7-23 対決
7-23 対決
■ ■ ■ side ルトナ
「あれ? モース君だ」
わたしは蟹を吹き飛ばすように現れた大きな象をみてうれしくなった。
だってディアちゃんが帰って…あれ? 姿が見えない?
わたしは確認しようと戦車を反転させる。そして戦車で地を埋める蟹を蹴散らしながらモース君の方に走り寄る。
近づけばモース君は獅子奮迅の活躍だった。
腰の上にある二連装のガトリング砲が火を噴き蟹を打ち砕きまくる、ホルンのような鳴き声が衝撃波となって蟹を吹き飛ばしていく。
圧倒的な攻撃力。
でも人影が見えない。
いえ、一人だけ、ガトリング砲の上で楽しそうに騒いでいるラウラさんだけだ。
ほかの人は…
「ぶはっ!!
何よあれ!!」
いたよ居ました。
あれってあれよね。戦闘に邪魔になるから邪魔にならない場所にってことよね。
モース君は水の精霊だ。
その身は水で出来ている。
上位精霊なので霊的な性質を持ったすごい水で出来ているって聞いた。
そのモース君の背中に生首が並んでいた。
もちろん身体もついているわ。
つまりモース君の巨体に身体を沈めて首だけを外に出しているわけ。
シュールだわ。ものすごくシュールだわ。なんか夢に見そう。
「あっ、でもやっぱりディアちゃんがいない。また抜け駆けかなあ?」
困ったやつだ。
■ ■ ■
ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!
というガトリング砲の斉射も、残念ながらよけられてしまった。
件の半端な邪妖精が飛び出して二人をかばったのだ。
その数八体。
うち二体は完全に海産物人間だが残りの六体はあちらこちらに人間のパーツが残っている。
「ミスリルの剣か…」
どうやらすでにやられていたようだ。可愛そうに。
「素晴らしい! なんという見事な魔道具。
人と魔道具との融合。私の理想がこんなところに!
貴様、私の研究に協力するのだ。そうするのだ!!」
このジジイの目はおれの左腕にくぎづけだった。血走っていてまともじゃないよ。
まあ、知ってたけどね。
「せんせ様。こいつはあいつですだ」
「何をわからんことを言っとるかこの馬鹿もんが。こいつがあいつとかわけわからんが」
「だいぶん昔に先生様が帝国の貴族から勝った子供がいたでねえですか。左腕に魔導器を接続する実験をした子供ですだよ。
この男はあの子供ですだよ」
「えーい、なおわからんわ。男が子供なわけあるまいが」
「・・・・」
「・・・・・・」
「おお、思い出したぞ。帝国の公爵家だか何だかで跡目争いで邪魔なやつを始末するとか?」
「そうですだ。殺しを請け負ったやつがせんせい様の息のかかったやつらで、横流しをしてもらったやつですだ」
「何と、そうだったか。思い出したぞ。あいつら高い金をとりおって…だが待てよ、つまりこいつは儂のものということではないか。
なんたる幸運。
よし、人造邪神どもよ、あやつを捕まえるのだ。
持って帰って研究だ」
「邪神の研究はどうするだか?」
「そんなものはどうでもよい、儂の研究テーマは魔導器と人間の融合による完全なる魔導の追求にほかならないのだ」
「ネロ様に怒られますだ?」
「むむ、それは…困るか…」
すげー、こいつらスゲー、俺のことをというか昔の俺を覚えていたのもすごいが、人の話を聞かないというか状況を理解しないというかそれがすごい。
「よし分かった。行け邪神ども。こやつをとらえるのだ」
なんでそういう結論になるのかわからない!
だがフジツボ人間があーうーいいながら進んでくるのは現実だ。
俺は自立する領域神杖をチョンと指でつつく。
先端の宝珠を包む魔法式がパチンと組み変わって周辺にさわやかな魔力の風が吹いた。
「うううっ、なんて気持ち悪い風ですだ…」
「何のことじゃ」
巨漢は風に不快感を感じているようだ。
冥府の風なので大概の人は畏怖に似た感触を得るらしいが、こいつが感じているのはたぶん違うものだな。こいつヤバイかも。
いかれ魔導学者の方は…何も感じてない。というか何も考えてない。
こういうのが一番たちが悪い。
冥府の風は周囲に広がり、邪妖精の周りでぱちぱちと対消滅を起こす。
「でも効率が悪いな…」
杖に蓄えられた力は今まで地獄に落ちた咎人の魔力で賄われている。
その量…よくわからない。
だが全然余裕だ。
それでも消滅する尻から再生する邪壊思念はたちが悪い。
これも理屈は同じなのだ。
人間をとらえ、殺さずに、その苦しみで歪みを生産する。
だからとらわれた人間が苦しむ限り邪壊思念はあふれてくる。
質が悪い。誰が考えたんだか…とにかくこの方法は徹底的に殲滅しないと…
「時に博士? このめったに見られない異様な技術を開発したのはどなた?」
いかん、ちょっとおだてて情報を引き出そうとしたのだが忌避感が勝っておだてきれなかった…
「おー、君にはわかるか! そうかそうか、見所があるぞ」
ああっ、こんなんでいいのか…
「この人間の苦しみを使って邪神を量産する方法を考えたのはなんと、この天才、ローディヌス・アーカイブスその人である。
推して参るのである。
この素晴らしさが分かる君は儂の助手にふさわしいのだ。
さあ、儂の所に来るのだ!」
うん、ダメだな。こいつらもう完全にいかれてるわ。
いっそ殺してから情報抜くか?
とりあえず邪妖精の駆除するか。
俺の左腕からカラカラという回転音が響き始める。
この作動音と、甲高い金属音と、発射の衝撃はなかなか好ましい。ロマンがある。
ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!
弾のストックはいっぱいあるからね。
氷の弾丸で削られ砕かれていく邪妖精。
一体目がばらばらになったとき、そこからふわりとした力が抜けだして苦しそうに揺らめいた。
とらわれていた人の魂だ。
おれがそれを認識したとき無間獄がまたパチリとその法陣を組み替える。
ぐるぐると渦に巻き込まれるようにその魂は流され、無限獄に吸い込まれていった。
重症者として治療施設に緊急搬送だ。
散らばった破片たちは地でのたうっているが冥府の風で少しずつ分解されていく。
「あーーーっ、いかんのである。なぜか再生せずに邪神がーーーっ」
「せんせ様、あれはもうだめではないですか?」
「そんなわけあるか、何度言ったら分かるのだ、ダメかどうかを決めるのはワシであってお前ではない。
ええい、サンチス、すぐに邪神を集めるのだ。
急げ!!!」
こいつらの相手は疲れる。
俺は砲身をこの二人に向けて…とするとほかの邪妖精が間に飛び込んでくるんだよな。自分から。
「あーーー、きさま、なんということを、貴様には慈悲の心がないのか!」
自分で突撃させて何言ってんだか…
「えーい、何をやっているか、サンチス。もっとばらばらになった破片を集めるのだ」
サンチスと呼ばれる男は地をさらうように邪妖精の破片をかき集める。集める尻からバラバラ邪妖精が量産されるので際限がないのだが、お構いなしだ。
すでにサンチスを上回る体積に…
「わかっておりますだよ。いまやって…」
ドクン!
と何かが脈打った。
ドクンドクン…
発生源は…サンチスが抱えた邪妖精の欠片だ。すでに邪妖精5体分なのでかなりの量。
それがうごめいて…
「ぼげえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
サンチスと呼ばれた男の口の中になだれ込んでいった。




