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?-02 世界は常に変容しているのね…

メリークリスマス。

ちょっとサービス。

?-02 世界は常に変容しているのね…



「ここがエルフの里ですか?」

「そうよ、グラシルの町ね」


 リリアの質問に艶はにっこり笑って答えた。


「ここに来るのは実に久しぶり、なつかしいわね…」


 確かになつかしい、懐かしいのだが…


 ふぁさささっ・・・


 目の前をキャノンオウルの群れが飛び過ぎる。

 一緒にエルフの集団も。

『ぎゅいーん』であるとか『きぃぃぃぃぃん』であるとか声を上げながら飛び去り、そしてまるで曲がりくねった道があるかのように空を複雑な軌道で駆け抜けていく。


「あ…あれは何でしょうか艶様…」

「えっと何かしら…」


 さらに『木の葉落とし~』とか『インメルマンターン』とか『スプリットS』とかいう声も聞こえてくる。

 彼らがやっているのは明らかにレースなのでそこにこの手の航空戦技を入れても意味がないのだが、エルフたちはノリノリで飛んでいく。


「おおっ、誰かと思うたら艶ではないか、久しぶりじゃの」


 しばらく茫然とその光景を見ていた艶たちだったが、飛び回っていたうちの一人が艶たちに気付いてふわりと舞い降りた。


「ああっ、エスティアーゼ久しぶりね…元気そうで何よりだわ…ところであれって何かしら?」

「まあ飛び比べじゃよ。見てわかろう? そして聞こう。見てわからんか?」


 変な言い回しだったがそこは長い付き合い、艶は『エスティアーゼは何か気づいてほしいことがあるのね』と考え飛び回るエルフたちを見つめる。

 確かに違和感がある。遠い記憶の中の彼らと明らかに違う所…


「あの飛行魔法ってあんな魔法だったかしら」


「うむ、さすが艶じゃ。よくわかったの、実はあの飛行魔法において、先日大きな革新があったのじゃ」


「革新?」


「うむ、平たく言うとワシらはたまたま古代の知恵の一つが復活するところに立ち会ったのじゃ。その結果があれじゃ、もはや別物と言っていいじゃろ?」


「ええ、ふわふわ飛んでいるのではなくスピードが速いわね、しかも小回りが異常に利いているような…いったい何があったの」


 ふむ、実はな。とエスティアーゼは話し出した。


 それは当然にディアたちのこと。友の聖号を持つものが久しぶりに町を訪れて魔法のただしい使用方法と、そのための知識を与えて行ったこと。

 それにキャノンオウルとの友誼の懸け橋となったこと。

 ディアとルトナの話がごっちゃだったが少々興奮気味に話す。


「あの子は本当に魔法の天才じゃったよ…すごかろ?」


 すごいドヤ顔だった。

 艶はちょっと疲れたように肩を落とす。


(そう言えばこういう娘だったわね…ちょっとずれているというか…)

(しかし、この時期にあの飛行魔法を、私たちでも使える者のいなかったあの魔法の正しい使い方を伝えた?)

(ここはアリオンゼールのすぐ上ですし、方角的にミツヨシの見た方角ということに…)


「ねえ、エスティアーゼ、その人って…その普通の人だった?」


「いや、普通ではないぞ」


「え?」


 艶の表情に緊張が走った。


「あれはとても良い子じゃった」


「「・・・・・・」」


「いえそう言うことではなくて…実はうちのミツヨシが星が流れるのを見たと…」


「おお、そう言うことか、あの子が来訪者かもと考えたわけか、いや、それは違うな、あの子は間違いなくこの世界の子じゃよ、この世界で生まれ育った子じゃ。精霊の匂いで分かる。それは間違いない」


 エスティアーゼは来訪者と呼ばれる人間に何度もあったことがある。艶たちもその内の一人だ。

 そして彼らから共通してこのせかいとは違う風の匂いを感じ取っていた。

 だが彼女がディアから嗅いだのは間違いなくこの世界の風、この世界の精霊の匂いだ。


「そう…ですか」


「それに星のことにも心当たりがあるぞ、あの星が流れるのはワシも見た、じゃがあれからも異界の匂いはせなんだよ、むしろ精霊界、しいて言うらが冥府の匂いがしたかの? 

 おそらくじゃが精霊界の方で何か…誰かに加護を下ろしたとか…あれ?」


 エスティアーゼは何か引っかかるのを感じた。ごく最近良い精霊の匂いを嗅いだような、特に冥府の…


「ということはまだ門は開いていないということ?」


 だがそれは艶の質問で流れてしまった。もともと細かいことは気にしない妖精族だ。すぐに忘れる。


「うむ、開いておらん。もし門が開いたら精霊たちがこんなに穏やかにあるはずもないでな、あの後は大騒ぎじゃから」


 艶は自分の懸念が一つ払拭されたのを理解した。

 逢魔が時が来れば世界の境界が揺らぎ、境界に穴が開く。そこから人が世界の狭間に落ちる。艶はこれが神隠しと呼ばれる存在(もの)の正体ではないかと考えている。

 落ちた人間はそのままだとどうなるのか全く分からないがこの世界には落ちた人間を拾い上げるシステムがある。

 かつてキャッチネットシステムと呼ばれ、今、降臨の遺跡と呼ばれるものだ。


 大昔から存在するこの遺跡はいまだに生きていてその時が来れば勝手に人を救い上げる。


 彼らの多くはどういうわけか高い魔法適正を持ち、良く活躍するために勇者などとよばれている。だがそれは結果の産物でしかないことを艶たちは知っている。

 世界に害をなした来訪者も多くいるのだ。


 そしてマールディア聖国やロミナ教国などはその勇者を自国のために有効活用しようとする。

 人間というものは最初に刷り込まれた情報を正しい情報として認識してしまいがちなところがある。聖国や教国の偏った思想に染まればだれにとっても不幸なことになるだろう。

 であれば渡り来る者をできるだけ保護しようという艶たちの方針は世界のためになかなかに正鵠を得ているといえる。


 だがまだその兆候はないとエスティアーゼは断言した。

 精霊界の動きというのは気になるが、ひとまず安心ということだ。


「よかったわ、まだ余裕がありそう」


「はい、よろしゅうございました。これからどうなさいますか艶様」


「そうね、せっかく出てきたんだから少しアリオンゼールを回ってみましょうか? 次代の勇者の様子見ね。その精霊の動きというのも気になるし…」


「では、迷宮都市アウシールですか」


 リリアには艶の言葉に意見を述べるという発想はない。あくまでも従うことを第一にしている。


「そうか、あいも変わらずせわしないの」


「人間の時間は有限ですもの」


「おぬしが言っても説得力がないぞ、この前ここで一緒に酒を飲んだのは120年も前じゃったじゃろ?」


 艶はおほほと上品に笑った。


「なあ良いわ、行くにしてもすぐではいかにもせわしない。じゃろ?」

「そうですね、せっかくですから二、三日は泊めていただけますか?」


「おう、勿論歓迎じゃ、さっそく風呂に行くか? 風呂も改装が進んでいるぞ」


「改装?」


 艶は首をひねった。

 ちょっと嫌な予感がしたのだ。


 ◆・おまけ・◆


「ひゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ」


「おやめなさい、リリ、いくらなんでもそれははしたないです」


 艶は大声を上げて近づいてくるリリアを諌めた。

 リリアは楽しそうな満面の笑みで近づいてくる。いや、滑ってくる。


「どうじゃ? なかなか良いじゃろ。うおーたーすらいだーというんじゃよ」


 エルフの里の大浴場には高さ一〇mに及ぶウォータースライダーが増設されていた。

 勿論元ネタはディアだ。ディアがいるうちに小さな滑り台が作られ、それはそのまま成長し今では曲がりくねった立派なウォータースライダーに育っていた。


 エルフの持つ成長制御の固有能力はかなりすごいと言える。


 そのウォータースライダーを最初はこわごわと、なので半ば無理やり滑らさせられたリリアは、しかし一度で完全にその魅力にはまってしまった。

 今は嬉々として梯子を上り、流れるお湯に乗って繰り返し滑ってくる。

 他のエルフたちにも大人気である。

 問題があるとしたら…


「ああっ、リリ、すっぽんぽんでそんなに足を広げては、女の子としてダメです」


 とても人にお見せできない絵面だったことだろう。


「さあ、艶、おぬしも見ているだけではつまらんぞ、ほれ」


「「「「「ハリーハリーハリーハリー」」」」」


「え? え? あれ? あれー」


 しかし彼らがこの町を出発したのは一週間ほど後のことだった。

 なにをしていたのだろうか?



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