何もかもがおぞましいものに見えた。

 それが自身を閉じ込める魔法の陣の檻に体当たりをしてこれを軋ませている。


「でもなんでこんな…」


《原因はあれでありますな》


 モースくんに促されて見るとそこには真新しいゾンビが五体。


 紫色に腐ったその体は御世辞にも『新しい』には当たらないのだが、その装備はまだ新しい。

 それに見覚えがあった。


「あの悪趣味な装備品の数々は…」


《お知り合いでありますか?》


 先日会った垂れ目の冒険者だった。


「うーん、苦しんでいるなら何とか助けてやりたいんだが…」


《それは無意味でありますよ。ゾンビというのはただ死体に悪意の力が憑りついて動き出したもので、本人とは関係ないであります。まあ本人が欲にまみれていたり、強い憎しみを持っていたりするとそれが邪気を引き寄せるのでまるで本人の無念のように見えますが、あれは人間の死体と邪気であります。

 だいいちソウルイーターに殺された以上、その魂は食われて壊れてしまっているであります》


 つまりこの五人が最後の一押しを加えてしまったというわけだな。


 その後人の未練がたたってこの世界にとどまり続けるのか幽霊とか悪霊とかいう存在でこちらは文字通り死にぞこないであるらしい…みたいな蘊蓄を聞かされたけどそれどころではなかった。


 こいつは許されない存在であるという認識はあり、こいつを亡ぼさなければという衝動が駆け巡る。だが、この魔物は強大だ。

 まともに戦っても勝ち目はないと思われた。


 できることは宝具【流龍珠】を回収し、冥力石を置いて帰ることぐらいだろう。

 そう言う判断はつくのだが状況がまずい。

 結界が…


 パリン!


《あっ、壊れたであります》


 ソウルイーターは間をおかず大きな口を開けて俺に噛みつき…そこなった。

 俺のそばに来るとその力と俺の力がばちばちと対消滅を起こし、無理やり近づこうとしたソウルイーターは相応のダメージを受けたように見えた。


 つまり口の周辺が少し消滅し、後退を余儀なくされたのだ。

 もっとも、もともとが悪意の霧のような存在なのですぐに戻ってしまった。

 それに俺の方もまったく無傷とはいかなかった。


 ふつうに周辺の邪壊思念を相殺しているだけであれば問題なかった俺の魔力もさすがにソウルイーターに食いつかれると大きく削られずにはおらなかった。


「なんかごっそり魔力が減った気がする」

《当然であります。普通なら触れた瞬間に魂を食われて消滅しているでありますよ。御使い殿はすごい魔力をお持ちでありますな》


 モースくんの光の玉から感心したような声が響いてくる。ただそれどころじゃないだろう。

 だが光明は見えた。

 こいつらはたぶん冥属性にすごく弱い。

 

【パワーショット】


 メイヤ様からもらったこれは魔導器に対する起動キーの入力も必要ない。

 ただ魔法をイメージするだけだ。

 一応口に出すのはその方が分かりやすいから。


 指先に集まった力から一筋のビームが放たれる。

 そしてそのビームは狙い過たずソウルイーターを直撃した。


 ギヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!


 霧のされこうべに大きな真円の穴があく。だがそれもすぐに戻ってしまう。

 

「効いてるのかな?」


 よく分からない。


《ものすごく効いているであります。やつの力が大分削られたでありますよ》


 そうか、ならばもう一度。


 ぱっと霧が散った。


《今度は全く効いていないであります》


「え、なんで?」


 一回目と同じように火線上の霧は…そうか、今度はあいつの力が減ってない。

 避けられたんだ。

 その後二度三度とパワーショットを放つがふらふらとゆらゆらと火線をよけられてしまう。直線状に細く伸びる攻撃の欠点だった。


「やっぱり手はないか…脱出しよう」

《そうでありますな、それがいいであります》


 俺は流龍珠をその台座から持ち上げる。

 形はまん丸で表面にラインが刻まれて三角形二十枚に分割されている。つまり球に正二十面体の模様を刻んだ形なのだ。屈折率の問題かダイヤモンドのように美しく、緑や青や茶色や黒に輝いている。

 宝石だとしたらとんでもない美しさだ。

 大きさはわずか3センチほどしかない。


 そして代わりにあずかってきた冥力石を置く。


 ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。


 石から不可視の力が波のように広がり、空間の邪壊思念が少しだけ弱まったような気がする。


「よしあとは脱出するだけ…なんだけど…」


《難しいのではありませんか?》


「うーん…」


 はっきり言ってエレベーター方向はアンデットの団体さんがひしめいている。足の踏み場もない。


「でもまあ」


 とりあえず行ってみよう。

 自分の力で何とかなるかも。

 

 そう思って一歩を踏み出す。

 確かに何とかなる。

 俺の近くに寄ってきたアンデットは俺の魔力に触れると悲鳴を上げて崩れていく。

 確かに有効なのだ。


 だが数が多すぎた。

 魔力がどんどん減っていく。

 そしてどんどん回復する。

 気合を入れて無理して進もうとすると消費の方が上回り、力を抜くと今度はアンデットどもにおされるような感じになる。

 完璧なまでの消耗戦だ。


「うううっ、さすがにちょっと無理かも…」


 俺は数歩後退って冥力石のそばまで下がる。

 どうしたらいいんだ…


《気をしっかり持つでありますぞ。諦めたらそこでデッドエンドであります》


 うーん確かにその通りだ。

 俺はちょっと目じりに浮かんだ涙をぬぐった。さすがにこれはやばい感じがするのだ。

 こちとら不死身…っぽいけど魂を直接攻撃されるとさすがにまずい気がする。

 そして消耗戦をやったら勝てないかもという気がするのだ。


 俺の脳裏をルトナや母さん、ついでに父さんの顔がよぎる。


《人間だれしも弱気になる時もあるでしょう。泣きたくなる時もあるでしょう。助けてほしい時もあるはずです。そして頼れる人があるのは幸せな事です。ですが他の人が手を出せない領域というのは確かにあるのでありますぞ。そう言うときは踏ん張らねばなりません。それが道を開くのです》


 モースくんの叱咤は確かに届いた。

 確かに。ここで助けてくれと叫んでも誰も来てくれない。ここは普通の人が来れない領域なのだ。もしそれができるとしたらメイヤ様だろうがそんなことができるのならこれも自分で解決しているかもしれない。

 俺はチラリと冥力石を見た。


 これを持っていけば、掲げて行けばアンデットを退けつつエレベーターにたどり着けるだろう。だが既に結界は破られた。

 それをすればここにいるアンデットたちはすぐに町にあふれるだろう。それはできない。


 だったら逆はどうだ? 流龍珠の力は役に立たないか?

 いや、すでに結界が敗れた以上、この子を元に戻しても意味がない。

 だがこの子は一〇〇〇年以上にわたってこいつを封じた実績がある。


「この状況を何とかできる方法って心当たりない?」

《ふーむ、何とか…なるかも…しれない…可能性はありますか…》


 マジで?

 さすがの年の功だ。


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