2-12 精霊もエルフもお祭り好きです
2-12 精霊もエルフもお祭り好きです
「坊や、やるじゃない。エスティを手玉に取るなんて」
「こいつこんなんだけども飛行魔法はすごくうまいのよ」
「でも私たちも互角~」
「これ、ワシらは遊んでいるわけではないぞ」
「でも楽しそうだったよ」
「うん、エスティ顔が笑ってた」
数人のエルフが飛んできておれたちの話に加わった。
どうもやっていることが楽しそうに見えて我慢できなかったようだ。
しかしこうしてみるとエルフというのもそれぞれ個性がある。
ショートカットで目のぱっちりした人や、ロングの縦ロールの人もいる。みんな耳が長くてとても可愛くきれいなエルフたちだ。
SDキャラだけど。
そんな彼らを観察していた俺の脇をスイッと何かが通った。
「あっ、でっかい雪虫」
「おお、それは風の精霊虫じゃよ」
「あれ? 坊やって見える子だったんだ」
雪虫は分かるだろうか。冬になるとときどき見かける白くで丸くて小さい羽虫だ。まるで小さな綿毛みたいで雪みたいで雪虫と呼ばれる。
そのでっかいバージョンがいつの間にか周りにいっぱい飛んでいる。『見える子』発言はちょっと嫌だが、今はそれ以上に精霊の話が気になる。
なに? 精霊って本当にいるの?
というかどういうものなんだ?
「精霊虫というのはね~精霊の一番下の働き者だよ~」
「精霊っていうのは上から、
精霊王。
大精霊。
上位精霊。
下位精霊。
精霊虫。ってあるのじゃ」
精霊王、大精霊はもう神として祭られるレベルだそうだ。この世界には八属性。八大精霊というのがあってその八人の精霊王は当然のように普遍的な神として祭られているらしい。
大精霊も神と呼んで支障がないぐらい力を持っている。
精霊王の従属神として祭られていたり、地方の土地神として祭られていたりする。精霊王よりも身近な神さまという感じだな。
上位精霊も知性が高く、人間と完全な意思の疎通ができる。
下位精霊は小さな子供みたいな感じらしい。
精霊虫はもっとレベルが低くて、犬とか? 猫とか? そんな感じらしい。基本的にエルフや上位の精霊たちの言うことを聞いて働くワーカーという存在で、でも感情みたいなものはあって、みんなが楽しそうにしていると寄って来て騒いだりする。今みたいに。
ふだんは見えないがそこにいて、何かあると見えやすくなる。精霊とはそう言うものらしい。
エルフは魔力を精霊の最小単位ととらえていて、微精霊という言い方をしたりする。
「そこにいると思ってみようとすれば見えるよ」
「精霊って可愛いのよ」
うん、まあなんかわからなくもない。
俺は目の前を飛んでいる精霊虫を指でつついてみる。一〇cmぐらいの雪虫だ。押されてふぃ~っと離れてまたパタパタと寄ってくる。またつつくとまた。それが楽しいのが他のも一匹二匹と寄ってくる。
「それが見えるってことは~、坊やって魔力も見えるし、干渉もできるってこと~?」
「おおっ、それ凄いな、魔力制御ができて、しかも魔導器も持っている」
「坊やって、魔導器使わなくても魔法が使えるんじゃない?」
「そっ、そうなの?」
心当たりは…あるな。
「ふむ、確かにそれは才能じゃが、それがこの魔法の決定的な差ではないはずじゃ」
おっ、話が戻った。
「はい、みんなが来てくれたのはいいタイミングです。みんなで追いかけっこしましょう」
「もちろんそのつもり~」
「うん、楽しそう」
「やろやろ~」
みんな乗り気だ。
だけど俺が考えているのはちょっとみんなのそれとは違うと思う。わかってほしいのだ。分かりたいのだ。もう少し、もう少しでこの魔法の何かがつかめそうな気がする。
大丈夫だ。ずいぶんコツもわかってきた。
いける。
「逃げるのは僕で、捕まえるのがみんなでどうでしょう?」
「「「あら」」」
「おいおい」
「おい~」
俺の飛び方とエルフの飛び方は根本が違う。彼らはこの魔法の本来の使い方を理解していない。たぶん理解できない。なぜならそのための知識がないから。
だからいける・・・はず。たぶん。
「おおーっ、生意気」
「いうじゃない、お姉さんたちの実力を見せてあげよう」
「わーい、楽しい~」
「面白い坊やじゃ、年長者の力というのを見せてやろう、一番わかいリリアンジュでも30年は生きてるのじゃよ」
おおーっ、30歳。ほぼ同い年だ…
なんか面白くて俺はにやりと笑う。
「よ~い、ドン!」
みんなの声を無視して俺はスタートを宣言する。でもその場を動かない。
「よ~し、いっくよ~」
「「おう」」
「行くのじゃ~」
リリアンジュさんが一番に飛び出し、それを追いかけるように他のエルフたちも飛び掛かってくる。
周りから取り囲むように。
空いている方向は真下だけ。
俺は直立した姿勢のまま真下に降下する。
瞬時に加速する。
加速に時間がかかるのは慣性があるからだ。
そこにとどまり続けようとする力。
よくわからない力。
それは空間との結びつきだ。
自分がそこに存在することで周囲の空間が歪む、俺は空間の歪みの中心点だ。
その意味で俺は空間の歪みの一部である。
だから動こうとすれば大きな力が必要になる。
空間のゆがみ、つまり微弱とはいえ俺が作り出す重力を振り切る力が。
だから加速に時間がかかる。
でも今の俺の周りには空間のゆがみが存在しない。
だから!
「「「「「なっ」」」」」
徐々にスピードがあがるんじゃない。いきなりトップスピートに加速する。
そう、これは『加速』だ。
「「まてー」」
「逆加速!」
真下に対する高速移動、そして俺はそのまま反転する。減速するのではなくいきなり逆に今度は真上に移動する。
ありえない動きだ。鳥であれ虫であれ、こんな阿呆な動きはできない。
静止状態からいきなり時速何十キロに移行して、そのスピードを維持したまま、瞬時に進行方向を真逆に変える。
これが…
これが…
「これが…魔法だーーーーーっ」
「うにゃーっ」
「ふわーっ」
感覚が開いていく。
魔力視が広がっていく。
どの方向も見える!
エルフが追いかけてくる。
手が触れそう?
なら反対に動けばいい。
ぎゅんぎゅん自分をぶん回す。
慣性の影響が少ないからこれができる。
跳び回る。加速する。反転する。
もう誰も追いつけない。
俺の勝ちだ!!
◆・◆・◆
ちょっと反省、テンション高すぎだってば…
「ワシらの飛び方と、坊やの飛び方とが全く違うことが分かった。持っているイメージが全く違うことが分かった。坊や、ワシらにそれを教えてほしい」
エスティアーゼさんがそう言って頭を下げた。
すごいね、エスティアーゼさんから見れば俺なんてひよこもいいところだろうに。ちゃんと頭を下げて頼める。
こんな大人になりたいような気がする。
「エルフの皆さんに足りないのはイメージじゃなくて知識です、僕にできるかどうかわかりませんが、できるだけ詳しく解説したいと思います」
俺とエスティアーゼさんは握手した。ちっちゃくてかわいい手だっだ。これで三六〇歳?
そして拍手が巻き起こる。いつの間にか鬼ごっこに参加しているエルフの数は数十人に及んでいた。本当にいつの間に増えたんでしょ。
そしていくらなんでもよくこれだけの数を躱せたな、俺。
魔力視で全方位を監視し、神経系の強化から来る思考の高速化を利用し、慣性制御飛行を駆使して初めて可能だったのだと思う…おれって結構すごい?
◆・◆・◆
さて、この町に暮らすエルフの数は数百人。まあ仕事で忙しい人もいたに違いないのだが、鬼ごっこに参加した人数が一〇〇を越えなかったのには理由があった。
さすがに一〇〇を超えたらやばかったかもしれない。
その理由というのは、ルトナの援護だ。
いや、勿論たまたまなんだけどね、俺達が空をブン回っているころ、町の一角でもう一つの事件が起きていたのだ。
そこにもたくさんのエルフが見物に行っていた。
間違いじゃないよ『見物』エルフって結構お祭り好きなんだ。




