7-16 陸上戦艦がやってきた
7-16 陸上戦艦がやってきた
プオォォオォォォォォォォォォォォォォォォォン
どこをどう蒸気が通ってこんな音が出るのかわからないがホルンのような音が響き、とうとう陸上戦艦がやってきた。
いや、蒸気機関車だったな。
すさまじい偉容である。
さすがに町にプラットホームなどはないので町の外に停車し、長いタラップを展開して人が下りてくる。
出迎えるのはサリアだ。
降りてきたやつらがサリアの前にやってきて膝をつく。
サリアは王女として彼らにねぎらいの言葉をかけた。
「ナイアス・グリスであります。陛下の勅命によりただいま着任いたしました。現在までの指揮は某がとっておりましたが、以降は殿下の指揮下に入るように命じられております」
「ナイアス将軍ご苦労でした。着任を歓迎します。
現在迷宮から際限なく魔物が湧いている状態ですので騎士団の着任はありがたい」
その言葉に将軍以下参謀本部の面々に緊張が走る。
「すでに迷宮があふれておるのですか?」
将軍の顔は曇った。
ナイアス将軍というのはまあ、王国の将軍で、脳筋な人で、我が家とも親交がある。
脳筋と相性がいいんだよねうち。
あまり頭を使う戦闘には向いていないんだけど堅実で粘り強い用兵をすることで定評のある人だ。
守りにつかせれば頼りになる。頭固いから守れといわれればてってい的に守るんだよ。挑発なんかすべて無視で。
そう言う意味で信頼のおける将軍だ。
「迷宮があふれた…といえるのかどうか…出てくる魔物は量、質ともに高くないのです。ですが常に迷宮から湧き続けています。
現在は冒険者たちが駆除に当たっていて、しかも手が足りている状況ですが、このままはよろしくない」
そうなのだ。
魔物が出てくるので農作業が盛大に滞っている。
特に迷宮周辺の麦畑などは収穫を前に農夫が全く近づけない状況だ。
魔物の侵攻がコントロールされているとはいえ避けられるリスクは避けたいのが人情。
こんな世界でも、いや、だからこそ自分の命は大事なのだ。
それに加えてカニ祭りも終わった。
はっきり言って際限なく供給されるのでありがたみがなくなってしまってみんな食傷気味。
保存するにしたって限界はある。
品質を維持できる収納の魔道具には限りがあるのだ。
かき集めて使っているがとても追いつかない。
なのでしわ寄せはフフルの無限収納に。ただフフルは蟹は嫌いらしい。なんかいやいやしまってた。
収納って中見えないけどね、嫌いなものが際限なく入っているところを想像すると、そりゃ嫌だよね。
ちなみに俺の魔導器はダメだよ。
あれは100種類のものが収納出来て、個性のない同じものなら際限なくスタックできるんだけど、蟹は基本的に同じ物がないんだよね。
いや、完全に無傷ならある程度はスタックできるんだけど、もげてる足が違ったり、体のどこに穴が開いているかで個性が出てしまうとそれはもう同じものとして認識されないのだ。
それでもコンテナに入れてしまえるだけ締まったけどね。
そんな状況なのでこの当たりの冒険者のモチベーションはダダ下がりなのだ。
まあこの一週間、蟹しか食べてないような状況だからね、俺だっていやだ。
そう、くわしい調査の方針を決めた次の日から蟹蟹パレードが始まって、一週間が過ぎた。
迷宮から巨大タラバとか、巨大タカアシガニとかどんどん出てきて動きが取れなくなってしまったのだ。
俺たちもローテーションを組んで駆除(もう討伐とは言わない)に参加しているありさまだ。
何とかしなければ…とみんなが思っているときに援軍が来た。
うん、ありがたい。
「というわけで騎士たち兵士たちにはローテーションを組んでもらって駆除に参加してもらいます。長旅で疲れているかもしれませんが…」
「なんの、陸上戦艦の旅は快適でありました。あれだけ巨大ですと魔物の襲撃もありませんし我らはただ休んでいただけであります。
騎士や兵たちは多少窮屈ではあったようですが、なに、少し休めば問題ありません」
脳筋の発想は一般人には迷惑なものだ。
実際あれで移動したこととかないから環境はわからないけどね。
「わかりました。無理のない予定を組んでください。
昼間よりも夜の方が大変なので、今まで駆除に当たっていた冒険者ギルドと情報のやり取りをしながら、お願いします」
「・・・・・・お任せください。某の副官は大変に優秀です」
『あっ、投げた』
『丸投げた』
『逃げたな』
みんなが同じことを思った。と思う。
「では私はすぐにパーティーを組んですぐに迷宮の討伐に動きますね」
サリアがにっこり笑ってそう宣言し、多くの人が…
「「「「なんですってーーーーーーっ」」」」
驚愕の声を上げた。
■ ■ ■
「うううっ、楽しみにしてたのに…」
「本当ですよ、何考えてるんでしょ」
サリアがなき、ルトナが怒る。
将軍は『さすがサリア様、見上げた根性だ』と感激していた。
根性を賞賛される王女様というのはどうなんだろ? と思わなくもないが、大体の人は反対を表明した。
まあ、現状サリアが総司令官だからね。
それにギルドとの折衝もある。
右も左もわからないナイアス将軍とか、将軍の副官の『哀れなマイケル』(これほんとのあだ名)に丸投げは無理がある。
どうあってもサリアは外に残る必要があるのだ。
そもそも王女様が先陣を切って迷宮に突っ込むというのは無理がある。
そんなわけでサリアは迷宮攻略組から外れざるを得なかったのだ。
なんでルトナまでという話になるのだが、王女の護衛が務まる身分の高い女性というとこれが少ないのだ。
という名目でサリアに引き留められた。
まあ、愚痴をこぼす相手が欲しいというところだろう。
ルトナはといえば文句を言いながらもサリアのサポートを了承した。
家族のためならえんやこらが獣人族の性質だからね。サリアだけを置いていくというのはルトナにはできないだろう。
一応ここは戦場だから。
他にもフフル、爺ちゃんが留守番に決まった。
攻略組は俺、クレオ、ライラさん、流歌、翔子君。
といったメンバーだ。
少なく見えるかもしれないがモース君もいるし獄卒もいる。勇者ちゃん二人は魔法の適性が高くて大概の魔法は使える。
攻撃より回復に期待。
あと実は評価の高い冒険者も行くことになっている。
迷宮は広く、下に行くと階層も広くなる。探索がなされていないところも多い。
となると少しずつ攻略を進めて何日か、何週間か、という見込みでやらないといけない。
俺たちだけでやります。とか言っても誰も納得してくれないだろう。
かなりの危険が予想されるが…まあ、頑張ってほしい。
骨は拾ってやるよ。
死んでも俺がちゃんとあの世まで案内してあげる。それが俺のお仕事だから。
だから安心して死んでくれ…じゃないや。
別に死んでほしいわけじゃないんだ。活躍してくれて一向にかまわない。うん。
翌日俺たちは迷宮に侵入した。
迷宮の出口付近には騎士と冒険者が構築した臨時の陣地があり、補給物資や交代要員なども準備されている。
突入部隊とは別に補給部隊や救護隊も編成された。なかなかの準備といえる。
これでいきなり迷宮がぽしゃったりしたら大惨事だなあ。
うまくやらないと…




