9-06 奇襲をする。奇襲をされる。
9-06 奇襲をする。奇襲をされる。
「意外と道が整っているね」
「うん、走りやすい」
車がね。
国境の町メイカサを早々に出発した。
案内もなしに自国内を移動されたりすると帝国の連中も困るというのは分かる。
当然渋ったが今回やってきたようなコチンのような案内人ではとても信用できない。という主張は尤もで。しかも話が通らなければこの話はここまで。と、サリアが突き放してしまったので帝国としても俺たちが自力で移動するのを認めないわけにはいかなかったようだ。
まあ、ここら辺も携帯というか通信手段が双方にあるからこそできる無茶だね。
「ただ、そこまでしてこの話を進めようってのが不気味だよな。あの帝国だぜ」
「そうじゃな、当然ろくなことは考えておらんじゃろう。気を引き締めねばな」
フェ老師とキルール老師がいう。
確かに何か企んでいることがあるのかもしれない。
俺たちは現在王室御用達の魔動車のキャビンでくつろぎながら話をしている。
運転席にこちらの声は聞こえていない。
その運転席には運転手として王国の騎士さんがいて、道案内としてスール子爵が同席している。
まあ、王家で使っていた魔動車だからそこらへんは任せてしまえばいいだろう。
スール子爵に関しては気の毒としか言いようがない。
何をやっても貧乏くじを引かされるタイプの人と俺は見た。
コチンの不始末のしりぬぐいを押し付けられ、公爵家のお使いのはずが帝国の案内人を押し付けられ、しかも人任せにできずに自分で道案内をしているのだ。
こういう人ってたまにいるよね。
そんなわけで現在俺たちの乗った魔動車は第二の目的地。テシナバルに向かって爆走している。
時速60キロほどで。
時速60で爆走?
と思うかもしれないが馬車というか動物に引かせる車が主流のこの世界でそれはかなり早い。
馬車なんてせいぜい10キロぐらいしか巡航速度がないんだよ。しかも休み休みで。
休みなく走り続けるこの魔動車は極めて速いといえる。
しかも後ろには家(ナガン家)で使っているカーゴ(倉庫車両)がけん引されていて、そこには王国の兵士が50人ほど乗り込んでいる。
普通の兵士は危ない気もするが、まあ、国としては王女を野放し(?)にしておくわけにはいかないから仕方がないのではないだろうか。
さて、テシナバルの町はメイカサと帝都の中間ぐらいにある町で、帝国西部の中心になる町らしく、かなり大きかった。
門では当然止められたけど案内役のスール子爵の活躍で問題なく通過する。
結構な人数の部隊をそのまま通過させないといけないというのは国としては結構屈辱なのではないだろうか。
門衛の兵士はたいして気にも留めていないようだけど。
俺たちはそのままテシナバルで一番高級なホテルというのに通されて…
「50人も兵士の方がおられるのですか?
無理です、当方は高級で鳴らすホテル。兵士の方を50人もお泊めできるようには作られておりません」
「そこを何とか、これには帝国の面目がかかっておるのです」
「そうは申されましても、物理的にできることとできないことが…」
と、これはスール子爵とホテルのマネージャーのやり取りになる。
まあ、無理もないだろう。
先ぶれを出して打ちあわせをしたくてもこちらの方が移動速度が速いのだ。打合せなんかできるはずがない。
一応通信の魔導具で連絡だけはしていたようだが、細かい話までは無理だったようだ。
「スール子爵、かまいませんよ、駐車場だけお借りできれば、あのカーゴは生活に必要なものは一通りそろっておりますから」
そうなのだ、あれはうちの商会の移動倉庫であると同時に移動する間の生活スペースでもあるのでかなり快適にできている。
最初作った家族用の生活スペースは今はもう従業員用に改装されているので兵士の人たちが生活に使っても支障がない。
それどころか。
「できればわたくしもこちらで生活したいです」
「だよね、こっちの方が居心地いいもんね」
なんて話も出る。
古代文明で作られたキャンピングカーだからトイレとか御風呂とかもあって快適なのだ。というか以前もいった気がするが古代の人はキャンプを勘違いしていると思う。
なのでおそらく住環境としては世界有数の快適さなのだが俺たちはそれに引きこもるわけにはいかない。
「ディアストラ様でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります。それがしはコートノー伯爵家にお仕えしているアルベルトと申します。
思いがけずディアストラ様がお早く御着きでございましたので伯爵さま、ビアンカさま、ともにまだおつきではございませずに…」
なんて挨拶をしてくれるひとがまっていたりするのだ。
中年のロマンスグレーのおじさんだ。
体格もいいし眼光も鋭い。なかなか鍛えられた印象。
なんだけど。
「すみません。状況の把握が追い付きませんで、コートノー伯爵という方は?」
「これは失礼いたしました。コートノー伯爵ロビン様はディアストラ様の祖父君に当たられる方でございます。つまり御身の母上であられるビアンカさまの父上に当たられます」
じつは知ってた。
情報源はメイヤ様だから人に話せるものではないが。
アルベルト氏の話によると俺の母親であるビアンカさんはビジュー公爵家に嫁いで俺を産んだわけなのだが俺が子供のころにさらわれて行方不明になったわれだ。
証拠などはなかったが、犯人はアルフレイディアの母親とその一族。
嫌だね貴族は。みたいな話でこういう暗闘は帝国では珍しくもない。
というのも帝国からやってくる元貴族の死者はろくなものがいないというね。向こうでも話題になるレベルらしい。
「そのような事件がありまして、傷心のビアンカさまは公爵家を辞して実家にお戻りになり、そこで静養をしておいででした」
というがこれは…嘘じゃないが真実でもない。
ビアンカさんはこの事件の後、敵方に乗り込んで同じく公爵の妻であった婦人(名前はまだ知らない)に鉄拳制裁を加えたらしい。
コートノー伯爵というのは帝国の南側、ドラゴンだの魔獣だのが出るあたりの守護を役目とする辺境伯のような立場の貴族で、帝国に在っては珍しく単純で武闘派な一族なんだっそうな。
ここら辺は王国の情報機関から聞いた。
ビジュー公爵家としても武闘派で知られる伯爵家に喧嘩を売るわけにもいかず、そのまま円満離婚。
で、実家に帰ったようだ。
ビジュー公爵家ではこの手の暗闘などは日常で、帝国全体でもそういう認識があったためにビアンカさんとか伯爵本人がいきなり武力で突っかかってくるとは思わなかったようだ。
で、その伯爵家の人たちが俺との面会のためにここに向かってきている。
ビジュー公爵家は帝都で待っているわけなんだが。
「恐れながらご当主に置かれましては帝都があまりお好みではないようで、必要最小限しか足をお運びになりません。
いろいろ落ち着かないとおっしゃいまして」
伯爵家としても俺とは会いたい。
でも、帝都だといろいろうっとおしい。
ならば途中で待ち伏せをしてあってしまえばいいや。みたいな?
しかしあれか?
俺の周りには脳筋しかいないのか?
そしてその夜、結構遅くになってからなんだけど伯爵御一行が到着したと連絡があった。
もちろん非礼とされる時間なんだが、まあ、この場合は仕方ないかな。
「おー、やっぱり似てるね」
「はい、兄さまに似た美人さんです」
とりあえず一目だけでもということで会ったのだけど、まあ、確かに親子なのかな? というぐらいには類似性を見出した。
感覚的に親子という感覚が全くないのが問題だが…
「ああっ、ディアストラ…よかった…よかった…」
どう対応していいやら…困る。




