7-27 邪神征伐
7-27 邪神征伐
魔法陣から飛び立ち、高く空に舞い上がったので状況がよく見える。
邪妖精が自信を切り離し、まき散らすことで人々を攻撃している状況だ。
主に狙われているのは神官たちらしい。
この事実から神官たちがよく頑張っていたのがうかがえる。
神官の前には盾を持った騎士たちがいるが後ろは何もない。
そこで邪神に取り込まれた人間が暴れれば神官たちがかなり危ない。
モース君が戦場全体を霧で包んでいるから影響は抑えられているけど、そうでなかったらかなり被害が出ていたかも。
いや、今もそれなりには出ているんだけどね。
「しかしこのやり方を見ているとこの邪妖精には知性があるのかもしれないな」
さて、これはよくない。どこから手を付けようかな、と思ったときに。
《まかせて~ください~》
と華芽姫の思念が届いた。
うん、いい案だ。
華芽姫から渡された枝が六本。それを地面にさして回る。
邪妖精を包囲するように六ヶ所に。
そして思念を送る。
「モース君、水お願い」
《了解であります》
そういうとモース君は地面に沈み込むように姿を消した。
地中から木の枝に良い水を与えるために。
木の精霊である華芽姫と土と水の力を持つモース君の力で木の枝はあっという間に根付き、メキメキと大きくなっていく。
大きくなった枝は既に大木といって支障がない。しかしそれと同時に華芽姫の枝でもあるのだ。
そして華芽姫の本体は俺の世界の欠片の中。
そこには冥属性の力があふれている。
華芽姫が自分の端末である木に力を送る。冥属性の力を。
木は地中から大量の水を吸い上げ。呼吸とともに大気中に霧を作り出す。
その霧には強い冥属性の力が付与されているのだ。
うまくいった。
六方向からじわじわと戦場を包み込む冥の霧。
「おお、なんだ、力が満ちてくる」
「神だ、神の力を感じる」
「不思議な霧だな。こんなに濃いのに邪魔にならない」
それは霧が純粋な力に近いからですね。
「おい、見ろ、邪神の様子が変だぞ」
ここで言う邪神というのは分身のほうのことだろう。切り離されて暴れているやつ。
見た目は粘土で作った人型。ただそれだけのものだ。
冥の霧のせいで表面がぱちぱちと小さく爆ぜている。
だがこの場合、問題は別のところ。
「うわーーーーっ助けてくれーーーーーーっ」
兵士の一人が捕まって、普通ならそのまま取り込まれてしまうところ…
「あれ?」
その兵士はいつまでも襲ってこない死の感触に首を傾げた。
そして。
「グンジャムを離せ!」
その兵士を助けようと一人の兵士が切りかかり。
「あれ?」
ものの見事に邪妖精の腕を切り落とした。
邪妖精はその腕を拾って自分の腕にくっつけようと押し付けて、しかし腕はまた落ちた。
「・・・・・・」
音にならない何かがその場をふるわせる。
そして邪妖精の腕の切り口からは黒い霧が立ち上り、溶けるように消えていく。
「おい、こいつら力を失っているぞ!」
「俺たちでも倒せる」
「おお、神の力だ」
「スゲー神官さんの祈りでどんどん崩壊してくぞ」
「勝てるぞ、これなら勝てる」
大気中に広がる透明な霧は邪神の捕食能力を再生能力を完全に封じてみせた。
その事実が伝わると兵士、騎士たちの中に奮い立つ者たちが現れる。
普通の剣で切れるようになり、切ればそれ以上の増殖はない。それどころか細かく切れば急速にしぼんで消えていくのだ。
全員が一気に攻勢に出た。
一部俺を拝むのに忙しい一団がいるが…
「御使い様だ! 御使い様がご降臨なされた―――っ」
最初に神託を受けた神官さんだな。
あながち間違ってない。
迷宮から抜けられなくなった俺たちはフラグメントの中に逃げ込んだ。
自分の中の内的宇宙というべきものだからそんなことできるの? と思ったができた。
あれは俺の中にある冥界の一部なのだ。
知ってはいたが理解してはいなかった。
冥界はどこか別の場所にあるのではなく、ここに重なるように存在している。だからすべての世界に接して存在できる世界なのだ。
フラグメントというのは今ここに存在する冥界。
ちょっと立ち位置をずらすだけでそこはもう、冥界の中。ということらしい。
こういうのを使いこなせるようになるのはずっと先かな。
その後、いったん冥界に抜け、メイヤ様の助力で神託を下し、神官が作ったゲートからでてきたという訳だ。
彼の神官が『神の使いだー』と騒いでくれたおかげで余計な騒動にはならなかった。
神官が書いた魔法陣から現れたわけだから信ぴょう性もあったのだろう。
一部変な目で見つめる美少女とかいたけど…まあ、それはね。
さて、本体の攻略に移ろう。
神杖で滅多切りに。
ズドドーン!
ズガガガガガガッ!
「あー、機動要塞からの砲撃が始まってしまったか…」
《一気に形成が有利になったせいでみんながはっちゃけてしまったであります》
いや、はっちゃけたってあんた…
しかしこうなると出来ることは少ないな…邪妖精の本体には大砲だの鉄砲だの攻撃魔法だのが集中しているし…
分身体には騎士や兵士がありのように集ってタコ殴り。
爺さんたちも本体から離れて分身体いじめに参加中か…
盛り上がってんな。
しかも物理攻撃まで効果でてんぞ!
《場、全体が冥属性になったせいで邪妖精が機能不全を起こしているであります。
分身体程度のサイズでは最早自身を維持するのは不可能。
砕けば砕くほど減っていくであります》
うーん、これでは近づいて切るとか無理だな…
仕方ない。俺も砲撃するか。
「バルカン砲~」
左手が変形する。
氷で作った砲弾に冥属性を付与して、せーの。
カラカラカラカラカラカラ・・・・・・
ヒイィィィィィィィィィィ・・・・・・
この作動するときの機械音がいい。そして。
ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!
左手のバルカン砲が火を…氷を噴いた。
何がすごいって流体金属で構成された砲身は構成を入れ変えることで加熱とは無縁だし、発射の力が魔法系なので加熱自体もあまり高くない。
つまりどういうことかというと際限なく打てるのだ。
時々純粋な魔力で出来た弾が混じっていてそれが曳光弾となって火線を見せつける。
そして戦車をすら瞬時に鉄くずに変える兵器の暴力はどんどん邪妖精を粉砕、消滅させていく。
邪妖精は何もできないままどんどん薄くなっていった。
そして…
「どういうことだ。攻撃がすり抜けるぞ」
「ううむ手ごわい」
軍の幹部たちが唸った
「いや、心配ない」
それに答えたのは爺さんだった。
「あれは邪神が虫の息になったということだ。ここまでくれば自然と消滅する。俺達の勝利だ」
獣王である爺さんの宣言でこの戦いに参加したすべての戦士が歓声を上げた。
もう最後の方はわやくちゃでルトナは戦車で邪妖精を撥ねたり轢いたり砕いたりするし、サリアまで前線に出てきて魔法を撃ち込む。
攻撃魔法を武術で打ち込むというとんでも技能を発揮したのだ。
勇者たちも浄化の魔法で邪妖精を消しまくり、フフルもフェルトも上空から攻撃しまくった。
この場の属性を固定する戦法というのは思いがけずいい戦法だった。
これを使うと一般人の攻撃すら普通に効くようになるようだ。
そしていよいよ終わりである。
邪妖精の表面には食われた人間の苦悶の表情が浮かんでは消え、消えては浮かびしている。
中にはやはり件の冒険者たちの顔もあった。
だが食われただけで自ら呼び込んだわけではないので魂の回収はかなうかもしれない。
そのためにも急がないとね。
俺は領域神杖・無間獄を掲げる。天空に魔法陣が描かれ徐々に光が満ちてくる。
そして天の底が抜けたかのように群青の光が落ちてきた。
それはまるで圧力があるかのように邪妖精を粉砕し、そのまま広がって戦場を満たす霧になった。
「兄さん…」
「兄さんどうして」
「あなた…ううっ」
「これでお別れなのか…」
「楽しかったな…またいつか会えたら…二人で馬鹿をやろうぜ…」
戦場で倒れた人たちの魂。
縁のある人たちとの別れの邂逅。
「うちの神様は慈悲深いな…」
《ハイであります。随分救いになるでありますよ》
《さよ~なら~》
邪妖精の中心に残っていた石がびしりとひび割れた。核だ。
そのままサラサラと砂になる。
そしてその場にあった、現実でないすべてが冥界の門に向かって立ち上り、吸い込まれていった。
「ありゃ、なんか引っ張られる?」
なぜか俺まで吸い込まれていった。
「あーれー」
ルトナ達がゆびさしているがもどれなーい。
途中でメイヤ様の笑い声を聞いたような気がした。
そして気が付いたら俺は迷宮の元の場所に放り出されていたのだ。
「うーん、姿も元に戻っている」
前と違うのは目の前に出口が口を開けていることか。
とりあえず大急ぎで帰ろう。




