8-10 復活の日
8-10 復活の日
それで結局どうなったかというと全く問題なく穴掘りは完了した。
穴掘りの場合出た土をどうするのかという問題があったのだが、それは全部俺の収納に放り込まれた。なので俺たちの前には太さ20cm、深さ30mほどの穴が開いている。
《意外と早かったであります》
「そうですね、30mでまともな地層につくんなら軽症ですね」
いやいや、地表から30mが完全に砂漠化したら大問題だよ。普通は土地の復活なんて望めない。
30m掘り返して土の入れ替えとか、考えただけでめまいがするからね。
でも今回はそんなことはいらない。
モース君の掘った穴に冥府の石を投入する。
フラグメントの中の石なのでもともとが冥界の石だ。
物理的なものに見えても実はちょっと違う。
霊的な石なのだ。
この石に領域神杖無間獄から魔力を注ぐ。
どんどん石を構成する魔力が濃密になっていく。
《かなりの量でありますな。最初のエネルギータンクとしては1年は大丈夫でありましょう》
うん、いい感じだ。
属性が揺らがないようにメイヤ様の聖印を刻む。
そしてこの石を穴に投入。
ひゅーーーーっ…
「ぽちゃんとか言いませんね」
「いや、井戸じゃねえし」
その代わりに穴の底から群青の光が沸き上がってきた。
吹きあがるのではなく穴を満たすようにせりあがってくる。
まるで群青の井戸のようだ。
「そしたら次は」
収納から土を出して穴に戻す。
ここは植樹っぽく周りに出してみんなで穴に土を落としていく。
そして穴が埋まったところで華芽姫の枝を取り出してそれを地面に突き刺すのだ。
結構力を入れてしっかりと。
枝は魔力を吸い上げてあっという間に根付いていく。
幹の部分がズンと太くなり、見えないが根っこが地中に伸びていく。そして枝が広がりあっという間に1mほどの若木に成長したのだ。
華芽姫はその木の前に立って満足そうに頷いていた。
《かつて私であったものは切り倒してもっていくのですよー。きっと役に立つのです》
「そっか。わかったよ」
ルトナが愛しそうに華芽姫の頭をなでる。
そしてみんなで木を切り倒し、きりわけ、朽ちた部分を取り除いてしっかりした部分だけしまい込む。
まあ、ちょっとしたブロックのような木材だ。
これはモース君にフラグメントの中に持ち込んでもらう。
静かだ。
復活の朝というのはこんなに静かなものなのだろうか。
「さて、せっかくだから宴会でもしようか?」
「うわーい、さんせー」
「おいしいものを食べよう」
「お酒も出しましょう」
そうして真昼間から宴会が始まった。
魔動船が出され、キッチンで料理が作られ、酒も出されてみんなが食べて飲んだ。
ばあさんは泣いていた。
つられたのかルトナたちも泣いていた。
ルトナもクレオも勇者ちゃんたちもなぜか華芽姫のそばを離れなかった。
木の方の華芽姫は嬉しそうに揺れ、そしてはげ山だった山のあちこちに、早くも緑がよみがえり始めた。
一度にすべては無理だろう。
最初は雑草からだ。
木の芽のようなものは以前生えていた木が残した種からだろう。
この山を中心に少しずつ大地はよみがえっていくのだ。
一か月もすれば山の近くの農地はまあ畑として復活するに違いない。
数年もたてば砂漠化したこの辺りも元に戻るに違いない。
素晴らしい瞬間だった。
「おっといけない」
《どうしたであります?》
「いや、ここの代官にこのことを知らせておかないと」
《ああ、そうでありますな》
それにここの農地が復活するとなれば村人の争いが始まるに違いないのだ。
ここがすでに王領であるということを明確にして、村人を募集して、御上が農地をちゃんと割り振っていかないといけない。
以前の村人がここでまたやりたいというのであれば何らかのペナルティーが必要になるだろう。
この大地をこんな風にしたのは結局彼らなのだから。
だまされただけというかもしれないが、それでも利益は享受してしまったし、精霊たちの観点から見れば搾取した側に違いはないのだ。
等価交換。得た分は背負わないといけない。
まあね、それを言っても仕方がないので村を見捨てたことを理由に新しい入植者を優先するって屁理屈を通すのだ。
この世界の為政者は法による支配を受けていないから過去の行動から信用できないは立派な根拠になるのだ。
《しかしあのご老人には配慮が必要でありますな》
当然そうなる。
等価交換の理屈でもばあさんは何も受けてないし、それどころか状況の悪化の防止のために駆けずり回っていたわけだからね。
「とりあえずお社でも立てて社守りということで年金でも出すようにしようかね」
《よい考えでありますな》
ばあさんの家族ってのがどんなかわからんから一応フォローは頼んでおこう。
そこらへんも含めて代官のルシアノ卿に話を通しておく。
かなり真面目な人で俺の意見をくんですぐに王都に連絡をすると言ってくれた。
ここら辺は彼の仕事の領分だからそれでいい。
だけど、クラリス様には話を通しておかないとだめだな。
一度先行するか。
山に帰ると宴も終盤だった。勇者ちゃんはつぶれているし、ばあさんもうつらうつらしている。
とりあえずみんな魔動船に放り込んだ。
そして翌日。
俺たちは魔動船でこの村を旅立った。
みんながお山とその木のもとにいるばあさんに手を振った。
「寂しいですね」
なぜかしんみりしている。
みんな目がウルウル。
クレオが涙声でぽつりと言った。
「華芽姫ちゃん…」
《はーい、なんですか~》
すぐに返事があった。
「「「!?」」」
「なななっ、なんで華芽姫がここにいるんですか?」
「えっ? いやだって今回の旅のメンバーだものいるでしょ」
詰め寄ってくる勇者ちゃん。へんな子だねえ?
なんてね。
「君ら、華芽姫がここに残ると思ってたのか?
それは勘違いだぞ。
精霊というのは人間と違うから二つに分かれたりしても別に問題ないんだよ。というか華芽姫がここにいて依り代である分身が向こうにいるから必要に応じて力を投入できるのだよ。
それに華芽姫も上位精霊だからね、配下の精霊だっていっぱいいる。
指揮官はでんと構えてないとね」
まあ、たぶん勘違いしているなというのは分かってた。
でも黙ってたんだ。なんか面白そ…あて。なんか飛んできた。
女性陣が涙目でいろいろなものを投擲する準備を…
「あっ、こら、フォークとかナイフとかは投げるものじゃないぞ」
俺の制止は無視された。
俺は跳んでくるものを華麗に…ならいいんだけど漫画ちっくによけて…
こりゃ溜まらん。
《悪ふざけが過ぎるのであります》
《悪ふざけは~たのしいですね~~》
全くだ。
「脱出!」
俺は魔動船を飛び出して空中に逃げだした。
《しばらく戻れないでありますぞ》
「まあいいさ、ちょうどクラリス様に用事があったからね。みんなにはこのまま行ってもらって、俺だけ王都に行って来よう。
なんにせよ携帯をクラリス様に渡さないと不便でしようがない」
俺は大きな声でそれを告げて、『ばかー』『もどってくんなー』とかの温かい声援を受けて王都に向けて飛び立った。
こりゃあとで機嫌を取るのが大変そうだ。
でも勘違いに気づいた段階で教えるというのもねえ?
しばらくほとぼりを冷まそう。
「ごめんねーーーーっ」




