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いきすぎた健康は異世界チート。行きつく先は・・・  作者: ぼん@ぼおやっじ


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7-26 邪神戦線

7-26 邪神戦線



■ ■ ■ ルトナ


「でて来るぞー」


 誰かが叫んだ。


「なんだありゃ」

「きも゛い」

「おお、神よ、お慈悲を」


 邪神の異様に怖れを抱いた人たちが戦慄するさまが見える。

 ここは本陣で離れているけれどそれでも邪神はよく見えた。いえ、離れているからよく見えたというべきかしら。


 それは汚泥の塊みたいな存在(もの)だった。


 ぼてっと大地の上に置かれたゴミの塊。そこから何本かの触手のような足が生えてゆっくりとはいずっている。

 その身を構成しているのはゴミ、生き物の残骸。

 カニやウニやいそぎんちゃくを適当にこねて塊にしたような存在(もの)

 その中に人間のパーツが混じっている。


 手や、足や…男性器や女性器が、形作られては崩れ、崩れては形作られてうごめいている。


 あまりの悍ましさに兵士も冒険者もみんな唖然としていた。


「ルトナ姉さま…あんなひどいもの見たことありません」


「うん、私も同感」


「あれは存在してはいけないものです。将軍!」


「ははっ」


 そばに控えていたナイアス・グリス将軍が攻撃の合図を出す。

 まず初手は起動要塞だ。


 蒸気機関がうなりを上げ、機体側面に設置された各種魔導兵器が火を噴いた。


 ディアちゃんに言わせると大砲と鉄砲だって。

 それと同時に外に展開していた騎士、兵士たちが動き出す。


 彼らの中にたくさんの神官が混じっていて、彼らの仕事はとりあえず神官の保護と場合によっては後送だ。


 邪神というのはいくらでも再生するから神官の人たちが浄化しないといつまでたっても終わらない戦いになってしまう。

 魔法も効くけど浄化ほど効果はない。


「総員、かまーえ」


 風に乗って聞こえてくるかすかな声。

 その声に反応して騎士たちが大楯を構える。そして並べる。


 その後ろに陣取った神官さんたちが祈りを唱え始めた。


 大砲や鉄砲で砕けた邪神の欠片がばらまかれる。

 それはうごめきながら本体である邪神に向かって移動し、最終的には取り込まれて戻る。


 神官の浄化の祈りや魔法使いの火炎魔法がそれを焼き、量を減らす。

 そうやって邪神を減らしきれば私たちの勝ちだ。


 だけど…勝てるんだろうか?

 そんな風に思ってしまうほど、邪神は大きかった。


■ ■ ■ ディア


 本当になにもないな。


 俺は迷宮の中を飛びながら邪妖精を追いかける。

 迷宮の中にはもう、なんの魔物も残っていなかった。

 多分邪妖精が取り込んでしまったのだと思う。


 魔物の一匹すらいない死の磯。

 二階層から一階層に抜けても同じ状況だ。


「あまり時間をかけたつもりはなかったんだけどな…」


 そう、邪妖精の素の破壊にはそれほどかからなかったと思う。

 なのに二階層には何もなく、一階層も静かなものだった。


「たぶん、時間が狂っているのだと思います~私本体と~、根っこの間隔にずれがありますの~」


 華芽姫の説明では本体である自分と、広がっている枝や根っこ、特に根っこの部分で収集された情報に齟齬があったということらしい。


 つまり一定時間単位当たり10の報告があるところ、なぜか毎度50の報告が届く。

 伸ばした端末の情報収集量は変わらないはずなので自分の根っこの先のほうでは5倍の時間が流れている。

 逆に言うと俺たちの時間が5分の1になっているということだ。


「つまり俺たちは普通に急いでいるつもりでも向こうから見るとかなりのんびりやっている?」


「ということになります~」


 うーんそれはまずい。

 つまり邪妖精はかなり先に行ってしまっているということだ。


 俺は先行しているはずの冒険者選抜の探索をあきらめることにした。

 うまくいけばすでに外に出ているだろうし、迷宮の中にいたのであればすでに食われている公算が高い。


 なのでスピードを上げたんだが…


「出口につかない…というか出口がない?」


「迷宮が閉じている可能性が~」


 うわっ、これってヤバイじゃん。

 俺は空は飛べるけど転移とかは使えないぞ、使えても別空間に転移とかは…


「私も~別な世界はフラグメントぐらいしか~」


「それだ!」


 何気ない華芽姫のセリフで閃いた。それがあったよ。


■ ■ ■ ルトナ


 戦闘は大きな被害を出さずに推移していた。

 それはひとえに邪神の動きが極端に遅いせいだ。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ」


「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラッ」


 お爺ちゃんとライラさんが邪神に攻撃を加える。

 魔力をまとった攻撃は邪神をえぐり、粉砕し、粉々にしてまき散らす。


 それを援護しているのがモース君だ。


 邪神が動こうと足を延ばすとその足元が不自然に陥没し、モース君のおこした霧の流れは邪神の動きを鈍くする。

 この霧は浄化の力もあって、細かい欠片は霧に触れると溶けるようになくなってしまう。


 大きな欠片は神官たちの出番。


 邪神近くまで展開した大楯の騎士たちに守られながら神官たちが繰り返し浄化の力を使う。

 神聖魔法というのは気力、精神力の世界で魔力がなくなったら回復を待たないといけない。というようなものではない。

 精神力の続く限り神の力を借りることができる。


 それでも力を使い果たして、倒れて後送されるものも出る。

 ここ本陣にも何人か、神官が寝かされている。


「そろそろへばってきた神官を交代させて!」


 さすがに倒れるまでやらせるとかえって効率が悪くなるのに気が付いたサリアが疲れ気味の神官を後ろに下がらせて休憩をさせている。


 ただ…


「ああ、こんなことをしている間に…」


 神官たちは前線で仲間が戦っているのに後ろでお茶を飲ませられているのに気が気ではないみたい。

 冥神様とか至高神様とか、どこにでもある神殿だけど、まじめな人が多いみたい。


「ぎゃーーーーっ」

「のわーーーっ」

「よけろーよけろー」


 それは突然の転換だった。


「何があったの?」


「邪神が自分を砕いて、後方にまき散らしているようです」


「どういうことだ、自棄になったかの?」


「いいえ、神官たちに浄化されないほどの大きさで自分をまき散らして、周辺の兵士たちが被害にあっています」


「ぐぬぬぬぬっ。何ということだ。前線に神官が集まっているのでその後ろを狙ってきたか…」


「このままでは戦線が維持できません。前線部隊が孤立します」


「いけません、大楯隊を使って何とか退路を確保してください。前線の主力を失えばあれを倒すことは出来なくなります」


 サリアが立ち上がって檄を飛ばす。

 ここは私も出るべきかしら。


「さりあ」


「はい、お願いします。姉さまの戦車であれば突破できます」


 邪神の力は魔力で守られたものに届かない。

 限度はあるだろうけど、お爺ちゃんたちが無事で暴れ回っていられるのも自分自身を魔力でコーティングしているから。

 大楯隊も同じ。盾に神様の紋章が描かれていて、それが守りになっている。


 だから全体を魔力の風で守られた私の戦車なら邪神の攻撃は通じない。


「姉さま、ごめんなさい、危険なのに」


「大丈夫よ。ちょっと道を切り開いてくるだけだから。

 それにそろそろディアちゃんも帰ってくるでしょうしね」


「そうですね、ディア兄さまなら」


「うわあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 その時、サリアの言葉を遮って一人の神官が大声を上げた。

 頑張りすぎて倒れていた冥神神殿の神官だ。


「神託じゃー、神託が下りたー!」


 彼はあっけにとられる私たちをしり目に地面に模様を書き込み始める。

 丸い円の中の変わった文字。


 それが完成したとき文様が輝きだした。


「魔法陣?」


 魔法陣の中は群青の光で満たされ、まるで水面のように揺らぎ、その中から一つの黒い影が沸き上がった。


 真っ黒い水晶のような頭部。輝く一つ目。純黒のタキシードと真っ白なブラウス…って…


 その人影はマントを翻し、空に飛んだ。


 おい!




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