8-15 天翼族の就職と帝国からのご招待
8-15 天翼族の就職と帝国からのご招待
「おのれー、だましたなー」
「うるさいお黙んなさい」
バコン。と景気のいい音が鳴った。
人聞きの悪いことを言うな。といおうとしたが隙が無かったよ。
俺たちは現在、王都アリオンゼールに来ている。
天翼族たちの就職先として王宮の魔法研究所を勧めたのだ。
ホルガーアイセン氏の実力はかなり高いものだった。
件の魔法陣も際限なく魔力を吸い上げるものから時間単位当たり定量の魔力をくみだすものに改良されていて、その魔力の砂は少し普通の肥料に混ぜるだけでよい肥料になるのだ。
とはいっても大地の力を吸い上げるのは同じなのだけど、ほらあるでしょ。魔力が際限なくあふれて困る場所があっちにこっちに。
そう、あの魔法陣は迷宮で肥料を生産するのに使えるものへと変わっていたのだ。
際限なく魔力を吸い出すと迷宮にどんな影響があるのかわからないけど、定量で調整しつつであれば有用性は高い。
あくまでも余剰分を使う感じでね。
というわけでホルガーアイセン氏は王国が運営している魔法研究所に売り飛ば…ドナドナ…就職することになった。
とはいっても性格に問題のある彼がそのまま就職などしても役には立たない。コントロールユニットが必要だ。
というわけでミスチルさんも同じ場所に就職。
お仕事は…まあ、魔法の改良ぐらいはできるらしいけど、一番はホルガーアイセン氏のコントロールだね。
まあ、頑張ったんさい。
クレオのおばのスルスチルさんはなぜか家に就職した。
ブティックの店員さんだ。
あと住み込みなので料理などもやるらしい。
彼女は見た目は若くて美人だし、しかも料理の腕がいい。料理勘がいいというのだろうか。たぶんそれっぽいスキルを持っているのだ。
それに天翼族は珍しいからね、客寄せのパンダとして活躍できそう。
貴族家というので緊張していたらしいけど、まあ、大きな問題なし。
むしろ人間を全く見下す感じがないのでびっくりするぐらいだ。
どうもそういう家系らしいね、クレオの母親の家系って言うのは。
まあ、ホルガーアイセン氏だけがちょっと。ということか。
ホルガーアイセン氏の奥さん。名前が出てなかったけどナルミアさんというらしい。男の子は5歳でエルネスト君だ。
ナルミアさんはナガン家のお手伝いとして働くことになった。当分は。
子育てがもう少し余裕を持てるようになったらちゃんと考えるらしい。
現在は子育てをしつつナガン家のお手つだい。という感じだ。
ちなみに彼らが暮らすのはわがナガン商会の社員寮だ。
けっこういいんだよ。家で働いている人高級取りだし、建物も調度もちょっとしたものなのだ。
あと王国としては天翼族と帝国との関りが今後どうなっていくのか気になるらしい。のでそちらへの協力もあるようだ。
まあ、生きていくのに支障はあるまい。
ただ天翼族を移民として大勢受け入れるかについては熟考中だ。
やはり全体として彼らは人間を見下す傾向がある。
そういうのがないものならば少しずつ受け入れてもいいという方針らしいね。
さて、それはさておき。
「帝国ですか?」
「そうなの。サリアといってくる気ある?」
クラリス様に呼ばれていったらそんなことを頼まれた。
帝国にというのはまあ、ついでもあるからいいんだけど、どういう思惑だろうか?
「そうね、まず向こうがディアちゃんのことをお詫びに招待したいといってきたのが一つあるわね」
お詫び…お詫び…ああ、暗殺部隊の話か。
「あれはビジュー公爵家の公子、アルフレイディアだったわね。彼の独断専行だったということで正式に謝罪が来ているわ。
理由としては…」
そのアレフ公子はその昔、家督争いのライバルだったディアストラ公子の暗殺を企てた。
といっても子供のころのことなのでやったのは当然母親とその実家ということなのだが、その殺したはずの兄が実は生きていた。と思い込んだ公子は自分の統率下におかれたばかりの影を使ってもう一度その人物の暗殺を謀った。
まあ、その人物というのは俺のことで、当然結果は失敗。
大黒星なわけだ。
「公子は現在謹慎中。かなり厳しく罰せられるだろう。と帝国から話があったわ」
「その殊勝な態度が気持ち悪いですね」
「そうでもないわよ、その公子は今回暗部の存在を完全に明るみに出してしまったわけでしょ。
帝国としても処罰しないというわけにはいかないでしょう。
どうせ処罰するなら関係改善のために役に立ってもらおう。ということだと思うわ」
「公子を処分して、暗部を解体、処分。表向きはそれで裏では新しいのを作ると」
「まあ、そんなところでしょう。
お詫びということなのでお前らが来い。といってもいいんだけど、帝国がしつこくご招待をしたいといってきているのよ。
どういう目論見があるのか…」
「でもほら、ディアちゃんの奥さんってルトナちゃんでしょ? 獣人で、帝国ではまあ、権利が制限されている。
そこら辺を見直すようなことをにおわせてきていてね、こちら側としては、それはどうしても飲ませたい話だったりするわけ」
「それに帝国の内情というのも気になるし、というわけで、いっそのことディアちゃんに行ってもらって、少し揺さぶりをかけようかなって。
でも余計なちょっかいは嫌だからサリアをくっつけてやって、婚約中という事でね。
それに帝国がろくでもないことを考えていてもディアちゃんならどうとでもなるでしょ?」
うーん、まあ、ぶっちゃけ、みんなをフラグメントに避難させてしまえばあとはどうとでもなるんだよね。
でもなんかめんどくさそう。
「もちろん十分な護衛もつけるよ。表向きは獣王を二人ぐらい連れていってもらって…」
ゲッ、それって護衛になるのか? 喧嘩売りに行くんじゃないのか?
「あー、やっぱりそうなるかしら…
他にも艶さんたちの所からも護衛を出してもらおうと思うのよ。まあ、最悪獣王様はあきらめるにしても、艶さんたちがいればまず安心だから」
ここでちょっと考察タイム。
艶さんたちがいれば、もし委員会がいた場合、というかおそらくいるんだと思うんだけど、たぶん釣れるよね。
そうなると大きな歪みの元を討伐できるかもしれない。
うん、こう考えると悪い話じゃないな…
「時期的にはいつ頃ですか? ルトナは今回獣神大武会に参加しないといけないから…」
「ああ、それは大丈夫よ。大体半年は先だから」
なんて気の長い。と思ったが、落ち着いて考えれば不思議でもない。
地球でだって要人の訪問は何か月もかけて調整するんだ。
この通信能力のお些末な世界ではたぶん調整に半年というのは結構早い方だと思う。
とすると、まず大武会をこなして、それが終わったころに予定が決まってゆるゆると出発。という感じか。
「わかりました。行ってみましょう。私も帝国には非常に興味があります」
「よかった。じゃあその方向で準備するわ。
サリアも喜んでいたし、万々歳ね。
まあ、マル君がすねそうだけど」
マル君というのは当然マルディオン王子のことだ。
彼はサリアの人気が上がってきているのを心配しているんだよね。
部下に嫉妬しないのも王者の資質なんだけどなあ…
その後、予定として少し後にマルディオン王子を連れてアウシールに行って学校におっことして、代わりにサリアを拾って王都に戻って、その後大武会に向かう。という流れになった。
サリアは直接大武会に行きたいみたいなことを言っていたけど、『あんたもたまには実家に顔を出しなさい!』 と、どなられておとなしくなった。
その夜『なんでお母様に携帯を渡したんですかー』とか泣きの入った通信が入ったけど、仕方ないじゃん。こればかりは。
何があってもサリアとクラリス様のホットラインを作らないなんてないよ。絶対。
まあ、サリアの成長に期待しよう。
さて、俺も準備しなくちゃ。




