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1-02 魔法を使って起死回生。魔法ってどんなん?

 1-02


 俺は芋づる式にいろいろなことを思いだした。


 俺は日本の〇〇県にある上月建設という土建屋の三男坊として生まれた。

 両親は前述のとおり筋金入りのオタクである。

 兄二人はその反動でオタク趣味大嫌いに育ったが三人目で気を使った両親のおかげで俺はそれなりにオタクに育った。


 冥夜神社は子供のころからの遊び場で、長じてオタク趣味に勤しむようになっても良く通っていた。まあ神社の片隅でゲームをやったり木陰で読書に勤しんだりという感じだったけど。


 異変は高校のころ。幼馴染の凰華と良い関係になって、人生バラ色でさあこれからというときに胸の鋭い痛みで倒れることになる。心臓に欠陥があったのだ。

 以降は闘病生活に入り、病院と家とを行ったり来たり、だが決定的な治療方法もなく徐々に悪化していく病状。


「あの時病気と闘えたのは家族の励ましがあったからだよなあ」


 と思う。

 優しい両親だった。

 まあ変なコスプレを強要されるのが困りものであったがいつも笑っている豪快な父と、優しい母だった。


 兄二人はオタク趣味にまったく理解がなかったが面倒見の良い兄貴ではあった。特に年の近い虎二郎兄は色々と悪い遊びを教えてくれたものだ。

 女の子とどうするのかという知識をくれたのもこの兄だった。


 そして凰華、一緒にいるのが幸せだった。

 趣味も合った。大部分は。一部乙女ロードとか理解できない単語を発することがあったが許容範囲である。

 きっとずっと一緒にいるものだと思っていた。


 だがそれがある日突然…


 もし自分が迷惑をかけられる側なら気にもしなかっただろう。だが迷惑をかける側になってしまったのはつらかった。

 自分がいなければ彼らに余計な苦労を掛けずに済むのに…何度もそう思った。それでも病気と闘ったのは彼らの励ましがあったからだ。

 いつかは…そう思えたから。


 大学に進んで何年かがすぎたあの日、胸の痛みで倒れてそれ以後の記憶がない。


『うん、そうだね、あの時に龍ちゃんは命、落してしまったのよね…そして生まれ変わったの』


 そしてその結末がこれか、と自分の身体を、ボロボロになった体を見つめた。たぶん10歳ぐらいの男の子。これが生まれ変わった自分だという。


 これはもう笑うしかない結末じゃないかな…


 つらい闘病生活のはて・・・・・・否!


 自嘲しそうになった俺だが踏みとどまった。闘病はつらかった。人に迷惑をかけるのもつらかった。だけど俺は最後まで戦った。だからこうなっても胸が張れる。

 死が隣にあったからこそ俺はよく生きた。


「だからいいんだ。きっとこの子だって全力で生きたはずだ。変な話だがかつて俺だったこの子だもの。

 よく覚えてないけど…

 その結果がこれなら、文句はない。はず。本懐である(ちょっと言ってみたかった)」


『うん、相変わらず前向きな子で嬉しいよ。さすが家の子』


「うちの子?」


『うん、だって氏子でしょ』


 氏子は(ウチ)の子であるらしい。


『さて、それでは肝心な話をしましょうか、実は今生の龍ちゃんはまだ死んでいないのよ。そして助かる可能性があります。それのおかげで』


「それ? これ?」


 メイヤ様は間違いなく俺の左腕のガラクタを指した。そんな御大層なものには見えないが。


『龍ちゃんが生まれ変わった世界は魔法のある世界でね。それは大昔に作られた魔導器というものなのよ、魔法を使うための触媒でね、あっ、魔法は分かるわよね、龍ちゃんオタクだし』


 はい解ります。


『この魔導器を作った文明はずっと昔に滅びてしまったんだけどね、魔力エナと呼ばれる力を発見し、たくさんの魔法を編み出し、たくさんの魔道具を作りだし、とてもよく栄えたの。三〇〇〇年もの間』


 おお、結構すごい。


『でね、魔導器というのは魔法を使うための触媒でね…』


 メイヤ様の説明によるとエナという力は『強い意思に感応する半霊的なエネルギー粒子』であるらしい。

 ただ感応と言っても割合は低く、人の意思を一〇〇とした場合、エナが感応するのは普通は十五から三十ぐらい。

 このシンクロ率が六十を超えると人は直接魔力に意思を伝えることができるらしい。つまり魔法が使えるのだ。


 だがそう言う才能を持った者は当時でも少なかった。

 そこでそれを補うために創られたのがこの『魔導器』と呼ばれる道具なんだそうだ。


 まず人間がどんな魔法を使うのかイメージする。これが『人の意思』。この意思が明確であるほど威力も精度も高くなる。逆に集中していなかったり魔法への理解が足りないとまともに機能しないらしい。


 次にエナを制御するためのプログラムを構築する。これが『術式』であり、その構築が呪文の詠唱というものになるわけだ。

 ただ構築とはいっても自由度は低いようだ。

 魔法の基礎は大昔に確立していて、特定の魔法を発動させるためにはそれに対応する呪文を唱えればいい。多少は言葉を足して魔法の威力や精度を調整はできるらしいのだが基本は固定になる。あとできるのはこの基本の組み合わせぐらいか。


 次にこの術式を『実行』して世界に満ちる魔力エナに指示を出す。これをやるのが『魔導器』のお仕事だ。

 この時に魔法を起動するための燃料としてその人の魔力が消費される。


 人の意思。

 術式。

 十分な魔力。

 この三つがそろって初めて魔法は機能する。


『でね、龍ちゃんの腕にくっついている魔導器はあの文明の全盛期に作られた高性能なやつでね、所有者の保護のために生命維持システムとかいろいろ便利な機能がくっついているのよ。

 でね、龍ちゃんのダメージは完全に致命傷なんだけどこの生命維持システムが働いていて死ぬ一歩手前でとどまっているわけ』


 そうそう、そう言う話をしていたんだった。話が面白くて忘れかけてた。


『でね、普通はこの状態が続くといずれ備蓄されたエナが尽きて機能が停止してご臨終…という形になるんだけど、龍ちゃんここにいるでしょ? それが問題なのよ』


 俺は首をひねった。問題っていったい…


『おおう…龍坊じゃないか…ひどい怪我してどうした? 誰かにいじめられたのか…』


「・・・ふええ、隣のじいちゃんじゃないか。なんでこんなとこにいるのさ…」


『龍坊、大丈夫だー、すぐ薬をつけてやるからなー…あー、凰ちゃん、どこさいっただろう…凰ちゃん龍ちゃんが大変だそー、早く薬を持っといでー』


 突然声をかけてきたのは凰華の祖父の玄太郎さんだ。普通に庭園の通路を歩いてきて、普通に話しかけてきた。

 そして大変だ~、大変だ~と言いながら先に進んでいく、その内に声も止んでふわふわと歩いていく。まるで夢遊病のように…


『夢遊病は正しい認識かな、彼らはみんな夢の中にいるようなものだから』


 いつの間にか庭園には何人もの人影が現れている。ある人は楽しそうに、ある人は難しい顔で通路を歩いて行くのだがそのうちの何人かは知っている人だった。


「あの人って駄菓子屋のばあちゃんだよね、何年か前に亡くなった…」


『何年か前じゃなくてもう十何年か前だね、龍ちゃんがなくなってからもうすでに十年以上たっているのよ』


 言われてみればそうだった。生まれ変わって一〇歳ならそんなものだろう。最低でも十一、二年は経っているはずだ。

 あれ? 此処があの世で、玄爺がいるってことは…


『うん、そう、玄ちゃんも龍ちゃんの五年あとになくなっているの、ここはね、人の夢の最奥。すべての魂が安らぐところ。まあ地獄に落ちちゃうやつとか、崩れちゃうやつとかもいるんだけど、普通はここにきて、生きていた間の記憶を整理して、経験として魂の奥にしまい込んで、いつか元気に生まれ変わっていくのよ』


「へー…そりゃ…いいね」


 それはとても救いに満ちた話だと思ったよ。

 地球で生きていたとき、俺はやはり死ぬのが怖かった。もっと正確に言うのなら終わってしまうのが怖かった。

 でも終わりじゃなかった。続きがあったんだ…


「でもなんでみんなあんなにふわふわ?」

『それは良い質問ですね、お答えしましょう。龍ちゃん、人間が物を考えるのはどこで考える? どこに記憶する?』

「そりゃ…頭?」

『うん、その通り、つまり頭脳ね、でも死んでしまえば肉体はなくなっちゃうんだから、脳みそだってないよね』


 確かにその通りだ。


『でも魂にも何かを覚えておく力があって、少しだけど考える力がある。その力はたくさんの経験で少しずつ成長して、いつかしっかりしたものになるの。

 彼らはまだそこまで至らないから、死んじゃったあとは夢のように考えて覚えるのよ。

 中には生前の痛みみたいなものを覚えている子もいてね、そう言うのを癒す場所でもあるのよ、この記憶の海はね…』


 それもなんかいいね。

 とてもいい。


「あれ、でもそしたらなんで俺?」


『つまりそこが問題なのよ、龍ちゃんは良い経験をして、たくさん魂でものを考えて、ついに普通に魂で考えられるまでに成長したの。そう言う子を『英霊』と言うんだけどね。

 でいきなり話は変わるけど、エナっていうのは万物の源みたいなものでここにいる龍ちゃんもエナの塊みたいなものなのよ、霊体っていうのかな? 肉体よりもずっと自由な存在ものなのよ。

 でね、英霊というのはこのエナをたくさん持っている。たくさんの高密度のエナで構成されていると言った方が良いかな、つまり龍ちゃんの左手にくっついている魔導器はここにいる龍ちゃんからエネルギー供給を受けていつまでたってもエネルギー切れをしないってこと。

 なので龍ちゃんは致命傷を負って死にかけた状態で固定されちゃっているのよ。つまり死んでない、生きてない状態でね』


「・・・ものすごくそれってまずいのでは?」


『まずいのよ、でも物凄くと言うほどじゃないのよ、接続を切れは普通に死ぬわけだしね。でも龍ちゃんがしっかりした思考ができて、ここに魔導器があるということは龍ちゃんは回復魔法も使えるってことなの。回復魔法の中には破損した身体を再構築するようなものもあるからね。

 そしてこの世界は記憶が降り積もって形を持つ世界でもあるのよ、だからかつてあった。でも今はなくなってしまった昔の大魔法もここにならちゃんと残っていて、そして龍ちゃんはここで自由に動き回れる。つまり…』


「俺が回復魔法を使えば俺は助かる」


『はい、正解でーす』


『あともう一つ、致命傷を受けたのは間違いないから接続を切って普通に死んでこっちに帰ってくるということもできるわ。この場合英霊だからすぐに生まれ変わることもできるし、ここにとどまることもできるよ』


 そして生まれ変わるのであれば地球に帰ることもできるのだとメイヤ様は言った。

 世界の数は無数にあって同じ世界に生まれ変わる確率は限りなく低いのだそうだ。なぜなら普通の魂はただ流れに乗っていくから。だが明確な意識を持った俺ならば地球を目指して進むこともできるのだそうだ。

 そしてタイミング的にまたあの人たちに会うこともできる。

 英霊は生まれ変わっても前世の記憶を失ったりしないのだから、英霊というのは今ここにいる俺自身が自分だから。

 でも…


「回復魔法で生き返る方向でお願いします」


 俺はそう答えた。


『いいの?』


「はい、ここで生まれて死んだわけでもないのに自分で死を選ぶというのはなんというか…だめです」


 今の俺はあの子供なんだから、あの子供が死んでしまったのなら仕方がない。でも助かる方法があるのであればそれで最善を尽くすべきだ。

 自分で自分の命を区切るようなのはだめだと思う。


『分かりました。じゃあまずこれね、これは【リメイク】っていうの。破損部分を分解して作り直す魔法ね。こっちが【イデアルヒール】効果は初級回復魔法だけど、身体機能を理想値に向けて穏やかに調整する機能があるわ。大昔の魔法ね。

 再構築した部位と元の部分に齟齬が出ると思うからこれを使いなさい。

 あとこれは【ショット】の魔法。単純に魔力エナを圧縮して弾丸として打ち出す魔法。もっとも単純な魔法だけどそのだけに応用の幅が広いわ。使い方は勉強してね。

 他にもその魔導器の中にいくつもの便利魔法の術式が入っているから上手に使ってね。

 それとエナのコントロールの練習は忘れずにやった方が良いよ。きっと役に立つから』


 そしてメイヤ様は『うん、こんなものかな』と宣った。…その言葉でお別れの時が来たことが分かってしまった。


「メイヤ様、いろいろありがとう。感謝します、向こうにはメイヤ様の神社はないけどいつでも忘れません」


 俺の言葉にメイヤ様は楽しそうにくふふっと笑っていた。


『あとは下に降りて体を再生するだけ、でも気負わなくていいからね。失敗したら死んでここに戻って来るだけだから、なるようになれだよ』


 今度は俺がアハハと笑う。

 最善を尽くしてダメならそれはそれでいいのだろう。


『「じゃあ、また」』


 俺たちはちょっと出かける時のようにそう挨拶した。

 俺はまるで引き戻されるかのように自分の身体の元に飛んで行った。


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