9-44 追撃④ 隠れているやつをあぶりだすには…
9-44 追撃④ 隠れているやつをあぶりだすには…
煙を噴き上げながら落ちていく起動兵器だったが、そのまま地面に激突して爆発! とはならなかった。
落ちながらシオシオと縮んで、地面にぶつかるころには姿がなくなってしまっていたのだ。
「いや、もうなんかロマンが足りないと思うよ。撃墜されたんなら最後までそれらしい演出を…」
《所詮は他人《他の勇者》の知識でありますから、そこまで求めても駄目なのでは?》
「くそ、だから似非オタクは!」
オタクならオタクらしい美学ってものがさ、オタクの美学…あっ、これはダメなやつだ。
その場所に降り立ってみたら当然のように残骸などはあるはずもない。どうやらあの起動兵器は本当にただの〝嘘〟だったようだ。
結構胸がどきどきしたんだけどなあ…
本当にもったいない能力だ。
もし俺がそんな能力を持っていたらいろいろなアニメの再現が好きなだけできるのに!
《それも駄目な発想でありますぞ》
まあ、そうなんだけどね。
さて、そこはただの荒野で残骸はもちろん、アレキサンダーの姿もない。
ただ魔力は濃く漂っているからこの辺りにいることは間違いないと思うんだけど、周辺に広がるのは荒れ果てた荒野と砕かれたあれやこれやの骨ばかり。
《また強い魔力を垂れ流してみるのがいいのではないでありますか》
いや、垂れ流すて…
それにあれは結構魔力を食うんだぞ、しかもこの広大な平原全体にいきわたるぐらいの魔力を垂れ流すのにどれぐらい魔力が必要なことか…
できないとは言わないが…
でもそれだとこの辺り一帯が全部冥属性になっちゃうんじゃないかな?
いきなり『死国』が出現。
もっとダメなやつじゃん。
そこまでやっちゃうと世界がどんだけゆがむかわからんがな。
《では絨毯爆撃でありますな。隠れた奴を見つけ出すにはそれが一番いいと偉い人が言っていたそうであります。
ロールシフトであります》
俺はうへーという顔になった。
いや、今俺の周りにオタクの人が複数いるから出所はなんとなくわかるんだけどね…
でもまあ、いい考えだよな。
ふむんふむん。よし、行けるかな。
「というわけで人手を増やそう。獄卒召喚!」
地面に群青の魔法陣が発生し、そこから6体のきれいな骸骨が湧き出してくる。
骸骨も見た目がきれいで装備が立派だとなんとなくSFっぽく見える。不思議だ。
《どうするであります?》
「こうするの」
俺はにんまりと笑った。
◇・◇・◇・◇
とはいっても大したことをするわけではない。
獄卒を使って陣形を組むわけだ。
先頭はモース君。
その後ろに俺が陣取って、まずモース君から霧が流れてくる。
これは水の精霊が作った純粋な水だ。
俺がそれに魔力を込める。
かなりの濃度になるように込める。冥属性の魔力だ。
俺の両脇には数十メートルの感覚を開けて獄卒を並べる。片側3体。
冥属性の霧が俺のところから隣に、そこからさらに隣にと流れていく。
獄卒たちが霧を維持するための基点で、みんなで協力して冥属性の霧のローラーを作り出す。
これが本当のローラーシフト。
その状態で前進すれば長さ300mの幅をしらみつぶしにできる。
《完璧でありますな》
「というかこれで見つかんないともう方法が思いつかんよ」
獄卒たちも頷いているような気がする。
こいつらも過去の達人のデーターから作られた幻獣だから戦闘力高いしね。結構いけるだろう。うん。
「よし、準備ができたな。では、前進」
冥属性の霧の帯がゆっくりと渦を巻き、転がりながら前進を始めた。
霧に触れたものが一瞬だけ冥属性に侵食される。
だが水も含まれていて、水は洗い流す効果があるのだ。
というか怪我の功名?
霧で濡れた湿り気が乾くと冥属性も蒸発していく。思ったよりもいい方法だったな。
地面に散乱した骨たちは冥の霧に触れると理に従って風化してどんどん土に帰っていく。これが冥属性の性質の現れ方の一つ。すべてを終焉に。そして再生に。
崩れ去る骨は豊かな土に変じていく。その骨からかすかな光が無数のホタルのように舞い上がり、空気に溶けていく。
儚くて寂しくて、それでいて救いを感じさせる光景だ。
俺たちが通った後は瓦礫も残骸もなく、時を経た自然があるのみ。これが冥属性。
ただ、まあ、こんなものが押し寄せてきたら、そりゃ隠れているやつにはたまらないのだろうと思う。
今度現れたのはゴーレムだった。
《焦っているであります》
地面がボコボコと蠢いて、そこから湧きだすようにゴーレムが出てくる。
ゴーレムといっても岩でできた巨人とかではなく、土で出来た人型だった。
大きさも人間と同じぐらい。
「ひょっとしたら自分のことを人間だと思っているのかもしれないな」
どんな形でか、だまされた土の塊。
だが今度はドラゴンのようにはいかなかった。
ドラゴンは自分を無敵の存在だと思っていたのだと思う。
そして世界もそうだとだまされていた。
だが人間は無敵の存在ではない。
無敵の人間はいない。
そして人間は死ぬものなのだ。
冥属性の霧に触れれば崩れて消えていく。
霧に追い立てられ、いつの間にか逃げ惑うようになり、へたり込んでいやいやをしたり、這いずって逃げようとする土の人型。
《悲しい光景であります》
死という圧倒的な法則の前にむなしくなっていく者たち。
これが本当の人間ならば俺はその魂をくみ上げて冥府に運ぶのだ。それは終わりではないし、今となってはそこに安心すら感じる。
でもこれは…
「まあ、許せんな」
俺はガトリングガンを再起動して地面の一点を集中砲撃した。
ガガガガと岩を削る砲弾の音。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
そして悲鳴。
そこは魔力の揺らぎがあったところ。
何も見えないただの地面のはずが、砲弾が何かに当たって何かを削っていく。
砕け散った破片は岩のようだった。
そして悲鳴はその見えない何かから響いている。
そして多分効果が切れたんだよな。
そこには何枚もの岩の板で、十重二十重に守られた小さな砦のようなものが姿を現した。
そこを獄卒たちが素早く動いて囲んで包囲する。
よし、今度こそ逃がさないぞ。




