8-07 クレオの里帰り①
皆様、明けましておめでとうございます。
2022年がみんなにとって良い年になりますように。
8-07 クレオの里帰り
「ふい~っ」
朝風呂である。
戦いの後は風呂がいい。
目覚めたときは戦場はぐちゃぐちゃだった。
特に布団が。
荒れ狂う布団の波の中に裸の美女が二人。
波にのまれて眠っていた。
まあ、俺の嫁二人、ルトナとクレオだ。
獣人族は一つの寝床でみんなで寝るという話は以前したわけだけど、これは実のところ獣人以外の人にはハードル高いと思うんだよね。
基本オス一人にメス複数という構造だし、子供も一緒だ。
俺だって子供のころからなじんでなかったら拒否感が出たのではないかという気がする。
子供の頃は気にしなかったけど基本的に女性は全員参加だから常識が崩れるような感じがするのだ。
まあ、ルトナもある程度は気を遣うみたいでサリアがいるときは控えているけど現在はサリアは学校の寮に戻っているので遠慮する必要がないのだ。
そこで問題になるのがクレオだ。
さすがにこういうスタイルの生活は最初はなじめなかったみたいなところはある。
ハーレムを作りたいルトナには皮肉なことにこういう生活が逆に防波堤になってハーレムの誕生を疎外していたのだ。
だが人間は慣れる生き物である。
毎日毎日当たり前にそんなものを見せられてるうちに徐々にハードルが下がって、そろそろ危ないかな? と思ったあたりでクレオは寝床に引きずり込まれた。
いやね、雑魚寝ってのはあったのよ。これまでも。サリアがいるときとかね。
でもピンクな世界を見せつけられて、なんか茹だったあたりで剥かれて押さえつけられてやられてしまったのだ。
主犯はルトナだ。
いや、言い訳はしない。
クレオも嫁にする。と決めていたのだから俺も共犯だね。
んでもってやられちゃったらクレオもいろいろ吹っ切れてしまったらしい。
というわけで現在は二人の嫁相手に毎晩戦闘を繰り広げる俺だったりする。
まあ、いいんだけどね。
この世界は基本的に一夫多妻だし、しかも大体主導権は女性にあるから。
そんなわけで現在はお風呂なのだ。
温泉だから24時間ぶろなのだ。
のんびりしていたらガララッと入り口の戸が開いた。
入ってきたのはルトナとクレオだった。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃーい」
そして三人でまったりとお湯につかる。
嫁の裸を見ると盛るほど初心ではないのだ。
そうなるとお風呂はかえっていいコミュニケーションの場だったりする。
だからかクレオがこんなことを言い出した。
「生まれ故郷に帰ってこようと思います」と。
一瞬だけ『離婚の申し出か?』とか思ってギョッとしたが冷静になるとそれはないだろう。
「正式に旦那も決まりましたし、村を出てから一度も墓参りに行ってませんから報告をしに行こうかなって…
ディア様の話だとたぶん二人とも神様の所で癒されているんだと思うんですけど、けじめとして…ですかね」
人間が死ぬとどうなるかはうちの連中には話してある。
何の拍子でかその話が出て、別に隠す必要もなかったので話して聞かせた。
確認を取るような事はしていないがクレオの両親もたぶんメイヤ様の領域で癒され、次の世界に旅立っているのだと思う。
それでも墓参りというのは大事ではある。
生きている人間にとっても。
「ならみんなで行きましょうか? ここは家族が顔を出すべきところだと思うよ」
「そうだね、ルトナの言う通りだろう。魔動船を使えばそんなに時間はかからないし。サリアたちは連れていけないから空きを狙って速攻で」
「え? サリアも家族だよ」
「まあ、そうだけどね。あれは学生だから。公務でもないのに引っ張り出しちゃだめだよ。学生の本文は学問だからね。
勉強して自分を養うこと。それが大事」
「うーん、ちょっと残念」
まあ、場所が分かればたまに墓参りとか行くこともあるだろう。次の機会はサリアも一緒で問題ないはずさ。
その時でいいだろう。
案の定サリアはごねたけどこればかりは仕方がない。
今回は留守番してもらおう。
で今回のメンバーはというと俺とルトナ。そしてクレオと勇者ちゃん達になる。
フフルとフェルトは留守を引き受けてくれた。
って、フェルトよ、お前はルトナの従魔じゃなかったか?
「高度な従魔は主のために独自に活動する存在なんだっていってるの。だからいいんだっていってるの」
フェルトのピヨピヨをフフルが翻訳してくれるが、こいつら本当にフリーダムだよね。
従魔といえばグリンブルスティたちは一緒に連れていきます。
あいつらはまだルトナ無しだと危ないからね。
さて、こうなるとあれの出番かな。今までできるだけ人目にさらさないようにしてきたんだが…
■ ■ ■
「けいたいでんわーーーーっ」
某青い狸型ロボットのように威勢よく秘密道具を取り出して、白い目で見られてしまいました。
やっぱり相手がマチルダさんだってのが間違いなんだよな。
滑るというかさ。
「何なのそれ?」
「あー、通信の魔道具ですね。勇者ちゃんたちが隠れていた迷宮の地下で発見して研究して使用可能な状態に持ってきたもんです」
真面目な顔で問いかけられて真面目に答えるしかなかった。
この間はノリノリだったくせに。
「あっ、あれはああでもしないとやりきれないじゃない」
ああ、やっぱりやけくそだったのか…じゃなかったら冷静になって恥ずかしくなったか?
まあ、それはそれとして、これは迷宮の第七階層の高級魔道具売り場にあったモバイルショップにあったものだ。
携帯電話というけど機能は無線機に近い。
登録できるのは36の連絡先。
なぜかというとこの連絡の肝が本体内部に格納された石板に起因するからだね。
どういう理屈かどんなに離れたところでも共鳴する石で36個の同じ石板とつながっていて、選択的に共鳴する石板を指定できる。
なので指定された石板との間で長距離通話ができる。
特徴は距離、障害物を完全に無視できること。
そしてどんなに離れてもタイムラグが存在しないこと。
これを調べた翔子君の推測ではもともと一つの石を36個に分割して、しかし分割されたのはこの次元でのみで、別の次元ではいまだに一つの石として存在し続けているのではないか。ということだった。
なのでこちらで話した言葉は石板を通じでどんな場所にあっても相手に通じると考えられる。とかなんとか?
すごいね。あの子。
軍事的に超まずいアイテムなので今までは公開するつもりはなかったんだけど。帝国が携帯電話のような魔道具を開発したという話を聞いたので対抗上公開せざるを得なかったのだ。
最も帝国のそれはこれとは違って距離にも障害物にも弱いらしいが、自分で作れるというのは強みだよね。
「これって、どのぐらいあるの?」
「翔子君がいろいろやって使えるようになったのはこの一セットだけですね。まだ解析できていないのもあるらしいですけど、ちょっと仕様が違うみたいですよ」
「…あまり大っぴらにできないけど、ありがたくはあるわ。ここにあるのはどうすればいいのかな?」
テーブルに置かれた魔導器は全部で3つ。
「マチルダさん本人と、あとは副官ですか? 登録が必要なので誰か選んでください。登録とレクチャーは今日やっちゃいます」
「これがあればいつでもあなたたちと連絡がつくわけね」
「ええ、不本意ながら」
「?」
マチルダさんは不思議そうに首をひねった。
いつでも連絡がつくというのは便利だが不便だ。
でもまだそういうのは分からないだろうな。
その後副官の人と執事の人が呼ばれて彼らの登録をして使い方を教えた。といっても話したい相手の番号。01~36までをプッシュするだけだけどね。
「陛下にはどうするの?」
「勿論とどけにいきますよ―…」
いろいろ怖いけどね。
当然サリアや勇者ちゃん、あとはウチのメンバーとか一通り渡してある。用があるたびにこれで呼び出されるのは遠慮したいが…まあ、状況的に仕方がない。
こうしないとなかなか遠出もできないからね。
とりあえずこれで出発の準備は出来たな。
移動は魔動船だから、簡単だ。
「さあ、ちゃっちゃっといくぞー」
「「「・・・・・・」」」
ありゃ、通信の魔道具とにらめっこしてら。携帯ショップのお年寄りみたいだ。
暮れからずっと忙しくて更新が滞ってすみませんでした。
しわ寄せはまだ続きそうなんですが、ぼちぼちと、
今年もよろしくお願いします。




