7-21 そのころ外では
7-21 そのころ外では
■ ■ ■ side ルトナ
「ディア兄さまたち大丈夫かしら」
「大丈夫よ~、心配ないわ」
サリアの疑問に私は気軽に答える。
大丈夫なのは疑いない。と思う。
だけど状況は異常だ。
迷宮の入り口を囲むように布陣した冒険者と騎士たち、その向こうはカニカニカニの大集団。
ワタリ、タカアシ、ズワイガニ。
探索班が迷宮に入った直後から迷宮からあふれ出た魔物の群れ。
嫌になるほどの蟹の絨毯。
サリアが『何かあったのでは?』と考えるのも無理はないと思う。
でも、まあ、大丈夫でしょ。あのメンバーだし。
獣王というのは本当に化け物だ。ライラさんがいる限り半端な魔物でどうこうなったりはしない。
ディアちゃんだって本当に強い。
体術、接近戦闘だと獣王には勝てないけど何でもありならディアちゃんは獣王にも勝てるのだ。さすが私の男。
でもそんなわけで留守番を押し付けられて腐っていたサリアと私も大忙しになってしまった。
ほんと蟹はもういや。
まあ、騎士さんたちは喜んでいるよね。
蟹は高級食材で、彼らはまだ飽きるほど食べていないもの。
交代で後ろに下がると蟹パーティーをやっている。
中にはこっそりお酒を飲んで同僚にシメられている騎士もいるみたい。
馬鹿なんだから。
「ふえーっ、いったん戻ったぞ」
「おかえりなさいお爺ちゃん」
「おかえり師匠」
お爺ちゃんが返ってきた。
本陣に控えているだけだとつまらないってときどき突撃するんだよね。うらやましい。
でも蟹はいらない。捨てろその蟹を!
「ごめんね、姉さま」
「気にしないの。サリアの所為じゃないわ」
まあ、この子の不幸は今回総大将を押し付けられたってことだよね。
ほかに総大将をやるやつがいれば話は違ったんだけど、まさか総大将が先陣切って魔物に突っ込むわけにはいかない。
能力的にサリアなら問題ないと思うけど、この娘が突っ込むと護衛の騎士たちも突っ込んで収集つかなくなってしまうだろうしね。
いやー、身分なんてない方がいいよね。
わたしはサリアを抱きしめ彼女の背中をポンポンとたたきながら…むむっ、この娘、また乳がでかくなったかな?
むにむに。
「ひゃっ」
「小柄な癖にいい乳をしている。でも尻はちいさい」
なでなで。
「だっ、ダメですか?」
「ダメじゃない、エロくていい。でももっと育たないとだめ」
まあ、サリアはまだ若いからこれからさ、成人前だしね。
ディアちゃんが言うには子供は18になってからだそうだから、そのころにはもっといい感じになるだろう。
なんで18かって? よくわかんない。だけどあまり早く子供を産むのはよくないんだって言ってた。
だから18になったら仕込んでもらって19~20ぐらいで一人目みたいな計画でいます。
「サリアもそのころには立派に育つよ…でも練習は今のうちにした方がいいかも」
ふと思い立って私はそそのかす。
だってサリアってば今すごくエロイんだよ。
なんというか未成熟のエロス。
一緒にお風呂に入ったときとかさ、まだくびれは少しで、お尻も小さいけどこのラインが艶めかしいし、水にぬれた大きな胸がまたいい形でね。
その時々の魅力というやつだよね、今の時期しかない美しさ。今のあれを味見しないというのはもったいないような気がしてきたのよ。
うーん、何とか巻き込めないかなあ…ディアちゃんとHしている時にサリアにきてもらって…そのまま巻き込んで…でへへへへっ。
一回やっちゃえばあとはズルズルだよね。
今だってきわどいコミュニケーションしてるからもう一押し。
そんなそんな楽しい想像に身を委ねていたら。
「ルトナ、お前の顔、ばあさんがろくでもないことを考えている時にそっくりだぞ。エルメアは俺に似ていると思ったがお前はばあさんに似ているな」
「えー、お母さんだって私と似たようなもんだと思う」
「いやー、少なくともあいつは女の子を食おうとかはしなかったぞ」
失礼な。今の私はお母さんの教育の賜物だよ。
どんどんどんどん、どどどどどん!
そんなときに太鼓の音が響いてきた。
「交代の時間だね、少しかき回してくるね」
今大地を埋め尽くす蟹に対し、騎士、冒険者たちは陣形を組んで殲滅戦を展開している。
本当はもっとちまちま戦うはずだったんだけど魔物が多くなりすぎて大掛かりになってしまったんだ。
まあ、魔物が弱くてどの蟹も一撃で倒せるぐらいだから戦闘というよりほぼ作業。
害獣駆除みたいなものだ。
だからこそ困る事って言うのがある。
害獣が囲いの外に出ると被害が増える。
一番危ないのがこの前衛の交代の時。
どうしても隙ができるから後方を少し間引いてゆとりを作ります。
そのためのおもちゃはディアちゃんに作ってもらった。
「いくよー、グリン、グング、ミョル~」
わたしは従魔の三匹を呼ぶ。
後ろで寝ていた三匹がのっそりと起きだして歩いてくる。
トコトコと近づいてくる大、小、小のイノシシ三匹。
グリンブルスティを戦車につなぎ、グングニルとミョルニルに鎧を着せれば準備OK。
「じゃあ、交代の援護に行ってきます」
「姉さま、お気をつけて」
「おうっ、行ってこいや」
「よし、行こう。グリンブルスティ!」
「Buwoooooooooooooooooo!」
■ ■ ■ side・とある騎士。
「Buwoooooooooooooooooo!」
「Pugi。Pugiiiii」
獣の泣き声が戦場に響いた。
またあの時間がやってきたのだ。
と戦線を支える騎士や冒険者が交代のために入れ替わるその隙をつかれないようにそれはやってくる。
振り返ればゆっくりと戦車が動き出すところだった。
トストスと軽快な足音で進む緑の石を鎧のようにまとった巨大なイノシシ。
そしてその脇をちょろちょろと走るかわいいウリ坊。
俺たちはゆっくりと路を開ける。
少しずつ。少しずつ。
居並ぶ兵士たちはみんなその戦車に道を譲る。
その速度は次第に早くなり、前線まできれいに道が開いた。
その瞬間。
ドドン!
空気を押しのける音がして戦車が一気に加速する。
風が我々の頬をなでる。
そして次第に強くなり髪を掻きまわすような激しさになっていく。
それはまるで神話の光景だ。
一台の輝く戦車がわずかに浮いて空中を滑っていくのだ。
隙間から入り込もうとしていたカニは風にまき上げられ、そして打ち砕かれていく。
たくさんのカニが巻き上げられ、粉砕されていく。
ああ、まるで神の息吹の前に吹き散らされる雑兵たちの様だ。
そしてそれは戦場を駆け回る竜巻の様で、あっという間に地を埋め尽くす蟹が、まるで削り取られるかのように減っていく。
もうすでに何度か見た光景だった。
兵士が騎士が冒険者がこぶしを振り上げて歓声を上げる。
戦車を操る獣人の女性は美しく、まるで女神の様。
兵士たちの間では『翠玉の戦乙女』などと呼ばれてファンが激増している。
「いまだー、後退せよ」
「前進! 前進!」
戦闘メンバーが入れ替わる。
入れ替わった直後はしばらく楽ができるのだ。
俺たちは少しの間、その緑の風が地を薙ぎ払う光景を見つめ続けた…
いつもはこれで終わりなのだが今回はちょっと違った。
迷宮の入り口からも神話がやってきたのだ。
青い燐光揺らめく大きな獣。
「Paoooooooooooooooooooooooooo」
その獣が大きく、そして反響するような声を上げる。
そしてその獣から放たれた青い光が、光の波が蟹たちを粉砕していく。
おお、神よ…私たちは神話の時代に帰り着いたのか…
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ロマンチックな騎士さんがいたようですね。
ルトナは人気者になっているようです。




