7-22 待っていたらとんでもないのと再会した
7-22 待っていたらとんでもないのと再会した
「うーん、これはダメか?」
《そうかも~、もうずいぶんたちますね~》
ミスリルの剣を待つことさらに三時間。
選抜チームは昼を一時間ほど過ぎたところで迷宮を脱出させた。
彼らは戦闘力には自信がないみたいで心配しつつもそそくさと迷宮を出ていった。
それからさらに二時間たったがミスリルの剣はやってこない。
「うーん、モース君を先に帰したのは失敗だったか…」
《ゴメンです~》
華芽姫が落ち込むがこれは俺の所為だ。
万が一のことを考えて戦闘に長けているモース君を勇者ちゃんたちにつけてやりたかったのだ。
ここで二チームと合流して脱出するだけと思ったので油断してしまった。
華芽姫は大樹の精霊なのでこの迷宮内で自由に動ける眷属が少ないのだ。
モース君は水の精霊だからここには仲間がいっぱいるから周辺の探索とか自由がきいたのだ。
《スケアクロウマンも連れてくるべきでした?》
「いや、あいつには留守番を頼んだからね」
小神殿の子供達の方も留守にはできない。
まあ、うちの会社の連中とか、マチルダさんとか見てくれると思うんだけど、精霊も置いておきたかったのだ。
環境整備のための土の精霊虫も統率者がいないとうまく働かないし。
あいつらどうしてるかなあ…なんて子供達を思い出す。
まあ、暇こいているせいだよね。
ほかにやることがない。
お茶でも飲むか?
テーブルとディレクターチェアーを出して腰を据える。
みんなが迷宮を脱出するのにまだまだ時間がかかるだろう。
家の連中で急げば今日の夕方?
選抜は間違いなく明日になる。
その間この邪壊思念が漏れてくる穴を監視しないといけない。
とりあえずガンガン浄化しながら。
浄化すればするほど下から邪壊思念が湧いてくる。つまりその分下の階の邪壊思念が減っているということで、その分ほかの洞窟の漏れも減るだろ。
俺は目の前でかキラキラと光る霧のようなものを放出する無限獄を見ながらお茶に口をつける。
しばらくお茶を楽しんでいたら『ほひー、ほひー』という変な息遣いが聞こえてきた。
なんだ?
■ ■ ■ side・モース君
うーむ、ちょっと不安であります。
「どこからこんなに出てきたの?」
「あー、本当にうっとおしいわね!」
勇者殿と獣王殿が悪態をついているであります。
原因は一階層の蟹の群れ。
二階層から上がってくるまでは静かなものだったでありますが、一階層についた途端蟹がいっぱいであります。
まあ、所詮は蟹でありますから勇者殿たちの魔法と獣王殿、剣鬼殿の物理攻撃で簡単に駆逐されていくでありますが、いかんせん数が多すぎるであります。
これが俗に言う飽和攻撃でありますか。
『剣鬼どの、いかがされたでありますか?』
吾輩は現在実体化しているであります。
なので周りの人間たちとも話ができるであります。
ちなみに二等親タキシード直立象さんとマスターに言われる姿であります。
その吾輩の問いかけに。
「あまり楽しくない」
というクレオ殿の返事。
蟹は切ってもうれしくないようでありますな。
「その割にスパスパ切ってるじゃない」
「剣はいい剣だと思う」
そりゃマスターが使っていた剣をそのままもらっちゃったやつですから当然であります。
細かいギザギザの刃はカニの甲羅でも滑ることなく切り裂いてしまうであります。
ウニだろうがハマグリだろうがお構いなし。
「しかしこいつは何がしたいのかね?」
獣王殿が首をかしげます。
たった今獣王殿の攻撃で粉砕されたのは大きなアワビであります。
ただはいずってきて叩き潰されたであります。
後サザエもそうでありますが、こいつらには攻撃手段がないであります。
一体何のために存在しているのか。
サザエならフライパンぐらい持ち出してもいいような気がするであります。
あっ、サザエが違うでありますか。
「でもこれじゃいつまでたっても外に出られませんよ?」
「飽和攻撃おそるべし」
全くでありますな。
急いでおりますのに。
『仕方ないであります。吾輩が運んであげるであります』
これでも吾輩は上級精霊。
それに運んでもらえるなどなかなかに稀有なことであります。
あれ? なんでジトッとした目で見られているでありますか?
「いえいえ、運ぶって、どうやってです?」
『なんと、忘れているでありますか!』
いや、知らないのかな?
吾輩は巨大な象さん(リアルバージョン)に姿を変えたであります。
青い燐光揺らめく陽炎のような大きな象。
もちろん乗れるであります。
全員を背中に乗せて歩き出すであります。
「ううっ、感動…ゾ〇ドだ…」
あんまり似てないと思うのですが…まあ、ガトリング砲とか背中についてはいるでありますが…
「でもあとからくる冒険者たちはどうします? 私たちでもこれだけ苦戦するのですからちょっと無理なのでは?」
「とはいっても外に出ないわけにもいかないし、まあ、ダメなら二層に戻るだろ。数日分は食い物を持ってるんだ。体制を立て直して出直してくればいいよ」
『じゃなかったらマスターに丸投げすればいいでありますよ』
それもそうか。とみんなが納得したであります。
さすがの人徳であります。
吾輩はのっしのっしと歩を進めるであります。
魔物は全部無視。
吾輩水なので攻撃は意味がないであります。
そして吾輩の背中のみんなには所詮攻撃は届かないでありますよ。
「いけー、ふぁいやー、蹴散らせー」
翔子殿だけがテンション高いであります。
ひょっとしてこの人間はトリガーハッピーとか言う人種でありますか?
■ ■ ■
「むふー、むふー、なんという坂道、年寄りをいたわろうという気はないのかこの迷宮は」
「先生様、そんな迷宮は聞いたことがないですだよ、とっとと歩いてくださいですだ。原因究明しないと怒られるだよ」
「ああ? 誰が怒ると? この天才魔導学者ローディヌス・アーカイブスに対してそのような無礼を、誰が働くというのだあ? ああん」
「いえ、いつも普通に怒られてますだ。特に『ネロ』様なんぞ容赦がないですだよ」
「ちっ、あのろくでなしか、放っておけ、世界の再生だの委員会だのいって遊んでおるだけではないか、儂の研究の成果が欲しいのであれば拝して待つのが礼儀というものじゃ」
「そうは言いますが先生様、いろいろやりすぎて居場所がなくなってしまった先生を拾ってくれた恩人ですだ。
可愛いおもちゃもたくさんくれますだよ。
いい人ですだ。
先生様がもう少しおもちゃを壊さんでくれると嬉しいですだ」
「サンチス、お前は本当にわかっておらんな。魔動の発展こそが一番大事なものなんだぞ、それに比べればネロの掲げる世界の再生だか破壊だかなんぞ何の価値もないのだ。そのぐらいわからんでどうする?」
聞こえてきた声に耳を澄ませ、何かヒントになるかと聞いていたらとんでもない話が聞こえてきた。
どこかで覚えのある会話、どこかで覚えのある主従。
周囲は邪壊思念の所為で悪臭があふれていて臭いが分からんがこいつらは間違いなく刈り取り対象だろう。
なんかちょっとやる気が出てきた。
そんな俺に反応したのか無限獄の周囲に展開する魔法陣がちょっと輝きを増した。
それに伴ってすごい勢いで邪壊思念が消えていく。
「先生様、ここですだ。ここで瘴気がどんどん減っているですだよ」
「えーい、ちと待たんか。ほひー、どれ、原因は…なんじゃ簡単ではないか。あの棒切れじゃ。あの棒切れが瘴気を消して居るようじゃ。
あれを取り除けばそれでええ。
全く誰じゃこんな迷惑なもんを置いていきおったのはおかげて瘴気が瘴気が外に流れて全然邪神の発生がうまくいかん。
弱い魔物を大量生産しても意味がないんじゃというのに…」
ヒィイィィィィィィィィィィィィン
カラカラカラカラ・・・・・
「何の音じゃ?」
「ちょっとしたご挨拶だよ」
俺の宣言とともにガトリング砲が全力で火を噴いた。
ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




