7-18 迷宮攻略一日目。浜焼きの逆襲?
7-18 迷宮攻略一日目。浜焼きの逆襲?
二階層です。
「見た感じ一階層とあまり変わっていないですね」
一階層は無事に抜けました。
まあ、蟹に挟まれたりハマグリに挟まれたりした犠牲者は出たけど大きな被害じゃない。
一階層だしね。
で、磯の一部に洞窟上の下り坂があって、そこを降りたら二階層だった。
「でも不思議ですよね。ずっと降りてきたのに下から出るって」
そう言うのは翔子君。
確かに変ではある。
道順としては一階層の中央付近で洞窟を見つけ、下り坂を進んできたわけだ。距離的には二、三〇〇mというところだろう。
最後の方が少し水平で、前方に光が見えて、洞窟から出たわけなんだけど、外に出てから見るとどこにものぼりになるような地形は存在しないのだ。
知らない人が見たら単なる横穴。上に何もない以上下から来たようにしか見えないだろう。
そう言う構造。
「帝国にも迷宮はあると聞いているけど?」
「あれは…ほとんどアリの巣です。下りのトンネルが縦横に走っていて、ところどころに広いフロアがあって…そんな感じ。なのでちゃんと下に向かっているように見えました」
「アウシールの迷宮もそうですよね。まあ地下にあんな大きな構造物があるというのが不思議ですけど下に行くには下っていく。
ここもそうなんですけど構造上下りが存在しないんですもの」
そう言うと流歌はファイアボルトの魔法を出てきた洞窟の上にはなった。
しかしそこには見えないタワーが隠れているというようなこともなく素通りして消えてしまうのだ。
「いやあ、迷宮ってそんなものだろ?」
「そうだよな、どっちにしても変なんだ」
流歌と翔子君がありえない構造に、たぶん感動のようなものを覚えている一方。この世界の冒険者たちはこんなものだろうという認識しか持っていない。
不思議なものだ。
《まあ、そんなものでありますよ。彼らはこれが当たり前だと思って育っているんですから》
物理法則とか構造上の矛盾とかは考えないんだよね。
それもつまらないのじゃないかな。
「この二階層はまだ全体が探索されていないから手分けして調査しよう」
「でも下への坂道は見つかっているんだろ?」
「そこが正解とは限らないから調べながら行くしかないさ。ここは一階層と魔物の強さはたいして変わらないってことだから油断しなければ問題ないだろう」
「ううっ、すまん」
油断した人がうなだれた。
「まあ、気にすんな。俺たちも最初蟹がいっぱい出てきたときは浮かれたもんさ」
お祭りだったらしいしね。
ここで俺たち三チームは手分けして階層の調査をすることにした。
予定として明日の昼頃に唯一発見されている回廊に集合する予定だ。
■ ■ ■
《んー、ここはこんな感じでありますか》
『こうね』
俺はモース君の指示に従って地図を組み立てていく。
勇者ちゃんはマップというスキルを持っているのだそうな。なんでも自分が歩いたところはオートマッピングされるんだってさ。
方向音痴垂涎のスキル。
ただ行ったことのない場所は空白だそうだ。自分を中心に把握できる二〇〇mぐらいの範囲がマップになっていくらしい。
そして俺がやっているのは自分でマップを描くことだ。いや、作ることか。
モース君が下位精霊を放って周辺を探査し、その情報をもとに俺が地図を組み立てていく。
使用するのはアルケミック・マギ・イク(俺の左手の魔導器)に内蔵されたデザインという魔法、あるいはユニット。
平たく言うとエディターだね。
ものづくりの時に精密な立体的な設計図を作るためのものなんだが、仮想空間に3Dの立体的なモデルを構築するもの。そこに箱庭のようなものを構築すればあら不思議。立体的な地図の出来上がり。というわけだ。
ある程度形になってきたので外に投影してみる。
「うわー、すごいですね」
「マップ。いらない子?」
勇者ちゃんの驚き方がネガティブだ。
「いやいや、そんなことはないよ。これはしょせん箱庭だから自分で現在位置を確認しないといけないし、動いても更新されたりしないし、
机の上に地図を広げるのと大して違わない」
地図とカーナビでは用途が違うということだ。
「私たちのマップってみんなが見えるようにはならないんですよね」
「でもこれならわかりやすい。照らし合わせると…今いるのはここ」
そう、マップのいいところは現在位置が分かることだよね。
話を聞いてみると自分を起点にして世界を把握しているらしい。
自分が通ってきた道があって、それが過去にさかのぼってずっと記録されていて、例えば半径二〇〇mの地図をずっとずっとつなげてきたような感じで全体を把握しているようだ。
なんか壮大だね。
まあ、ここにはGPSなんてないしもともとの地図データーがあるわけじゃないから。
と思ったら。
「あっ、マップが広がっていく」
「本当だ。なんかこの箱庭を読み込んでいるみたい」
へ―そりゃ便利だ。
「だったら今日はもうこの辺りで野営して地図作りに専念するか?」
「賛成」
「歓迎」
「おなかすいたからご飯にしよう」
はい、満場一致でした。
「じゃあディアさんはそのまま地図作りお願いしますね」
「え? マジで??」
「マジです。ご飯できたら呼んであげます」
あっ、なんかすっごいデジャビュ。誰かに似てるね流歌は。
「でもキャンプ道具はディアさんが持っているのがいいと思う」
「えっ、私たちも持ってますよ。準備してきましたから」
アイテムボックスのスキルも持っているからね。
「でもディアさんのキャンプ道具は一味違いますよ」
クレオは使ったことあるからね。
というわけで出しますよ。
ファンファーレがないのがとても残念だ。
キャンプボックス~。
はい、キャンプのための箱です。
平たく言うとトーフハウスというやつだな。
大きなコンテナの中にカプセルベッドとかを作りつけた奴。
ただ箱として完全に密閉されてないと中にいろいろ詰め込めないので見た目はただの箱だ。
クレオとライラさんが留め金を外して外壁を展開していく。
壁が二重、三重になっていて外側に倒すと平らな敷地ができるのだ。
前をパタン。
あっ、出っ張った石に引っかかった。
「あっ、破壊しますね。【エクスプロージョン】」
はい、勇者ちゃんの魔法ででっぱりがなくなりました。
横はパタンと倒してもう一回90度方向にパタンとひろげる。
これで長方形板の上にトーフハウスを置いたような形になった。
後はキャンプ道具を出せばオーケー。
料理には自信があるらしい勇者ちゃん二人が料理にとりかかり、残りが周辺の魔物の掃討にあたる。
なんかみんな楽しそうだ。
俺は一人で地道に地図作り。
《自分がいるであります》
おおー。心の友よ!
しばらくするといいにおいがしてきた。
でっかいハマグリとかサザエとかが網で焼かれ、そこに醤油が垂らされてそれがすごく凶悪なにおいを周囲にまき散らしている。
浜焼きというやつだな。
でも五〇cmのサザエとかってどうなんだ? 違和感がすごい。
他にもいろいろ料理はある。
あっ、アワビの刺身でクレオとかライラさんとかドン引きしてる。
そうか、そういえばこの世界で刺身って見たことなかった。
あっウニが割られた。やっぱり五〇cmのウニだ。食べられるのかそれ?
「大丈夫です。食用可です。鑑定しました」
どういう理屈なんだろう。そのスキル。
俺の解析とは違うんだよね…
それにしてもうまそうだな。ちょっとつまみ食いでも…
《ちゃんと地図を作らないといつまでたってもご飯が食べられないでありますよ》
え? そう言う流れなの?




