3-17 精霊さんはモースさんと申す。
やっとインフルから復帰。ペースは落ちると思いますが少しずつ再開します。
3-17 精霊さんはモースさんと申す。
そこにいたのは…ぼやぼやした光の玉。淡い緑と明るい青で明滅している光の玉だった。
その明滅に合わせて声が聞こえてくる。
《これは驚かせてしまったようで申し訳ないであります。吾輩は土と水の精霊で【モース】と申す者であります。複合精霊でありましてこの迷宮でソウルイーターを封印している存在であります。
長く封印を維持してきましたが最近ソウルイーターの力が増してしまい、力が漏れて困っていたのであります。なんといってももう一〇〇〇年? を超える封印でありますからなあ・・・》
なんで疑問形?
《そこに御身の登場であります。御身のもたらした水はまさに命の水。この水があれば後・・・二年三か月と四日は戦えるであります》
ものすごく具体的な数字来たよ。ていうかそこまで危機的状況だったんかい!
「えっと…自分は冥神メイヤ様の依頼で多分あなたの解放とそのソウルイーターの弱体化のために派遣されたディア・ナガンと言います」
俺はメイヤ様から預かった冥力石を見せた。
《おお、わざわざご丁寧に、痛み入るのであります。そしてこれは冥力石でありますな、ありがたい。これを中心に据えればいかなソウルイーターと言えども力を削られてろくに動けなくなるはずであります。長い間に…
さすが冥の精霊王。世界を回すお方のお一柱であるところの偉大なるメイヤノミコト様、感謝であります》
えっと、『精霊王』『世界を回す』なんかすごいキーワードだな…それに『冥弥之命』? それって地球の呼び名じゃ…うーん、まあ後回しか…それよりも。
「なんで最近になって結界が緩んだんですか?」
《吾輩に敬語は無用であります。お仲間じゃないですか》
ん?
《ソウルイーターは吾輩が依り代にしている古代の宝具【流龍珠】で封じられているであります。この宝具は『大地を流れる生命力とめぐる水の浄化力』を操る宝具で、この水で結界を構築し、そこに正しい生命力を注ぐことでソウルイーターの力を削ぎ、動きを封じてきたであります。
ここは水源も近く…》
ポヤポヤした光の玉は今までの経緯を説明してくれた。
モースとモースの依り代とする宝具は大地、つまり土と水の宝具で中でもそのひめる力の扱いを得意とする存在だったそうだ。彼は大地の生命力と近くの湿原から流れ込む水を使って長くソウルイーターをここに封じ込めてきた。
だがソウルイーターとてただ封じられていたわけではない。
そいつは自分の力を少しずつ周囲に広げ、水を穢し、封印の力を弱めようとする。この力の均衡が一〇〇〇年以上にわたって続いてきたらしい。
ものすごい気の長い闘いだ。
普段は精霊モースの方が優勢で逢魔が時という魔物の活性化の時期はソウルイーターの方が優勢になる。まさに力と力のぶつかりあい。一進一退の戦いだったそうだ。
その均衡が数年前にいきなり崩れた。
《この迷宮は、あまり人の来るところではなかったのであります。ところがしばらく前、どういうわけがこの迷宮に踏み込む人が増えてきました。
それはこの迷宮で多くの人が死ぬということで、ここで死んだ者は正しい冥精の加護を受けられずにソウルイーターに食われてしまうことが多々あるのであります。
それがやつの力を増大させるのであります》
なるほどな。結局のところこの町が栄えたことが原因だったわけだ。この迷宮の探索が流行ってきたから総じて死者の数も増えてしまった。
人死が増えることでソウルイーターの力がまし、増した力が水源の水をけがし封印を弱める。封印が弱まるとソウルイーターの力が迷宮に多く流れるようになり、その結果人死が増え、更にソウルイーターに食われるものが増え、更に力が増大する。
《さらに少し前に沢山の人間が直接ソウルイーターの力が届く三階層に侵入するようになったのであります。あそこで死ぬと確実にソウルイーターに食われるのであります。かの魔物の力は最近増大の一途をたどり…》
ついに封印も風前の灯火となってしまったと…
皮肉な話だ。この町の発展のために作られた学園がソウルイーターを強化し、それが災厄を招く。もちろん一番悪いのは悪意を持ってデマを流した何者かなんだけど…
なんでそういうことするのかね?
たまにいるけどこういう人って悪意を撒き散らして何が楽しいんだろ?
まあ何か楽しいんだろうけどさ。
そんな話をしているうちにどうやら目的地に着いたようだ。
つまり流龍珠の安置された祭壇のようなものだ。見た目は地面から生えたチェスのコマのように見える。
水と大地の生命力を操る宝具。龍脈の力を借りられようにする宝具だ。
龍脈というのは地球でもよく聞く言葉だった。昔の都市などはこの龍脈を流れる気とかそういうものが強いところに作られたのだとか。
巨石建造物というのはこの龍脈の力を少しでも多く利用しようと建てられたものであるとか…そう言う話を呼んだことがある。
「多分この流龍珠は当時の人たちにとってとても大事なものだったんだろうねえ、それを使わざるを得ない…苦肉の策だったのかなあ…」
こんなすごいものを使うのだ、きっとそうせねばならないような…
《いえ、そんなことはないでありますよ》
「え?」
《あのころここに住んでいた連中はこの宝具の価値を理解していなかったでありますな。何となく『いいかんじ~』ぐらいの認識で》
なんじゃそりゃ。いろいろ台無しだよ。
《それに当時この町には冥属性の宝具もあったでありますよ。実のところアンデットを滅ぼすには死を司る『冥属性』が最もいいのであります。
アンデットは正しい死から道を踏み外した祝福を失ったものでありますから、死の力の前ではなすすべがないのであります。
にもかかわらず生命を司るこの宝具を使うということは正しい知識がなかったと言わざるを得ませんな。つまり死体だから反対の生命力で相殺しよう程度にしか考えていなかったのですな…色々もったいないことであります》
「苦肉の策ではなくただの思いつきだったか…」
《まったく困ったものであります・・・っと、出てきたでありますな、やはりもうかなり自由に動けるようであります》
俺は精霊の声につられるように顔を上げた。
いや解っていたよこの悍ましさ。あの悍ましさが這い上がってくる。
こいつがソウルイーターだ。
ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィァ・・・・・
不気味な声が迷宮にこだました。




