7-20 迷宮攻略二日目。やむなく撤退
7-20 迷宮攻略二日目。やむなく撤退
仕方ないので鎌の刃を霊的な性質のみに限定する。
さすがに死体ごと粉砕するのはためらわれたからだ。
だが…
《うわっ! であります。今度は再生しているであります》
うーん、これをしたのは悪意に満ちた天才だな。
中の死体がコアの役割をしていて、殺された死者の苦しみを力にして邪妖精が再生しているらしい。
こんなの普通にできるはずがないから誰かが何かしたのは間違いない。
となると心当たりがあるよな。
《悪辣であります》
全くだな。
「仕方ない、死体の回収はあきらめよう」
ばらばら死体でも被害者の特定はできるかもしれない。
「ディアさん。もう一度私たちが…」
「あー、いいよいいよ。これは俺の仕事だから。さて、汝に安らかなる死を、そのためにふさわしい報いを」
俺は鎌の性質を変更して邪妖精の足を切り落とした。
ボトンと落ちる足。だが今度は前のように死体に戻ったりはしなかった。
足を構成していたふじつぼやらなにやらが溶け出すように広がり、アメーバのようにうごめいて本体に合流してしまう。
「ふむ」
「興味深いことを見つけると思考がそっちに行っちゃうのは悪い癖だと思う」
はっ。
流歌の指摘で我に返った。
確かに流されかけていたな。
だけど敵を知るために必要なことでもあるのだ。うん。
「つまり俺の推測ではある程度の大きさを維持しているとこの邪…邪神は再生する。ということだよね。つまり細かく切らないといけない」
とはいってもひじの先から切り落とした腕が滅んだんだからそれほど細かい必要はないだろう。
「さて、気分悪いと思うから少し下がっていて」
そう言うと俺はブオンと無限獄大鎌バージョンを振り回した。
本当はこれは変身した後の武器に決めていたんだがうまくいかないね。
まあ、ここは身内だけだからいいか。
「それ」
今度は足を20cmぐらいの長さで切り落とす。
一つ二つと切り落としていく。
だがそうすると近くに落ちたパーツと結びついて本体に戻ろうとするのが出てきた。
単独のはそのまま滅びるのに。
「光よ、邪悪なるものを亡ぼせ」
と、思いがけずに勇者ちゃんたちの援護が…
対消滅を誘発する魔力の中では再建もうまくいかないみたいで分割されたものが滅びていく、残ったのは…ばらばら死体。
うーん、ビジュアル的になんというか…
「そのまま続けてくれ」
しかし贅沢は言っておれない。
俺は次々にシークリーチャーを切り刻み、ばらしていく。
邪壊思念が無限獄の力と勇者ちゃんたちの力で滅ぼされ、ただの死体になるのに大した時間はかからなかった。
■ ■ ■
「何とかなったね」
「お疲れ様~」
「お互いに~」
勇者ちゃんたちとお互いをねぎらいあう。
「うーん、邪神が相手だと出番がないわね~」
「本当です」
ライラさんたちは活躍の場がなかった。
まあ、そういう存在だからね。
「それにしてもすごい武器よね。それって神器でしょ? にたようなのを見たことあるわ~」
さすがライラさん、年の功…ひっ!
ぞわっとしたよ、すごい寒気だった。
「えっと、ディアさんも勇者です?」
そんな時に翔子君がそんなことを聞いてきた。
「まさか、違うよ、ここでいう勇者というのは異世界から渡ってきた人たちだから、俺は該当しません」
勇者ちゃん達ちょっとびっくりしているけどそんなに珍しいものではない。
「この世界は神様とか精霊とか結構そこら辺にいたりするから、加護をもらったり、武器をもらったりしている奴ってそれなりにいるんだよ。
だいたい国の王家とかってそう言うのの末裔とかだから」
「異世界は思ったより異世界だった」
「リアルなファンタジーだね」
「まあ、そこら辺の詳しい話はあとでね。
家の神様からちょっと聞いた話もあるから。この迷宮が攻略出来たら詳しく話すよ」
帰還方法に関してとにかく一回は話さないといけないしね。
《でもこれからどうするでありますか?》
そこだ。俺は邪壊思念の影響は受けないけど他はそうもいかない…
俺一人で侵攻して敵を倒すか…
じゃなかったらとりあえず俺が浄化をかけるか…
まあ、エネルギーも随分溜まっているからやってやれないことはない。
どっちにするか…
「いったん戻るべきでしょうね。どのみちこの瘴気の中を進むのは無理よ。勇者ちゃんたちが対抗できるとしても下の階層すべてでは無理でしょう…
神官とか総動員して対応しないと…」
「そうですね、それしかないと思います。じゃあ、みんなは先に戻っていてくれ」
「ディアさん?」
あっ、クレオに睨まれた。
うーん、そういいつつ勝手に敵を倒すとかやっているから信用がない…のだね。
とりあえず浄化だけしてみんなでもう一回攻略するしかないかな。
《無難でありますな。これで勝手に解決とかしたら奥方にしばき倒されるでありますよ。うれしいですか?》
いや、うれしかな…ちょっといいかも。
しばかれるのがじゃなくてすねたルトナがね。うん。
でもそれはそれとしてここは俺が行くしかないよね。
「ほら、他の二チームに連絡して戻らせないといけないでしょ? 空飛べるの俺だけだし」
「あっ、そうか」
進めない以上その選択肢しかない。
一応念のためモース君を彼らにつけてやり、俺は合流予定地点に向かった。
■ ■ ■
「理論上、下への通路って六つあることになるわけだけど、これって全部正解なんじゃねえ?」
大きな丸に周辺の六つの丸。
一応隣の小丸に寄ってみたら同じように邪壊思念が漏れてきていた。
「帰る前に一回覗いてみるか?」
《また~怒られませんか~》
ここから相棒役は華芽姫に交代だ。
「大丈夫大丈夫。覗くだけだよ。
それに浄化自体は俺がやらないといけないんだし、そのためには中を覗いてみないとね」
《う~ん、まあ、たぶんすぐに集められる神官さんでは~対処が難しいでしょうね~》
「役には立つだろ?」
《それはたぶん~? 精霊であれ、神であれ、英霊であれ、正しい神であればこの歪みを解消する性質はもって~いますから~神官さんであれば~たぶん~?》
頼りな。
「であればどの程度の浄化が可能か、無限獄の魔力を開放して一回やってみようと、思うわけですよ」
《まあ、それしかないですかね~。でもルトナさんには報告しま~す》
仕事と家庭の板挟みか…ほんと大変なお仕事ですよ。
まあ、やるけどね。
《あ~、いました~》
予定の合流地点に近づくと人影が見えてくる。
そこにいる連中が俺を指さして何か騒いている様子が見て取れた。
《とりか~? ドラゴンか~? いや、王女の剣の冒険者だ~とか言ってますね~》
微妙にお約束を守っているのかいないのかわからんやつらだ。
まあ、ここには飛行機はないからな。
「にしても少なくね?」
《まだ来てないみたいですね~どちらでしょう?》
ふうむ、いるのはこの辺りの冒険者選抜チームだな。
ミスリルの剣の連中がいないようだ。
「まあ、まだ約束の昼まで少しあるからな…先に降りてあの連中にだけでも話をするか」
俺が地上に降りると。
「それ飛行魔法ですか? 教えてください」
「ばか、こんな魔法ただで教えてもらえるはずないだろ?」
「君一人か? ほかの人はどうした」
「何かあったの~?」
みんな好き勝手言ってるな。
俺はとりあえず邪神が出たことを説明していったん帰還する方がよいと提案した。
別に命令権とか持っているわけじゃないのであくまでも『お願い』だ。
彼らがどう判断するかちょっと不安だったが邪神の名前は効果抜群だった。
みんながそそくさと洞窟の入り口から距離をとる。
ここも結構下から嫌なものが漏れ出しているし悪臭がするが、彼らは気が付かなかったようだ。
「よし、わかった。ミスリルの剣が着き次第撤退しよう」
うんうん、無難な判断だ。
と思ったんだが予定の時間をしばらく過ぎてもミスリルの剣は現れなかった。




