5-24 迷宮へ向かう
5-24 迷宮へ向かう
入り口の扉を開けて入ってきたのは二人の騎士だった。
マチルダさん旗下の治安騎士だ。
二人組なのはツーマンセルと言う事だと思う。
こういう手合いが威圧的なのはある程度仕方がない。
日本などでは『みんなに好かれる警察』が標準だったが、この世界では『なめられたら負け』という処があるのでまず威厳が必要になる。
しかし物腰柔らかくそれでいて周囲をひれ伏させる威厳を持つというのはそうそうできることではない。
であればある程度『俺はえらいんだ~』アピールは必要なのだろ。
しかもこの二人、少なくともまじめに仕事はしている様なのであまりいじめるのもどうかと思う。
ここはさくさく行こう。
治安騎士二人はオレ達のほうにまっすぐ進んでくる。話を聞いてルトナのことだと目星をつけているのだろう。
それに対応して『闘滅の剣』などはかなり不機嫌に騎士達を威嚇している。
それに負けじと騎士達も胸を張り、完全にけんか腰だ。
「ルー、だめだよ。マチルダさんの部下なんだから喧嘩はなしね。身分証を出して」
「えー」
えーじゃないよ。こういうことは穏便にいかないと。
そして案の定。ルトナの身分証を見た騎士達は…
「「失礼いたしました」」
といってびしっと敬礼をした。
ルトナは三位爵。通常貴族になおせば『準男爵』待遇だ。
騎士というのは士族と言ってそのしたの準貴族身分。ルトナの方が身分が上になる。
ついでに俺の身分証も見せておく。
騎士達の背筋はさらに伸び、ちょっと冷や汗が流れている。
俺は一位爵で子爵待遇だからね。
「聞きたいのだが…」
「はい、何なりと」
「うん、町長というのは何者だ? いや、暴力を受けたと主張するのだからあったことはあると思うのだが…」
「はっ、お答えします。先日…」
まあ当然なのだが先日ここでたたき出され、危うくたまたまを潰されかけたスケベじじいだった。
「あいつは痴漢よ」
「ち、ちかんでありますか…」
「まあ、痴漢行為を働いていたのでたたき出したのだ。それは間違いないよ。真偽判定を受けても良い。それにあの様子では他にも色々やってそうだな…
ちょうど良いじゃないか、貴族に暴行を働こうとして、さらにあらぬ罪で貴族を陥れようとしたのだ、どのみち重罪だろ。
捕まえて余罪、ことごとく吟味してみろ。色々出てくるかも知れない」
「はっ、いや、その…」
「なにか不都合でも?」
「いえ、不都合などまったくありません」
冷や汗が流れているな。
多分、袖の下くらいはもらっているなこいつら。
まあ普通にあることだから目くじらは立てたりはしないけどね…
俺が騎士達をみてちょっと考えていたのをどう捕らえたのか彼等の冷や汗が徐々に増量中。
「すぐに捕らえて来なさい。取り調べは任せるから。それと気になることがあるから取り調べの結果はキハール閣下の所にあげるように。責任者にそう伝えてくれ」
「ははっ、了解しましたであります」
うむ、だんだん壊れていってないかな?
騎士達はその後這々の体で出て行った。
俺はスケアクロウマンに追跡を頼む。
どうせ普通の人間に精霊は見えないから。
「ルトナ…さま…あんた…貴族さまだったの?」
リーダーの人がぽつりとこぼした。
ってしらなかったんかい!
◆・◆・◆
一応ナガン家。ナガン商会というのはそれなりに有名な家だ。
王家御用達のブラジャー専門店…から始まって、今では服飾関係の大手ブランドになっている。
そして王家に出入りを許された商会は家格的には準貴族扱いになる。
しかし普通はそこ止まり。
取引を継続する間の扱いでしかない。だがこれに一押し加わると状況が変わってくる。
例えば準貴族待遇にプラスしてなにか功績を上げると貴族に出世しやすくなる。というのはある。
ここで俺とルトナが一位爵と三位爵を賜っていて一代限りだが、紛れもなく貴族だと言う事実がある。
そして世のご婦人方からシャイガさん達が熱烈に支持されているという現実もある。
功績というのは一つでは足りなくても重なるとどんどん力を発揮する。
準貴族というのは貴族予備軍で出世すると本物の貴族になるという流れが存在するのだ。
つまり家と俺とルトナの功績を合わせると本当の貴族に手が届いてしまうらしい。
つまり現在ナガン家はアリオンゼール王国の準男爵になってしまっている。つまり相続のできる本当の貴族家と言うことだ。
まさに成り上がり。
俺が子爵待遇なので俺とルトナが結婚して家を継ぐ〔そういう予定になっている〕と男爵家に陞爵する予定だ。
ちなみにだがこの国、貴族の子弟だからと言ってえらかったりはしない。
貴族の子弟で貴族なのは跡取りとして定められた一人だけで、あとは成人して騎士や公務士になって初めて士族身分。つまり準貴族になって、あとは功績を上げで出世し、準男爵になるか、あるいは俺と同じような一代貴族になるか、はたまたどこかの貴族家に能力を見込まれて婿に入るとか言うのもあるが、そうでなければ貴族の庇護を受けるだけのただの人だ。
これは家の力より、自分で獲得した力の方が価値があるという風潮がここにあるからに他ならない。
まあ何が言いたいかというとナガン家は結構大した家なのである。
「ルトナの申告以前にナガン家は、ナガン準男爵家は結構有名だと思うんだけど…」
「あはは、ごめん…気がつかなかった…だってルーは家名を滅多に名乗らないし、しかも言動が脳筋だし…貴族のお嬢様には見えないよ」
むむ、それは納得がいく。
ペチット頭をはたかれた。
「まあ、冒険者は実力主義だしね、逆に自分は貴族ダーとか抜かすやつはろくでなしだろう」
「そうそう、思い出して見れば貴族のヤツもいるけど、貴族で冒険者ってこの町だと多いけど…自分で貴族でございって言うヤツはあんまいないよね」
それだけここが実力主義だという事だ。
そして現在の迷宮は実力に見合った仕事をしていれば暮らしていくのは難しくない。そういう環境なのだとミルトカさんは言う。
どうやら迷宮の改変は大きな悪影響を出したりはしなかったようだ。
一応知ってはいたがこうして迷宮を使って真っ当に暮らしている人から話を聞くと安心できる。
あと、できれば少し迷宮の中を見てみたい。
「それだったら私たちが案内してやるよ。と言っても私たちは一階層専門で、あと二階層を少し歩くぐらいだから、あまり役に立てないかも知れないが…」
「いや、それでも助かるよ。まず一階層を歩いてみよう。皆さんの実力も知りたい。それによっては学園での護衛任務などもやって欲しいかも…という話しだし、つごうの良いときにお願いできますか?」
「都合は何時でも良いよ、本格的に狩りをって言うんなら少し休みたいところだが、一階層の案内ぐらいなら明日でも問題ない」
「ふむ、分かりました。では早速明日にでもお願いできますか?」
「任せて…」
「あっ、はいはいはいはい。私も行きたいです…」
クレオだった。
まあそうか、これからここで冒険者で暮らそうというのだ、安全に迷宮にいけるのならその機会を無駄にするべきじゃない。
小神殿ここが手薄になるが、あっ、大丈夫か。華芽姫がいるし。
《はい、お任せ下さいです~。私は迷宮は苦手ですの~》
モース君は俺の左手在住だから同行してもらわないといけないからな、あと獄卒も置いておく。それで心配ないな。
当然ルトナも行くわけだ。
かくして久しぶりの迷宮行が始まる。
お待たせしました。
遊びに来て下さるみんなが作者の力です。




