6-03 帝国の勇者
気が付けばPVが30万を超えていました。ありがとうございます。
これもひとえに遅筆な拙作に付き合ってくださった皆様のおかげ。
これからも地道に続きますのでよろしくお願いします。
6-03 帝国の勇者
高橋吉保、水無月進、生駒翔子、上月流歌の四人がつれだってやってきた。
四人ともかなり良い服を着ている。
しかしちょっと装飾過多だね。
帝国風の服だろう。帝国の服というのは無駄に派手だったりするのだ。
日本人の感性でこれを喜べるやつは少ないと思う。
あえて指摘はしないが。
「ヤッホー。この間の装備も派手だったけど、普段着もど派手だね」
うん、遠慮なしに指摘するやつがいたよ。
「そうだろ?いいだろ?」
そう言ったのは高橋君だ。いたよ少数派。
年齢は一〇代後半。中二病が完治しない年齢なのかもしれないが…生まれながらにセンスが特殊という可能性が高い。ちょっとあきれてものの言えないレベルだ。
「そのセンスは分からないでござる」
そう言ったのは水無月君だ。きれいな名前なのに本人はちょっと小デブな青年だ。ただ顔立ちは悪くない。
残念なのは今も何本もの串焼きを抱えておいしそうに食べていること。
彼らとは先日迷宮の中であって挨拶をしたが、そのせいでルトナも知っているのだが、魔法使い系の人だ。オタクではないっぽい。
運動しろ運動!
生駒さんは気の弱そうなお嬢さん。彼女も魔法職。回復魔法を中心に勉強しているらしい。かわいい女の子といって支障がない。
そして最後の一人。上月流歌さん。
彼女も美少女だ。そして俺の知っている女によく似ている。
しかも名前が上月。いやいや、ありえない…と思っていたが、時間が経過するとそれしかないような気がする。
たぶん彼女は凰華の娘だろう。
しかしそうなると父親は誰だ?
凰華の周りに上月というのはうちだけだと思うのだが…
ひょっとして俺の子か? なんて思いたいところだけどそれはない。闘病生活の末期、俺にはそんなことをする力はなかったのだ。
ではほかにどんな可能性が?
① 凰華の家が全滅して凰華が上月家の養子に来た?
② 凰華がうちの兄のどちらかと結婚した?
どちらもあり得ねえ!
①は常識的にあり得ない。
②は…ないな。凰華はオタクでしかも腐女子だ。オタクが死ぬほど嫌いな兄貴どもがなびくとは思えん。本当に蛇蝎のごとく嫌っていたのだ。
「あの? 何かしましたか」
「いえいえ、ちょっと知人に似ていたものですから」
「わっ、ディアちゃんこの子好み? ハーレムに誘う?」
ナンパじゃねえよ。
「「「ええ? ハーレム!?」」」
そっちもまじめに反応すんな日本人が!
日本はオタクでなくてもこの手のサブカルチャーはテレビで雑誌でネットで氾濫しているからな。
ハーレムチートなどおなじみだ。
だが世の中ハーレムというのは簡単じゃない。
この世界の女性は一夫多妻制には寛容だ。魔物が多く、男の死亡率が高いために一夫多妻制にしないと女があぶれてしまうからだ。
だからといって誰でもハーレムが作れるわけでも女が手に入るわけでもない。
女性はシビアだ。
自分と自分の子供を守れる男でないと見向きもしてくれない。
しかも一夫多妻が容認されているということは甲斐性のある男の所に女が集中して男があぶれるという意味である。
ハーレムが男の夢! とか言っている奴がいるが地球の一夫一婦制がそもそも男の願望で出来上がったというのを知らんのだろう。
選ばれたαよりも選ばれない男の方が多い。あぶれた男が『俺たちにも女をよこせー』と決起してできたのが現在の男一人女一人の夫婦制度だ。
女はすべての男に等しく分配されるべきというすごく男尊女卑でエゴイスティックな男の欲望から生まれたシステムなのだ。
そしてハーレムができればできたで女は順位には非常にこだわる。
生物の本能が子孫を残すことならより安全でより良好な環境を望むのも女の本能だ。
ルトナもハーレムハーレムと騒ぐけど、一番が自分だから騒ぐのであってライバルがいたらそうはいかないと思う。
事実ルトナは上月さんを品定めするように厳しく見ている。にっこり笑いながらね。
「しかし、すごいでござるなあ…蒸気機関のお披露目というのでもっとSL風の物を想像していたでござる。これはまるで起動要塞でござる」
微妙な雰囲気を吹き飛ばしたのは水無月君だ。
「SL?」
聞きなれない言葉にルトナの興味もそれたらしい。
そして思う。『蒸気機関といえば普通はSLだよね』と。
「吾輩たちの世界に昔あった乗り物でござるよ。はるか昔の良き文明でござる」
いやいや今もちゃんとあるから。
昔ここにやってきた西部開拓史の人が蒸気機関車の話をドワーフにして、そのドワーフがその話をもとに作ったのがこの陸上戦艦。
まるで伝言ゲームだ。
「実は蒸気機関の研究って帝国でもやってるんだよね。
実はおれ、そういうのに詳しくてさ、帝国の人にここの技術力でも実現できそうな科学技術ってことで蒸気機関の話をしたんさ。
だけど全然うまくいかなくてさ」
まあそうだろうな。
異世界転移としてはありがちな展開だ。
だがどんな機械であれ、専門知識がないとちゃんとした再現などできやしないよ。難しいどころの話じゃない。ちょっと詳しいぐらいじゃね…
「へー…どういうものなんだ?」
でも、ちょっと探りを入れてみた。
「うん? これと同じだよ、蒸気だから水を沸騰させてその湯気で車輪を回すんだ。すっごい圧力があるはずなんだけどねえ…」
「って。全然詳しくないじゃないか! 蒸気の噴射で車輪なんか回らんわボケ!」
「ふえ?」
つい全力で突っ込んでしまった。自慢げだった高橋君は鳩が豆鉄砲食らったような顔で固まった。
身振り手ふりで話すところを見ると軸に板をくっつけてそれを蒸気の力で回そうとしたみたい。まあ大概の人は勘違いしているんだけどね。
「あ…あれは真空の力で動くんですよね…」
小さな声でつぶやいたのは生駒ちゃんだ。彼女の方は多少の知識はあるみたい。
どんな流れだったのかは分からないが、たぶん蒸気機関の話にはこの生駒ちゃんはかかわってはないのだろう。
にもかかわらず知ってんならなんで言わなかった! とか始まってしまった。
案の定蒸気機関の話を知っていたのは男二人で女の子たちは初耳だったようだ。
「しかし、真空でござるか…どういうのでござる?」
生駒ちゃんもそういうものだと知っているだけで詳しいことは分からないらしい。
そこにルトナが爆弾を放り込んだ。
「ディアちゃんが詳しいよ?」
「「「え?」」」
みんなの視線が集中する。
困った。
まあいいか。
帝国にはドワーフがいないから話だけでは無理だろう。
「おほん」
と一つ咳ばらいをして俺は簡単な概要を説明する。
俺だってその程度しか知らないのだ。
蒸気機関を実用化したのは間違いなくシダさんで、この巨大な機動兵器? を作ったのは間違いなくシダさんだ。
ちょっと理屈を理解した程度でできるものじゃない。
「というわけでシリンダー内が真空になり、その真空はあの巨大な構造物を動かすだけの力がある。ということだよ」
「なるほどそうやれば蒸気機関は進むのでござるか」
「いやいや、無理無理。それは単なる理屈でそれを実用化するだけの技術がないと…
この国だってドワーフたちが研究に研究を重ねて、それこそ何十年もかけて基礎を作ってきたんだから、そんな簡単なものじゃないよ。
悪いけどドワーフのいない帝国じゃ。無理じゃね?」
この世界には産業革命もないし、そもそも魔法が幅を利かせているから科学自体がほとんどない。
というか失われたままだ。
この国でならアサルトライフルぐらいは作れるかもしれないが帝国では火縄銃が精いっぱいだろう。
「そうなんですよ。なんで帝国にはドワーフもエルフも獣人もいないんですか?」
「異世界ですよ、楽しみにしていたんですよ」
女の子二人が急にでっかい声を出した。
この二人はオタクだ、間違いない。
このままオタク談議が始まるかと思った。さすがにそれはまずい。襤褸が出るかもしれない。
オタクは語りたがるものだから俺も余計なことをしゃべっちゃうかも。
だが救いの手は真後ろからもたらされた。
「みつけただー!」
ドワーフが俺の腰にしがみついていた。
あれ? この人見たことがある。
「ああ、江戸さんだ」
「エドなんじゃが」
発音か? 発音なのか? 解せぬ。




