9-16 殴り込みだー!
9-16 殴り込みだー!
「というわけなのですよー」
「うーん、向こうの方が決着が速かったか…まあ、空飛んでるしな」
俺は華芽姫から勇者ちゃんたちが遺跡の破壊に成功したという報告を聞いていた。
スケアクロウマン経由の広告なので、今ひとつ抽象的というかイメージしずらい報告だったのだが、大枠は掴めた。
「いきなり完全破壊に成功か…そこまで行くとは思っていなかったな…」
『まあ、成り行きというものでありますよ。スケアクロウマンの送ってきたイメージだと遺跡の機能だけを上手に停止させるというのは無理っぽいでありますから』
まあ、そうなんだろう、防御力がなまじ高いから完全破壊以外に道はなかったと。
それは仕方ない。
問題なのは帝国がすでに委員会に乗っ取られているということ。
そして聖国というのがはりぼてで、実際に人が住んでいる形跡がないことか。
にしても2kmの岩を落としたとか…さぞやすごい迫力だっただろう。
できれは見たかったよ。
だがいいタイミングでいい話が聞けた。
これからちょうど不死身のトリスタン君の話を聞くところだったのだ。
トリスタン君はかなり素直になっている。
まあ、自分の魂を人質(?)に取られているから逃げようがないんだけどね。
それでも尋問しようにも知らないことは聞きようがないわけで、帝国内部の情報があるだけで随分違う。
『まあ、地獄を実際に体験した後だとこんなものでありますよ』
で水を向けてみれば彼は帝国がすでに委員会の手に落ちていることを理解していた。というか乗っ取った帝国で、乗っ取った側として活動していたのだから当然だ。
ただこの話でじいちゃん伯爵と、ビアンカ母さんは目を向いて驚いていた。
自分の祖国と思っていたものが、いつの間にかわけのわからない奴らに侵略されて乗っ取られていたのだ、驚くなという方が無理。
『俺たち勇者をいいように利用し、私腹をこやしてきた奴らに天誅を下したのだ。文句を言われる筋合いはない…
と思っているですはい』
かなり心がおれてますね。
もともと気の強い性格ではないのかもしれない。
彼にしてみれば復讐のようなものなんだろう。だが周りからそれを責められると物の理非はともかくとして悪いことをしたような気になってしまう。
そう言う性格だ。
一言で言うと小心者。
同じ境遇の仲間と歩調を合わせて努力してきたけど主導的にはなれなかった。
気の弱いサラリーマンみたいなものだ。
ただ小心者だから罪を犯さないというものでもない。
小心者だから世界に与える悪影響が小さいというわけではない。
人間の考える善悪は、精霊の認識する善悪とは別のものだから。
「まあ、確かに帝国のありようというのはかなり問題があると儂も思う。
利用できるものは利用する。邪魔になれば始末する。そういうのが当たり前になっている。
前回勇者が現れたのは儂がまだ若い頃だったが…あの頃は宮廷に上がることもなかったが、勇者が随分と活躍したと聞いている。
今の話を聞けば随分といいように利用されていたということなのだろう…」
俺はその風潮に巻き込まれたわけだね。覚えてないけど。
その風潮は宮廷闘争に顕著で、地方の領主などはあまりかかわりたくないと思っているらしい。
というか地方と中央を行ったり来たりだから宮廷闘争に注力とかできないよね。
「だから私たち地方の貴族と中央の貴族は折り合いが悪いのよね」
「ノリが合わんのだよ」
地方だからあまり影響を受けなかったということなのかもしれない。
でも利用はされているみたい。
帝国の行動は、帝国の利益を求めるという流れがありながら、結果としてはいろいろなところで足の引っ張り合いや、貴族同士、あるいは他の種族との小競り合いで被害が出続けるような状況になっているようだ。
これが委員会の指金だとしたらこれが復習なのだろうか?
「委員会が帝国を乗っ取ったのは前回の逢魔時の後ぐらいかららしいっす。
帝国の宰相は代々俺らの息のかかった人間で、宮廷闘争をあおってきたんです。
そんで帝国の貴族が殺し合うのを自分ら陰で笑ってたんすよ」
トリスタン君の話で帝国の状況が随分分かってきた。
帝国の皇帝はカフラーⅣというらしい。22歳の青年王だ。
この人物は普通の人だという。つまり復讐される側だ。
問題は帝国宰相イムヘテプ。帝国宰相というのは代々世界再生委員会の息のかかった人物が継承していて、帝国の派閥抗争を勝敗が付かないようにコントロールする仕事を担っているらしい。
勝ったり負けたりで延々と抗争が続くようにね。
他にもよその地域ともめ続けるようにね。
元勇者の一人らしいんだが、どんな能力を持っているか不明。というかトリスタン君は知らないということだった。
委員会の本体は教国にあるらしい。
教国というもの自体が帝国に干渉するために作られた組織で、そのための方法としてありもしない宗教と神様がでっち上げられた。
こっちはもっと歴史が古いようだ。
「そんなに簡単に宗教とかで国を乗っ取れるものなのかしら」
「それは問題ないっす。帝国の神様が味方ですから」
ふむ。
「そうなんだ、それが分からない。普通神様なんて人間に言うことなんか聞かないぞ? 精霊って人間と完全に感覚が違うから、協力しているように見えて、実は自分たちファーストなんだ」
というかあいつらは自然現象で、しかも法則みたいなものだからな。
「それは分かんないっす。自分は精霊とかコミュニケーション取れないっすから。でも本当にこっちのいうこと聞いてくれるんすよ。
下っ端の精霊とか、貸してくれて…」
ふむ。
俺はちらりと爺さん伯爵とビアンカ母さんを見た。
確かに精霊を手下として使っていた。
となるとこれも『勇者スキル』なのか…
艶さんも精霊とコミュニケーション取れるスキルを持っているからな…ありえなくはない。
さて、どうしたものか…
「帝国に乗り込んで、とりあえず殴ろう」
ルトナよ、それでいいのか? ん? いいのか?
なんかそれでいい気がしてきたな…
とりあえず帝国から委員会を追い出すのはいい考えだ。
「しかし、帝国に巣食うものたちをそれで排除したとして、それでは帝国と王国の関係がまずくなろう。
やるのが王国の王女一行では…」
おお、脳筋の伯爵がうがったことを言う…とか言うのは失礼すぎるか。さすがに長い間貴族家の当主をやって来ただけはある。ということだな。
だけど
「いや、たぶん大丈夫だよ。
なんとかなるなる。
どうも帝国の人は信心深いみたいだからね。
そうなればよし、
なぐりこみだーっ」
「「「「やったーーーーーっ」」」」
行き当たりばったりだが…何とか乗り切るしかない。
勇者ちゃんたちと合流すれば強襲は簡単だしね。




