9-19 圧倒的
9-19 圧倒的
「なんの…」
一瞬のしらけた空気の後で仕切っていた偽物さんが声を上げる。
だが一瞬でも空気がしらけるというのが何よりの証拠だ。俺は微笑みながら彼らを見ている。
「いや、いい、ランス」
今度は三号と呼ばれた男が声を上げた。
「一番腹芸のうまかった6号が王国でやられてしまったのでね。まだ育成が十分ではなかった。この状況でとぼけられないというのは困ったものだ。
ただ君が変なのもあるのだよ。君の言葉には妙な説得力がある。
言われるとなんとなくそうかなと思ってしまうんだ」
相手が悪かったな。と三号、つまり本当のフェリペ氏が苦笑いをした。
「しかし、そこの御仁、ミツヨシ殿だったかな。かなりの達人だと思うのだが、私の方が強いという判断なのかな?
そうとも限らないと思うのだが…」
「いやいや、そういうことじゃないんだ、あんたにはできるだけ、無様に、自分のやったことを後悔しながら死んでもらいたいのでこちらにという話なんだよ」
つまりそういうことだ。地獄に落ちた後、出来るだけ効率よく魔力を絞りたいんだよ。
しかし、そういうのは彼にはわからないわけだ。
「なるほど、なかなか良い趣味をしている。
君とは趣味が合いそうだ」
いや、うれしくないぞそれ。
「しかし、それが可能かね? わたしはかなり強いつもりなんだがね。
獣王で出もなきゃ私には勝てないと思うんだよ。
ここに来ていた獣王は全員表でお仕事中じゃないかな?
君も強いようだけど…」
「おう、よく知っているね」
暗部というと情報機関も兼ねているわけだ。さすがの情報収集能力。
まあ、ジジイ二人が隠居した(のか?)のは知らないようだが。
だけどね…
「心配無用だよ、俺、獣王より強いから、獣王に勝てないようじゃ、俺には歯が立たないと思うぞ」
武術で戦うから彼らは強いんだ。魔法も混ぜて何でもありなら俺に勝てるやつってまずいないと思うぞ。
空も飛べるし射程距離も長い。ぶっちゃけ高高度からの無限爆撃とかできる。
試合で俺に勝てるやつはいても戦争で勝てるやつはいないよ。
フェリペは俺の言葉を聞いてギョッとした顔をした。普通は信じないと思うんだけどなあ、顔つきが変わったぞ。
「二号、四号、行け」
そして自分の偽物二人をけしかけてくる。
なかなか早い。そして見事な連携だ。一流程度が相手なら普通に勝てるレベルだな。
だけど確かに獣王が相手じゃ無理なレベル。
おそらく普通の人間には目にも止まらない連続攻撃なんだろうけど…
突き出される手を払い、振り下ろされる手を受ける。蹴りを反らし、足を払う。
とりあえず攻撃はせずに受けに徹する。
「あはははははっ、行ける行ける、そのまま揉みつぶしてしまえ!」
俺のそっくりさんが嬉しそうに声を上げる。が。これで彼の実力が分かるな。
「もうよい、下がれ」
フェリペ本物の指示で二号と四号が飛び退る。
「何をしている、あと少しではないか」
アルフレイディアがフェリペに詰め寄るがフェリペ氏は苦々しそうに答えた。
「あと少し、相手を一歩も動かすこともできずにですか?」
アルフレイディアとテレーザ嬢がギョッとして俺を見る。
まあ、軽く肩を竦めておこう。
「しかもこちらはボロボロだ」
うん、攻撃を受けていただけなんだけどね、思ったより弱かった。
二号と四号の腕や足は紫色にうっ血してだらりと下げられている。
もう、まともに動かないだろう。
「これほど力の差があるとは思わなかった…これでは…」
「あー、悪いけどまだ全然本気じゃないよ?
この程度じゃ獣王には全然及ばないぐらいだ」
「うっ、嘘だ、そんなこと…ありえない。こいつが俺より強いなんて…」
いや、お前全然弱いじゃん。
味方側も伯爵や勇者ちゃんたちがびっくりしている。
艶さんとミツヨシ氏は真剣な顔で俺を見ているね。たぶん力を計っているのか。
と思ったらミツヨシ氏が踏み込んで唖然としているフェリペ偽物ともう一人の首をはねてしまった。
「容赦ないね」
「これは遊びではござらぬゆえ」
ふむ、それは…その通りかな?
「じゃあ、暇つぶしは終わりにしてさくっと?」
「くっ、そのように簡単に!」
もはや戦えるのはフェリペ本物一人だろう。
何が彼を突き動かすのか、武器を構え、腰を落とす。そして全力で俺に向かって駆け寄ってくる…と見せかけて方向転換?
「目標は伯爵? 人質?」
でもいつまで動けるかな?
俺は世界の欠片をちょっとだけ開放して力の出力を上げる。
途端に周囲に濃密な魔力が満ちてくる。
その時世界にノイズが走った。
二重写しになる宮殿と…廃墟?
「うぐ…これは…」
ああ、こちらが先だな。
「大したことじゃない。魔力の濃度が濃くなって半ば実態を持ってしまっているだけだ」
「ありえない…どれだけの魔力が必要だというのだ…」
「大したものじゃないか、喋れるんだから。
後ろの二人はもう動けないみたいだけどね」
テレーザ嬢とアルフレイディアは膝をついてあえいでいる。
倒れずにいるのが精いっぱいという感じか。
「このぐらい魔力が濃いと、体が軽くていいよね」
羽のように軽くなった俺の身体とは逆に、まるで高圧の水をかき分けるようにじりじりと進むフェリペ。その顔は絶望に陰っていて、でも確固たる意志で伯爵に近づこうとする。
圧力が増してもうほとんど進んでいないのに。
ということはあれだ。こいつは後悔して泣き叫ぶとかは絶対しないな。
確信犯だ。自分は絶対に間違っていないと信じている。
しかたないなあ。
「ごめんねえ、ミツヨシさん。なんか俺一人でカタが付いちゃった。
奥の二人はあなたが戦って面白い相手じゃないでしょ」
ミツヨシ君は肩を竦める。
弱い者いじめとか好きじゃないみたいだからね。
「さて、じゃあこれで終わりね」
俺は右手の領域神杖・無間獄を軽く振るってフェリペ氏の肩を叩いた。
それで終わりだった。
彼は急に脱力して地面に頽れる。
そして無間獄に間違いなく新しい燃料がくべられたのを感じた。
フェリペ氏の影武者を合わせて5人分。結構いい稼ぎだね。
さて、次は…
俺は膝をついてうめいている二人に向けて歩き出した。




