8-16 獣の聖地
8-16 獣の聖地
スパッと飛んで獣神大武祭に向かいます。
まあ、ここまでもいろいろあったので軽く説明を。
まずマルディオン王子だが、四名ほどの護衛をつけて、高速でアウシールまで送り届けました。
今回はお互いのために全力飛行だ。
馬鹿な人ではないのだが、最近は少々、サリアに嫉妬する感じがあり、そして家のメンバーは全員サリア派だ。
いや、別に派閥とかあるわけじゃないんだが、サリアは武術を学ぶ上で同門なので完全に身内扱い。
実はあいつは獣王連中にも妙に人気があるのだ。
しかもナガン家というのはエルフとも仲がいい。
付き合いがあるとそれが広がっていくもので、もともとの称号もちだったのは俺とルトナだったのだが、くっついて出入りしているうちにサリアも『わが友』の称号をもらっていたりするのだ。
ここら辺が人徳というものかもしれない。
ちなみにだがエルメア母さんは『ママ友』とか言う女性が苦労を愚痴り合うような関係を築いていたし、シャイガ父さんは『被害者の会』という、一部の暴走エルフの被害を被ったものたちの『慰め合う会』に参加していたりする。
もちろんシャイガ父さんの被害はエルメア母さんからもたらされるのだが、相通じるものがあるのだろう。
というかエルフの中にも一部良識のある人がいた。というね。
あの連中って全部天樹から生まれるから全部あんなか? と思ったらそうでもなかったらしい。
いや、話がそれたな。
つまり俺たちと付き合っているサリアにはエルフとの友好とか、ドワーフとの友好とか、旅猫賊との友好とか、獣人種との友好とか、そういう目に見えない力が期待できるわけだ。
マルディオン君もちゃんと教育を受けていて、決して悪い人ではない。
実際、国内の評価は悪くないのだ。
それに今回の帝国との交渉を見ても決して悪くはない結果を出した。
正攻法で粘り強く交渉し、引くべきでないところは決して引かない見事な交渉だったと聞いた。
非凡といってもいい人物なのだ。
ただ派手さはない。
先代の国王も、今代のクラリス様も破天荒で、非凡というよりは天才型でわけのわからない理屈で妙な着地点を見つけてしまうところがある。
外連味がありすぎるというか、民衆に受けるんだよね。
ただ政治をそういうレベルで語ってはいけない。
ただ二代もそういうのが続いていて、この国はいい国だといわれるようになっているのでここで方針の転換というのは勇気がいる。
なのでサリア女王待望論などというのが出てくるわけだ。
結局未来の選択なのでどちらがいいかなんてわからないものだから何とも言えないけど、サリアに嫉妬するのを乗り越えられれば彼はいい王様になるのではないか? と思っている。
《彼もまだ若いから、これからに期待でありますな》
『そうだね、いいところに落ち着いてくれればいいけど』
だけどもまあ、明らかにサリア派と思われる俺たちと一緒では気づまりなようで、雰囲気が暗いのでできるだけ急いだ。
学園についた時、臣下に嫉妬しないことは君主として重要な才能である。と一応説いてはおいたよ。
サリアが人に嫉妬しないのは求めているものが違うからなのだから。
■ ■ ■
さて、サリアを回収して今度はみんなで北に行く。
獣人の聖地といわれるところだ。
これはアリオンゼール王国の北にある北部大草原の奥にある。
あの衝撃亜竜とか、大食らいとかが跋扈しているあそこだ。
あそこをずっと行くと遺跡があるのだ。
かなり大掛かりな、都市丸ごとといった感じの遺跡。
この遺跡が獣人の聖地。
彼らの信仰する獣神の聖地。
一般には知られていないがここって実は迷宮になっている。
古代都市の下に大空洞が重なるように存在し、それが丸ごと迷宮になっている。
多くの恐竜系、獣系の魔物が生息し、しかも多層構造のどこまであるかわからない迷宮。
当然獣人たちの格好の修業の場となっていたりする。
だが人が住むような場所ではない。
地下が迷宮で外は魔獣蠢く大草原。人の生活には全く向いていない。
普段は管理するための少数の人員と、修業に明け暮れる獣人がわずかに常駐しているぐらい。
そして年に一回、この祭りの時期に獣人たちが、いろいろな物を持ち寄りつつ集まってくる。
一年のうち一か月ほどの祭りの季節なのだ。
「さて、ここからは空からの侵入は失礼ということなので、地上を行きます」
「「「「「おーーーーーーーっ」」」」」」
俺たちはある程度の所で降りて陸上型の魔動車に乗り換える。
サリアお気に入りのネ〇バス型のやつだ。
どんな所でも走るし乗り心地もいいのだ。
ただ困ったことにヒャッハーな獣人たちがやってくる。
「待ちやがれー」
「珍しい魔獣だ!」
「捕まえろー」
「ヒャッハー」
これはあれだよな。猫とかが目の前をちょろちょろ動く猫じゃらしに飛びつかずにいられない習性的な何か。
「私も獣人的な性質を持っていると思うんですけど、あの感覚は分からないです」
サリアがほほに手を当てて嘆息するが、こいつは目の前で獣人の尻尾が揺れていると飛びつくからやっぱり似たものだと思う。
しかしヒャッハーな人たちは放っておくと攻撃してくるので迎撃が必要だ。
「いいウォーミングアップになるね」
ルトナが屋根の上に出て、俺が手渡すボール(木で作った玉)を次々に投げてヒャッハーたちを撃墜していく。
「うりゃ」
「とりゃ」
「たりゃ」
なんか全方位シューティングみたいになっている。
「ねえさまねえさま、私も、私もやる」
サリアまで参戦してしまった。
「ちょこまか動くものに玉をぶつけて何がおもしろいのかしら…」
クレオはぶった切れない存在には興味がないらしい。
夜になると大鍋で料理を作り、盛大に肉を焼き、寄ってきた自由人な獣人に高額で売りつけるフフルとかが活躍し、勇者ちゃんたちは観光気分でキャンプを楽しみ、さすがにメンバーの選抜を間違ったか。
と俺が真剣に悩み始めたころその遺跡都市は見えてきた。
まあ、普段はいい感じの遺跡なんだが、今は学園祭の高校みたいになっている。
「うわー、変なワームが出たー」
「仕留めろ、うまいかもしれねえー」
やっぱりここでも舞い上がった馬鹿が突っ込んできて、ぶちのめして町に入るのに少しかかってしまった。
こういうノリには若干ついていけない俺なのだ。
「兄さま楽しいですね」
そうね、ここはほんとお前向きだよ。




