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9.痴漢騒動

※残酷な描写あり

平原での狼達との死闘から翌日のログイン、俺は再び機関車に乗り|『輸送クエスト』をこなしていた。

輸送クエストーーーつまり客車や貨車に乗客や貨物を乗せて街から街へ運んでいくクエストだ。

俺は冒険者ギルドのクエストカウンターで受ける討伐や採取などよりも、このクエストを好んでしている。 自分の機関車アンクル・パフに、試験の報酬で貰った客車、無蓋貨車、有蓋貨車の三両を連結して、それぞれに乗せられるものを運ぶクエストを受けて、街と街の間、駅と駅の間を行ったり来たりしてそれを完了し収入を得ている。 大体1回のログインに10回程度のクエストを完了し、車両の整備をして、時間があれば森でモンスター狩りをする、そんな感じでゲーム内を過ごしていた。

輸送者プレイを目指しているのに、1回のログインで10回以上の輸送クエストをこなさないのは何故かというと、このゲームの機関車には耐久値が設定されており、ゲーム内時間1日に輸送を10回こなすと耐久値が1下がる仕様になっている。 多少耐久値が減っていても性能には問題ないし、車両を整備すれば耐久値が回復するが、保存鉄道ボランティアの車両整備時の癖で、常に万全の状態で車両を運行したいという思いからである。


その日も俺は車両に乗客や貨物を積んで、クラウドの駅を出発した。

始発のクラウドと次の街ラッシュ|(現状ではこの区画でしか運行出来ない)の間にはサニーヒルズという小さな村に隣接した駅がある。 この村では農作物や家畜を育てて収入を得ており、ラッシュへ行く途中でここで野菜や羊毛、牛乳等の他、街に行く村人達を乗せて行くことがよくある。

今日も旅客運送の各駅停車のためこの村で停車し、乗客が乗りこんだのを確認してから出発した。

クラウドからサニーヒルズまでは5~6分で着くが、サニーヒルズからラッシュまでは15分ほどの少し長い旅になっている。


サニーヒルズを出発して、ようやくラッシュの駅舎が遠くに見えてきた。

その時、事件は起こった。


キャーーーッ!


突如、客車の方から女性の悲鳴が上がった。

俺は列車の速度を少し落とすと、客車の方へ向かったーーー本来ならかなり危険な行為だが、車掌車を連結してないので車掌がおらず、俺自身が確認に行くしかないのだ。

「どうしましたか?」

客車の扉を開けて乗客に訪ねる、すると声を上げたと思わしきNPCの女性が、男性NPC2、3人に取り押さえられている巨漢のプレイヤーを指さして叫んだ。


「この人、痴漢です!」


列車を駅に入れ、俺は駅員に衛兵を連れてくるように言った。 すぐに衛兵NPCが駆けつけ、乗客を降ろして事情を説明した。

事件はラッシュ駅に入る直前に起こった。 女性NPCが席に座っていると、そこへ件の巨漢プレイヤーが近づいてきて、女性の尻をわしづかみにしたらしい。

だが、容疑者のプレイヤーはそれを否認して怒鳴り散らしている。

「あ”あ”!?ふざけんなよテメェ!なんで俺がやったって決めつけやがって!」

「ふざけてるのはあなたの方でしょ!しっかりわたしのお尻を触るどころかわしづかみして!」

容疑者プレイヤーはガラ悪く怒鳴りつけるが、女性も負けじとかなり強気で言い返している。

「まー、まー、まー、二人とも落ち着いて。 ここは第三者の目撃者がいないか確認しましょう」

砕けた感じだが、しっかりとした雰囲気の衛兵が二人を鎮めて、他の乗客から事情聴取を始めた。


まず、容疑者を取り押さえた3人のNPCは、女性の悲鳴が聞こえると容疑者が女性の尻に手を伸ばしていたため、容疑者を引きはがし取り押さえたという。 だが、痴漢の瞬間は見ていないとのこと。

その他の乗客と俺も聞かれたが、決定的瞬間は誰も見てなかった。

「ほら見ろ!誰も痴漢の瞬間は見てねぇじゃねえかこの痴漢冤罪女!」

「はあ!?わたしのお尻で欲情してわしづかみにした変態ケダモノ男が、なに言ってるのよ!」

「なああああ!?テメェ、ブッ殺すぞ!」

「おっと、手を出すのはいけませんよ。 出した瞬間にあなたの罪が確定しますからね。 まあ、あなたがどうしても独房に入りたいなら止めはしませんがね?」

女性に暴行しようとした容疑者は、間に入った衛兵に舌打ちをした。

「それに乗客はあと一人いらっしゃりますからね」

衛兵はそういうと、客車に乗っていたもう一人のプレイヤーに事情聴取した。

「は、ハッ!自分、でありますか?」

そのプレイヤーは緑のヘルメットに迷彩服を着た、軍人風口調の男だった。

男は衛兵の問いかけに素直に応じた。

「えーと・・・じ、自分は始発からこの列車に乗っておりました。 自分以外にも数名、ですがその時は被害者のご婦人は乗っておりませんでした」

衛兵が確認を取ると女性は、その通りだと言った。

軍人の説明は続く。

「それから途中の駅で停車して、その時にご婦人がご乗車になり最前列の席に座りました。 他にも数名、最後に容疑者殿が列車に乗り駅を発車しました」

衛兵が今度は容疑者に確認を取るが、容疑者は黙秘した。

「それから・・・ですが、その・・・大変恐縮なのですが・・・」

と、軍人は言葉を詰まらせたが、すぐに再び口を開いた。


「自分は最後尾の席に座っていたのですが、その、自分はずっとその最前列に座っていたご婦人の・・・尻・・・に見とれていたのであります・・・」


軍人の供述に|「えっ・・・」と女性は顔を赤らめ・・・

「聞いたか!?聞いたか今の!?コイツが真の容疑者だ!逮捕しろ!」

と、容疑者プレイヤーはここぞとばかりに罪をなすりつけようとするが、衛兵含む全員に無視された。

「ちょっと、黙っててくれませんかね?それで続きは?」

衛兵が促すと軍人は言葉を続けた。

「それで、気付かれないようにこっそりと見ていたのですが、列車が駅に着く少し前に中央に座っていた容疑者殿が立ち上がり、そしてご婦人に近づくと、その手をご婦人の尻めがけ振り降ろし、尻を掴んだのであります」


軍人の供述に周りの乗客と野次馬達は騒然とし、そして容疑者から痴漢確定となったプレイヤーに蔑みと敵意の目を向けた。

衛兵が口を開いた。

「これで確定ですね。 あなたを痴漢加害者として拘束します。 さあ、署までおとなしくご同行願えますか?」

衛兵は痴漢にそう言ったが、痴漢は見苦しく悪あがきを始めた。

「嘘だ!そんなワケねぇ!あるはずがねぇ!テメェ、嘘ついて俺に恥かかせる気だったな!?」

軍人にそう詰め寄るが、軍人は嘘をついた様子はなかった。

「いいえ!嘘ではありません!ご婦人の尻に見とれたのも、あなたが罪を犯す瞬間を見たのも!」

「黙れクソ野郎が!そもそもテメェが大騒ぎするのが原因じゃねぇか!」

今度は女性のせいにしようとする、無駄なことを・・・

「なに言ってるのよ!どう見てもあなたの自業自得じゃないこのクサレ蛆虫最低変態クズ男!!」

「さーて、そろそろおとなしくなってもらいますよ。 ここにいつまでも居座っていたら、周りの迷惑になりますからねえ」

「黙れ黙れ黙れ黙れええええ!どいつもこいつもクソ野郎共があああああ!AIの分際で調子に乗りやがってえええええ!テメェら全員、皆殺しにしてやらあああああああ!!」

痴漢は怒号を上げると、背中にあった大斧を狂ったように振り回し始めた。


痴漢が暴れ始めると、駅員達は周りにいた乗客や野次馬を安全な場所まで下がらせた。 ホームにいた人々はパニック状態になり、皆一目散に改札まで逃げて行く。

衛兵達は痴漢を取り押さえようと武器を構えて取り囲んでいる。

俺は乗客達をホームの端まで誘導すると、衛兵に加勢するためーーーそれから自分の列車の安全を確保するためーーー騒ぎの中心まで戻って行った。

列車の方に戻ると客車の影に痴漢から隠れるようにしている人影が見えたーーーさっきの軍人プレイヤーだ、衛兵に加勢し、痴漢に不意の一撃を喰らわせようとしていたそいつに近づくと俺はただ一言こう言った。


痴漢アイツを殺るぞ」


その場で考えた作戦を伝えると、軍人はホームへ行き、俺は音を立てないように客車の屋根に上った。


衛兵達はなんとか痴漢を取り押さえようとするが、武器を常に振り回され、小さな隙に小さな一撃しか与えられず攻めあぐねていた。

その痴漢の頭上の文字の色は犯罪者を示す赤い色になっていた。

痴漢が自分の周りの衛兵達を吹き飛ばそうとスキルを発動しようとしたその瞬間、


タタターン!


と、3発の銃声が響き、痴漢が膝から出血し地面に崩れた。

その隙を見逃さず、再び、


タタターン!


と今度は逆側の膝を撃たれ、痴漢は足を封じられた。

痴漢は近づいてくる衛兵達を武器を振って追い払うと、射手の姿を捉えた。

ホームに設置されたベンチの下、そこから、先ほど痴漢に不利な証言をした軍人が狙撃を行っていた。

「きさまぁ・・・!貴様さえいなければ!」

痴漢は両膝を撃ち抜かれたにも関わらず立ち上がり、周りを取り囲む衛兵達を無視し、最初にその軍人から殺そうと近づこうとしたその時、


ズドドドドドドドドドーーーーーー!


客車の上に固定銃座を設置した俺が痴漢めがけて銃弾の雨を降らせた。

すかさず軍人も立ち上がり援護射撃を開始し、痴漢を文字通りの十字砲火にさらした。

痴漢は豪雨の如き激しい銃弾に耐え切れず、もはや人ではない妖怪の一種のような断末魔の叫びを上げるとその場に倒れた。

銃声が止むと衛兵達は痴漢を拘束し、衛兵の隊長が言葉を告げた。

「被疑者の逮捕が完了しました、ご協力感謝いたします」


衛兵達が痴漢を連れていくと、先ほどの乗客達がホームに戻ってきて、俺と軍人に口々にお礼を言った。

特に被害者の女性は軍人にとても感謝して「あなたにお尻を見られたことは許してあげるわ」と言って、軍人は恥ずかしそうに頭をかいていた。

「まあ今回は丸く収まってもだな、女性の身体の一部分を注視するのは行儀がよくない、これからは控えるか許可を取ってからにした方がいいだろう」

そう、俺が言うとその場は笑いに包まれた。

それから俺はその軍人プレイヤー、ーーー名を|『ロンメル』というーーーとフレンド登録をするとそのまま別れ、俺は機関車アンクル・パフに乗り、クラウドの駅へ帰って行った。


「おかえり!聞いたよ、向こうの駅で大変だったらしいね、怪我がないようでよかったよ!」

駅に着くとレイニーが出迎えてくれた。 ラッシュ駅での事件がもうここまできているのか、情報がまわるのが早いな。

と思っていると、ふと視界に妙なものが写った。 ホームの角の方に何やらボロボロの男が転がされていた、駅員の一人が車両連結時に使う棒を持って見張っている。

「あの・・・あそこにいる、人?、あれどうしたんだ?」

レイニーに訪ねると、彼女は忌々しげに男をにらんだ。

「痴漢だよ、あたしの胸を勝手に揉んだんだ。 だから駅員みんなでフルボッコにして縛り上げたんだ。今から衛兵に引き渡すつもりだよ」

「・・・・・・・・・」


やれやれ、どこの世界へ行っても男には|『紳士』と|『ケダモノ』の二つしかないのかねぇ・・・

と、思った俺なのでした。


チャンチャン♪

作中に出て来たワードの補足:機関車のパラメーターについての補足

速度:機関車の最高速度、これの数字が大きいほど早く走れる。

馬力:機関車が貨車・客車を繋引するのに必要な数値、数字が大きいほど沢山の車両を繋引出来る。

例えば馬力が3の場合、貨車・客車を車両の重量の合計3まで繋引出来る。また、急な坂道を上るのにも必要な数値である。

安定性:揺れに対して安定する数値、数字が大きいほど凸凹した線路でも揺れが少なくなる。

耐久:車両の耐久値、これが0になると強制的に|『故障』状態になり、車両の能力が大幅に低下する。 故障を直すには大規模な機関車の修理工場がある駅でゲーム内で数日修理する必要がある。 車両を整備すれば耐久値が回復するが、『整備能力』のスキルを上げないと回復量が少ないため、耐久値を維持するには、ゲーム内時間1日のクエストを10回に止め、こまめに整備する必要がある。ちなみに、貨車・客車には耐久値はない。

黒魔晶積載量:黒魔晶を積載できる量。当然、人力車と魔導機関車にはない。

水積載量:水を積載できる量。1区画で100ほど消費する。人力車にはなく、魔導機関車は魔力量と表示する。

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