9-05 予定変更せざるを得なくなったので、帝都を強襲しよう
9-05 予定変更せざるを得なくなったので、帝都を強襲しよう
「サリア様!」
コチン氏がいきなりポーズを決めてでかい声を張り上げた。妙に芝居がかった声だった。
「コチン、ナゴーニャと申します。この度、帝国と王国の友好の懸け橋、サリア王女殿下の案内役を恐れ多くも拝命いたしました。
このようなお美しい王女殿下と巡り会えたのも我が偉大なる皇帝陛下の恩寵。
陛下におかれましてはこれまでの種族差別を見直し、王国とともに異種族と繁栄の道を歩みたいとのお言葉。
吾輩も素晴らしい未来に胸が高鳴る思いであります」
一言ごとにシュパッ、シュパッとポーズを決めてしゃべるコチン。
でも全くこっちを見ようとしないんだよな。
いつまで続くんだこの愉快なダンスは?
ちらりとスール子爵を見ると頭痛をこらえるように頭を押さえている。
良かった。どうやら帝国も変態ばかりではないらしい。
「時にコチン殿は個人的に獣人や妖精たちと仲良くやっていけると思っているのかな?」
ちょっと質問を挟んでみる。
「もちろんでっす」
堂々と嘘をつく奴だ。
じつに外交官向きの人材かもしれない。
普段の言動をどうにかすればね。
以前本でウソつきに必要なのは記憶力だと読んだ記憶がある。
以前ついた嘘を覚えていないとウソがばれるからだが…これはもうそれ以前だな。
嘘がばれないようにしようという意志が感じられない。
というかそんなことを考える頭もないのかな?
「獣人も妖精も我らの隣人。
尊重すべき朋友です。
確かに不幸な過去がありました。ですがこれからは未来志向で彼らと手を携えてゆかねばならないと考えておりまっす。
どうぞ帝国内での案内等は吾輩にお任せくだっさい。
帝国が本気でこれからのことを考えていることを証明できると存じまっす。むふん」
パチパチパチパチ。
サリアが拍手をした。
確かに面白い見世物ではあった。
「コチン殿。大変に面白い見世物でした。ですがそろそろ真面目な話をしたいのですが?」
「サリア様、わたくしの言葉は真剣な…」
頭をさっと振り、前髪の毛があったら〝ふぁさっ〟といった感じで翻るんだろうが残念ながら彼の髪型は〝うんちくん〟なのでこう、乗っているのがプルルンと揺れる感じ。笑える。
その後なんか目をバサバサさせながらサリアを見て…
「むふん?」
首をひねった。
そして視線を横に振り、その視線は俺の上を通りすぎて、ルトナに止まりギョッとして、またサリアを見て口を開いた。
いやー、人間の顎がカクーンと落ちるのを見たのは初めてだよ。
カクーンというのはなかなかに適した擬音だね。よくあっている。
とここでおとなしかったスール子爵が登場。
「サリア殿下、見世物というのは…否定はしきれないのですが、少々お言葉が過ぎるように存じます。
帝国は王国との友好のために…」
「あら、でもコチン殿はそれどころじゃないみたいですけど?」
「は? それはいったい…」
サリアが俺に目配せをするので俺は昨日の一件を記録映像として投影して見せてやった。
左手の魔導器、アルケミック・マギ・イクに装備された設計補助のエディターの中に映像、画像処理ソフトもあるのだよね。
一部始終なのだけど、一部プライバシー保護のためにモザイクを適用しています。
その映像の中では獣人蔑視の言葉を、思想をわめき散らすコチンの姿が。
見ているうちにコチンの顔色がどんどん青ざめていく。
実は後ろに控えた護衛の人たちはコチン氏のパフォーマンスを止めて前を見させようとしていたんだよね。
でもその思いは届かなかった。
で恥の上塗りなわけだ。
常識人らしいスール子爵はサリアの態度が失礼だと思ったらしく、やんわりと口を挟んできたのだけど、この記録を見せられれば馬鹿にされて当然と思ったのだろう。
黙って青ざめている。
逆に王国側の人たちは赤くなって怒り心頭。
さあ、どうやってまとめようかと考えていたら。
《マスター、あれは良くないであります》
言われてみるとコチンの様子は完全にパニック。
青ざめて目がせわしなく泳いでいる。
追い詰められてなにをしていいかわからなくなって思考が堂々巡りしている人間だ。
外罰的な人間はこういう時にすべてを人のせいにして、他人をひたすら攻撃するんだよね。
(モース君、プレッシャーかけてくれる? 恐怖感をあおる感じで)
《任せるであります》
水の精霊というのは人間の精神にかかわる精霊だから。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
次の瞬間コチンか切れた。
立ち上がり、わめきながら、ドアから外に飛び出していく。
よしよし、まかり間違ってサリアに切りかかりでもされたら帝国との会談自体が流れてしまうからな。
これならやり様はある。
結局、護衛を押し倒し逃げ出したコチンだったが屋敷の衛兵に取り押さえられて捕まった。
一番割を食ったのはスール子爵だろう。
この状況で帰るわけにもいかず、帝国の執政官とだろうか頻繁に連絡を取りつつ事態の収拾というか王国との折衝に追われている。
大使館から人も飛んできて話は大いに盛り上がっているようだ。
俺もあの映像を見せるために何度か呼ばれたりした。
外交官は本国と連絡を取るための携帯、これは勇者が作ったものらしいんだけど持っていて、帝国政府とやり取りをしつつ話を進める。
結局のところ、スール子爵が暫定で案内人に任命されて、俺たちの案内をすることになった。
ただし彼の護衛は最低限。
サリアの護衛は最大限で魔導車を使って一気に帝都に向かい、そこで対話をすることになった。
これはサリアというか俺たちの意向だ。
帝国内部に侵入した艶さんや勇者ちゃんたちへの援護も必要だし、帝国内部でのさばっている可能性のある世界救済委員会の調査もしないといけないので、ここで帰らないといけないなんてのは論外なんだよね。
魔動車のカーゴは人の住める拡張空間。
しかもスピードと防御力を考えればかなり無茶ができる。
《どうしてもやばくなれば全員でフラグメントに避難とかできるでありますから》
まあね、それはできるんだけど、あそこって一応幽世の一角なんだよ、あんまり人がいていい場所ではない。
だから最後の手段的にね。
◇・◇・◇・◇
翌日、話がまとまったという理由で俺たちはいきなり出発した。
途中寄る場所は一か所だけ。
それで帝都までの強行軍。というよりほぼ強襲だ。
どうせくさった臭いでやばいやつは分かるんだから大した手間はかからないだろう。
よーし、行ってみよう。
◇・◇・◇・◇ side 流歌
「艶さん、上陸、簡単でしたね」
「ええ、さすがに海岸線をすべて警戒するなんてできませんし、ましてこの魔動船、崖とか関係ないですからね」
海からの侵入を警戒するのなら船が近づける場所が警戒対象になるのは当たり前。
この辺りは断崖絶壁なので警戒所もないし人もいない。
海面ぎりぎりを進んで崖に出たら飛行に切り替えればそれで上陸完了。
「この魔動船は強襲揚陸艦と呼ぶべき」
「翔子ちゃん普通の強襲揚陸艦は空は飛ばないよ」
「飛んでたよ」
人型起動兵器を乗せた奴はね。
でもあれは現実にはないから。
あったらうれしいけど。
「でもこの世界ならあれも作れるかもしれない。早まったかも」
「あー、そういうものの考え方はしなかったよね。うーん、確かにちょっと早まったかも」
確かにあんな空飛ぶ船を作り出せる可能性がここにはある。
「でも仕方ないよ。これが我らの進む道」
「そうね、仕方ないよね」
「何の話か分からないけど、今度は高度を取ってずっと奥に行きますよ」
艶さんの声でアニメ談議が中止になった。
艶さんて戦国時代のお姫様なんだって、そっちはそっちでロマンを感じるよね。
ちなみに高度を取るのは私たちの発案だ。
普通人間は空の上なんて見上げない。
日本にいたときだって空を見上げて何かを見つけることなんてほとんどないんだ。
飛行機を見るのは飛行音が聞こえるから、聞こえなければ誰も気に留めない。
なので高度を取ればまず見つからないし、見つかってもなんだかは分からないだろう。
1000mぐらい取れば問題なし。
このまま帝国の奥深くに侵入し、件の遺跡を調査するのよ。
「人類の未来のために」
「人類の未来のために」
うん、なんかヤバ気な秘密結社めいてGood。
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いつもありがとうございます。
勇者ちゃん達、地球に帰れるのが確定したからちょっとはしゃいでますね。




