9-01 準備中
9章開始です。
予定よりちょっと遅れました。
ゴメン。
第9章
9-01 準備中
俺たちは帝国に向けて出発した。
いきなりだなと思うかもしれないが、諸々大掛かりなので急がないといけないのだ。
一番の問題は全権大使としてサリアがいることだ。
護衛の戦力は十分だといえるだろう。
なんといっても獣王が三人もいるのだ。
剛獣王、裂獣王、舞獣王。
舞獣王はルトナの二つ名だ。戦う姿が美しすぎたからとか何とか?
百花闘王なんて別名までついた。
本人も気に入っているようだからまあ、いいだろう。
爺さんたちは来なかったのか? という話だがこちらは断られた。
爺さんにライラさんにイルクヨマさんまで行きたいとか言い出したんだけど獣王は一軍に匹敵する戦力。
そんなのが6人もまとめてきたらそのまま戦争になってしまう。
考えてみればアリオンゼールは懐が深い。
自分の国の中をそんな化け物が好き勝手に動いていても肝要に許しているのだから。
なので護衛はこの三人で十分と言えるだろう。
それでもばれれば十分に警戒されるような話だ。
なので表向き、護衛の獣王はルトナ一人ということになっている。
師兄弟で幼馴染で義姉妹だから獣王でもルトナは動かしやすいし、新人というのも印象が柔らかい。
剛獣王のフェさんと裂獣王のキルールさんは今回ルトナの登極があったので二人そろって引退を表明した。
なのでここにいる爺はただの獣人のジジイなのだ。
そういうことなのだ。
無理矢理な話だがばれなければいいのだ。
ちなみにここというのは移動要塞の上。
サリアの護衛の戦力はもう十分。というぐらいあるのだが、一国の王女がそんな気軽に動けるはずもなく、随行する外交官とかがつくし、護衛だって目に見える見栄えのするものが必要になる。なので軍隊も百数十人がついてくる。
かなりの大所帯だ。
その人数でぞろぞろ馬車なんか使っていられないので移動要塞で国境まで移動してそこからは馬車などを使って移動することになっている。
現在は移動要塞でシュシュポポと移動中。
やっぱり国同士の話というのはなかなかに面倒くさいのだ。
なのでまじめにやっているのかと言えばさにあらず。
甲板で宴会をしていたりする。
いや、兵士の人たちはまじめにやっているよ。
騒いでいるのはうちのメンバーだ。
今回はフルメンバーである。
それに加えて艶さんと彼女のメイドのリリアさん。十兵衛みたいなミツヨシ氏という人も一緒に来ている。
国境からはサリアは魔動車を使うことになっているので艶さんたちと勇者ちゃんたちは魔動船で分離することになっている。
これは一緒に来ている人たちにも内緒なので見つからないようにしないといけない。
その後は魔動船の飛行能力を使って隠密行動をしてもらう。
艶さんたちによれば帝国の中にある『聖国』という都市国家に『降臨の遺跡』と呼ばれる遺跡があり。
どうもこれが一番事態を悪化させている。
以前からこれをどうにかしたいと考えていた艶さんたちだが世界救済委員会のガードが固く手が出せなかった。
だがここにきて状況に変化が生まれた。
「世界救済委員会のメンバーがこのところずいぶん倒れています。
今なら戦力も薄いはず。
いまの勇者たちが向こうに取り込まれる前にここを使用不能にしたいのです」
ということになる。
ただこれは帝国なんかがお題目として言うように勇者が降臨する遺跡ではなく、世界の境界が揺らぐ時期に狭間に落っこちた異世界のものを救い上げる遺跡で、勇者というか人間はそれに引っかかってこちらに来るというのが真相だ。
つまりこれが停止するとこれに引っかかるはずだった人間がそのままお亡くなりになるということでもある。
それを聞いて艶さんたちは少し悩んだようだが。
「これがなくなれば確かに亡くなる方も居るでしょう。ですがこれがあるためにより多くの人が命を落としているのです。
それにこの世界の事はこの世界の人間の営みで決まるべきです。異世界から落ちてきた私たちのせいで大きな被害が出るというのはあってはならない事ですわ」
さすがもともと人の上に立つ立場の人。なかなかに肝が据わっている。
俺は所属がこの世界なので、そして冥界なので艶さんの意見を全面的に支持だ。
亡くなる人には亡くなった後でちゃんとフォローしましょう。
まあ、納得はできないかもしれないが、立場で出来ることすべきことは変わってくるからな。
艶さんたちにはぜひそこの破壊なりなんなりを成功させてほしい。
■ ■ ■
さて、ちょっと余談だが今回の帝国行と関係のない話を二つ。
一つはうちの親のことだ。
ルトナのことがあるので獣神大武祭に参加したい。と言っていたうちの親たちだが、ちゃんとやっては来た。
だが来た時には神獣との戦闘が終わっていて、結局いいところを見逃すことになった。
母さんがすさまじく悔しがっていた。
何に対してかは微妙だが。
その反動で帝国についてくる。とか言って大騒ぎを、エルメア母さんがしたのだが、使節団の主要メンバーが父兄同伴というわけにはいかないので当然却下だった。
クラリスさまに諭されて泣く泣く諦めていた。
身分はかなり違うのだが、獣人はあまり身分なんかは気にしないのでいい友人関係であるらしい。
ただママ友同士の関係なのでくわしいことはしらない。
とこれが一つ。
あと一つが勇者ちゃん関係。
「「えっと、私たち、地球に帰ることに決めました」」
という話を受けた。
随分悩んだと思う。
だが、結局地球に帰ることに決めたのだ。
外国に移住した人だって長い年月には『日本に帰りたい』と思う人がいるのだ。
同じ地球の上、飛行機に乗れば帰れる環境であってさえ、そう思う。
それが自分の世界ということなんだろう。
まして帰りたくても帰れない環境にいればなおのこと。
この申告を受けてメイヤ様が地球の凰華と虎次郎兄に支持を送り、召喚魔法陣の構築を命じた。
虎次郎兄は最初は信じていないようだったが刃傷沙汰の果てに信じることになったらしい。
というのはメイヤ神殿で血を流すと神域とのシンクロ率が上がるみたいで、凰華が虎次郎兄を神社に連れていって刃物でけがをさせたんだってさ。
思い切りのいい女だ。
そしてその夜、虎次郎兄の夢枕にもメイヤ様が立つことになり、さすがに信じることにしたみたい。
ここまでやんないと動けないって、本当に男ってのはな。
いや、子供のためなら何でもできる女がすごいのか。
というわけで今地球ではメイヤ神殿で魔法陣の構築が進んでいるらしい。
これが完成すればあとは勝手に魔法陣に力がチャージされ、魔法の存在しない地球でも二、三年で流歌の召喚がいや、召還か? まあ、とにかく地球に帰ることができるようになるだろう。
実はあと一人ぐらい地球に呼び戻せるらしいのだけど艶さんたちには涙をのんでもらった。
今更大昔の人が地球に帰ってきても歪みが大きくなるだけだし、現代のことを考えれば帰ったところでまともな生活はできないだろうしね。
こんな感じでいろいろなことが進行している。
何とか諸々上手い落としどころに持っていけるといいんだけどな。などと思っていたりするのだ。
さて、国境の町が見えてきたぞ。
9章はクライマックスで、うまくいけば最終章になるかなと。
そんな感じで参ります。




