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1-24 聖号と勲章


1-24 聖号と勲章




「ルトナ・ナガン並びにディア・ナガンの両名。此度の働き大儀でありました。汝らの活躍により、我が王国とケットシー族の友好は守られました。

 王国からの感謝の証として、ここに『青竜盾星三位勲章』を賜与するものとします」


 ルトナが首をひねった。賜与が分からなかったらしい。


「勲章を上げますよってことね」


 俺らの前に立っていたすごく立派な格好をした貴婦人が優しくそう教えてくれる。ブラジャーを欲しがっていたあのご婦人だ。何気にものすごくいい人だな。ルトナに話しかける時もやさしく微笑んでいたりして。


「オホン、アリオンゼール国王代理、クラリオーサ・アリオンゼール」


 そしてそう、彼女こそは誰あろう、現国王陛下のご息女。クラリオーサ王女殿下であらせられる。王女とはいっても今年で御年二十九歳になるそうだ。お子さんも男の子と女の子がいる。

 一人娘のため旦那さんは婿さんだったらしいが、数年前に魔物との戦いで陣頭指揮を執っているときに名誉の戦死を遂げられたとか。

 現在の国王が引退したらおそらく彼女が女王になるのだろう。


 その彼女だが、普段のドレスとは違ったそう、高位の神官が着るようなカッコイイ衣装を着て俺たちの前に立っている。

 そしてそのシルエットはスタイル抜群である。

 つまりナガン家の仕事は大成功をおさめたわけだ。


 彼女がご機嫌なのはその所為もある。たぶん。


 この賜与式は略式で行われていて、王様は欠席、貴族も遠くに住んでいる者は欠席している、というか出席する必要はないということになっている。

 王女殿下と俺達だけの内内の式のはずだったんだが、そこら辺はやはり貴族とか付き合いがあるのだろう。この町に仕事で来ていた貴族や名士、近隣に暮らしている貴族などは全員参加だそうだ。


 そして現在貴族たちの、特に奥方たちの目はクラリオーサ王女殿下の胸に釘付けである。


『なんであんな高い位置に』

『あんなに力強く突き出して』

『いったい何が…』


 騒然である。


 奥方たちの目は彼女の力強く、形よく突き出した御胸バストに吸い寄せられている。もう他のことなどどうでもいい感じだ。


 その視線を横目に、しかも華麗にスルーして、帯状のカラフルなリボンのついた銀色と青のメダル型の勲章を僕たちの胸に手ずからつけてくれる王女殿下。


 その時も胸は豊かに揺れ、しかも型崩れせず、見ているご婦人方のため息を誘った。


 さて信賞必罰は武門のよって立つ所。という言葉を聞いたことがあるが、何も武門に限ったことではない。罪を犯す者は罰せられ、功績あるものは称えられる。これは国にとっても車の両輪のようなもので、この二つがうまくかみ合わないと国というのは恐怖政治になったり、腐敗政治になったりする。

 なので人身売買という凶悪犯罪を暴き、未然に阻止した俺たちが称されるのは当然の流れだったりするのだ。


 さてこの勲章、形自体にいろいろな意味が込められている。まずメダル型の中央に大きく描かれた盾の模様。これは国を守ることに貢献したものに与えられる勲章の基本形だそうだ。

 その前に描かれた青色の龍二匹。龍は王家の象徴で、この勲章が王家の発行したものであるという意味がある。

 さらに盾の下に刻まれた星三つ。これはこの勲章のランクを表していて、星が減るごとにランクが上がる。


「この勲章と共にあなたたちに『三位爵』の位を与えます。合わせて年間金貨四八枚の年金を下賜します」


 そこでまたルトナが首をかしげる。


「三位爵というのはね、貴族という意味ね、ルトナちゃんは今日から末席だけど貴族の仲間入りということよ、でも三位爵は名誉爵位だから何の権力とかもない代わりに義務もないわ。国に貢献してくれた人へのご褒美ということね。この国の中ならどこに行っても貴族と同じ礼遇を受けられるのよ」


 再びルトナが首をかしげた。よくわからなかったらしい。王女殿下も苦笑している。


 この国は王国であり、君主制をとっている。なので一番上は当然『国王』がくる。つぎが『王族』でこれは王太子とか王子とかで序列があるんだがこれはとりあえず無視して貴族の説明をしよう。


 貴族はまず『公爵デューク』『侯爵マークィス』『伯爵カウント』『子爵ヴァイカウント』『男爵バロン』の五爵位とその下に『準男爵バロネット』があって全部で六つある。

 三位爵というのはこの準男爵と同等の爵位だそうだ。

 二位爵は男爵。一位爵は子爵と同等の身分ということになる。

 平民出身のものが功績を上げて貴族に取り立てられるとこの〇位爵位か準男爵位が与えられることになる。


 両者の違いは貴族としての義務を負っているかどうかだそうだ。

 準男爵も一代貴族だが国から俸給が出る以上国に対して奉仕する義務が発生するのだが、この位爵位は過去の功績に対するご褒美なのでその手の義務はないらしい。

 まあ子供の俺達にそのての義務付きの身分なんか与えられても困るのである。

 多分そこらへんも配慮されているのだろう。

 かくして俺らは御気楽な貴族になったわけだ。


 ちなみにこの国の貴族というのは正式には六爵家の当主のことを言う。当主とその正式な配偶者。これが貴族と呼ばれる人たちだ。


 ここで一つ疑問が浮かぶ。

 貴族の子供はどういう扱いなのか。だ。


 お答えしよう。貴族の子供は貴族にあらず。これだ。


 貴族の子供は『公子プリンス』『公女プリンセス』と呼ばれる準貴族扱いになるのだ。貴族に準ずるものであり、貴族ではない。という扱い。


 この国には実力も実績もない者に貴族を名のらせるわけにはいかないという気風がある。

 これは常に魔物と対峙し、国を守ってきた彼らの矜持なのだろう。


 なので貴族の子弟は成人すると『騎士』や『公務士』に就職することになる。これは国に仕える公務員と言っていい。武官が騎士。文官が公務士だ。

 ここで初めて士族身分というはっきりした身分制度の中に組み込まれるわけだな。士族も準貴族だがこちらは『子供』扱いではなく一人前として扱われる。


 まあ子供なんて海のものとも山のものともつかないのは当たり前かもしれないしね。


 とりあえず彼らに保障されているのはここまで。


 騎士や公務士になって実力を示したり、功績を上げたりすると準男爵位がもらえて晴れて貴族の仲間入りができる。といっても準男爵は家門を子供に相続させることのできない一代貴族だから本当の意味で貴族として生きていくなら男爵まで出世しないといけないということになる。

 結構厳しい。


 さて貴族の給料がどうなっているかと言うとこれは領地が給料と言っていい。国から領地を貰ってその領地を経営することで生活費を得ているわけだ。

 当然爵位が高いほど領地は多くなったりする。


 だけど領地だって無限にあるわけじゃない。


 なので、準男爵が叙爵されるたびに領地を渡していては国土がいくらあっても足りないし、一代限りの準男爵に領地を与え、家がつぶれたら取り上げるというのは処理が煩雑になりすぎる。

 なので年金というシステムが使われることになる。


 それが年、金貨四八枚というやつだ。これが三位爵にも適用される。

 金貨一枚あれば夫婦者が普通に一か月暮らせるという世界で、一月あたり金貨四枚だから結構な額と言える。

 まあ俺達から見ればだけどね。


 今回俺たちはこんなものを賜ってしまったわけだ。

 そしてこれらの知識は賜与式の前に基礎知識として教わったものだったりする。まあルトナはあまり理解していないけどね。

 他にも…


「礼儀作法とかのお勉強とかもしなくちゃね」


 なんてことも言われたりする。え? そんなのもあるの? 

 まあ曲がりなりにも貴族待遇の人間で、ひょっとしたら偉い人と会うこともあるかもしれないからあまりに考えなしでも困るということか。


 しかしそこまでしてこんなすごいものを与える必要があったのか? とか思う。

 あったのである。

 勲章の賜与が終わって王女が後ろに下がるとその原因が進み出てきた。


 旅猫族ケットシーの長老さんだった。

 スタイルはケットシーそのものだ。卵型のボディーに尖った耳とくねくね尻尾。フフルに似ているって当たり前か。違うのは大きなお髭が蓄えられていることとそのサイズ。

 フフルが七、八○cmだったのにこの長老さんどう見ても俺達より背が高い。たぶん一、五mぐらいある。ぬいぐるみちっくで実に可愛いのだがここまで大きくなると迫力がすごい。トレードマークの長靴も豪華で絢爛。さすが長老という感じだ。抱きついたら気持ちよさそう…いやいや、威厳が…迫力が…

 彼はおもむろに口を開いた。(慣用句である。実際は髭がもごもごしただけ)


「おおっ、心正しき子供たちよ~、この度は我が一族の若者を助けてくれてあ~りがとうだなあ~の。

 おかげで多くの友がすくわれたんだな~の。

 その感謝を込めて君たちに『我が友(フロイン)』の聖号をおくるものだな~の」


「「「「おおお~っ」」」」


 歓声が上がり拍手が起こる。だけどよくわからん。


「つまりともだちになろうということだな~の」


 そう言うことなら大歓迎。


「「ありがとうございます」」


 俺たちはそろってお礼を言った。うん、仲良きことは美しきかな。

 感極まったのか長老さん、俺達に抱きついてきて、俺達は毛玉に埋まることになった。毛皮はモフモフでお髭はファサファサ。すっごい気持ちよかった。

 他にも何名かいたケットシーの人たちも参加して部屋の中央でねこくら饅頭。きっともふらーだったら鼻血を吹いて倒れている所だ。オレも自分の属性に『もふらー』を加えてもいい気すらしてしまった。

 まあもともと好きではあるからね。


 そのあとは軽いパーティーになったんだけど…パーティーの主役はなんとシャイガさんだった。


「「「「ぜひわたくし達にもブラジャーを!!!」」」」


 うわーい。


 ◆・◆・◆


「困った…」


「あら、大盛況じゃありませんか」


 途方に暮れてうなだれるシャイガさんにクラリオーサ王女殿下改めクラリス様がにっこりとほほ笑んだ。ご本人の希望で俺とルトナは王女殿下をそうお呼びすることになった。


「これは本当に素晴らしい出来だったわ。できるだけ便宜を図りますからとりあえず専属契約は結んでくださいね」


「はい、身に余る光栄であります」


 ここは元の住人であるクラリス様とその侍女のみなさん。護衛のみなさん。そしてナガン家の人たちしかいない。

 パーティーの時にクラリス様がブラジャーのことをご婦人方にお話になり、その所為でブラジャーの注文がシャイガさんに殺到したのだ。

 どうもこの国のご婦人は御胸が豊かな人が多い傾向にある。


 そのご婦人方を集めてクラリス様はこの度納品された三十着ほどのブラジャーを見せ、実演もしたらしい。布面積の多い本当の機能優先のブラだったがそこら辺は『織姫』スキルの力か、デザインがシックであったり華やかであったりと多彩で、大変に御気に入られたらしい。

 つまり自慢したかったんだよたぶん。


 一着のお値段なんと金貨二〇枚。

 これはクラリス様の方から決められたお値段だ。原価といえば四分の一程度であるらしく、もっとお安い値段を考えていたシャイガさんにしかし、『これは技術に対するお値段だから』と主張するクラリス様に押し切られてこの値段で受け取ることになった。絞めて金貨六〇〇枚。マジか…

 というか原価で金貨五枚ってのもマジか?


 さてそこで貴族の奥様方が出てくるわけだ。

 シャイガさんはこのほかにもお安いもっと手頃な物も作っている。この館で働く侍女さんや護衛さんたちのものだ。こちらは金貨二枚ほどが売値。

 使っている布地が普通のものが多く、それほどコストはかかっていないらしい。


 で、貴族の奥様方、どちらを選ぶのか~と聞かれたら~当然高い方。

 しかも大量注文。マジか!?

 すげーな貴族。俺たちの年金じゃ一年に二枚しか買えねえぞ。


 そう思うとこの勲章も『まあ、貰ってもいい程度のものかも』みたいに思える。いやマジで。


 それはさておきお高い方の作品をご所望の貴族様方。

 この要望に応えるためにいくつかの対策が打たれた。


 まず商業ギルドに登録してナガン商会という服飾商会を立ち上げること。これはクラリス様が口をきいてくれるので問題なし。

 王室御用達に登録すること。これも問題なし。

 さらに王都に店舗を構えること。これはクラリス様たっての希望だった。まあ当然だろうね。クラリス様普段は王都に住んでいるわけだし。


『まあ、私たちもいつかは自分の商会を、と考えて冒険者と行商二足の草鞋を履いていたわけだから願ったりかなったりかな』


『そうね、王都には迷宮もあるし、近くに山も森もあるから、戦うのには不自由しないかな』


 親二人の意見でこれも決定。俺たちはここを引き払い王都に引っ越しすることになった。

 プロペラばーちゃんおもしかったのに。


 さてここで唯一解決していない問題。

 それは…


「素材がない」


 ということらしい。なんでも高い方のブラに使われているのはエルフが染め上げ織り上げた高級な布で、なかなか手に入らないモノなんだそうだ。


「うーんあれは俺が家を出るときにね、おふくろが餞別にって持たせてくれたものなんだよ。普通に買うと金貨五〇枚ぐらいするものだし、しかもお金を出せば手に入るというものでもないんだよね」


 天蚕絹という生地と、森界縮という生地らしい。これがどうもブラジャーに最適な生地だったんだそうだ。


「いやー、いつか一世一代の作品を作る時に使おうと決めていたからね…」


 それでここだと思ったのか。

 ブラジャーの発案者としては冥利に尽きるがいいのかそれで?


 でまあ、そのために手持ちの布を七割ほど使ってしまったと。

 そんでもって十数人に及ぶ貴族の奥様方の分を作るには到底たりないと。

 どうすんの?


「どうしよう」


「とりあえず王都でわたくしから発注はしてみるわ、でもそれでもたぶん無理、となると直接買い付けに行くしかないでしょう」


 クラリス様がそうおっしゃった。


「しかしクラリオーサ様、エルフでありますから、直接行ったからとて譲ってくれるとは…」


 そこでクラリス様はくふふと笑った。


「大丈夫よ。お友達でしょ?」


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