5-39 迷宮探索⑪ 戦闘・決着
5-39 迷宮探索⑪ 戦闘・決着
確か名前は三蔵君。
《サイゾウであったと記憶しているであります》
そうそうサイゾウ君、三蔵だとお経を取りにいかないといけなくなっちゃうからね。
にしてもサイゾウ君は見事な隠蔽能力の持ち主だ。
これ熱放射もなけりゃ魔力放射もないぞ。
空間密度を観測しないと全くわからないだろう。
《エネルギーの放射も全くないで在りますから自分にも普通に見えないで在ります。空間密度だと見えるでありますか?》
まあね。
そこに質量が存在すれば空間がゆがむ。これはどんなに小さなものだってそうなんだ。
等高線とか気圧線をイメージするとわかるかな。質量があるところは空間が密になる。
この密になった空間が重力、あるいは引力というものの正体だ。
スポンジの上に鉄球を落とすと重さでスポンジがおしつぶされる。この押しつぶされたスポンジが空間だ。
中心が押しつぶされるからその周囲にもひずみができる。つまり坂ができる。
その坂の上にものがあると中心に向かって転げるわけだ。
これが重力のイメージだね。
だからそこに質量が存在すれば、そこにはかならず密になった空間が存在する。
変な話なんだけど、この空間密度というのはモノ作りでも結構重要で、左腕の宝具にセットされた魔法の中に空間構造に干渉する魔法があったりした。
空間構造をフラットにして疑似的な無重力を作り出す魔法だね。
重力制御で空を飛ぶグラビットドライブとかもあるんだから不思議じゃないけど。
その副次効果として空間構造の観測ができるようなんだよね。
もっともいちいち意識しないと起動しないんだけどね。
さて、邪妖精のほうはいい勝負をしているから、こっちにあいさつにいこうか。
《では変身するでありますか?》
『え? ・・・・・・( ゜Д゜)・・そうだった! この前やりあってた時は謎の怪人をやっていたんだった!』
まずいじゃん。
身バレしないから平気で無茶ができたんだぞ。
素のままいろいろやるのはまずいんじゃね?
どないしよ。
愕然としているうちに接近してきたサイゾウ君はアリスと接触。
その瞬間アルスの反応もほぼ消滅した。
どうもサイゾウ君のスキルは他者にも適用できるらしい。
そしてそのまま逃げに入る二人。
ここから暴れこんで二人を倒す、できるかもしれないができないかもしれない。
その間邪妖精の対応がおざなりになる。
これはよくない。
よし、今日のところは見逃してやる。
なんかこっちが悪役っぽいセリフはいてる。
でもあの変身タキシード怪人は証拠がないような悪党を始末するいわば始末人。非合法活動をするための格好だからちゃんとばれないように分けないといかんのだよね。
気を付けよう。
「よし、こうなったら邪妖精に集中だ」
《最初からそうした方がよかったでありますか?》
それは言わない約束だよ。
さて、邪妖精の相手となると冥府の霧で一発だな。
俺は神器、無限獄を構えて力を放出する。
ひいぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃっ
ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
杖の中の地獄ですりつぶされた咎人たちのうめき声。
いや、これって聖なる攻撃なんだけど、整えられた魔力が悪いものを打ち消していくはずなんだけど…
見た目がなぜか邪悪で暗黒な攻撃に見えるんだよね…
困ったものだ。
ルオォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
聖なる攻撃である証拠に邪妖精が苦しみの絶叫を上げた。
靄のように漂う聖水にどんどん力を削られている所に持ってきて、そこに存在そのものを相殺する魔力の霧。冥力の霧。
バチバチと対消滅して削れていく。
「いっきまーす」
「切ります」
うちの女二人がここぞと攻撃をかける。
ルトナの剣が踊るように邪妖精を削り、クレオの刀が邪妖精を切り刻む。
どんなものも界面というのを持っていて。この防護幕があればこそ、苦手な環境にも対応できる。
だが界面を切り崩されればあとはじり貧だ。
「ディア坊の魔法はあまり見たことがなかったか…これはちょっと…でもまあ納得はいかないがここが先途というやつだね。
あたしも行くかい」
ばあちゃんがでっかい刀を担いて歩いていく、と思ったらあっという間に邪妖精のそばに移動し、大上段に切り下した。
縮地はばあちゃんの得意技だ。
ズバッと邪妖精が真っ二つに…ならない。
「何で切れないんだい!」
いや、切れないことはないんだけど、うちの二人ほど効果的じゃないんだよね。
ばあちゃんの剣はオリハルコンで、いいものなんだけど邪気特攻があるわけじゃない。
オリハルコンは持ち主の魔力を伝えてアンデットにも効果あるんだけど、邪妖精が相手だと、ばあちゃんの性質はあまり会わない。
つまり…
「ばあちゃん、そいつには神剣とか聖剣とかでないといまいち効かないんだよ」
「やっぱりあとで私の剣も作ってくんな」
うん、まあ、仕方ないかな。
大体邪妖精とみんなを引き連れて戦うことなんか想定していなかったからなあ…
その意味でフフル達もほぼ役に立ってない。
いや、魔法は普通に効くんだけど、普通にしか効いていないんだよね。
ダメージは与える、倒すこともできる。でもとどめはさせない。
どれほど強力でもね。
ばあちゃんの刀の制作とフフルの武器だな、冥属性の魔法が使えるような杖とか、魔法に神聖属性を付与できるアイテム。
そんなところか…
ぴよぴよっ
俺の心の声が聞こえたわけでもあるまいにフェルトまでこっちを見ている。
うーん、爪でも作るか?
ぴぴよぴよっぽーっ
まあ鳥とはいえ付き合いが長いしな。
ある程度は以心伝心。特に魔物って魔力的な何かでコミュするから。
そんなことを考えているが、別に舐めプというわけじゃない。
モース君は聖水の靄をまるで渦潮のように制御して邪妖精を苦しめ。そしておればネブラを波のように操って邪妖精を削っていく。
かなり真剣にやっているのだ。
真剣にやっているからほかの行動に回す余裕がない。とも言う。
しかし艶氏はいい仕事をしてくれた。
俺が送った冥属性の力でゲシゲシ邪壊思念を削ってくれた。
邪妖精は畳み掛けるようなみんなの攻撃ですでにかなり薄くなり、その影の中で10人の男の影が苦し気にうごめいているようなところまで持ってこれた。
もうとどめがさせるだろう。
俺は神器、領域神杖・無限獄を構えて力を開放する。
輝く三枚の板状の羽が展開し、先端で力が渦を巻く。
この時ばかりは神々しいありさまだ。
「くらえ!」
ドウっと力が解き放たれて、螺旋状の力の渦が邪妖精を薙ぎ払う。
くおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。
邪妖精が蹴散らされ消えていく。
残ったのは黒く漂う人魂ような10体の影。
あの男たちの成れの果て。
杖の羽がさらに展開し、轟と渦を巻いて光が踊る。
その光の渦でできたトンネルの中を10体の魂は引き寄せられ、杖の先端の玉に吸い込まれていった。
同時に響く耳を覆わんばかりの苦鳴。
地獄という名の浄罪界…己の作った世界のゆがみに見合うだけの贖罪を果たせば解放される世界。
《ですが…あれはダメでありますな…そこまで持たないで在りましょう…》
『うん、そうだな、あそこまで弱ってしまうと…』
後は崩壊して崩れてしまう。
だが、仕方がない、魂だからと言って不死というわけではないのだ。
傷付き癒され、傷付き癒され、先に進むものもあればそうできずに崩壊してしまうものもある。
勝利に沸くみんなをしり目にちょっとだけ、悲しい気分になった。




